事件番号:JP2003-0008 裁 定 申立人: (名称)ギャップジャパン株式会社 (住所)東京都渋谷区宇田川町19番3号 代理人:弁護士・弁理士 矢 部 耕 三 弁護士 下 田 憲 雅 弁理士 岡 田 英 子 登録者: (名称)株式会社ギャップ (住所)岐阜県多治見市住吉町7丁目29番8号 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、J Pドメイン名紛争処理方針のための手続規則及びJPドメイン名紛争処理方針のた めの手続規則の補則並びに条理に則り、申立書及び提出された証拠に基づいて審 理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「GAP.CO.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「GAP.CO.JP」(以下、「本件ドメイン名」とい う。) である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人の主張 (1) 申立人の事業の概要 申立人は、1969年(昭和44年)にアメリカ合衆国カリフォルニア州にお いて設立されたGAP Incorporated(以下「GAP Inc.」という。)が、同社のカジ ュアルアパレル製品を日本において販売・管理する目的で平成6年12月に設立 した株式会社であり、GAP Inc.の「GAP」、「GAP Kids」、「baby GAP」及び「G APBPDY」などのブランドのアパレル製品等を、日本における第1号の直営店が平 成7年9月1日に設立されて以来、独占的に輸入し、販売している。 (2) 申立人が使用する商標権 申立人は、平成6年12月の設立当時にはGAP Inc.から、平成8年以降はGAP Inc.がGAP Inc.の商標権を管理する目的で設立したGAP Inc.の100パーセン ト子会社であるGAP (ITM) Incorporated(以下「GAP (ITM) Inc.」という。)か ら、「GAP」という標章についての25件の登録商標、及び「theGAP」、「GAP Kids」、「baby GAP」など「GAP」の標章が含まれる35件の登録商標(以下、 「本件各商標」という。)について通常使用権を許諾されている。 申立人は、平成15年8月2日現在、日本国内の68箇所159店舗において、 独占的に輸入・販売しているGAP Inc.の上記アパレル製品等約4300種類の製 品について、本件各商標を、標章又は営業表示として、その店舗の表示、製品タ グ、下げ札、紙袋、ギフトボックス、ロゴシール、ロゴテープなどに使用してい る。 (3) 本件ドメイン名 本件ドメイン名は、平成3年5月8日に設立された株式会社ギャップを登録者 として、平成10年10月2日、株式会社日本レジストリーサービスを通じて登 録され、平成15年10月21日現在においても登録されている。 (4) 申立人が使用する商標の著名性 申立人が使用する本件各商標は、平成10年10月2日はもちろんのこと、登 録者が設立された平成3年5月8日より前から、申立人の営業及び申立人が販売 するカジュアルアパレル製品等の商品を示す標章又は表示として一般取引者及 び需要者において著名であったことは、下記の事実より明らかである。 ① 昭和55年ころより、申立人の親会社であるGAP Inc.の名称は、繊維及び アパレル業界にとどまらず、流通及び小売業界一般において、創業以来急成長を 遂げている成長企業として、その経営戦略が注目され、それに伴いGAP Inc.の「G AP」という表示は、GAP Inc.の営業及びGAP Inc.が販売するカジュアルアパレル 製品を示すものとして、広く日本において新聞雑誌などに紹介された。 ② 遅くとも、平成4年1月ころには、複数の日本の小売店がGAP Inc.のカジ ュアルアパレル製品等をアメリカなどより日本国内に並行輸入し、GAP Inc.のカ ジュアルアパレル製品の品質及びデザインの良さが一般消費者の間に徐々に浸 透し、ファッション雑誌等に取り上げられた。 ③ 申立人は、平成7年9月1日、東京銀座数寄屋橋に「GAP」第1号店をオ ープンして以来、本件各商標の付された商品について、本格的な輸入・販売を開 始した。 ④ 申立人は、平成8年から現在にいたるまで、平成8年に2億7834万9 636円及び平成9年に5億4036万3097円、さらに平成10年には23 億8273万3940円という多額の広告宣伝費をかけて、雑誌新聞広告やテレ ビコマーシャル等本件各商標の付された商品の宣伝及び広告をしている。 ⑤ 申立人の売上は、これらの長年にわたる巨費を投じた広告宣伝活動及び営 業活動の結果、平成8年に51億5047万5227円及び平成9年に90億9 528万3587円の売上があり、さらに平成10年には売上が185億307 1万5917円と急増している。 ⑥ 申立人及びGAP Inc.のカジュアルアパレル製品は、ファッション雑誌など によりアメリカにおけるトップ・ファッションブランドとして何度となく紹介さ れている。 ⑦ 本件ドメイン名が登録された年である平成10年1月1日発行の「小学館 プログレッシブ英和中辞典」には、米国のカジュアルウェアの小売チェーン店を 意味する名詞として、「Gap」の語が収録されている。 (5) 本件ドメイン名と申立人の使用する本件各商標との同一又は類似 本件ドメイン名は、「GAP.CO.JP」であるところ、第1レベルの「JP」は、当 該ドメイン名が株式会社日本レジストリーサービスを通じて登録された社団法 人日本ネットワークインフォーメーションセンターが管理するものであること、 及び第2レベルの「CO」は、登録者が会社の属性を有するものであることを、そ れぞれ示すにすぎない。そうすると、本件ドメイン名のうち、第1レベル及び第 2レベルである「CO.JP」の部分は、商品や役務の出所を表示する機能はなく、 本件ドメイン名の要部は第3レベルの「GAP」の部分にあるというべきである。 したがって、本件各商標と同一又は類似であるかどうかの判断においては、本件 ドメイン名の要部である第3レベルの「GAP」の部分を本件各商標と対比すべき である。 本件ドメイン名の第3レベルの「GAP」は、申立人の使用する著名な本件各商 標と同一である。 本件ドメイン名における登録者のホームページ(以下「本件ホームページ」と いう。)において、「マルチ・ディレクターズ・マーケット by GAP Inc. スタ ッフ一同」と表示していることも併せて考慮すると、本件ドメイン名は、一般取 引者及び需要者のみならず、一般世人をして、申立人と登録者との間に緊密な取 引上又は組織上の関係があるものと誤認混同を生じさせるおそれが極めて高い。 (6) 登録者が本件ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有して いないこと 登録者が本件ドメイン名についての権利又は正当な利益を有していないこと は、次の事実から明らかである。 ① 登録者が、本件ドメイン名を登録した平成10年10月2日当時、著名なカ ジュアルアパレルブランドである本件各商標「GAP」、「GAP Kids」及び「baby GAP」を知らなかったとは考えられない。 ② 登録者の商号は「株式会社ギャップ」であるものの、本件ドメイン名におけ る登録者の本件ホームページにおいて、あえて申立人の親会社と同じ「GAP Inc.」 という表記を使用している。 ③ 登録者は、申立人とは資本的にも組織的にも何らの関係のない者である。申 立人は、登録者に対し、過去及び現在において、本件各商標について使用許諾を したことはない。 ④ 本件ドメイン名をブラウザにおいて入力しても、登録者の本件ホームページ は、いまだ製作中であり、ホームページ開設後、現在にいたるも実質的に何ら使 用されていない。 ⑤ 登録者が「GAP」という標章について、登録商標を取得している事実及び商 標登録を出願している事実は、平成15年10月21日現在、認められない。 ⑥ 登録者が、本件ドメイン名について、JPドメイン名紛争処理方針(以下「処 理方針」という。)第4条c.(i)から(iii)までに 掲げられているような登録 者がドメイン名に関する権利又は正当な利益を有していることを証明しうる事 実に該当するような活動等をしていることは、申立人が調査した限りでは認めら れない。 (7) 登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されていること ① 申立人が使用している本件各商標及び商品等表示は、日本を含め世界的に著 名な標章であり、登録者が本件ドメイン名を登録した平成10年10月2日当時、 申立人が使用している本件各商標等を知らなかったことはありえない。したがっ て、登録者は、正当な登録理由又は使用理由のないまま、本件各商標等を知りな がら本件ドメイン名を取得したものである。 また、登録者は、本件ドメイン名における登録者の本件ホームページにおいて、 遅くとも平成13年ころより、本件ホームページの閲覧者に対し、近い将来何ら かの活動をすることを示唆しながら、本件ホームページの管理運営主体として 「マルチ・ディレクターズ・マーケット by GAP Inc. スタッフ一同」と表記し ている。その表記中の「GAP Inc.」という表現は、登録者は、本件ホームページ 以外では用いていないし、登録者が株式会社日本レジストリーサービスを通じて 登録している自己の名称の英語表記「Incorporated Company GAP」とも異なり、 かつ、申立人の親会社の略称である「GAP Inc.」と同一である。したがって、本 件ホームページの閲覧者は、本件ホームページは、申立人の親会社であるGAP I nc.と組織的又は経済的な関係のある「マルチ・ディレクターズ・マーケット」 のスタッフにより運営されているものと誤認混同するおそれが非常に高い。 このようなことから、登録者は、申立人又はGAP Inc.との関係について誤認混同 を生じさせることを意図して、インターネットのユーザーを誘引するために本件 ドメイン名を登録し、かつ使用しているものであり、本件ドメイン名を不正の目 的で登録又は使用していることは明らかである。 ② 申立人は、本件仲裁の申立てにいたるまで、申立人代理人を通じて、登録 者及び登録者の代理人と本件ドメイン名の取扱いについて、交渉を重ねてきた。 しかし、登録者は、一旦自ら提示した金30万円で本件ドメイン名を譲渡する旨 合意したにもかかわらず、申立人からの実際の移転手続に関する問合せに何ら回 答しないばかりか、さらに、突然、譲渡価格を従来の呈示価格の2倍以上の67 万円に増額する旨を申し入れてきた。このような登録者の態度からすれば、登録 者が本件ドメイン名を申立人から不当に高額な譲渡対価を得ようという目的で 保有していることは明らかである。したがって、登録者は、本件ドメイン名に直 接必要とした金額を超える対価を申立人から取得するために、本件ドメイン名を 販売、貸与又は移転することを主たる目的として、不正の目的で本件ドメイン名 を登録し、かつ使用していることは明らかである。 以上、申立人は、本件ドメイン名は、申立人が使用する本件各商標と同一又は類 似であり、登録者は本件ドメイン名について正当な利益を有しておらず、そして 本件ドメイン名は不正の目的で登録され、かつ使用されている。よって、申立人 は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者の主張 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点及び事実認定 a 答弁書不提出の効果 本件において登録者は、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手 続規則」という。)第2条(a)(i)に基づいて適式に申立書の送付を受けた にもかかわらず、答弁書提出期限までに答弁書を提出していない(別紙手続の経 緯参照)。したがって、本件において争点は形成されていない。 答弁書が提出されない場合には、手続規則第5条(f)により、「例外的な事 情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする」とされている ところ、同規則第14条(b)には、「例外的な事情がある場合を除き、いずれ かの当事者が本規則の規定もしくは要件またはパネルの要請を履行しないとし ても、パネルは適切と思われる判断を下さなければならない」とされている。こ れらの規定より、パネルは、例外的な事情がない限り、登録者が答弁書を提出し ないという事実のみを理由として、申立人の申立てを認容することはできないし、 かつ、申立書に記載された事実を登録者が自白したものとみなして判断すること はできないものと解される。したがって、パネルは、例外的な事情がない限り、 処理方針及び手続規則の定める要件が充足されているかどうかの判断を、申立人 の提出した証拠と当事者の陳述に基づいて認定しなければならないというべき である。 本件において、例外的な事情は特に認められないので、申立人が主張するよう な処理方針第4条a.に定める3要件を充足する事実が、申立人が提出した証拠 により認められるかどうかを検討する。 b 処理方針第4条a.の3要件の充足 本件ドメイン名は、平成3年5月8日に設立された株式会社ギャップを登録者と して、平成10年10月2日、株式会社日本レジストリーサービスを通じて登録 され、平成15年10月21日現在においても登録されていることが認められる (甲3、甲25)。 ① 「登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その 他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること」(処理方針第4条 a.(i)) まず、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示を有しているかど うかについて検討する。 申立人の提出した証拠によれば、 ⅰ 申立人はGAP Inc.の我が国における唯一の海外子会社であって、平成6年1 2月21日設立されたこと(甲1、甲9) ⅱ 本件各商標のうち、「GAP」の欧文字を左横書きしてなる登録商標13件、 「GAP」の欧文字を含む欧文字を左横書きしてなる登録商標20件は、本件ドメ イン名の登録された平成10年10月2日以前に登録された商標であるここと (甲4の1~13、甲5の1~20) ⅲ 申立人は、上記平成6年12月21日設立時から、上記ⅱの登録商標の商標 権者であるGAP Inc.から通常使用権の許諾を受け(このうち、商標登録第258 4331号商標については平成7年5月29日通常使用権の設定登録がなされ ている。)、申立人において、これらの商標を付した製品の輸入及び販売してき たこと(甲4の1~13、甲5の1~20、甲9、甲26) ⅲ GAP Inc.は、本件各商標をGAP (ITM) Inc.に権利移転し、平成13年10月 1日それぞれ移転登録がなされ、申立人は引続きGAP (ITM) Inc.から本件各商標 の使用許諾を受け、本件各商標を付した製品の輸入及び販売してきたこと(甲9、 甲26) が認められる。 したがって、申立人は、我が国において、本件各商標権の使用を許諾され、同商 標の付された同社製品を販売する唯一のGAP Inc.の子会社であり、本件各商標は、 処理方針第4条a.(ⅰ)にいう「申立人が権利又は正当な利益を有する商標」 に該当するというべきである。 そこで、本件各商標と、登録者の本件ドメイン名「GAP.CO.JP」とが、同一ま たは混同を引き起こすほど類似しているかどうかについて検討する。 ここで、申立人の主張によれば、本件ドメイン名のうち、第1レベルの「JP」 は、当該ドメインが株式会社日本レジストリーサービスを通じて登録された、社 団法人日本ネットワークインフォーメーションセンターが管理するものである ことを示すにすぎず、かつ、第2レベルの「CO」は、登録者が会社の属性を有す るものであることを示すにすぎないとされる。そのような詳細については、証拠 上必ずしも明らかではないが、少なくとも、「JP」は「日本国」を示す略号であ り、「CO」は「会社」を示す略号であると認識するのが一般的である。そうする と、本件ドメイン名のうち、第1レベル及び第2レベルである「CO.JP」の部分 には、日本国内の会社に関するものという以上には商品や役務の出所を表示する 機能はないものといえる。したがって、本件ドメイン名の要部は第3レベルの「G AP」の部分にあるというべきである。 そうだとすると、本件ドメイン名「GAP.CO.JP」が、本件各商標と同一又は類似 であるかどうかの判断においては、本件ドメイン名の要部である第3レベルの「G AP」の部分と本件各商標とを対比すべきところ、本件各商標のうち、「GAP」の みからなる登録商標は本件ドメイン名の要部である「GAP」と同一であり、「GA P」を含む登録商標は本件ドメイン名と混同を引き起こすほど類似しているもの と認められる。 よって、本件ドメイン名は、処理方針第4条a.(ⅰ)の要件を満たすことが認 められる。 ② 「登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していな いこと」(処理方針第4条a.(ⅱ)) この点については、本件ドメイン名について、登録者が権利又は正当な利益を 有することを推定させる処理方針第4条c.(i)から(ⅲ)までに定める事実 のいずれかがあるかどうかを検討する。 (ⅰ)登録者が本件ドメイン名を平成10年10月2日に登録したことは認めら れるものの(甲3)、本件ドメイン名における登録者の本件ホームページは、平 成15年10月10日現在、アクセスこそ可能ではあるものの、実質的には使用 されていないことが認められる(甲12)。そして、本件ドメイン名が、平成1 0年10月2日に登録されてから、登録者のホームページとして実質的に使用さ れていた事実、又は明らかにその使用の準備をしていた事実についても、登録者 は全く主張していないし、これを認めるに足りる何らの証拠も存しない。したが って、処理方針第4条c.(i)に定めるような事実を認めることはできない。 (ⅱ)登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていたような事実につい ても、主張立証がされていない。したがって、処理方針第4条c.(ii)に定め るような事実を認めることはできない。 (ⅲ)本件ドメイン名が、非商業的利用のために使用され、又は公正に使用され ているような事実については、主張立証がされていない。かえって、登録者が株 式会社であること(甲3)、及び本件ホームページ(甲12)に「マルチ・ディ レクターズ・マーケット」という商業利用を示唆する表現があることなどから、 商業的利用のために登録されたことが推定される。したがって、処理方針第4条 c.(ⅲ)に定めるような事実を認めることはできない。 このように、本件ドメイン名について、処理方針第4条c.(i)から(ⅲ)ま でに定める事実は認められない。そして、登録者が、ドメイン名の登録について の権利又は正当な利益を有していることを認めることができる事情は、処理方針 第4条c.(i)から(ⅲ)までに定める事実に限られないものの(処理方針第 4条c.ただし書)、そのような他の事情についての主張立証は存しない。 よって、本件ドメイン名は、処理方針第4条a.(ii)の要件を満たすものと認 められる。 ③ 「登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」(処 理方針第4条a.(iii)) この点については、申立人の主張を踏まえて、本件ドメイン名について、処理方 針第4条b.(i)から(iv)までに定める事実のいずれかが認められるかどう かを検討する。 まず、登録者が本件ドメイン名を登録した時点が、平成10年10月2日であ るところ、申立人が証拠として提出した新聞及び雑誌の広告によれば、①申立人 が平成7年9月1日に銀座数寄屋橋に「GAP」の標章を用いた直営の第1号店を 開店した事実が、その前日付け発行の読売新聞東京版の全面広告(甲8の1)か ら明らかであること、並びに、②平成7年12月5日発行の雑誌「WEEKLY ぴあ」(甲8の2)、③平成8年11月5日発行の雑誌「NON・NO」(甲 8の3)、④平成9年5月1日発行の女性雑誌「Ray」女性雑誌(甲10の1)、 及び、⑤平成9年6月1日発行の男性雑誌「MEN’S CLUB」(甲10の 2)に、それぞれ「GAP」の標章を用いた広告が掲載されていることが認められ る。 また、申立人の財務部の従業員の陳述書(甲9)によれば、申立人は、平成8年 に2億7834万9636円及び平成9年に5億4036万3097円、さらに 平成10年には23億8273万3940円という多額の広告宣伝費をかけ、平 成8年に51億5047万5227円及び平成9年に90億9528万358 7円の売上があり、さらに平成10年には売上が185億3071万5917円 と急増していることが認められる。 これらの事実からは、本件各商標のうち、「GAP」の標章が、少なくとも首都圏 においては、遅くとも平成10年ころには周知性を十分に獲得していたものと認 められる。そして、首都圏において周知性を獲得していたという事実と、全国的 にみて首都圏に新聞雑誌その他のマスメディアが多く存在し、情報が集積してい るという公知の事実とを併せて考慮するならば、「GAP」の標章が首都圏以外の 地域においても、ある程度の周知性を獲得していたことが推認される。 そうすると、登録者が平成10年10月2日に本件ドメイン名を登録した時点 において、登録者は、「GAP」からなる標章及び「GAP」を要部とする標章を認識 して登録したものと認められる。 そして、たとえ登録者の本店所在地が岐阜県多治見市であるとしても、インター ネットのホームページが全国どこからでも閲覧することができる性質を有して いることをも考慮すると、当時首都圏において十分に周知性を獲得していた申立 人の営業表示「GAP」と実質的に同一性を有する本件ドメイン名を登録すれば、 一般取引者及び需要者のうちインターネットのユーザーをして、申立人との関係 について誤認混同を生じることも、登録者において十分に認識することができた ものと認められる。 したがって、登録者は、申立人の営業表示「GAP」と誤認混同を生じさせ、その 周知性を利用する意図で本件ドメイン名を登録したものと推認するのが相当で ある。 なお、本件ドメイン名について、登録者が自己の商号「ギャップ」の英文表記を そのまま本件ドメイン名として登録したにすぎず、そもそも不正の目的は有しな いとみる余地がないとはいえない。ところで、登録者が設立されたのは平成3年 5月8日であって、この設立の時点において、申立人はそもそも設立されていな いし、その当時「GAP」という標章が日本国内において周知であったことまで認 めることのできる証拠は十分とはいえない。 しかし、登録者が、その会社を設立した時点において不正の目的を有していない としても、本件ドメイン名を登録した平成10年10月2日ころには、「GAP」 及び「GAP」の欧文字を含む本件各商標は日本国内において周知性を有し、登録 者においてもこれを認識していたものと推認されること、及び平成10年ころは、 平成3年ころとは異なり、「Windows95」などが現れた後でもあり、公 知の事実として、インターネットが相当程度に普及し、他人の営業表示と同一又 は類似のドメイン名を用いれば、一般取引者及び需要者のうちインターネットユ ーザーにおいて誤認混同するおそれを容易に認識しえたと認められる時点であ ることから、登録者としては、単に「GAP」をドメイン名とするのではなく、申 立人の「GAP」の標章とは誤認混同しないような措置、例えば、登録者の会社の目 的を付加語として「GAP」に付したドメイン名を登録するなどの措置を講じるべ き信義則上の義務があるものと認められる。そのような信義則上の義務に加えて、 登録者が本件ドメイン名を事実上の使用をしていない事実をも踏まえると、たと え、登録者が平成3年5月8日の設立の時点において、その商号を「株式会社ギ ャップ」としたことについて不正の目的が認めらないとしても、その事実をもっ て、平成10年10月2日の時点において、本件ドメイン名を登録した際には、 誤認混同を生ぜしめることを意図していたとの認定を覆すには足りない。 よって、登録者は、何らかの商業上の利得を得る目的で、本件ドメイン名を、申 立人の営業表示「GAP」と誤認混同を生ぜしめ、インターネット上のユーザーを 誘引する意図において登録したものと認められ、処理方針第4条b.(iv)に該 当する事情が認められるから、その余の申立人の主張について検討するまでもな く登録者は本件ドメイン名を不正の目的で登録しているものと認められ、処理方 針第4条a.(ⅲ)に該当するというべきである。 ④ 以上より、処理方針第4条a.(i)から(iii)に定める3要件が充足さ れているものと認められる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「G AP.CO.CP」が申立人の営業表示「GAP」と混同を引き起こすほど類似し、登録者 が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン 名が不正の目的で登録され、かつ使用されているものと裁定する。 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「GAP.CO.CP」の登録を申立 人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。 2004年1月8日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 竹 田 稔 単独パネリスト 別記(手続の経緯) 申立書受領日 電子メール 2003年11月4日 書面 2003年11月5日 料金受領日 2003年11月4日 180000円 2003年11月6日 9000円 申立人はセンターに対して上記の日に規定料金189,000円を支払った。 ドメイン名及び登録者の確認日 センターの照会日(電子メール)2003年11月4日 JPRSの確認日(電子メール) 2003年11月4日 <確認内容> 申立書記載の登録者はドメイン名の登録者であること 登録担当者は校條芳行であること 適式性 センターは2003年11月6日、申立書がJPNICのJPドメイン名処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則、JPドメイン名紛争処理方針のための補則の形 式要件を充足することか否かを審査したところ、証拠の一覧と説明書が欠落して いたため、同日、申立人に対して、申立不備理由書を電子メールで通知した。 2003年11月10日、センターは申立人から上記書類を受領、同日、上記諸規定の形 式要件を充足したことを確認した。 (5)手続開始日 2003年11月10日 手続開始日の通知 2003年11月10日 JPNIC、JPRSへ(電子メール) 申立人代理人へ(電子メール、FAX、郵送) (6)登録者・登録担当者への送付、内容及び送達 1) 2002年11月10日、センターは申立書及びび申立通知書を登録者及び登録担当 者へ電子メール、FAX、郵送(配達証明付き)で送付した。 なお、登録者に対する郵送先は商業登記簿謄本上の本店所在地「岐阜県多治見 市住吉町7丁目29番8号」である。 また、証拠並びに証拠の一覧及び説明については郵送のみ。 2) センターは答弁書提出期限が2003年12月9日であることを通知した。 3) 2003年11月12日、登録者が上記書類一式を受領。 なお、電子メール、FAXによる送達は出来なかったが、郵送による送達は 配達証明により確認した。 (7)答弁書の提出 無し (8)答弁書不提出通知書の申立人代理人、登録者への送付 送付日 2003年12月10日 申立人代理人には電子メール、FAX、郵送で送付し、電子メール、FAXについては 同日、送達され、郵送については2003年12月11日に送達されたことを配達証明に より確認した。 登録者には郵送で送付し、2003年12月15日に送達されたことを配達証明により確 認した。 (9)パネリストの選任 申立人は1名による審理・裁定を要求。 登録者が答弁書を提出しなかったことから、センターは2003年12月11日、次 の通りパネリスト1名を指名し、パネリストは同日、これを受諾した。 パネリスト 竹田稔 中立宣言受領日 2003年12月15日 (10)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知 ① 裁定予定日 2004年1月8日 ② 両当事者、JPNIC、JPRSへの通知 2003年12月11日 なお、両当事者の送付、送達については(8)と同じ。JPNIC、JPRSへは電子メー ルのみ。 (11)パネリストへの指名書、一件書類の送付 送付日 2003年12月11日(電子メール、郵送) (12)パネリストより申立人へ追加書類の提出依頼 申立書中の記載を証明する証拠書類の追加提出と、相手方商業登記簿謄本の提出 が12月22日に事務局を通じてパネリストから申立人に求められた。 申立人は25日にFAX、26日に郵送によって書類を提出した。 提出された書類は登録者に配達記録郵便にて、パネリストにFAX,バイク便にて、 それぞれ送付された。パネリストは同日に、また登録者は12月27日に書類を受領 した。