事件番号:JP2002-0001 裁 定 申立人:モントル・ロレックス・ソシエテ・アノニム (Montres Rolex S.A.) 代表者:スチュアート・ヴィヒト 住所 :スイス国ジュネーブ・リユー・フランソワ・デユソ3-5-7 (3-5-7 rue Francois-Dussaud, Geneva, Switzerland) 申立人代理人:弁護士 加藤義明 住所 :東京都港区西新橋2-7-4SKビル10階 ドクトル・ゾンデルホフ法律事務所 申立人代理人:弁理士 アインゼル・フェリックス=ラインハルト 住所 :東京都港区西新橋2-7-4SKビル10階 ドクトル・ゾンデルホフ法律事務所 登録者:旧商号プロレックス有限会社 (新商号ピーエル有限会社) 代表者代表取締役: 佐藤 健 住所 :東京都港区南青山6-7-5 登録者代理人:弁護士 森 徹 住所 :東京都港区西新橋1-1-3 東京桜田ビル703A号 石川・森法律事務所 当紛争処理パネリストは、申立書、提出された証拠、方針、規則及び補則に 基づいて審理を遂げた結果,以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名 「pro-lex.co.jp」の登録の取消をせよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「pro-lex.co.jp」である。 3 手続の経緯 別記のとおり 4 当事者の主張 (1)申立人 ①申立人の詳細 申立人であるモントル・ロレックス・ソシエテ・アノニム(以下「ロレック ス社」という)の前身である時計商社ウィルスドルフ&デイビス社は1905 年にハンス・ウィルスドルフ氏によって英国ロンドンに興され、後にスイス・ ジュネーブに社を移し現在に至っている。ロレックス社は、スイス公認クロノ メーター検査協会から腕時計で初めてクロノメーターの公式証明書を獲得し、 また、精密なムーブメントを保護するため、世界初の防水ケースを完成させる など、その技術は今日に至るまで常に時代の先端を走ってきた。『ロレックス』 という時計のブランドは1908年に決まり、この年より正式に市場に出回る ようになった。 日本において「ロレックス」の名前が初めて紹介されたのは大正時代にまで 遡るが、本格的にその知名度を上げるきっかけとなったのが1945年の終戦 後、駐留軍の将兵たちによってその信頼性が伝えられるようになってからであ る。1955年には日本に技術者を派遣し、東京・丸の内に『ロレックス・サ ービスセンター』を開設、現在では、全国に7ケ所開設するに至っており、こ こでアフターサービス業務をおこなっている。ロレックス社の子会社である日 本ロレックス株式会社は1980年4月に設立され(甲1号証)、その後着実 に業績を伸ばしている。 ②登録者と商号 登録者であるプロレックス有限会社は平成10年(1998年)12月14 日に設立され、平成12年6月13日付けでプロレックス有限会社からピーエ ル有限会社に商号変更している(甲2号証)。しかし、本件ドメイン名「PR O-LEX.CO.JP」の登録者は未だプロレックス有限会社のままとなっ ている(甲3号証)。 ③申立人の商標権及びその著名性 申立人は、英文字「ROLEX」またはカタカナ「ロレックス」のみから成 る商標及びそれらと図形(王冠マーク等)との組み合わせからなる商標につい て全部で33件の商標登録を有している(甲第4号証の1、甲第4号証の2)。 また、上記の商標を付した時計は日本の市場において1960年代後半から溢 れはじめ、日本ロレックス株式会社の活発な販売・宣伝活動とも相まって、日 本国内の取引者・需要者間のみならず、一般大衆の間でも極めて著名な商標で あることは顕著な事実であると考えられる(甲第5号証の1、甲第5号証の2、 甲第5号証の3)。 ④本件ドメイン名と申立人の登録商標「ROLEX」との類似混同 (ⅰ)、称呼について ドメイン名「PRO-LEX.CO.JP」のうち、「CO.JP」の部分 は登録者の属性および当該ドメイン名がJPNICの管理下にあることを示 すにすぎないため、自他識別力を有しない。従って、本件ドメイン名のうち自 他識別力を有する要部は「PRO-LEX」であるということができる。 次に、ドメイン名「PRO-LEX」と登録商標「ROLEX」の類似性に ついて論ずる。ドメイン名「PRO-LEX」からはプロレックスの称呼が生 じ、登録商標「ROLEX」からはロレックスの称呼が生じるため、両称呼は 登録商標の全体に相当する「ロレックス」の音を共通にする。従って、両称呼 における相違部分は冒頭音である「プ」があるかないかの点のみである。そこ で、「ロレックス」「プロレックス」の称呼についてであるが、一般に促音を 伴う音にはアクセントが置かれるため、両称呼においては「レ」が最も強く発 音される。このため、必然的に両称呼においては「ロ」が弱く発音され、結果 として両称呼の語感、語調が極めて近似することになる。 たしかに一般論としては、冒頭音は称呼の識別上重要であるとされ、また 「プ」という音自体破裂音であることからして明確に聴取され、両称呼の差に 与える影響は大きいと考えることもできる。しかし、冒頭音しかも破裂音であ るという事実のみをもって称呼上の差異が大きいなどと論ずることを決して してはならない。なぜなら、称呼上の類否はあくまでも全体から判断されるべ きものであって、ひとつの音が全体の称呼に及ぼす影響もその他の音との関連 から判断されるべきだからである。 本件においては、前述の通り、両称呼におけるアクセントは明らかに「レ」 の部分にあるため、ドメイン名における「プ」の音の識別性がこれよりも明ら かに弱くなり、且つ、両称呼の共通部分が促音を含めて5音からなることを考 慮すれば、全体の語感、語調が極めて近似するという印象を与えることは明ら かである。このため、かかる近似した印象はドメイン名の冒頭音として「プ」 の1音があるからといって、さほど減殺されるわけではない。 また、本件ドメイン名においては「PRO」の部分と「LEX」の部分をハ イフンによって結んでいるが、これは類否を外観上判断する場合において一体 不可分性を阻害する要因には成り得ても、称呼上はハイフンの部分に一呼吸入 れて発音することは逆に不自然といわなければならず、プロレックスと一連に 称呼することに何ら不自然性は感じられない。 さらに、本件の直接の先例とは成り得ないものの、ドメイン名の紛争処理に つき同程度の基準を採用しているWIPO Arbitration an d Mediation Centerの裁定においては、ドメイン名に著名 商標が含まれている限り混同を認定しているようである。例えば、著名商標「R OLEX」を含んでいたドメイン名「relojesrolex.com」や 「erolexwatches.com」についても同著名商標との混同を認 め移転の裁定がなされている(Case No. D2001-0398)(甲 第6号証)。本件においてもドメイン名「PRO-LEX」は「PRO」と「L EX」の間にハイフンを有しているものの、全体としてみれば著名商標「RO LEX」を含んでいることは明らかである。 加えて、同センターの裁定においては、ハイフンの存在自体はマークの類否 には何ら影響を及ぼさず、ハイフンを有しない商標「Transameric a」とハイフンを有するドメイン名「trans-america.com」 とでは実質的に同一であるとまで判断している(Case No. D200 0-0690)(甲第7号証)。 これらの裁定から判断すると、商標「ROLEX」とそれを含みさらにハイ フンを有する本件ドメイン名「PRO-LEX」とでは混同を生じさせる程類 似していることは明白である。 (ⅱ)取引の実情について 次に、本件ドメイン名と申立人の登録商標「ROLEX」の類否を判断する 際には取引の実情も考慮されるべきである。商標間の類否を判断するに際して は、その取引の実情を明らかにし得る限り、具体的な取引状況に基づいてそれ を判断することが判例上確立している。これは、商標に商品の出所を表わす機 能が存在していることが当然の前提となっている。確かに、ドメイン名それ自 体には指標されるべき商品やサービスの出所は存在しないものの、本件のよう に取引実情を明らかにすることができる限りにおいてまでそれを排斥する趣 旨ではないと考える。なぜなら、ホームページ上において商品の広告や売買を することは日常的に行われており、紛争の対象となっているドメイン名がその ホームページ上においておこなっているビジネスと登録商標主が自己の商標 を使用している商品との比較なしでは実質的な判断が妨げられる結果となる からである。平成12年12月6日の富山地方裁判所平成10年(ワ)第32 3号不正競争行為差止請求事件においても裁判所は「ドメイン名の登録者がそ の開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ド メイン名が、当該ホームページにおいて表される商品や役務の出所を識別する 機能をも具備する場合があると解するのが相当である」旨判事している(甲第 8号証)また、WIPO Arbitration and Mediati on Centerの裁定(Case No. D2000-0273) (甲 第9号証)においても「混同が生じる程類似している」か否か、の判断におい て取引実情が中心的要件となっていることは明らかである。そこで、以下、本 件における取引実情について説明する。 登録者であるピーエル有限会社の代表者である佐藤健氏は同時にケントレ ーディングブレイン株式会社の代表者も務めており(甲第10号証)その両会 社の実体は同一である。ケントレーディングブレイン株式会社は著名な時計の 並行輸入業者であり、特に申立人の時計を手広く販売し、自身もロレックス格 安店(甲第11号証)を唄っている。しかし、その目的とするところは、自己 のオリジナル商品を同一店舗で真正品であるロレックスと並列に展示するこ とにより、自らのオリジナル時計の販売増を図ることである。当初、ケントレ ーディングブレイン株式会社は自己の登録商標第3369665号「PRO- LEX」(甲第12号証)を付して自らのオリジナル時計の販売をしていたが、 申立人は、申立人の著名商標「ROLEX」と出所の混同の危険性が限りなく 高かったため、平成12年8月4日付で東京地方裁判所に不正競争防止法第2 条第1項第1号に基づく仮処分の申請をおこなった。この件については、後に 商標「PRO-LEX」を付した時計の販売が停止されたことを確認できたた め当該仮処分を取り下げている。ケントレーディングブレイン株式会社は当初 から、本件ドメイン名を使用してホームページ上において商標プロレックスを 付したオリジナル時計の広告を行ってきたが(甲第13号証)、商標プロレッ クスの使用を差し控えた後からは新ブランドであるR・X・Wを付したオリジナ ル時計の販売を開始し、本件ドメイン名にアクセスすると画面上に「PRO- LEX」の文字が表れ(甲第14号証)、その文字をクリックすると別のドメ イン名(rockxwatch.com)にリンクし,そこでは新ブランドで あるR・X・Wを付したオリジナル時計に関する広告を行っている(甲第15 号証)。しかし、そこで紹介されているオリジナル時計の形態のほとんどはロ レックスの真正品と見分けがつかない程似ている。例えば、「SAIL-MA STER」はロレックスの「ヨットマスター」(甲第16号証の1)に似てい るし、「BLUE OCEAN」はロレックスの「サブマリーナー」(甲第1 6号証の2)とほとんど見分けがつかない程である。また、「UTC-MAS TER」もロレックスの「GMTマスター」と同一に近い(甲第16号証の3)。 このように、ケントレーディングブレイン株式会社は申立人の時計と類似の 時計の販売を目的としてインターネット上でその広告を行っており、そのため に申立人の登録商標に類似する本件ドメイン名を登録・利用している。また、 登録者の代表者である佐藤健氏がケントレーディングブレイン株式会社から 譲り受けた商標登録第3369665号「PRO-LEX」に対しての平成12年(行 ケ)第435号審決取消訴訟事件において東京高等裁判所は商標「PRO-L EX」と商標「ROLEX」の類似性を認定し、商標法第4条第1項第11号 に基づいて特許庁の出した維持審決を取り消した(甲第17号証)。その後、 佐藤氏は最高裁判所の上告受理申立を行ったものの却下されている。東京高等 裁判所の判決においても裁判所は取引実情を考慮し、「申立人商標(ROLE X)が、本件商標(PRO-LEX)の出願以前から現在に至るまで、申立人 商品を表示するものとして我が国の取引者、需要者に著名であることは当事者 間に争いがなく、申立人商標と本件商標の各指定商品が同一であることからす れば、取引の実際において、本件商標を称呼した場合に、取引者、需要者が馴 染みのある申立人商標の称呼と聴き誤り、相紛れるおそれのあることは明らか である。」と判示している。さらに、両商品が「同一店舗で販売されれば、そ の取引に当たって本件商標を称呼したときに、取引者、需要者が申立人商標の 称呼と相紛れ、商品の出所を誤認混同するおそれが更に増すことは明白である といわなければならない。」と認定している。 以上のように、裁判所が両商標の類似性に関し取引実情を考慮した上で認定 し、ドメイン名も本件のように出所表示機能を営む場合があり、更に、上記の 本件における取引実情を考え合わせると、本件ドメイン名が申立人の登録商標 に混同を引き起こすほど類似していることは明白である。 ⑤登録者の権利・正当な利益の欠如 登録者の代表者である佐藤氏は雑誌とのインタビューにおいて「ロレックス のことならなんでも知っている、ロレックスについてはプロ(フェッショナル) だ」というニュアンスのことを喋っており(甲第18号証)、本件ドメイン名 は申立人の登録商標である「ROLEX」とプロフェッショナルの略語である 「プロ」を巧妙につなぎ合わせた標章である。更に、登録者は商号をプロレッ クス有限会社からピーエル有限会社に変更しており(甲第2号証)その変更に 伴い、異なるドメイン名を採択すべきであったと考えられる。また、佐藤氏所 有の登録商標第3369665号「PRO-LEX」の登録が申立人の登録商 標第125919号「ROLEX」に類似しているとして無効にされた事実か らも、登録者が本件ドメイン名についてなんら権利や正当な利益を有していな いことは明白である。 ⑥本件ドメイン名の不正の目的による登録・使用 (ⅰ)申立人の登録商標「ROLEX」が著名であることは明白であるし、 本件ドメイン名の登録者も商標「ROLEX」の著名性及び自身が時計販売業 を営んでいる点を考慮すれば当該商標を当然認識していたと考えられる。また、 本件ドメイン名の採択の経緯も前記の通り、容易に想像できる。更に、ケント レーディングブレイン株式会社が販売し、且つホームページ上において広告し ているオリジナル時計の多くがロレックスの真正品と極めて近似しているこ とを考えると、本件ドメイン名の登録及び使用が申立人の著名商標の名声にフ リーライドするためだけの不正の目的でなされたことは一目瞭然である。 加えて、登録者またはケントレーディングブレイン株式会社が今後ロレック ス時計類似の製品についてそのホームページ上においてドメイン名『PRO- LEX』の使用をする場合には、申立人の商標権の侵害に該当する可能性が非 常に高く、また、需要者の間で誤認・混同を生じさせることは明白である。 (ⅱ)また、登録者の代表者である佐藤健氏も佐藤氏のインタビュー記事及 び同氏のショップが並行輸入業者として12年間で延べ1万本以上のロレッ クスの販売実績があることを明らかにしていることから、著名商標ROLEX を知っていたことは疑いの余地がない(甲第18号証)。 さらに、1999年12月にプリントアウトしたドメイン名pro-lex. co.jpのホームページ上からも分かるように、当時PRO-LEX時計に はSUBPRO及びRACINGRAPH“Dino”という2つのモデルが 存在した(甲第19号証)。 そこで最初にPRO-LEX、SUBPROについて検討する。 このモデ ルにおいては商標PRO-LEXが使用され、これが著名商標ROLEXに類 似するだけでなく、その形態もロレックスのサブマリーナー、ミルガウス及び エクスプローラーⅠのそれぞれの特徴を具備したものとなっている。具体的に は、サブマリーナーからは直径8ミリのデカリューズを採用し、ミルガウスか らは初期モデルのイナズマ秒針のデザインをそのまま採用している(甲第20 号証、甲第21号証)。さらに、エクスプローラーⅠからは12時の位置にあ る逆正三角形インデックスを採用している(甲第20号証、甲第21号証)。 さらに上記の事実、すなわち、これらロレックスの3つのモデルのエッセンス をPRO-LEX、SUBPROが継承していることを佐藤氏自身は、その関 与している記事において認めているのである(甲第20号証)。 次に、PRO-LEX、RACINGRAPH“Dino”についてである が、このモデルに至ってはその形態がロレックスのCOSMOGRAPH D AYTONAとほとんど同一であると言っても過言ではない(甲第22号証の 1、甲第22号証の2、甲第22号証の3、甲第22号証の4)。尚、このモ デルにおいてはパンフレットに申立人の登録商標第2284860号である DAYTONA(甲第23号証)の文字を広告として使用していることからし ても、申立人の時計を意識していることは明白である(甲第22号証の1)。 このように、登録者は上記2つのPRO-LEXのモデルを絶えずロレック スの真正品と対比することによって申立人の著名性を不当に利用し、これにフ リーライドすることによって利得を得ていた。 さらに、登録者はPRO-LEX、SUBPRO及びRACINGRAPH “Dino”の2つのモデルとの関連で商標PRO-LEXを使用していたの みならず、著名商標ROLEXにさらに近づけるため、ホームページ上でPR OとLEXの間のハイフンを抜いて使用したり、その販売店舗ではPROとL EXの間にスイスの国旗を入れたりして使用していた(甲第19号証、甲第2 0号証、甲第22号証の1、甲第22号証の2、甲第24号証の1、甲第24 号証の2、甲第24号証の3、甲第24号証の4)。 これらの事実を総合すると、登録者は本件ドメイン名の登録に際し、著名商 標ROLEXを念頭に置き、その著名性を不当に利用し、さらに当該著名商標 と混同を生じさせることにより利得を得ようとしていたことは容易に想像が 付く。 以上より、本件は、JPドメイン名紛争処理方針第4条に定められているJP ドメイン名紛争処理手続の適用を受けることは明白であり、登録者が登録する ドメイン名「PRO-LEX.CO.JP」は取り消されるべきである。 (2)登録者 ①ドメイン名が申立人が権利を有する商標その他表示と同一または混同を 引き起こすほどに類似している、と申立人のなした意見に対する反論 (ⅰ)まず、第1段のドメイン名の要部が第3レベルの「pro-lex」 である点は認める。 (ⅱ)次に、類否判断において、一般にドメイン名の場合、営業表示や商標 の類否判断の場合と異なり、称呼、外観、観念の三要素を考える場合、その外 観に重きが置かれるものといえる。 すなわち、ドメイン名は、「ラベル」をピリオドで区切って連結した文字列 であるところ、ラベルの長さは、63文字以下、ドメイン名全体の長さは、ピ リオドを含めて255文字以下でなければならず、ラベルは、英字(AからZ)、 数字(0から9)、ハイフン(-)からなる文字列である。ただし、ラベルの 先頭と末尾の文字はハイフンであってはならず、また、ラベル中では、大文字・ 小文字の区別はなく同じ文字とみなされる。 このようなドメイン名の制約から、使用される文字の配列やハイフンの有無 を一字でも間違えば目的とするWebアドレスに到達できないことになる。 そのため、単純な称呼により「R」と「L」を間違えたりしないよう、一般に 用いられているような称呼ではなく、スペルをアルファベットで読むことで称 呼されることが多く、そのため、不正競争防止法や商標法上の「称呼」、「外 観」、「観念」の対比においては、その文字列の「外観」に重きが置かれる特 徴がある。 (ⅲ)外観の相違 そこで、まず、外観の類否につき見るに、本件ドメイン名の第3レベルドメ インは、「pro-lex」からなる。 これに対し、申立人の登録商標は「ROLEX」の文字を一連不可分に表し た構成のものである。 このように、本件ドメイン名の第3レベルドメインは、申立人の登録商標に は存しない「P」の文字を看る者の視覚に最初に映ずる語頭に配し、「pro」 の文字と「lex」の文字をハイフン「-」を配し、ハイフンをもって連綴さ れるものであり、両者は、外観においては顕著な差異があり、相紛れるもので はない。 この点、甲第17号証の判決も、登録商標に関する審決取消請求事件に関す るものではあるが、「PRO-LEX」と「ROLEX」とは、「外観上は区 別することはさほど困難ではなく、外観において類似するとまでいうことはで きない。」としている。 これに対し、申立人は甲第6号証をもとに、「ドメイン名に著名商標が含ま れている限り混同を認定しているようである。」とする。 しかし、甲第6号証の事案は、申立人の登録商標である「rolex」に腕 時計を意味するスペイン語である「relojes」という語を付したり、あ るいは電子回路を使った通信及びサービスを表す為に頻繁に使われる接頭辞 である「e」を「rolex」の冒頭に付し、「rolex」の後に、登録商 標に係る商品群である腕時計を表す「watches」を付加したりし、全体 として長い語として、複数の語を合成したものとなった語に対し、その要部と して「rolex」が一致するものとして、類似性を認めたものである。 これに対し、本件ドメイン名の第3レベルドメインは、申立人の登録商標に は存しない「p」の文字を看る者の視覚に最初に映ずる語頭に配し、しかも「p ro」と言う語と「lex」という語をハイフン「-」で連綴し、前者の「p ro」については、後述のごとく「Professional」の略語として の「pro」の観念を想起させるものである。 そして、「pro」と「lex」の文字をハイフンで連綴してなるものであ ることから、容易に「pro」と「lex」の文字よりなるものと認識、理解 され、「ro」の文字部分を「lex」の文字と一体のものとしてみなければ ならない特段の理由がないばかりでなく、「pro」の文字中の「p」の文字 部分を無視し「RO-LEX」の如く看取されるものとみるのは到底不自然と いうほかない。 そうだとすれば、本件は甲第6号証の事案と異なり、ドメイン名の中にRO LEXを「全体の中に包含している」と見ることは困難である。 また、申立人は、甲第7号証をもとに、「ハイフンの存在自体はマークの類 否には何ら影響を及ぼさない」とする。 しかし、甲第7号証の事案では、ドメインネームと申立人所有の商標との差 異としては「“t”が小文字である点及び“transamerica”とい う語の5文字目の後にダッシュ(”-“)を含む点のみであ」るため、「両者 は実質的に同一である」と考えられた事案である。 前記のごとく、ドメイン名においては英字の大文字、小文字の差異は重要な 意味を有さないため、甲第7号証の事案では、“transamerica” という“trans”と“america”の二語からなる言葉を合成した言 葉を、本来の二語に分断し、両者の間をダッシュ(”-“)でつないだかどう かの違いに過ぎず、そのために、「両者は実質的に同一である」と考えられた 事案であるといえる。 これに対し、本件ドメイン名の第3レベルドメインと申立人の登録商標では、 前者がハイフンを入れて7文字、後者が5文字の英字と比較的簡潔な文字数か ら成るものであるところ、前記のとおり、前者では看る者の視覚に最初に映ず る語頭に「p」の文字を配し、「pro」の文字と「lex」の文字の間にハ イフン「-」を配し、両者を連綴するものであり、甲第7号証のごとく、本来 二語に分断されるような言葉の中間にダッシュを入れた事案とは異なる。 (ⅳ)観念の相違 次に、本件ドメイン名の第3レベルドメインと申立人の登録商標から生ずる 観念であるが、両者とも、いずれも造語であるから、直ちに特定の観念を看取 させるものではない。 しかし、本件ドメイン名の第3レベルドメインは、外観において「pro- lex」の文字からなり、看者をして、語頭からハイフン前までの前半部分を 構成する「pro」から、「Professional」の略語としての「p ro」の観念を想起させる。 また、「lex」はその語調から、スポーツ感覚を与えるものである。 これに対して、申立人の登録商標は、「英語の『ROLL』(回転)と『X』 (雄大な可能性を含む未知のもの)を組み合わされたものと伝えられる。RO LLは勿論時計の針、歯車の回転を、Xは将来への進歩と発展を意味するもの である。」(甲第5号証の1、同の2)とされている。 以上のような造語の由来から生ずる観念を対比するならば、本件ドメイン名 の第3レベルドメインと申立人の登録商標は、看者、聴者をして、異なる印象 を与える可能性を含有するものである。 (ⅴ)称呼の相違 次に、称呼の類否につき反論する。 本件ドメイン名からはプロレックスの称呼が生ずることは認める。 これに対し、登録商標「ROLEX」からは、ロレックスという称呼も生じ るが、ローレックスの称呼も生ずる(甲第4号証の2の【称呼】の箇所参照)。 そして、このロレックスの称呼の方が、「roll」と「ex」、すなわち、 回転するという意味のロールと、永遠にという「ex」を併せた造語である登 録商標の成立経過からしても、本来の称呼といえる。 両称呼を対比するに、本件ドメイン名から生ずる称呼は、冒頭に破裂音の 「プ」が存在するほか、「ロ」が長音となり「ロー」として称呼される場合の ある点異なる。 申立人も認めるごとく、冒頭音は称呼の識別上重要であり、また「プ」の音 自体破裂音であることから明確に聴取されることから、プロレックスとロレッ クスの称呼では、聴者に与える印象は異なる。 また、さらに、プロレックスとロレックスという称呼を対比すると、前者の 第2音である「ロ」と第3音の「レ」との間には長音が介在しないのに、登録 商標の称呼では第1音の「ロ」が長音となり、「レ」に連なるものであり、両 者は聴者に与える印象が異なる。 (ⅵ)取引の実情 次に、取引の実情に関しても、申立人の登録商標の指定商品である腕時計は、 一般的に、商標の称呼により取引されるものではなく、その外観に着眼して取 引される傾向のある商品であることを看過してはならない。 すなわち、現在において、腕時計は、時間を計測する機器としてだけでなく、 腕もとを飾る装飾品としてそのデザインや形状などの外観に着眼して取引さ れるのが一般であり、かかる実情から、広告媒体もラジオ等の音声媒体ではな く、雑誌などの視覚に訴求する媒体を使用するのが一般となっている。 また、取引の実情を考慮するならば、申立人の登録商標が使用される指定商 品が高価品であることにも着目すべきである。 すなわち、本件ドメイン名と申立人の登録商標の類否判断にあたっても、需 要者の通常有する注意力を基準として判断されるものであるが、申立人の登録 商標が使用されている時計は極めて高価な商品であり、需要者もいわゆる目が 肥えているものが多く、安価な消耗品を購入する場合とは自ずとその注意力も 高度となる。 そのため、本件ドメイン名のみから、安易に商品や役務の出所につき、申立 人の営業と誤認混同するということはない。 申立人は、登録者の代表取締役が代表者を務めるケントレーディングブレイ ン株式会社(以下、「ケン社」という。)が申立人の登録商標が付された真正 品を販売する傍ら、形態の類似するR・X・Wを付したオリジナル時計を販売 していることをもって、商品や役務の出所を混同させているとするが、申立人 が主張する申立人の真正品の商品形態は、ダイバーズウォッチやスポーツウォ ッチでは、セイコーやカシオなどの国内メーカーを初め、ホイヤー、テクノス、 エルジンなどのブランドで知られる海外メーカーも同一の形態を採用してお り、申立人の商品形態として独特の形態を有するものではない。 前記のごとく、申立人の真正品は高価で需要者もいわゆる目の肥えた者が多 いこと、申立人の真正品とR・X・Wのブランドで販売されている時計では著 しい価格の開きがあること、申立人の真正品がネット上で通信販売されること がないことからするならば、本件ドメインにより導かれるウェブサイト上に表 示される商品または役務と、申立人の真正品とが、その出所につき相紛れるこ とはない。 (ⅶ)小括 以上のごとく、本件ドメイン名の第3レベルドメインと申立人の登録商標に おいては、称呼上の差異、外観の差異、観念の差異が顕著である。 さらに、取引の実情を考慮するにあたり、当然、本件ドメインにより導かれ るウェブサイト上の商品や申立人の登録商標の指定商品である腕時計が外観 に着眼して取引されることが一般であることや、低廉な消耗品に比べ相当の注 意力をもって取引されることなどの取引の実情が顧慮されるべきである。 以上より、本件ドメイン名の第三レベルドメインと、申立人が権利を有する 登録商標その他表示とでは、外観の相違、観念の相違、称呼の相違から「同一 または混同を引き起こすほどに類似している」とはいえない。 ②被申立人(登録者)が申立の対象であるドメイン名についての権利または 正当な利益を有していない、と申立人のなした意見に対する反論 (ⅰ)登録者は、平成10年(1998年)6月5日に、本件ドメイン名の 第3レベルドメインと同様の「PRO-LEX」からなる英文字の商標を、第 14類の時計を商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務として登録 を受けた。 その後、登録者は、平成10年(1998年)12月14日に、プロレック ス有限会社の商号で設立され、平成11年(1999年)4月26日、本件ド メイン名を登録した。 このように、登録者は、本件ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者である 申立人または紛争処理機関から通知を受ける前に、何ら不正の目的を有するこ となく、商品またはサービスの提供を行うために、当該ドメイン名またはこれ に対応する名称を使用していたものである。 (ⅱ)その後、平成12年(2000年)6月10日、登録者は、商号を変 更し、「PRO-LEX」の頭文字をとった「PL」すなわち「ピーエル」有 限会社に商号変更をした。 しかし、商号は変更しても、旧商号との営業の連続性を表す必要性や旧商号 に親しんだ顧客や取引先の便宜に供すべく、本件ドメイン名を引き続き使用す る必要があったため、本件ドメイン名を使用している。 また、登録者は、腕時計の販売のみならず、装飾具や衣料品の輸入販売も行 っており、これら商品の通信販売も意図して、本件ドメイン名の取得をしたも のである。 (ⅲ)甲第17号証のごとく、商標登録第3369665号の「PRO-L EX」商標については、東京高裁が特許庁の維持審決を取り消しており、これ に対する最高裁判所への上告受理申し立ても、平成13年11月13日付でこ れを受理しない旨決定がなされている。 しかし、前記のごとく、甲第17号証の判決が称呼の類似性を肯定したに過 ぎず、外観の類似性については、むしろこれを否定したこと、また、前記のと おり、営業の連続性を表す必要から、本件ドメイン名を引き続き使用している ものであり、いまだ「登録者が申立の対象であるドメイン名についての権利ま たは正当な利益」を有するものである。 (ⅳ)なお、申立人は、本件ドメイン名は申立人の登録商標である「ROL EX」とプロフェッショナルの略語である「プロ」を巧妙につなぎ合わせた標 章である旨主張するが、否認する。 ③ドメイン名が不正の目的で登録または使用されている、と申立人のなした 意見に対する反論 (ⅰ)以上のごとく、本件ドメイン名は、登録当時、登録者の商号であった こと、一旦は商標登録査定もなされ、無効審判請求に対しても、不成立の審決 がなされたこと、その間、登録者が使用し、商号変更後も、営業の連続性を現 すために、私用の継続の必要があったこと等から、本件ドメイン名は、「不正 の目的で登録または使用されている」ものではない。 (JP-DRP4条a項(ⅲ)号の要件の該当性について) (ⅱ)次に、仮に、本件で、JP-DRP4条a項(i)号の要件が充たさ れていると認定されたとしても、本件では、JP-DRP4条a項(ⅲ)号「登 録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」との 要件を充たしていない。 (ⅲ)同号でいう「不正の目的」につき、JP-DRP4条b項は、「紛争 処理機関のパネルが、本条a項(ⅲ)号の事実の存否を認定するに際し、特に 以下のような事情がある場合には、当該ドメイン名の登録または使用は、不正 の目的であると認めることができる。ただし、これらの事情に限定されない。」 とし、(i)号から(ⅲ)号までの規定を掲げているので、各号につき、以下、 言及する。 (ⅳ)まず、本件では同項(i)号に該当する事由はない。 登録者は、過去においても現在においても、本件ドメイン名を販売、貸与、移 転すべく交渉を行ったことは、何人とも一切ない。 したがって、同項(i)号規定の「登録者が、申立人または申立人の競業者 に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超 える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主 たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき」に該当しな い。 (ⅴ)次に、本件では同項(ⅱ)号に該当する事由もない。 本件では、「申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名と使用できな い」ような事実はない。 現に、申立人は、「rolex.co.jp」のドメイン名で登録し、オフ ィシャルウェブサイトを開設している。 したがって、本件ドメイン名の登録により、申立人が権利を有する商標その他 表示のドメイン名としての使用を妨害しているとの事実はない。また、かかる 妨害行為を「複数回行っている」事実もない。 (ⅵ)次に、本件では同項(ⅲ)号に該当する事由もない。 同項(ⅲ)号は、自ら当該登録をしたドメイン名と異なるドメイン名を登録使 用し、他人の商標からなるドメイン名を自ら使用しないにもかかわらず、他人 の登録を妨害するために自己名義で登録を取得したり、また、他人の商標から なるドメイン名のリンク先を競業者のホームページにしたり、あるいは、その ドメイン名のホームページにおいて当該他人の商品に欠陥があるかのような 記載をしたり競業者の事業を混乱に陥れることなどの積極的な競業者の妨害 行為につき、「不正の目的」と認める規定である。 しかし、本件では、かかる妨害行為の事実は、一切ない。 (ⅶ)次に、本件では同項(ⅳ)号に該当する事由もない。 A 同号は、「登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイト もしくはその他オンラインロケーション、またはそれらに登場する商品および サービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて、 誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、その ウェブサイトもしくはその他オンラインロケーションに誘引するために、当該 ドメイン名を使用しているとき」と規定する。 B この点に関し、申立人は、登録者のウェブサイトに登場する商品と、 申立人の販売する商品とを対比し、その商品形態の類似性を主張し、登録者が インターネット上のユーザーをして、「その出所、スポンサーシップ、取引提 携関係、推奨関係などについて、誤認混同を生」じさせ、登録者のウェブサイ トもしくはその他オンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名 を使用していると主張するものと思われるが、否認する。 C 甲第19号証について ア.甲第19号証は1999年(平成11年)12月25日当時のもので あるが、当時は、「PRO-LEX」商標につき、申立人が登録無効の審判を 請求し、同事件が係属中の段階であったのであり(なお、結局同審判請求事件 に対しては、平成12年6月21日に「本件審判の請求は、成り立たない」と の審決が下された。以上につき、甲第17号証2ページ参照。)、その時点に おいて、登録者の本件ドメイン名使用は正当な利益に基づくものである。 イ.その後、登録者は、ブランドイメージを新たに創出するために商品に 付するロゴを「R・X・W」に変更したこと、また、申立人が平成12年8月 4日に東京地裁に不正競争行為差止請求権を被保全債権として仮処分命令を 申立てたこと(平成12年(ヨ)第22120号事件)を契機に、紛議を避け るべく、その使用を差し控え、甲第14号証のようなものとした。 ウ.そして、以後は、需要者に営業の継続性を示すべく、「=R・X・W =」の部分をクリックするとリンク先である甲第15号証のウェブサイトに飛 ぶようにし、このウェブサイトに登場する商品には、「R・X・W」のロゴを 付した商品を掲載し、「PRO-LEX」のロゴ表示を付した商品の掲載はし ていない(2000年4月以降、「PRO-LEX」のロゴ表示の付した商品 の販売もない。申立人が前記仮処分命令申立事件で、申立てを取下げたのは、 かかる使用を差し控えたことが確認されたことによる。)。 エ.以上より、現時点において、登録者が、本件ドメイン名を、インター ネット上のユーザーをして、「その出所、スポンサーシップ、取引提携関係、 推奨関係などについて、誤認混同を生」じさせることを意図して、使用してい る事実はない。 D 甲第18号証、甲第20号証について ア.また、申立人提出の甲第20号証は平成11年7月10日発行の雑誌 に掲載された記事、同甲第18号証は1998年(平成10年)10月31日 発行の雑誌に掲載された記事であるが、これらは、前記(3)のごとく、「P RO-LEX」商標の登録につき有効とされていた当時のものであり、当時、 「PRO-LEX」商標を使用することは正当な利益を有したものである。 イ.現時点では、同号証掲載のような「PRO-LEX」のロゴ表示の付 した商品は、本件ドメイン名によるウェブサイト及び甲第15号証のウェブサ イトヘも掲載していないし、また販売もしていない。 ④SUBPROの商品形態の類似についての申立人の主張に対する反論 (ⅰ)申立人は、申立人の商品であるサブマリーナーと登録者がかつてPR O-LEXのウェブサイトに掲載した甲第19号証掲載のSUBPROの商 品形態が類似しているとし、このことから、ウェブサイト掲載の商品の「出所、 スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて、誤認混同を生」じ させることを意図している、と主張するものと思われる。 (ⅱ)しかし、申立人主張の商品形態は、申立人の商品の出所を想起させる ほどの形態的特徴とはいえない。 A まず、デカリューズは、この種のダイバーズウォッチでは、機能的に ダイバーが手袋をはめたままでは操作しやすいように通常使用されている形 態であり、これだけで、申立人の商品の出所を想起させるほどの形態的特徴と はいえない。 B 次に、イナズマ秒針については、現在、申立人の商品においては採用 されていない形態であり(甲第21号証のMILGAUSS)、過去において 一時的に申立人の商品においては採用された形態に過ぎない。 したがって、イナズマ秒針は、申立人の商品の出所を想起させるほどの形態的 特徴ではない。 C 次に、インデックスについてであるが、申立人が指摘するROLEX 社製のエクスプローラーやサブマリーナーの12時の箇所にあるインデック スは逆二等辺三角形は、通常腕時計の文字盤のインデックスに用いられるもの で、申立人の商品の出所を想起させるほどの形態的特徴ではない。 また、申立人が指摘するROLEX社製のエクスプローラーやサブマリーナ ーの12時の箇所にあるインデックスは逆二等辺三角形であるのに対し、登録 者がホームページに掲載した商品であるSUBPROは、逆正三角形であり、 形態も異なる。インデックスとして使用される形態は長針、短針、秒針による 時間を指し示す位置を正確に判断できるようにするために、三角形や棒状の形 態を基本とし、その基本的形態の制約の中で、若干デフォルメを行い特徴を出 すものである。 このようなインデックスの機能から由来する形態の制約からすると、逆三角 形として略同一だから「類似」するものとはいえない。むしろ逆正三角形か逆 二等辺三角形かは三角形の特徴として大きな違いがあり、看者に与える印象も 異なるものである。 D また、回転ベゼルに記された数字を見ると、サブマリーナーでは、1 0,20,30,40,50からなる算用数字で記されているのに対し、サブ プロでは、1,2,3,4,5からなる算用数字で記されている点異なる。 E また、文字盤を見ると、サブマリーナーではカレンダー表示があるの に対し、サブプロではこれがない。 F また、文字盤のインデックス表示でサブプロは3時、6時、9時の箇 所に算用数字で3、6、9の算用数宇が表示されているが、サブマリーナーで は、数値の表示はまったくない。 (ⅲ)以上から、申立人の商品であるサブマリーナーと登録者がかつてPR O-LEXのウェブサイトに掲載したSUBPROとでは、その商品形態が商 品の出所を誤認混同させるほど相紛れるものとはいえない。 ⑤PRO-LEX、RACINGRAPH“Dino”の商品形態の類似に ついての申立人の主張に対する反論 (ⅰ)申立人は、申立人の商品であるCOSMOGRAPH DAYTON Aと登録者がかつてPRO-LEXのウェブサイトに掲載した甲第19号証 掲載のRACINGRAPH“Dino”の商品形態が類似しているとし、こ のことから、ウェブサイト掲載の商品の「出所、スポンサーシップ、取引提携 関係、推奨関係などについて、誤認混同を生」じさせることを意図している、 と主張するものと思われる。 (ⅱ)しかし、まず、申立人のCOSMOGRAPH DAYTONAが採 用する形態のどのような形態的特徴が商品表示性を有するものであるかの具 体的主張がない。 (ⅲ)仮に、COSMOGRAPH DAYTONAの形態的特徴が、①文 字盤が一色の色彩で彩られ、②文字盤の3時、6時、9時付近に配された3個 の小メーターの存在、③文宇盤の秒刻みのインデックスの存在、④回転ベゼル の色彩と数値の表示、⑤3個のリューズが形態的特徴とするならば、これら形 態は、クロノグラフ時計に通常用いられる形態であり、何ら申立人の商品であ ることを他の商品と識別し得る独特の特徴を有するものとは いえない。 (ⅳ)また、申立人のCOSMOGRAPH DAYTONAと登録者がか つてPRO-LEXのウェブサイトに掲載した甲第19号証掲載のRACI NGRAPH“Dino”とを対比すると、次のような相違がある。 A まず、文字盤の3時、6時、9時付近に配された3個の小メーターの 存在は同一であるものの、COSMOGRAPH DAYTONAでは、3時 付近に配された小メーターの数値表示が12時方向から時計回りに120度 ごとに「30、10、20」と記載されているのに(甲第22号証の4)、甲 第19号証掲載のRACINGRAPH“Dino”では、12時方向から時 計回りに90度ごとに「60,15,30,45」と記載された小メーターが 配されている。 また、9時付近に配された小メーターの数値表示を見ると、COSMOGR APH DAYTONAでは、12時方向から時計回りに90度ごとに「60, 15,30,45」と記載されているのに対し(甲第22号証の4)、甲第1 9号証掲載のRACINGRAPH“Dino”では、12時方向から時計回 りに120度ごとに「30、10、20」と記載されているとの違いがある。 B また、上記①と③については、COSMOGRAPH DAYTON Aでは、白の文字盤に対し秒刻みインデックスが黄色(甲第22号証の4 R ef:6263)、黒の文宇盤に対し秒刻みインデックスが赤(甲第22号証 の4 Ref:6262)であるのに対し、RACINGRAPH“Dino” では、白の文字盤に対し秒刻みインデックスが赤色、黒の文字盤に対し秒刻み インデックスが黄色の色彩の組み合わせがなされている点、相違する。 C また、上記⑤の3個のリューズについても、RACINGRAPH“D ino”では、文字盤の色彩との組み合わせに拘わらず、プッシュボタンが採 用されている。 D また、文字盤で最も看者の目を惹く12時付近のエンブレムの形態も 異なる。 E 以上は、些細な相違とも思われるが、申立人の商品が高価品であり、 需用者自身の目が肥えていることからすると、かかる些細な点は、クロノグラ フ時計が一般的に採用している形態が共通していることからすると、看者の目 を惹くところといえる。 F 以上のごとく、申立人の商品であるCOSMOGRAPH DAYT ONAと、登録者がかつてPRO-LEXのウェブサイトに掲載したRACI NGRAPH“Dino”では、その商品形態が商品の出所を誤認混同させる ほど相紛れるものとはいえない。 ⑥以上より、本件では、登録者が「本件ドメイン名の登録に際し、著名商標 ROLEXを念頭に置き、その著名性を不当に利用し、さらに当該著名商標と 混同を生じさせることにより利得を得ようとしていた」ということはない。 ⑦よって、本件では、JP-DRP4条a項(ⅲ)号「登録者の当該ドメイ ン名が、不正の目的で登録または使用されていること」との要件を充たしてい ない。 ⑧以上より、本件申立ては却下されるべきである。 5 争点および事実認定 (1)前提事実 ①申立人所有の商標の著名性 申立人は、英文字「ROLEX」またはカタカナ「ロレックス」のみから成 る商標及びそれらと図形(王冠マーク等)との組み合わせからなる商標につい て全部で33件の商標登録を有しており、(甲第4号証の1、甲第4号証の2)。 また、上記の商標を付した時計は日本の市場において1960年代後半から溢 れはじめ、日本ロレックス株式会社の活発な販売・宣伝活動とも相まって、日 本国内の取引者・需要者間のみならず、一般大衆の間でも極めて著名な商標で あることは顕著な事実である(甲第5号証の1、甲第5号証の2、甲第5号証 の3)。 ②本件ドメイン名の登録者とその商標権について 本件ドメイン名「pro-lex.co.jp」の要部に係る商標権は、「P RO-LEX」の欧文字を横書きしてなり、商標法施行令別表の区分による第14類 「時計」を指定商品とする登録第3369665号商標(以下「本件ドメイン 商標」という。)である。 本件ドメイン商標は、ケントレーディングブレイン株式会社(以下「ケン社」 という。)が平成6年11月24日に登録出願し、平成10年6月5日に設定 登録を受けた後、登録者であるプロレックス有限会社が商標権の譲渡を受けて、 平成11年6月22日にその旨の商標権の移転登録がされ、さらに、登録者で あるプロレックス有限会社の代表者佐藤健が商標権の譲渡を受けて、平成12 年1月25日にその旨の商標権の移転登録がされたものである。 申立人は、平成11年6月16日、ケン社を被請求人として、本件ドメイン 商標につき登録無効の審判の請求をし、平成11年審判第35302号事件と して特許庁に係属したところ、上記本件ドメイン商標に係る商標権の移転に伴 い、登録者であるプロレックス有限会社及び登録者代表者佐藤健が、順次被請 求人の地位を承継した。 特許庁は、平成11年審判第35302号事件の無効審判請求につき審理し た上、平成12年6月21日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審 決をし、その謄本は同年7月19日、申立人に送達された。 申立人は、平成12年(行ケ)第435号 審決取消請求事件を提起し、東 京高等裁判所は平成13年6月20日に、審決を取り消し、本件ドメイン商標 は、商標法第4条第1項第11号により、無効であると判断した。登録者の代 表者佐藤健は、その後、最高裁判所の上告受理申立を行ったものの却下されて いる。現在までに最終処分は決まっていない。 ③登録者とその代表者及びケン社の関係及び本件ドメイン登録 ケントレーディングブレイン株式会社の設立時期は定かではないが、平成1 0年には東京都品川区西五反田から、東京都目黒区目黒に本店を移転し、その 代表者は、世田谷区大蔵1丁目2番1-107号、佐藤健である(甲第10号 証)。登録者のプロレックス有限会社は、平成10年12月14日に東京都港 区南青山6丁目7番5号に設立され、平成12年6月10日に商号をピーエル 有限会社に変更している。代表取締役は、前述した佐藤健である。 本件ドメイン名は、1999年・平成11年4月26日に登録者の旧商号で、 取得したが、ドメイン名は「pro-lex.co.jp」である。 (2)ドメイン名登録の移転又は取消が適用対象となる紛争の要件 ①同一又混同を引き起こすほどの類似性 (ⅰ)申立人所有の商標は、英文字「ROLEX」またはカタカナ「ロレッ クス」のみから成る商標等が多数存在するが、一番古い商標は、「ROLEX」の 欧文字を横書きしてなり、旧商標法施行細則(明治42年農商務省令第44号) に基づく区分による第21類「時計類及其附属品」を指定商品とする登録第1 25919号商標(大正9年12月29日登録出願、大正10年2月25日設 定登録、昭和16年1月7日、昭和36年10月31日、昭和47年3月6日、 昭和56年6月30日、平成3年6月26日各存続期間の更新登録、商標権者 申立人、以下「申立人商標」という。)である。 この申立人商標より「ロレックス」の称呼が生ずることは当事者間に争いが ない。 これに対して、登録者のドメイン名は「PRO-LEX.CO.JP」であ るが、「CO.JP」の部分を除いた「PRO-LEX」が要部であり、「プ ロレックス」の称呼が生ずることは当事者間に争いがない。 以上より、申立人商標「ロレックス」と登録者のドメイン名の要部「PRO -LEX」(プロレックス、以下ドメイン名要部という。)についてその類否 を検討する。 上記両者から生ずる称呼は、申立人商標の称呼の全体に相当する「ロレック ス」の音を共通にし、ドメイン名要部の称呼が上記共通部分の前に語頭音とし て「プ」の音を有する点においてのみ相違するものである。そして、ドメイン 名要部の称呼及び申立人商標の称呼とも、促音を伴う「レ」の音の位置にアク セントがあって、それぞれの構成音のうちで当該「レ」の音が最も強く発音さ れることは明らかであるところ、ドメイン名要部の称呼のうち上記共通部分 (「ロレックス」の部分)は、促音を含めて5音から成るにすぎないこともあ って、上記「レ」の音が最も強く発音されることにより、申立人商標の称呼全 体と単に音を共通にするだけでなく、称呼する際の語感、語調においても申立 人商標の称呼全体と極めて近似するものになるものと認められる。ドメイン名 要部の称呼は、上記共通部分の前に語頭音として「プ」の音を有しており、ま た、「プ」の音が破裂音であることは当事者間に争いがないところ、一般には、 語頭音は称呼の識別上重要な要素を占めるものとされ、また、破裂音が明確に 響くものである。しかしながら、ドメイン名要部の称呼にあっては、上記のと おりアクセントのある「レ」の音と比較して、「プ」の音の識別性が勝るもの とは認められず、また、上記共通部分が促音を含め5音から成ることを考慮す れば、ドメイン名要部の上記共通部分が、申立人商標の称呼全体と、単に音を 共通にするだけでなく、称呼する際の語感、語調においても極めて近似すると の印象を与えることは明らかであり、この点は、上記共通部分の前に語頭音と して「プ」の1音があるからといって、さほど減殺されるものということはで きない。 したがって、ドメイン名要部の称呼は、全体として、申立人商標の称呼と相 紛らわしく、互いに聴き誤るおそれがあるものというべきである。 登録者は、ドメイン名要部の構成がハイフンを介して「PRO」の文字部分と 「LEX」の文字部分とに分離して表され、かつ、「PRO」の語が「PROFESSIONAL」 の略語として親しまれているのに対し、「LEX」の語が特定の意味を直ちに看 取させるものではなく、両者間に一体不可分性がないことから、ドメイン名要 部は、「プロ」の部分に続き、感覚的に一拍を置いて「レックス」と称呼され 聴取されると主張する。しかしながら、仮に、登録者主張のとおり、ドメイン 名要部の外観及び観念において「PRO」の文字部分と「LEX」の文字部分とに一 体不可分性がないとしても、これを称呼する場合に、わずか2音の「プロ」の 音の次に一拍置いて「レックス」の音を称呼するものとは直ちに認め難く、ま して、称呼する際に、そのように一拍置いたように聴取されるものとは到底認 め難い。したがって、登録者の上記主張は採用することができない。 (ⅱ)他方、ドメイン名要部と申立人商標とは、外観上は区別することがさ ほど困難ではなく、外観において類似するとまでいうことはできない。また、 ドメイン名要部の少なくとも「LEX」の文字部分及び申立人商標はそれぞれ造 語であることが認められるから、両商標の観念は比較すべくもない。 なお、登録者は、「類否判断において、一般にドメイン名の場合、営業表示 や商標の類否判断の場合と異なり、称呼、外観、観念の三要素を考える場合、 その外観に重きが置かれるものといえる。」と主張しているが、ドメイン名は、 単に記号として認識されるだけでなく、単語としてつまり言語として認識され る場合もあることは顕著な事実であり、従って称呼の要素も外観の要素と同様 重要なものであるので、登録者の主張は是認できないのであり、本件ドメイン 商標と申立人商標の類否の判断でも、称呼の判断は重要なものと判断した。 (ⅲ)具体的な取引状況について 申立人商標が、登録者ドメイン名の登録から現在に至るまで、申立人商品を 表示するものとして我が国の取引者、需要者に著名であることは当事者間に争 いがなく、申立人商標の指定商品と登録者ドメイン名のサイトで表示されてい る商品が同一であることからすれば、取引の実際において、本件ドメイン名を 称呼した場合に、取引者、需要者が馴染みのある申立人商標の称呼と聴き誤り、 相紛れるおそれのあることは明らかである。 A(ケントレーディングブレイン株式会社) 平成10年10月1日株式会社グリーンアロー出版社発行の「ロレックス・ マスターブックⅡ」(東京高裁平成12年行ケ第435号の甲第6号証の1) 中のケン社店舗の紹介記事及び同月31日世界文化社発行の雑誌「時計Begin」 (甲第18号証)中のケン社のPR記事によれば、登録者の代表者が経営する ケン社は、本件ドメイン商標の登録以前である1993年当時から、同社の東 京都港区南青山所在店舗において、申立人商品の販売の業務を行っており、又、 甲第24号証の1によれば、99年マリンダイビング7月号の記事よりとして、 ケン社について「ロレックスの宝庫」、「店内にはロレックスのスポーツモデ ルを中心に一生モノの時計がならんでいる」ことが紹介されており、ケン社が 本件ドメイン名登録(1999年・平成11年4月26日登録)以後において も申立人商品の販売の業務を行っていたことは明らかである。 このようにケン社は、本件ドメイン登録の前後において申立人商品の販売業 務を行っていたのである。 更に、ケン社は、本件ドメイン名登録(1999年・平成11年4月26日 登録)以後においても、少なくとも2000年4月までは、「PRO-LEX」 の商品名の付いた時計を販売していたことが認められる(東京地裁平成12年 (ヨ)第22120号債務者主張書面3の第2の2参照、甲第24号証の1の 3・4丁にケン社の広告とPRO-LEX「SUBPRO」の宣伝有り)。 更に、甲第22号証の1は印刷日が定かではないが、98年の「PRO-L EX」の商標登録以後であり、ケン社が、登録者のドメイン名を記載して、し かも「PRO-LEX RACINGRAPH“Dino”」誕生と銘打って、 広告しているが、その中で、「PRO-LEX」は、申立人商標であるロレッ クスのプロバイヤーがオーナーであるケン社がプロデュースするオリジナル ブランドウオッチであることが紹介されている。 又、甲第22号証の2は、作成時期は2000年春以降であり、作成媒体は 不明であるが、前述したレーシングラフ・ディノのモニター版が完売になった ことと正式販売分がムーブメントの調達が出来ず、販売開始時期が2001年 夏以降になったことが記載されている。 以上より、ケン社が登録者の代表者の経営する会社であり、同社は、本件ド メイン名登録以後について、本件ドメイン商標がケン社商品に使用していたこ とが認められる。 そして、本件ドメイン商標を使用したケン社商品と申立人商標を使用した申 立人商品とがケン社内同一店舗で販売されれば、その取引に当たって本件ドメ イン商標を称呼したときに、取引者、需要者が申立人商標の称呼と相紛れ、商 品の出所を誤認混同するおそれが更に増すことは明白であるといわなければ ならない。 B(登録者について) 他方、甲第13号証は、2001年・平成13年3月1日の本件ドメイン名 のホームページであり、この中で、本件ドメイン商標「PRO-LEX」が時 計の商標として使用されている。 更に、甲第19号証の1999年12月25日付けの本件ドメイン名のホー ムページ中「Company Profile」(http://www.pro-lex.co.jp /pro.html)では、登録者の名称とともに、前記ケン社が、申立人商標の「ロ レックス」を専門に業務販売卸を行っていること、本件ドメイン商標「PRO -LEX」は、登録者の代表者が作成したブランドであることが記載されてい る。 又甲第20号証は、Marine Divingの1999年・平成11年 7月号であるが、本件ドメイン名及び本件ドメイン商標と登録者の記載がCO MEX、PRO-LEX、SUBPROの記事の中に記載されており、又、本 件ドメイン商標「PRO-LEX」が、伝説の申立人商標ロレックスの3つの モデルのエッセンス(ミルガウス、エクスプローラー、サブマリーナー)を承 継しているとの記事があり、その中で登録者代表者佐藤健氏は、「ダブルネー ムなどのレアなロレックスの異常な価格高騰やニセモノの出回りといった悪 循環を鎮めたかった。」というコメントを残している。なおここで記載のある 申立人の商品「SUBMARINER」、「EXPLORER」、「MILG AUSS」の詳細は、甲第21号証のロレックス・マスターブック Ⅱに記載 がある。 このように、登録者の本件ドメイン商標を使用した広告中に、申立人の商標 や申立人の商品との関連性に言及した記載があり、取引者、需要者が申立人商 標と相紛れ、商品の出所を誤認混同するおそれがあるといわなければならない。 (ⅳ)以上によれば、ドメイン名要部と申立人商標とは、外観において類似 するとはいえず、また、観念は対比することができないものの、称呼において 類似するものであり、かつ、申立人商標が著名であること及び本件ドメイン商 標を使用したケン社商品と申立人商標を使用した申立人商品とが、ともにケン 社によって同一店舗で販売されており、かつ、その後においても同様であると いう具体的な取引の状況、及び登録者のドメイン名の使用状況について申立人 商標或いは申立人の商品と関連付けた商品の広告の存在等に照らせば、取引者、 需要者が本件ドメイン商標あるいはドメイン名要部や申立人商標を使用した 商品につき出所を誤認混同するおそれがあるものというべきであって、これら の事情を総合して全体的に考察すれば、本件ドメイン名は申立人商標に類似す るものと認められる。 ②登録者がドメイン名に関する権利又は正当な利益を有していないこと (ⅰ)不正の目的 JP紛争処理方針第4条Cの(ⅰ)にも記載されている通り、登録者は本件 ドメイン紛争前に何ら不正の目的を有することなく、商品等の提供を行うため に、当該ドメイン名又はこれに対応する名称を使用したときには、ドメイン名 に関する権利又は正当な利益を有していると認められると規定している。 ここでの検討でも登録者が不正の目的の有無が争点となるが、登録者の主張 中によれば、登録者又は登録者の代表者が、本件ドメイン名登録当時、本件ド メイン商標の商標権者であったことを、権利又は正当な利益を有していたこと の証明であるとするような語調がみられるが、商標法第4条第1項第19号に もみられる通り、著名商標に関して、「他人の業務に係る商品又は役務を表示 するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている 商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人 に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用をするもの」 は、商標の登録を受けられず、又登録を受けた場合には無効事由となる。従っ て商標権の登録があっても、商標法第4条第1項の各号により無効となる場合 があり、商標権の登録が有ること自体は何らの権利又は正当な利益の証明には ならない。 前記の商標権も無効審判が提起され、商標権維持の審決に対して平成13年 6月20日に東京高等裁判所は、平成12年(行ケ)第435号事件判決で、維 持審決を取り消し、当該商標権を無効とした。この無効により、前記登録者側 の商標権はさかのぼって権利がなかったことになった。以上より、結局登録者 側に不正の目的があるか否かが争点となるが、次のc項でも同様の争点がある ので、この点は次項で改めて検討することとする。 (ⅱ)、(本件ドメインの使用状況) なお甲第14号証及び甲第15号証並びにパネルの調査によれば、現在、本 件ドメインにアクセスすると、単に登録者の旧商号であるPRO-LEXの社 名が表示され、中央に=R・X・W=が表示され、そこをクリックすると、ht tp://www.rockxwatch.com/にジャンプするようになっている。 このrockxwatchでは、甲第15号証のような腕時計が表示される が、従来から販売していたDINOやSUBPROなどの腕時計類も販売して いる。 このように、本件ドメインは現在ジャンプ専門サイトとして機能しているだ けであり、ホームページとしての機能は無いのであり、このことは、登録者が ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有していることの証明にはならな いことを付言する。 ③不正の目的で登録または使用していること ここで、不正の目的とは、不正の利益を得ようとする目的(不正競争の目的 を含む)に止まらず,営業上の競争関係にはないが他人に損害(財産上の損害, 信用の失墜,その他の有形無形の損害)を加える目的を含めた「公正な取引秩序 に違反し信義則に違反する目的」をいう。 本件では、JP紛争処理方針第4条bの(ⅳ)の「(iv) 登録者が、商業上 の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーシ ョン、またはそれらに登場する商品およびサービスの出所、スポンサーシップ、 取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンライン ロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき」 の適用が問題となる。 即ち特に本件では、登録者が、商業上の利得を得る目的でそのウェブサイト に登場する商品、取引提携関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図 して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているときに該当するかが問題となる。 (ⅰ)前述した、ケントレーディングブレイン株式会社及び登録者旧商号プ ロレックス有限会社の代表者はともに佐藤健であるが、(1)①(ⅲ)Aにお いて摘示したように、このケントレーディングブレイン株式会社においては、 本件ドメイン名登録当時、本件ドメイン商標を使用したケン社商品と申立人商 標を使用した申立人商品とが同一店舗で販売しており、取引に当たって本件ド メイン商標を称呼したときに、取引者、需要者が申立人商標の称呼と相紛れ、 商品の出所を誤認混同するおそれがあった。 (ⅱ)同様に、登録者については、(1)①(ⅲ)Bにおいて摘示したよう に本件ドメイン商標と申立人商標を使用した申立人商品とが同一の広告内に 併存しており、両者の差異が無く、品質に誤認を生じさせるような広告宣伝活 動を行っており、商品、取引提携関係などについて誤認混同を生ぜしめること を意図した行為である。 (ⅲ)(誤認混同を生ぜしめることを意図した行為) 前述した(1)①(ⅲ)Bにおいて摘示した行為の内、特に登録者においては、 甲第20号証の「Marine Diving」の1999年・平成11年7 月号で、本件ドメイン名及び本件ドメイン商標と登録者の記載がCOMEX、 PRO-LEX、SUBPROと3段に表記された記事の中に記載されており、 次のPRO-LEX「SUBPRO」の広告頁には、「PRO-LEX」が、 伝説の申立人商標ロレックスの3つのモデルのエッセンス(ミルガウス、エク スプローラー、サブマリーナー)を承継しているとの記事があり、その中で登 録者代表者佐藤健氏は、「ダブルネームなどのレアなロレックスの異常な価格 高騰やニセモノの出回りといった悪循環を鎮めたかった。」というコメントを 残している。なおここで記載のあるSUBMARINER、EXPLORER、 MILGAUSSの詳細は、甲第21号証のロレックス・マスターブック Ⅱ に記載がある。 このように、登録者等は、申立人商標を利用して、その商品の3つのモデル のエッセンスを承継した商品として、PRO-LEX「SUBPRO」を紹介 しており、本件ドメイン商標「PRO-LEX」と申立人商標「ロレックス」 を混同のおそれまではなくとも 商品、取引提携関係などについて誤認混同を 生ぜしめることを意図した行為を行っている。 (ⅳ)(商業上の利得を得る目的) 前述した(1)①(ⅲ)Aにおいて摘示した行為の内、特に、登録者と代表者 が同じであるケントレーディングブレイン株式会社は、甲第22号証の1にお いて、本件ドメイン名を下部に記載しているが、ケン社がスポーツロレックス の専門店であり、従って申立人商標を使用し、甲第22号証の1の作成が98 年の「PRO-LEX」の商標登録以後であり、ケン社が、「PRO-LEX RACINGRAPH“Dino”」誕生と銘打って、広告しているが、そ の中で、「PRO-LEX」は、申立人商標であるロレックスのプロバイヤー がオーナーのケン社がプロデュースするオリジナルブランドウオッチである ことが紹介されている。しかも、前記DinoはDAYTONA(申立人商標 第2284860号)の弟分であるとの紹介がある。これは申立人に無断で、 申立人の商品と登録者の商品を結びつけようとする行動であり、商品、取引提 携関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図した行動である。 このようにケン社の行為は、本件ドメイン商標と申立人商標を混同させる行 為であるが、更にこの「PRO-LEX RACINGRAPH“Dino”」 が完売御礼の記事が、甲第22号証の2にあり、少なくともケン社は、申立人 商標にただ乗りして、商業上の利得を得る目的で商業上の利得を得ていたこと は明白である。ここで、この行為はケン社の行為であり、登録者の使用行為で はないとの反論も考えられるが、ケン社と登録者は代表者が同じであること、 ケン社の広告の中に登録者の本件ドメイン名が記載されていること、ケン社と 登録者の広告が混在するものが甲第20号証には記載され、両者は一体不可分 の行動をとっていることなどから、ケン社の前記行動は登録者が商業上の利得 を得る目的を持っていたことを推認できる。 (ⅴ) 以上より、本件では、JP紛争処理方針第4条bの(ⅳ)の「登録 者が、商業上の利得を得る目的、即ち申立人商標を付した商品の類似品を出す ことでその全部の売却を実行し、金銭的な満足を得る目的で、そのウェブサイ トに登場する「pro-lex」商品などについて誤認混同を生ぜしめること を意図した行為をすることで、インターネット上のユーザーを、そのウェブサ イトに誘引するために、当該ドメイン名を使用していると認めることが出来る。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「pro-lex.co.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似 し、登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有していず、登録者 のドメイン名が不正の目的で登録され且つ使用されているものと裁定する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「pro-lex.co.jp」 の登録を取消すものとし,主文のとおり裁定する。 (以下余白) 2002年6月19日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 小林 十四雄(主任パネリスト) 足立 泉 渡邊 敏 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2002年2月22日(電子メール) 2002年2月26日(郵送) (2)料金受領日 2002年2月25日 金378,000円(消費税込)入金 (3)ドメイン名、登録者の確認日 2002年2月26日 センターの照会日(電子メール) 2002年2月26日 JPNICの確認日(電子メール) 確認内容 1) 申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者であること 2) 登録担当者は佐藤健であること (4)申立不備通知書 2002年3月4日 申立書に不備があったので、申立不備通知書を申立人代理人に送付(郵 送、FAX及び電子メール) (5)補正申立書受領日 2002年3月5日(電子メール) 2002年3月6日(郵送) (6)適式性 センターは、2002年3月7日、補正申立書がJPNICの処理方針、規 則、補則の形式要件を充足することを確認した。 (7)手続開始日 2002年3月7日 手続開始の通知 2002年3月7日 JPNICへ(電子メール) 申立人へ(郵送、FAX及び電子メール) (8)登録者・登録担当者への送付、内容及び到達 1)2002年3月7日、センターは申立書及び申立通知書を登録者及 び登録担当者へ郵送した。 2)センターは、答弁書提出期限が2002年4月5日であることを通 知した。 3)2002年3月8日、登録者・登録担当者は申立書及び申立通知書 を受領した。 (9)答弁書の提出の有無及び受領日 1)提出有 2)2002年4月5日(窓口持参及び電子メール) (10)答弁書の申立人への送付日 2002年4月8日(郵送、FAX及び電子メール) (11)パネリストの選任 申立人は3名パネルを要求 主任パネリスト候補者の提示日(両当事者へ) 2002年4月12日(郵送、FAX及び電子メール) 主任パネリスト候補者に対する選考順位回答書の受領日 申立人 2002年4月15日(FAX) 登録者 2002年4月18日(FAX) 中立宣言書の受領日 パネリスト 小林 十四雄(主任パネリスト) 2002年4月24日 足立 泉 2002年4月25日 渡邊 敏 2002年5月2日 (12)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日(JPNIC及び両当事者へ) 2002年4月19日(郵送、FAX及び電子メール) 裁定予定日 2002年5月14日 (13)パネルによる審理 2002年5月2日 会合 2002年5月9日 両当事者へ「陳述・書類の追加提出要請書」送付 (郵送、FAX及び電子メール) 同日 両当事者、JPNIC及びJPRSへ手続規則10 条C項に基づく予定裁定日の延期を通知(郵送、 FAX及び電子メール) 裁定予定日 2002年6月19日 2002年5月20日 申立人より「陳述・書類の追加提出」提出 2002年5月30日 登録者より「登録者による陳述の追加提出」提 出 2002年6月11日 会合 2002年6月19日 パネルによる裁定 (その他、適宜に会合、電子メール及びFAX、電話等の手段を利用)