事件番号:JP2002-0005

                        裁定書

申立人
    名称:クリスチャン  ディオール  クチュール
    住所:フランス国  75008  パリ  アヴニュー  モンテーニュ  30
    代理人:弁護士  宮川  美津子
            同      山本  麻記子
登録者
    名称:有限会社カットサロンディオール
    住所:千葉県香取郡小見川野田830番地の3
  日本知的財産仲裁センターの紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方
針及び同規則並びに本仲裁センターの補則に基づいて、申立書、提出された証
拠について審理をした結果,以下のとおり裁定する。

1  裁定主文
    ドメイン名「dior.co.jp」の登録を申立人に移転せよ
2  紛争に係るドメイン名は「dior.co.jp」である。
3  手続の経緯
    別記のとおり

4  当事者の主張
a  申立人の主張
(1)申立人は、フランスの著名なファッションデザイナーである「Christian
 Dior」(クリスチャン  ディオール)を創始者とするフランス国法人であり、
申立人及びその関連会社の取り扱いにかかる商品は、「Christian Dior」(クリ
スチャン  ディオール)のブランドにより、高級婦人服、ハンドバッグ、ベル
ト、靴をはじめ、化粧品や、時計、アクセサリー等宝飾品等幅広い分野及び、
いずれの商品も極めて高い信用が形成され、世界的に周知著名に至っている。
(2)日本においても申立人のブランド広く認識されており、さらに、申立人
の創始者、申立人及びその関連会社は、「Dior」(ディオール)とも略称されて
おり、このことは、三省堂発行の「コンサイスカタカナ語辞典(資料1)」、「コ
ンサイス外国人名辞典改訂版」(資料2)、文化出版局発行の「服飾辞典」(資料
3)、研究社発行「英和商品名辞典」(資料4)、主婦と生活社発行の「世界の逸
品百貨事典」(資料5)、サンケイマーケティング発行の「'84ザ・ブランド」(資
料6)、講談社発行の「新編集世界の一流品大図鑑」(資料7)、読売新聞社発行
「The一流品」(資料8)、世界文化社発行「世界の特選品'90年版」(資料9)、
毎日新聞社発行「パリ大図鑑」(資料10)、世界文化社発行「Miss家庭画報
創刊号」(資料11)並びに日本交通公社出版事務局発行「メイド・イン・フラ
ンス大図鑑」(資料12)の記載からみることができる。
(3)登録者は美容室を営むことを業として1980年(昭和55年)4月に設立
され、1999年11月25日に本件ドメイン名を登録し、2001年7月3
日及び同11月15日にインターネット上のホームページに、登録者の美容室
チェーンの宣伝広告を開始している。しかし、これ以前に「Dior」(ディオール)
は、「Christian Dior」(クリスチャン  ディオール)の著名な略称であり、申
立人の商標として、極めて広く知られていた。
(4)申立人は、「Christian Dior」(クリスチャン  ディオール)についても
「Dior」(ディオール)についても、多数の商標登録を取得しており(資料13
ないし69)、また特許庁が商標登録無効審判事件に審決においても、「婦人服、
靴、バッグ、化粧品」等のファッション関連商品に使用する商標として極めて
著名であることを認めている(資料70、71)。
(5)以上に事実関係に基づき、申立人は、JPドメイン名紛争処理方針第4
条を具体的に規定したJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則第3条
(b)(ⅸ)に定める要件を充足することを以下のとおり主張する。
(ア)登録者のドメイン名は申立人が権利を有する商標その他表示と同一又は
混同を引き起こすほどに類似していること、
(イ)登録者が本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有していないと
考えられること。すなわち、登録者が登録申請を行った1999年当時はもとより、
「有限会社カットサロンディオール」を商号登記した1980年(昭和55年当時
においても、「Christian Dior」(クリスチャン  ディオール)並びに「Dior」
(ディオール)はすでに著名であった。
(ウ)本件ドメイン名が不正目的で登録又は使用されていると考えられること。
すなわち、登録者は「Dior」(ディオール)が著名商標であることを知りながら、
正当な登録理由あるいは使用目的を持たないままに、故意に本件ドメイン名を
取得したものであり、仮に使用する目的を有するとすれば、申立人と誤認混同
させてユーザーを誘引するか、対価を得る目的を有していたとしか考えられな
い。
(6)よって申立人は本件ドメイン名の申立人への移転を請求する。

b  登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。

5  争点および事実認定
  パネルは、提出された陳述及び文書の結果に基づき、方針、規則、及び適用
されうる関係法規の規定、原則ならびに条理にしたがって、以下のとおり、裁
定を下す。
  方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを
規定し、申立人がこの要件に則して申立理由を述べていることは、前項(5)
の(ア)ないし(ウ)に記載のとおりである。

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標そ
の他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していることについて。
 申立人及びその件連会社の取り扱いにかかるブランドが「ディオール」の略称
により、わが国におても、婦人服、靴、バッグ、化粧品等ファッションやモー
ド界において著名であり、これに関連した商品について多数の登録商標が取得
されていることは、申立人の引用する各資料により明らかである。
  登録者は1980年に、その商号を登記したものであり、当時の周知著名性
を直接示す資料は多くないが、本件ドメイン名は1999年11月25日に至
って登録されたものであり、この時点で「ディオール」の略称が、世界的に著
名となっていたことは疑いの余地がない。他方、「ディオール」からなる本件ド
メイン名は美容室を営む登録者が使用するものであり、申立人の営業活動と極
めて関連性が高い。よって、本件ドメイン名は、申立人が権利又は正当な利益
を有する商標その他表示と混同を起こすほど類似するということができる。
(2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有してい
ないことについて。
  登録者は本件ドメイン名を核とする商号を有するが、それ以上に「dior」
を採用する理由を見出すことは困難であり、かつ、申立人の「Dior」(ディ
オール」が申立人の著名な略称ないしブランドであることを考慮すると、登録
者が本件ドメイン名について、権利又は正当な利益を有していると認めること
はできない。
(3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていることに
ついて。
  登録者は、答弁書を提出していないので、登録者の目的を直接知ることはで
きない。しかしながら、上記(1)及び(2)に記載された客観的な状況をみ
るなら、申立人が主張するように、本件ドメイン名は申立人と誤認混同させて
ユーザーを誘引する目的、すなわち不正な目的をもってドメイン名の登録を得
たものとみるほかない。
6  結論
  以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「dior.co.jp」が申立人の商標その他表示と混同を引き起こすほど類似し、登
録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、かつ、登録
者のドメイン名が不正の目的で登録されかつ使用されているものと判断する。
  よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「dior.co.jp」の登録を申立人
に移転するものとし,主文のとおり裁定する。
     2002年7月1日
      日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            松尾  和子
                            単独パネリスト
別記(手続の経過)
(1)  申立書受領日
       電子メール  2002年5月10日
       書面        2002年5月13日
(2)  料金受領日  2002年5月9日
       申立人はセンターに対して上記の日に規定料金189,000円を支払った。
(3)  ドメイン名及び登録者の確認日
       センターの照会日(電子メール)2002年5月13日
       JPRSの確認日(電子メール)  2002年5月13日
       <確認内容>
       ①  申立書記載の登録者はドメイン名の登録者であること
       ②  登録担当者は森川真澄であること
(4)  適式性
       センターは2002年5月14日、申立書がJPNICのJPドメイン名処理
       方針、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則、JPドメイン名紛
       争処理方針のための補則の形式要件を充足することを確認した。
(5)手続開始日    2002年5月14日
     手続開始日の通知   2002年5月14日
            JPNIC、JPRSへ(電子メール)
            申立人代理人へ(電子メール、FAX、郵送)
(6)登録者・登録担当者への送付、内容及び送達
  1)  2002年5月14日、センターは申立書及び申立通知書を登録者及び登録
      担当者へ電子メール、FAX、郵送(配達証明付き)で送付した。なお、
      証拠並びに証拠の一覧及び説明については郵送のみ。
  2)  センターは答弁書提出期限が2002年6月11日であることを通知した。
  3)  2002年5月16日、登録者が上記書類一式を受領。
      なお、電子メール、FAXによる送達は出来なかったが、郵送による送達
      は配達証明により確認した。

(7)答弁書の提出
     無し
(8)答弁書不提出通知書の申立人代理人、登録者への送付
      送付日  2002年6月12日
      申立人代理人には電子メール、FAX、郵送で送付し、電子メール、FAX
      については同日、送達され、郵送については2002年6月13日に送達さ
      れたことを配達証明により確認した。
      登録者にはFAX、郵送で送付したが、FAXについては送達できず、郵
      送については2002年6月14日に送達されたことを配達証明により確認
      した。
(9)パネリストの選任
    申立人は1名による審理・裁定を要求。
    登録者が答弁書を提出しなかったことから、センターは2002年6月12日、
    次の通りパネリスト1名を指名し、パネリストは同日、これを受諾した。
        パネリスト          松尾和子
        中立宣言受領日      2002年6月24日
(10)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知
    ①  裁定予定日  2002年7月2日
    ②  両当事者、JPNIC、JPRSへの通知  2002年6月12日
        なお、両当事者の送付、送達については(8)と同じ。JPNIC、JPRS
        へは電子メールのみ。
(11)パネリストへの指名書、一件書類の送付
      送付日  2002年6月12日(電子メール、郵送)