事件番号JP2005-0011 裁 定 申立人: (名称) リモワ コツファーファブリーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテ ル ハフツング (住所) ドイツ連邦共和国 ケルン 30 マテイアス ブリュッゲン ストラーセ 118 (代理人) 弁護士 加藤 義明 弁理士 アインゼル・フェリックス=ラインハルト 登録者: (名称) 有限会社プント 栃木支店 (住所) 栃木県下都賀郡大平町富田281-16 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方 針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を 遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「my-rimowa.jp」の登録を申立人に移転せよ 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「my-rimowa.jp」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、申立人の所有する商標「RIMOWA」「リモワ」が申立人の業務に係るスー ツケースを表示するものとして遅くとも本件ドメイン名の登録日である2004年6月2 8日には,我が国において需要者及び取引者の間で周知となっていたとした上で、本件ド メイン名は申立人の商標と混同をひきおこすほどに類似し、登録者は本件ドメイン名の登 録についての権利又は正当な利益を有しておらず、かつ登録者のドメイン名が不正の目的 で登録されていると主張し、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果 に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に 従って、裁定を下さなければならない。」 他方、規則5条(f)は、登録者が答弁書を提出しない場合の扱いについてパネルに次 のように指示する。「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない限り、 パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること (1)同一又混同を引き起こすほどの類似性 (ア)申立人及び申立人の所有する商標 申立人は,ドイツのスーツケースの製造業者である。 申立人は,日本において「RIMOWA」の文字及びこの文字を囲む楕円からなる商標 を第21類(昭和34年法)「かばん類,その他本類に属する商品」を指定商品として,1 984年7月6日に出願し,1986年10月28日に登録を得ており(以下本件第1商 標という。甲第1号証の1、甲第2号証の1)、又、「リモワ」の仮名文字で、第21類(昭 和34年法)「かばん類,その他本類に属する商品」を指定商品として,1984年7月1 9日に出願し,1987年2月25日に登録を得ている(以下本件第2商標という。甲第 1号証の2、甲第2号証の2。なお以上の両商標を総称して以下「本件各商標」という。)。 申立人の商品は本件ドメイン名の登録前に発行された「世界の一流品大図鑑」(1989年、 1990年、1991年、株式会社講談社発行)や「男の一流品大図鑑」(1991年 株式会社講談 社発行)にも取り上げられており(甲第4号証の1乃至4)、本件各商標は申立人の業務に 係るスーツケースを表示するものとして、遅くとも本件ドメイン名の登録日である200 4年6月28日には,我が国において取引者及び需要者の間で周知となっていたと推認で き、これを否定すべき積極的な事情は見いだせない。 (イ)本件ドメイン名と申立人の登録商標「RIMOWA」等との類似性 本件ドメイン名は「my-rimowa.jp」であって,2004年6月28日に登録され,現在 も有効に存続しているものである(甲第6号証)。 本件ドメイン名のうち,「.jp」の部分は国別コードを表す部分に過ぎないことから,識 別機能を果たす部分は,「my-rimowa」の部分にあることは明らかである。 そこで「my-rimowa」の文字部分を観察すると、「my」と「rimowa」の間にハイフン(-) があること、「rimowa」の文字部分は申立人がスーツケースに使用する商標として周 知であると認められる本件第1商標と実質的に同一であることから、「rimowa」の部分が独 立して認識されるというべきである。 また、上記独立して認識される「rimowa」の文字部分から生ずる称呼は「リモワ」であ り、本件第2商標の称呼と同一である。 そうすると、本件ドメイン名中「my-rimowa」の文字部分は,これが商品「スーツケース」 との関係で使用された場合、取引者及び需要者を,登録者があたかも申立人の正規輸入代 理店である等,何らかの資本関係や取引関係があるなど経済的な又は組織的な関連がある ものと誤認混同させるおそれがあると認められる。 よって、本件ドメイン名は申立人の本件第1商標「RIMOWA」及び本件第2商標「リモワ」 と混同をひきおこすほどに類似するものと認める。 (2)権利又は正当な利益 本件ドメイン名の登録者は,印刷業や携帯ストラップ・ハンドバッグ・ペット用リード のパーツ及び金具の販売を行う他(甲第7号証),ウェブサイト「www.punto.co.jp/rimowa」 を通じて、本件申立人の商品「RIMOWA」の通信販売を行っている(甲第8号証)。 然し、登録者は申立人の商品「RIMOWA」スーツケースを単に輸入し販売している に過ぎず、商標「RIMOWA」を自分の商品の商標として使用しているのではない。 また、申立人が登録者に対して、商標「RIMOWA」の使用を許諾した事実を認める 証拠はない。 更に、登録者の会社名は有限会社プントであり、ドメイン名「my-rimowa.jp」とは何の 関連性も有していない。そして。本件各商標が商品「スーツケース」との関係において周 知であり、かつ本件ドメイン名が本件各商標に類似することを参酌すると、登録者がドメ イン名について権利または正当の利益を有しているとは認められず、これに反する事情は 見いだせない。 したがって,登録者は,本件ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有して いるとは認められない。 (3)不正の目的での登録及び使用 ①不正目的に登録 本件ドメイン名は、「my-rimowa.jp」である。本件ドメイン名の登録者は、前述したよう に本件各商標について、何らの使用権限が無いにも拘らず、「私のリモア」なる観念を有す る「my-rimowa」なるドメインを登録し、申立人所有の周知の商標である「RIMOWA」と の関連づけを意図している。 本来ドメイン名は登録者の名称やその有する商標等,登録者と結びつく何らかの意味の ある文字列である必要は無いが、登録者の名称,社名,その有する商標等をドメイン名と して登録することが通常行われており、ドメイン名として登録者の名称等を示していない 文字列を登録する場合は一定の事情が存在することが通例である。登録者は、 「www.punto.co.jp」を有しているにも拘らず、敢えて申立人の商標に類似する 「my-rimowa.jp」を登録した意図は、かかる本件ドメインを登録する事により、何人かが 申立人のサイトにアクセスしようとして「RIMOWA」と入力して検索したときに、 「rimowa」の文字列を含む本件ドメイン名「my-rimowa.jp」に接した者が、これを申立人 の正規のサイトと誤認してアクセスする場合を想定したものと認められる。 よって、本件ドメイン名は不正の目的をもって登録されたものと認められる。 ②不正の目的による使用 本件ドメイン名は,現在は使用されていないものであるが,申立人の警告により本件ド メイン名の使用を中止した後においてもその登録抹消を拒否したものと認められる(甲第 10,11号証)。 使用を中止する前の登録者のサイトにおいて、本件第1商標の下方に「THE LUGGAGE WITH THE GROOVES」の文字を表示した標章が大きく表示されている。この表示は申立人商品の正 規輸入代理店が使用する表示(甲第3号証)と同一である。 ところで、輸入品を販売する者が当該商品の「商標」を販売のために表示することは許 容されるとしても、その正当性は当該商品を特定するための必要性の限度に求められると 考えられ、販売主体を混同させるような行為までが許容されるものではない。しこうして、 この表示により需要者は登録者のサイトに広告されている商品は申立人の直販品であると 印象付けようと意図していることが窺われ、この表示を本件ドメイン名と共に使用するこ とにより、登録者のサイトを申立人のサイトと見せかけて、需要者を誤認混同させようと する意図を見ることが出来る。 よって、本件ドメイン名は、不正の目的のために使用されていたと認められる。 以上の①及び②の事実より、登録者が本件ドメイン名を、スーツケースを販売するサイ トにおいて使用し、かかる目的で登録する行為は、申立人らが使用する本件商標のもつ周 知性及び高い顧客吸引力を利用して需要者を自己のサイトに誘導し、登録者が自己のサイ トで販売する商品があたかも申立人の直販商品であるかのごとく需要者を誤認させて顧客 を獲得し、売上を増大することを意図したものというべきものである。 よって、本件ドメイン名は不正の目的で登録・使用されたものと認める。 なお、登録者は本件ドメイン名の使用を中止した後においても、申立人の要求を受け入 れずにその移転を拒んでいることを考慮すると、今後その使用を再開する可能性があるも のとも認められる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「my-rimowa.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名 について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録さ れ、使用されていたものと認定する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「my-rimowa.jp」の登録を申立人に移転す るものとし、主文のとおり裁定する。 2005年12月19日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 主任パネリスト 峯 唯 夫 パネリスト 渡 邊 敏 パネリスト 木 村 三 朗 別記 (手続の経過) (1)申立受領日 2005年10月4日(電子メール) 2005年10月6日(郵送) (2)料金受領日 2005年10月4日 申立手数料378,000円の入金を確認。 (3)ドメイン名及び登録者の確認日 2005年10月4日 センターからの照会日(電子メール) 2005年10月5日 JPRSからの確認日(電子メール) 確認内容 申立書記載の登録者は本件ドメイン名の登録者である。 (4)適式性 2005年10月12日、方式審査の上、日本知的財産仲裁センターは、申立書 が社団法人日本ネットワークインフォーメーションセンター(JPNIC)の JPドメイン名紛争処理方針(方針)、JPドメイン名紛争処理方針のための手 続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方針のための補則(補則)の形式要件 を充足することを確認した。 (5)手続開始日 2005年10月12日(答弁書提出期限:2005年11月10日) 手続開始日の通知 2005年10月12日 JPNIC、JPRS(電子メール) 申立人代理人(電子メール、FAX及び配達証明郵便) (6)答弁書の提出の有無 提出なし (7) パネリストの選任 申立人は3名構成のパネルを要求 主任パネリスト候補者の両当事者への提示 2005年11月15日(電子メール、FAX、配達証明郵便) 回答期限 2005年11月22日 主任パネリスト候補者に対する選考順位回答書の提出 申立人 2005年11月16日(電子メール、普通郵便) 登録者 なし (8)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知(JPNIC、JPRS及び両当事者へ) 2005年11月29日(配達証明郵便、FAX、電子メール) 峯 唯夫(主任パネリスト)、渡辺 敏、木村三朗 裁定予定日 2005年12月19日 (9)パネルによる審理 適宜に、電子メール及びFAX・電話等の手段を利用