事件番号:JP2003-0001 裁 定 申立人: (名称) モーターアップコーポレーション (住所) アメリカ合衆国、ペンシルヴァニア州 19087 ウェイン デボンパークドライブ 489 スイート306 代理人弁理士 廣 江 武 典 同 宇 野 健 一 登録者: (名称) サンフィールド貿易株式会社 (住所) 長野県伊那市大字伊那部字北町5079-1 代理人弁護士 須 藤 隆 二 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネリストは、JPドメイン名紛争処理方針、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センター紛争 処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書、答弁書及び提出され た証拠に基づいて審理を遂げた結果,以下のとおり裁定する。 1.裁定主文 ドメイン名「MOTORUP.CO.JP」の登録の取消しをせよ。 2.ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「MOTORUP.CO.JP」である。 3.手続の経緯 別記のとおり 4.当事者の主張 (1)申立人 の主張 1)ドメイン名と申立人表示の同一もしくは類似について 申立人はアメリカ合衆国、EU及び日本において「MOTOR-UP」「MOTOR UP」を始め複数の登録商標を所有しており、何れの商標も“MOTORU P”の文字を含んでいるものである(甲第1号証~甲第4号証)。 ここで、登録者のドメイン名「MOTORUP.CO.JP」は現在まで 登録されている(甲第5号証)。この申立に係るドメイン名「MOTORU P.CO.JP」のうち「.CO.JP」の部分は登録者の属性および当該 ドメイン名がJPNICの管理下にあることを示すにすぎないため、自他識 別力を有しない。従って、本件ドメイン名のうち自他識別力を有する要部は 「MOTORUP」の部分にある。これと、申立人の所有する登録商標「M OTORUP」又は「MOTOR-UP」とが称呼、外観、観念の何れにお いても類似し、商標全体が同一又は類似の関係にあることは明らかである。 また、申立人の会社名は「モーターアップコーポレーション」であり、英 語表記では「MOTORUP CORPORATION」であるから、会社 名の略称は「モーターアップ」又は「MOTORUP」である。この略称と 申立に係るドメイン名「MOTORUP.CO.JP」とが類似することも 明らかである。 さらに、この略称は他に使われていない、即ち辞書には載っていない造語 である。従って、登録者がドメイン名「MOTORUP.CO.JP」を偶 然選択したとは到底考えることはできず、登録に際して不正の意図があった ことも明らかである。 2)申立人の登録商標は日本においても広く認識されている周知な商標であるこ と。 申立人は「MOTORUP」又は「MOTOR-UP」の商標を付した商 品(エンジンオイル添加剤)の製造販売を1995年から世界的に開始して いる。ここで、「MOTORUP」又は「MOTOR-UP」の商標を付し た商品であるエンジンオイル添加剤とは、自動車のエンジンオイルに加える ことによって、エンジンの磨耗を減少させ、エンジン性能を向上させ、超高 温時のエンジン音とアイドリング振動を低減させるように設計されたもの をいう。 そして、日本へは1997年から輸出を開始しており、2001年には日 本国内で100万本の販売を達成している(甲第6号証)。確かに販売開始 当初は「MOTORUP」又は「MOTOR-UP」の商標を付した商品(エ ンジンオイル添加剤)はあまりよく知られていなかったものの、雑誌広告、 自動車レースのスポンサー、テレビインフォマーシャル等の大々的な宣伝広 告によって1999年までには日本の消費者に広く知られるようになって いる(甲第7号証~甲第17号証)。 3)登録者が対象ドメイン名についての権利又は正当な利益を有してないこと。 申立人は、「MOTORUP」又は「MOTOR-UP」の商標を付した 商品(エンジンオイル添加剤)を1999年までは消費者に対して直接販売 していたものを、1999年からは流通経路を確立し、小売販売を始めてい る。この小売販売では、1999年から2001年10月まで、クァンタム・ インターナショナル・ジャパン㈱(以下、「クァンタム」という)が独占的 に日本へ輸入する契約を結んでおり、それ以降は、㈱オークローンマーケテ ィング(以下、「オークローン」という)が独占的に日本へ輸入する契約を 結んでいる(甲第18号証及び甲第19号証)。 さらに、上述したように、申立人の会社名の略称「MOTORUP」は他 に使われていない、即ち辞書には載っていない造語である。従って、登録者 がドメイン名「MOTORUP.CO.JP」を偶然選択したとは到底考え ることはできず、登録に際して不正の意図があったことも明らかである。 したがって、登録者は申立人から何らの権原を与えられたものではなく、当 該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有しているものでは ない。 4)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること。 申立人は、2000年4月に、クァンタムから小売店の棚に不当に低価格 の「MOTORUP」又は「MOTOR-UP」の商標を付した商品が置か れているとの通知を受けた。申立人がパッケージ及び内容物の化学組成等を 調査した結果、これらの商品は模造品であることが判明した。 さらに申立人が調査した結果、この模造品の日本への輸入及び販売には登 録者を含めた数社が関与していることが判明した(甲第20号証)。 申立人は登録者に対して再三、模造品の販売を中止するよう警告したが (甲第21号証)、登録者はこれを聞き入れようとせず、販売を続けたため、 2002年7月に大阪地方裁判所に販売の差止めと、損害賠償を請求する訴 訟を提起した。 以上の経過より、登録者が申立人の登録商標「MOTORUP」又は「M OTOR-UP」の存在を登録以前から知っており、当該ドメイン名を不正 の目的をもって登録したことは明らかである。 5)求める救済措置 手続規則3条(b)(ⅹ) 申立人は、この紛争処理手続において選任されたパネルが、紛争の対象で あるドメイン名の登録について、次のような裁定を下すことを求める。 ドメイン名:「MOTORUP.CO.JP」の登録の取消をせよ。 (2)登録者の主張 1) 本件ドメイン名と申立人の表示との同一性または混同 本件ドメイン名が、申立人が権利を有する商標その他表示と同一または混同を引 き起こすほどに類似しているとの点については、格別争わない。 2) 登録者が本件ドメイン名についての権利または正当な利益を有してるこ と。 ① 登録者は、雑貨等の輸入販売業を営む株式会社であるが、2000年4月よ り、申立外株式会社申立外ニチリウ(以下「申立外ニチリウ」という)と共同 して、申立人製造にかかる商品(以下「モーターアップ商品」という)を日本 国内において並行輸入販売し、相当量の販売実績をあげていた。 ② 2001年1月、登録者及び申立外ニチリウは、申立人より日本における正 規代理店契約締結の申入れを受けた。登録者は、同年4月、モーターアップ商 品12万本を申立人から購入するとともに、申立人との間で正規販売代理店契 約締結に向けての協議を行った。 上記交渉は一旦中断したものの、同年7月より再開され、同年11月には、 登録者及び申立外ニチリウを日本国内における正規販売代理店とする旨の合 意が当事者間において成立した。 ③ 上記合意の成立を受け、登録者は、以後の日本国内におけるモーターアップ 商品の販売に使用することを予定して、本件ドメイン名の登録申請を行い、2 001年11月30日付で同ドメイン名の登録がなされた。 ④ 申立外ニチリウは、モーターアップ商品輸入の為の信用状を開設し、申立人 に対して出荷を要請したが、申立人が多額に及ぶ代金の前払を要求するなど無 理難題を持ち掛けてきたため、正規品の輸入販売は実現しなかった。 ⑤ 2002年1月、米国大手流通業者のビージェイズホールセールクラブ(BJ's Wholesale Club, Inc. 以下「BJ社」という)が、近々モーターアップ商品の 全世界における正規販売代理店となる予定との情報を得、登録者及び申立外ニ チリウは、BJ社との間で代理店契約の締結に向けて協議した。その結果、20 02年4月より、登録者及び申立外ニチリウが日本における正規販売代理店と なること、その手始めとしてモーターアップ商品45万本を購入するという合 意が成立した。 これを受けて登録者及び申立外ニチリウは、連名にて、モーターアップ商品 の正規販売代理店になる旨の案内文書(乙第1号証)を顧客に送付した。 但し商品の輸入については、その後発生したBJ社とのトラブルにより実現 していない。 ⑥ 以上述べたとおり、登録者が本件ドメイン名を登録した2001年11月当 時は、登録者及び申立外ニチリウをモーターアップ商品の日本における正規販 売代理店とする旨申立人との間で合意をしていた。そして、販売代理店契約は 申立人の商標使用の許諾を当然に含むものであるから、登録者が、当該ドメイ ン名を使用することについての権利または正当の利益を有していたものであ る。 ⑦ 申立人は、申立書において、「2001年10月までクァンタムが独占的に日 本へ輸入する契約を結んでおり」、それ以降は、オークローンが「独占的に日 本へ輸入する契約を結んでいる」としているが事実ではない。2001年4月 に登録者が申立人よりモーターアップ商品12万本を輸入したことは前述の とおりであり、クァンタム社に独占販売権を与えていたとの主張と矛盾する。 また、申立人提出の書証によると、オークローンが販売代理店となったのは2 002年3月のことであり(甲第18、19号証)、2001年11月ではな い。2001年11月時点で販売代理店の地位にあったのは登録者及び申立外 ニチリウである。 ⑧ 「模造品」販売の主張について 申立人は、登録者がモーターアップ商品の「模造品」を輸入販売している旨 主張しているので以下この点について述べる。 申立人は、前記4.(2)2)②で述べた代理店契約締結の交渉に際して、 当時登録者らが並行輸入販売していたモーターアップ商品が「模造品」である と主張していたことがあった。しかし、申立人の問題提起を受けて登録者及び 申立外ニチリウにおいて並行輸入品の成分分析検査を行ったところ、正規品と 同一品であることが確認された(乙第2号証)。また、2001年2月に、登 録者代表者及び申立人代表者が、並行輸入品の輸出元である台湾の会社に赴い て調査を行ったが、模造品であることを示す何らの根拠も得られなかった。申 立人による「模造品」の主張は、単なる「言いがかり」であり、登録者及び申 立外ニチリウとの交渉を有利に進めるためのものであったと考えられる。 なお、申立人は、2002年4月頃になって再び、並行輸入品は「模造品」 であると主張し始め、同年7月、登録者及び申立外ニチリウに対して商品の販 売差止め及び損害賠償請求訴訟を提起したが、登録者及び申立外ニチリウは当 然これに対して全面的に争っており、現在審理が継続中である。 2) ドメイン名登録・使用と「不正の目的」 4.(2)2)②において述べたとおり、登録者は、申立人との間で成立した 登録者及び申立外ニチリウを正規販売代理店とする旨の合意に基づき、本件ド メイン名を登録したものであって、不正な目的などない。 5.事実認定及び争点 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則第15条(a)は、パネルが紛争 を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示す る。「パネルは、提出された陳述及び文書の結果に基づき、方針、規則、及び適用さ れうる関係法規の規定、原則ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを 指図している。 (i)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表 示と同一または混同を引き起こすほど類似していること (ii)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していない こと (iii)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること 本パネルは、提出された陳述及び証拠の結果に基づいて、上記当事者の主張に現 れた争点について次の通り認定する。 (1) 証拠及び当事者に争いのないところに拠れば、以下の事実が認められる。 1) 申立人は、1995年より、「MOTORUP」又は「MOTOR-UP」 の商標(これら2商標を、特に断らない限り、「本件商標」という)を付した エンジンオイル添加剤、モーターアップ商品の製造販売を世界的に行ってい る、アメリカ合衆国法人である(申立書)。 2) 申立人は、わが国において、平成10年5月8日、商品分類第4類モータ ーオイル、その他の潤滑油を指定商品として、平成14年11月8日、同第 1類化学品を指定商品として、「MOTOR-UP」と横書きしてなる商標 につき商標登録を受けている(甲第1号証の1、2)。また、平成15年1 月7日、商品分類第1類エンジンオイル用添加剤(化学品に属するものに限 る)、その他の化学品について、「MOTOR-UP」について商標登録査 定を受けている(甲第2号証の1、2)。さらに、米国、カナダ及び欧州共 同体においても、商品分類第1類又は(及び)第4類化学モーターオイル添 加剤等について、1997年4月ないし2000年2月にかけて、「MOT OR-UP」ないし「MOTOR UP」について商標登録を受けている(甲 第3号証)。 3) 登録者は、雑貨等の輸入販売を業とする株式会社であり、2001年11 月30日、JPNICにおいて、ドメイン名「MOTORUP.CO.JP」(以 下、「本件ドメイン名」という)を登録した(答弁書)。 4) モーターアップ商品は、わが国では、1997年から輸出が開始され、1 999年までは、申立人が消費者に対して直接販売していたが、1999年 からは流通経路が確立され、小売販売が開始されている。この小売販売では、 1999年から2001年10月まで、クァンタムが輸入元として独占的に 日本へ輸入する地位にあり、2002年3月からはオークローンが輸入元と して独占的に日本へ輸入する地位にあることが認められる(甲第18号証及 び甲第19号証)。2001年11月から2002年3月までの間についても、 オークローンが輸入元であるとする主張を申立人は行っているが、その提出 する証拠(甲第18号証)から認めることはできない。 5) 国内販売開始当初、モーターアップ商品はあまりよく知られていなかった ものの、その後雑誌広告、自動車レースのスポンサー、テレビコマーシャル 等の宣伝広告が展開されたこともあり(甲第7号証~甲第17号証)、200 1年には日本国内で100万本の販売を達成していることが認められる(甲 第6号証)。本件商標及び本件商標を付したモーターアップ商品は、わが国で は2001年11月末頃、自動車を愛好する需要者の間で広く認識されるよ うになったものと認められる。 (2) 処理方針4条a(i)該当性(登録者のドメイン名が、申立人が権利または 正当な利益を有する商標その他の表示と同一または混同を引き起こすほど類 似しているかどうか) 本件ドメイン名が、申立人が権利を有する本件商標と同一又は混同を引き起 こすほど類似していることについては、当事者間に争いはない。 (3) 処理方針4条a(ii)該当性(登録者が本件ドメイン名の登録についての 権利又は正当な利益を有しているか) 1) 登録者は、申立外ニチリウと共同して、モーターアップ商品を並行輸入し、 相当量の販売実績を上げていたこと、2001年1月、登録者及び申立外ニチ リウは、申立人より日本における正規代理店契約締結の申入れを受け、申立人 との間で正規販売代理店契約締結に向けての協議を行ったこと、同年11月、 正規販売代理店とする旨の合意が成立したことを主張する(答弁書)。そして、 本件ドメイン名は、上記合意の成立を受け、以後の日本国内におけるモーター アップ商品の販売に使用することを予定して、本件ドメイン名の登録申請を行 い、2001年11月30日付で同ドメイン名の登録がなされた、とも主張さ れている(答弁書)。登録者は、この主張に関して、乙第1号証を証拠として 提出しているが、上記契約の成立を示すものではない。乙第1号証には、登録 者と申立外ニチリウはBJ社との間で日本及び東南アジア地域における独占販 売契約を成立させた旨の記述があるが、BJ社がモーターアップ商品の「全世界 における正規販売代理店」であり、登録者及び申立外ニチリウがBJ社との間で 「国内及び東南アジアにおける独占販売契約」を締結したことを示す証拠とは 認めることはできない。 2) 5.(1)4)に示したように、2001年11月から2002年3月ま での間は、少なくともわが国への輸入元は存在していない状態であったと窺わ れるので(甲第18号証)、登録者はBJ社との間で契約交渉を進めた事実はあ ると推認されるが、申立人とBJ社間の契約及びBJ社と登録者間の契約はいずれ も成立には至らなかった、と解するのが相当である。かかる契約が存在するの であれば、その成立を立証することは容易であろうと解されるが、その証拠は 提出されていない(パネルは、平成15年5月16日、事務局を通じこの点に つき追加的な釈明を求めたが、申立外ニチリウの登録者商品の購入経路に関す るもの(乙3号証ないし同12号証の2)を除き、登録者から回答を受けてい ない)。 したがって、本件ドメイン名の登録について、登録者が申立人に対して主張 し得る契約に基づき正当な利益を有していると認めることはできない。 3) 登録者はモーターアップ商品の並行輸入販売を行い、相当量の販売実績を 上げていることを主張している(答弁書)。 いわゆる真正商品の並行輸入行為が内国の商標権の侵害を構成しないことは 裁判例においても承認されているところである。並行輸入した真正商品の販売の ために、真正商品に付された商標等を使用することも原則として適法な行為であ ると認められる。そのように解さないと、真正商品を輸入することはできても、 販売することが極めて困難となるからである。また、真正商品の販売に関し許容 される商標の使用行為は、現実の取引社会における広告行為に関してであると、 ウエブサイト上での使用行為に関してであると、あるいはドメイン名として使用 する行為に関してであると、いずれをも問わないものであると解される。 4) しかし、並行輸入する商品が真正商品でない場合は別論である。申立人は、 登録者の輸入する商品は真正品でないと主張する。 甲第22号証、同23号証及び乙第2号証によれば、以下のことが認められる。 モーターアップ商品と登録者の輸入するいわゆる海外市販商品(以下、「登録者商 品」という)とを赤外分光分析(FT-IR)により比較すれば、赤外線吸収スペク トルがほぼ一致し、両者が同一の組成をうかがわせるものとする試験結果が示さ れているが、他の試験方法によると、動粘度試験(試験方法JISK2283)、全酸価 試験(JISK2501)、流動点試験(JISK2269)及び金属分析試験(JPI-5S-38-92) それぞれの示す結果は全く異なった物質であること、すなわち一方は自然界の物 質であるが他方は合成された化合物であることが明らかである。このことから、 登録者商品とモーターアップ商品とは同一であると認められず、品質上同一の真 正商品を並行輸入しているという登録者の主張は成立しないといわざるを得ない。 いわゆる並行輸入は、日本国内の輸入総代理店等を通すことなく、外国の市場 において適法に拡布された商標商品を国内に輸入する行為であり、一般に内外価 格差を利用して同一商品を国内総代理店よりも安価で販売することが可能となり、 輸入業者にとって利益をもたらすのであるが、その反面、並行輸入には偽造商品 を輸入する危険が常にあるといって過言でない。世界の市場において大量の偽造 品が市場に拡布され、流通していることは顕著な事実であることからすると、並 行輸入業者は、たとえ真正品と考えていても、誤って偽造品を輸入してしまうこ とがないとはいえず、常にそのような危険の下に並行輸入行為を行っていること を認識していなければならない。したがって、並行輸入業者は、外国市場で拡布 された商標商品を輸入するに当たっては、偽造品を輸入しないために、購入先の 信用状況を十分調査し、かつ当該商標商品が偽造品であるかどうかを厳重に検査 すべき注意義務があるというべきである。 また、登録者は、登録者商品の並行輸入に際し購入先の信用状況及び当該商標 商品の厳重な検査をしたことが認められない。むしろ、真正商品のパッケージ・ デザインと類似してはいるが、僅かな注意をもって視認すれば差異が明瞭に確認 できる、真正品と異なるパッケージ・デザインの登録者商品を輸入し、拡布して いることが認められる(甲第23号証ないし同29号証の15)。加えて、申立人 は、2002年4月9日付けの警告書により、登録者商品が「不真正商品」であ ることの警告を登録者に行っていることも認められる(甲第21号証)。 処理方針4条a.(ii)において「登録者が、当該ドメイン名の登録についての権 利または正当な利益を有していないこと」と定めている趣旨は、単に「登録」の 時点のみならず、その後ドメイン名の登録を維持する上において権利又は正当な 利益を有しなくなった場合をも含むと解される。登録者は本件ドメイン名の登録 時点については格別、真正商品と異なる登録者商品の販売又は宣伝広告のために 本件ドメイン名を登録する正当な利益を有しないものであることは論ずるまでも なく、登録者が本件ドメイン名の登録について権利又は正当な利益を有すると認 めることはできない。 (4)処理方針4条a(iii)該当性(登録者のドメイン名が、不正の目的で登録ま たは使用されているかどうか) 1) ドメイン名の使用態様は、JPNICのドメイン名のネームサーバー情報に登 録されているだけで、登録後未だ使用されていないものと認められる。ドメイ ン名は現在又は将来において使用するために登録するものであり、将来に渡り 使用する予定がないにもかかわらず、登録することは、他の事業者がドメイン 名を選択する可能性を妨害するものであり、そのようなことを意図すること自 体、不正な目的でないとはいい難い。 登録者及び申立外ニチリウがBJ社との間で、「国内及び東南アジアにおける 独占販売契約」の締結に向けて協議された事実を推認できることは、先に認定 したところであるが、この過程でドメイン名の登録がなされたことは登録者が みとめるところである(答弁書)。 2) JPドメイン名は、本来、インターネット上での識別子として用いることを 目的とし、JPNICが管理するドメイン名空間におけるドメイン名の一意性を意味 し、これ以外のいかなる意味も持たないものであり、登録者の名称やその有する 商標等、登録者となんらかの意味のある文字列と結びつくことは予定されている ものではない。しかし、実際には、登録者の名称や商標その他の標識と同一又は 類似の文字列がドメイン名に登録されていることに照らすと、これに接する者と しては、ドメイン名が必ずしも登録者の名称やその他の標識を示しているとは限 らないことを認識しつつも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である 場合には、当該固有名詞の主体あるいは当該固有名詞となんらかの関係のある者 がドメイン名の登録者であると考えるのが通常であると認められる。 特定の商品又は役務に関する情報を得ようとする者がウエブサイトを検索し ようとする際には、検索エンジンを使用する場合と、直接URLに特定の商品名又 は役務の名称と同一の文字列を入力する場合とがあることは周知の事実である。 したがって、登録者が本件ドメイン名を登録し、ウエブサイトを開設すれば、モ ーターアップ商品に関する情報を検索する需要者は当該ウエブサイトに誘導され ることになる。登録者も需要者のかかる誘導の効果を期待して本件ドメイン名を 登録したものと認められる。 しかし、登録者商品は、先に認定したように、真正商品と認めることのできな い商品であるから、本件ドメイン名の下でウエブサイトを開設し、登録者商品の 販売及び宣伝広告を行う場合、モーターアップ商品に関心を有する需要者は誤認 して、登録者のウエブサイトに誘導され、真正商品ではない登録者商品を購入す るおそれが認められる。 処理方針4条a(iii)に定める「不正の目的で登録」とは、不正の目的すな わち不正な利益を得ようとする目的でドメイン名の登録を維持している状態を含 むと解されるところ、登録者による本件ドメイン名の登録は、真正商品と異なる 登録者商品の販売又は宣伝広告のために、需要者を誘導することを期待して本件 ドメイン名を使用するために、その登録を維持しているものと認められる。 したがって、登録者の本件ドメイン名は不正の目的で登録されていると認めら れる。 6.結論 以上に述べたところに基づき、本紛争パネルは、登録者によって登録された本 件ドメイン名が、申立人の本件商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、 本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者ドメイン名 が不正な目的で登録されているものと裁定する。 よって、処理方針4条i.の定めるところに従い、本件ドメイン名「MOTO RUP.CO.JP」の取消を命ずるものとし、主文のとおり裁定する。 2003年5月28日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 土肥 一史 別記(手続の経過) (1)申立受領日 2003年3月20日(電子メール) 2003年3月26日(郵送) (2)料金受領日 2003年3月14日申立手数料金180,000円 2003年3月14日消費税金9,000円 (3)ドメイン名及び登録者の確認日 2003年3月27日センターの照会日 (電子メール) 2003年3月27日JPRSの確認日 (電子メール) [確認内容] ① 申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者であること ② 登録担当者は堀内 洋市であること (4)申立不備通知書 2003年3月28日、申立書に不備があったので、申立不備通知書を作成 し、2003年3月28日に申立代理人に送付(電子メール、FAX、郵送)。 (5)補正申立書受領日 2003年4月2日(電子メール、郵送) (6)適式性 センターは、2003年4月3日、補正申立書が、JPNICのJPドメイン名紛争 処理方針、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則、JPドメイン名紛争 処理方針のための補則の形式要件を充足することを確認した。 (7)手続開始 手続開始日 2003年4月3日 手続開始日の通知 2003年4月3日 JPNIC、JPRSへ(電子メール) 申立人代理人へ(電子メール、FAX、郵送) (8)登録者・登録担当者への送付、内容及び送達 1)2003年4月3日、センターは、申立書一式及び申立通知書を登録者 及び登録担当者へ送付した(電子メール、郵送)。 2) センターは、答弁書提出期限が2003年5月2日であることを、申 立通知書に明記した。 3)2003年4月7日、登録者が申立書一式を受領 (9)答弁書の提出の有無及び提出日 1) 提出の有無 提出有り 2) 提出日 2003年5月2日、電子メールにて受領。 2003年5月6日 郵送にて受領 (10)答弁書一式の申立人代理人への送付日 2003年5月6日(電子メール及び郵送) (11)パネリストの選任 申立人は1名のパネリストによる審理・裁定を要求。 登録者において、3名パネルの審理・裁定を要求していないことから、セン ターは、2003年5月8日、次のとおり、パネリスト1名を指名し、パネ リストは、同日、これを受諾した。 パネリスト 土 肥 一 史 中立宣言書受領日2003年5月12日 (12)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日 1) 裁定予定日 2003年5月28日 2) 裁定予定日の通知 JPNICへ 2003年5月8日(電子メール) 両当事者へ 2003年5月8日(電子メール、FAX、郵送) (13)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2003年5月8日(電子メール、郵送) (14)パネリストによる審理 1)2003年5月13日 申立人代理人に陳述・書類の追加提出要請書を 送付(電子メール) 2)2003年5月15日 申立代理人からの回答文書受領(郵送) 3)2003年5月16日 登録者代理人に対し、追加文書を提出するか否 かの打診(電子メール) 4)2003年5月26日 登録者からの追加文書受領(郵送)