事件番号:JP2002-0006

裁      定

    申立人:北海道函館市若松町15番7号
            株式会社ジャックス
            代表者代表取締役  木島  光彦
    代理人:弁護士  北村  晴男
            弁護士  加藤  信之
            弁護士  越谷  哲成
            弁護士  佐野  周造
            弁護士  熊谷祐一郎
            弁護士  寒川  智美
            弁護士  高辻  庸子

    登録者:富山県富山市丸の内1丁目7番20号  タマフチビル
            有限会社日本海パクト
            代表者代表取締役  玉扶持  安昭

    紛争に係るドメイン名:「jaccs.co.jp」

1  裁定主文
  登録者はドメイン名「jaccs.co.jp」の登録を申立人に移転せよ。

2  手続の経緯
  別記のとおりである。

3  申立人の主張

(1)当事者の事情
  申立人は、割賦購入斡旋等を主たる事業とする株式会社であって、昭和51年4月に、商
号を「株式会社ジャックス」その英文表記を「JACCS.CO.,LTD」とし、各文字を図案化して
なる商標「JACCS」(別紙商標1記載の商標)を、現在に至るまで、申立人の発行するクレ
ジットカード、新聞広告・パンフレット・テレビコマーシャル及び申立人従業員の名刺等
に表示してきた。
  申立人の上記別紙商標1記載の商標は、平成9年に役務区分第36類で、平成6年に役務
区分第42類でそれぞれ商標登録を受けている。また、申立人は、「JACCS」の欧文字よりな
る商標(別紙商標2記載の商標)について、平成6年に役務区分第35類と第38類でそれぞ
れ商標登録を受けている。
  したがって、申立人は「JACCS」なる表示に商号及び商標としての正当な利益を有してい
る。
  登録者は、簡易組立トイレの販売及びリース業を事業とする有限会社で、株式会社日本レ
ジストリサービス(JPRS)にドメイン名「jaccs.co.jp」を登録している。

(2)本件ドメイン名と申立人の商標及び商号との混同を生ずるほどの類似性
  本件ドメイン名は「jaccs.co.jp」であるが、「co.jp」は、当該ドメインがJPRS管
理のものでかつ登録者が会社であることを示すにすぎず、多くのドメイン名に共通のもの
であり、その要部となるのは、「jaccs」の部分である。
  「JACCS」と「jaccs」を対比すると、アルファベットが大文字か小文字かの違いがある
ほかは、同一である。そして、実際上、小文字のアルファベットで構成されているドメイ
ン名がほとんどであることを照らせば、大文字か小文字かの違いは重要ではないというべ
きである。したがって、本件ドメイン名は、申立人の商標と同一または混同を引き起こす
ほど類似している。

(3)登録者の本件ドメイン名に関する権利・正当な利益の欠如
  登録者は申立人とは一切の資本関係、取引関係、業務提携関係に立たず、申立人が登録
者に対し、本件商標の使用を許諾した事実もない。
  登録者は、約10社の賛同を得て企業家支援集団を結成し、これを「japan associated
cozy cradle society」と名付け、その略称として本件ドメイン名を登録したと述べている
が、上記名称自体が不自然で、意味不明である上、登録者が開設した当初のホームページ
の内容では上記名称の企業家支援集団が当該ホームページを開設している趣旨は全く表れ
ておらず、むしろ「JACCS」のみが強調されたかたちになっていること等の事情からすれば、
登録者による本件ドメイン名の登録は、申立人の営業表示である「JACCS」と同一であるこ
とを認識しつつ行われたというべきである。
  すなわち、登録者は本件ドメイン名の登録について、何ら権利または正当な利益を有し
ていない。

(4)不正の目的に基づく登録または使用
  登録者は申立人に対し、平成10年7月初旬以降、数回にわたり暗に金銭的な要求をした。
  そこで、申立人は、平成10年11月25日、不正競争防止法に基づき本件ドメイン名の使用
差止めを求めて、富山地方裁判所に提訴したところ(平成10年(ワ)第323号事件)、富山
地方裁判所は、「http://www.jaccs.co.jp」の使用差止めを認め(平成12年12月6日判決)、
その控訴審である名古屋高等裁判所金沢支部は (平成12年(ネ)第244号、平成13年(ネ)
第130号事件) 、本件ドメイン名の使用差止めを認め(平成13年9月10日判決)、この控訴
審判決は最高裁判所(平成13年(受)第1779号事件)が登録者の上告受理申立を受理しな
かったため平成14年2月8日確定した。
  上記富山地方裁判所判決は、民事訴訟における証拠調べの結果、「被告(=登録者)に
よる本件ドメイン名の登録は、偶然ではなく、原告(申立人)の営業表示である「JACCS」
と同一であることを認識しつつ行われた」、「被告は、当初より、原告から金銭を取得す
る目的で本件ドメイン名を登録した」等の事実を認定した。

4  登録者の答弁
  登録者は、上記民事訴訟の判決を謙虚に受け止め、本件ドメイン名の使用を中止し、20
02年2月13日にプロバイダー(キトキトネット)を通じて登録廃止の手続きを執っており、
JPRSより「2002年3月26日、ドメイン名廃止・サービス解約手続き完了」の通知を受
けている。
  登録者は、本件ドメイン名を使用するつもりもないし、又、移転についても争わない。
  したがって、本裁定の必要はなく、これをなすべきではない。

5  裁定の理由

(1)本件裁定の利益
  登録者は、JPRSに対して、本件ドメイン名について廃止申請をし、JPRSは同年
3月26日に「本件ドメイン名廃止・サービス解約手続き完了のお知らせ」を登録者宛てに
通知している。しかし、JPRSは、その後その廃止の実行をしないでいる間に本件申立
てがあったので、JPドメイン名紛争処理方針第7条(現状の維持)の規定により、廃止
手続を行うことはできず、これを実行する意思はない旨の説明をなし、現に本件ドメイン
名の登録は存続している。
よって、登録者の答弁に関わらず、本件申立人には、なお裁定を受ける利益が存するも
のと解される。

(2)認定事実
  申立人の主張にかかる事実は、本件に提出された各証拠及び登録者の答弁によって全てそ
のとおりであることを認定することができる。登録者においてはこれを全く争っていない。

(3)登録者ドメイン名と申立人商標等との混合を生ずるほどの類似性(処理方針第4条
a(ⅰ))
  本件ドメイン名「jaccs.co.jp」は、申立人が商標権を有する商標「JACCS」及びその商
号の英文表記「JACCS.CO.,LTD」と混同を引き起こすほど類似している。
  すなわち、本件ドメイン名のうち「co.jp」の部分は、「co」が登録者の属性(組織種別)
を意味し、「jp」が国別コードであるから、本件ドメイン名の要部は「jaccs」にあるので
あって、これと申立人の商標とは大文字と小文字の差異があるにすぎない。なお、別紙商
標1記載の商標は、「J」「A」「C」「C」「S」の各文字を図案化してなるが、「JACCS」
の構成よりなるものと容易に理解認識されるものである。
  また、申立人の商号の英文表記における「CO.,LTD」は株式会社を示すものであって、そ
の要部は「JACCS」にあることは明白である。
  したがって、登録者ドメイン名は、処理方針第4条a(i)の要件に該当する。

(4)登録者は、本件ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していない
(処理方針第4条a(ⅱ))。
  認定事実によればこの点は肯認することができ、登録者もこの点を争っていない。

(5)本件ドメイン名の不正目的による登録(処理方針第4条a(ⅲ))
  前記認定のとおり、登録者は、申立人に対し、本件ドメイン名について繰り返し、これ
を取得するに直接かかった金額を超える対価をもって販売等する旨の申し入れを行ってお
り(甲第23号証の1ないし甲第29号証の2、甲第31号証の1ないし甲第32号証の2、甲第
34号証の1ないし甲第35号証の2、富山地方裁判所判決である甲第1号証)、処理方針第
4条b(i)に該当するので、本件ドメイン名の登録は不正の目的によるものと認めるこ
とができる。

6  結  論
  以上に照らして、本紛争処理パネルは、全員一致の意見によって、登録者によって登録
されたドメイン名「jaccs.co.jp」が、申立人が権利または正当な利益を有する商標と混同
を引き起こすほど類似し、登録者が、登録者ドメイン名について権利または正当な利益を
有しておらず、登録者ドメイン名が不正の目的で登録されているものと認め、処理方針第
4条iに従って、ドメイン名「jaccs.co.jp」の登録を申立人に移転を命ずるものとし、主
文のとおり裁定する。

  2002年  7月  4日

      日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル

                            主任パネリスト    滝  井  朋  子

                                パネリスト    水  谷  直  樹

                                パネリスト    福  井  陽  一


別紙商標1
            

JACCS別表商標1

別紙商標2
            

JACCS別表商標2

別記 (手続の経過)
(1)申立受領日
      2002年5月16日    (電子メール)
      2002年5月17日    (郵送)
(2)料金受領日
      2002年5月16日
      申立手数料378,000円の入金を確認。
(3)ドメイン名及び登録者の確認日
      2002年5月17日  センターからの照会日(電子メール)
      2002年5月17日  JPRSからの確認日(電子メール)
      確認内容
          1)申立書記載の登録者は本件ドメイン名の登録者である。
          2)登録担当者は  野尻政秀(marumasa@kitokitonet.or.jp)である。
(4)適式性
      2002年5月21日  方式審査の上、センターから、申立不備通知書送付
      2002年5月22日  申立人より補正済みの申立書を受領
        日本知的財産仲裁センターは、申立書が社団法人日本ネットワークインフォーメー
      ションセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、JPドメイン
      名紛争処理方針のための手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方針のための補則
      (補則)の形式要件を充足することを確認した。
(5)手続開始日
      2002年5月22日(答弁書提出期限:2002年6月19日)
      手続開始日の通知
      2002年5月22日  JPNIC、JPRS(電子メール)
                            申立人代理人(電子メール、FAX及び配達証明郵便)
(6)廃止申請書の提出の確認
        登録者の代表者である玉扶持氏が日本知的財産仲裁センターへの電話にて申立に係
      るドメイン名の廃止申請書を提出したと主張
        JPRSに確認し、登録者からの廃止申請書を3月末に受理していることを確認
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      1)  提出有
      2)  2002年6月7日(郵便)
            2002年6月18日(郵便)(一部差し替え)
(8)答弁書の申立人への送付
      2002年6月7日(電子メール、FAX及び配達証明郵便)
(9)パネリストの選任
      申立人は3名構成のパネルを要求
      主任パネリスト候補者の両当事者への提示
        2002年6月7日(電子メール、FAX、配達証明郵便)
      主任パネリスト候補者に対する選考順位回答書の提出
          申立人      2002年6月11日(電子メール、FAX)
          登録者      なし
      中立宣言書の受領日
        パネリスト
          滝井朋子      2002年6月20日(主任パネリスト)
          水谷直樹      2002年7月2日
          福井陽一      2002年6月19日
(10)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知(JPNIC、JPRS及び両当事者へ)
        2002年6月14日(配達証明郵便、FAX、電子メール)
        裁定予定日  2002年7月4日
(12)パネルによる審理
        適宜に、電子メール及びFAX・電話等の手段を利用