事件番号:JP2006-0008

                                 裁  定

申立人:
    (名称)サイバーリンク株式会社
    (住所)東京都品川区北品川5-6-27ファーニスビル5F
    代理人:弁護士  飯島澄雄
            弁護士  飯島純子
            弁護士  澤田繁夫
登録者:
    (名称)有限会社サイバーリンクインターナショナル
    (住所)東京都港区南青山7-1-12南青山高樹町ハイツ1002

  日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方
針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を
遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1  裁定主文
    ドメイン名「CYBERLINK.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2  ドメイン名
    紛争に係るドメイン名は「CYBERLINK.JP」である。
3  手続の経緯
    別記のとおりである。

4  当事者の主張
  a  申立人
    (1)  申立人は「CYBERLINK」(読み方「サイバーリンク」)という表示の使用につい
  て権利または正当な利益を有する。
    申立人は、平成7年に台湾において設立されたCyberlink Corp.の日本法人であり、主と
  してDVD, MPEG, デジタル放送、ストリーミング配信関連ソフトウェアの研究開発、販売
  を行っている会社である。
    Cyberlink Corp. は台湾法人(親会社)のほかに、アメリカ法人(Cyberlink  USA)、
  ヨーロッパ法人(Cyberlink Europe B.V.)、日本法人(Cyberlink Japan)があり、またイ
  ギリス、スペイン、オーストラリア、韓国、中国、香港、インドに販売代理店を有してい
  る。また、アメリカのフォーブス誌の「世界の最優秀中小企業200」にも選ばれている。
    日本に対しては、平成7年からソフトウェア類の輸出を行っており、平成10年には日
  本法人サイバーリンク株式会社が設立された。平成17年3月にはソフトウェアOEM 製
  品販売、技術供給事業とパッケージソフトウェア販売事業との分業のため、新たにサイバ
  ーリンク株式会社(以下「申立人」という。)とサイバーリンクトランスデジタル株式会社
  が設立され、設立登記がされ、商号を有している。
    申立人は様々なソフトウェアを取り扱っているが、主となっているのがDVD再生ソフ
  トウェア「Power DVD」の開発・販売であり、日本及び世界のパソコンやハードディスク
  ムービーに標準搭載されている。具体的には、富士通のノートブックパソコンやビクター
  の製品、日立の製品などに標準搭載されており、海外ではデルのパソコンに搭載されてお
  り、認知度は高い製品である。DVD再生ソフトウェアのシェアはインタービデオ社(米
  国)とサイバーリンク社でほとんどのシェアを占めている状態である。
  日本においても、売上高は67,000万円(平成16年度)にもなり、インターネットの大
  手検索サイト「グーグル」において「サイバーリンク」「cyberlink」で調べると申立人会社
  の案内及び申立人の扱っているソフトウェアの紹介がトップにでる。
    インターネット上でも申立人はホームページを作成しており(英語版は
  www.cyberlink.com、日本語版はwww.jp.cyberlink.com)そこにおいてソフトウェアの販
  売を行うとともに、ユーザーに対するサポートを行っている。
    以上から、申立人は「CYBERLINK」(サイバーリンク)という表示の使用について権利
  または正当な利益を有するといえる。

    (2)  本件ドメイン名と申立人の表示との同一又は混同を引き起こすほどの類似性
      本件ドメイン名「CYBERLINK.JP」のうち、「.JP 」は国別コードにより日本を意味
  する部分にすぎず、多くのドメイン名に共通する要素であるから、登録者のドメイン名に
  おいて主たる識別力を有するのは「CYBERLINK」(サイバーリンク)の部分といえる。従
  って、本件ドメイン名と申立人の表示とは、サイバーリンクという称呼を共通するもので
  あり、本件ドメイン名は申立人の表示と全体として類似するものである。

    (3)  登録者が、本件ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していない
  こと。
    登録者は申立人とは、資本的にも組織的にも何ら関係はなく、また一切の取引関係はな
  い。
    登録者について、会社法人として登記されておらず、実態のない会社である。さらに、
  登録者の住所地において「サイバーリンクインターナショナル」の表札もなく、会社を経
  営している状況はなかった。また、登録者の電話番号には、使われているような状況はな
  かった。したがって、登録者は現実にドメイン名を利用した事業も行っていない。さらに、
  本件ドメイン名を入力しても、そのドメイン名を持つコンピューターにアクセスすること
  はできず、登録者は本件ドメイン名を登録後Web上で使用していない。
    以上から、登録者が「CYBERLINK」という名称を使用する必然性・正当性はない。

    (4)  本件ドメイン名の不正の目的による登録・使用
      登録者は新サイバーリンク社が設立された直後の2005年6月に登録されており、
  それ以後何ら事業やWeb上で使っている様子はない。したがって、登録者が申立人が商号
  を用いた名称をドメイン名として使用できないように妨害するため、「CYBERLINK」を用
  いたドメイン名を登録・保有する行為を行っていると認められ、本件ドメイン名が不正の
  目的で登録・使用されていると評価すべきである。現実に申立人は「CYBERLINK」とい
  う会社名を表すわかりやすいドメイン名を使用できず、「jp.cyberlink」というドメイン名を
  使用せざるを得ない状況がある。
    なお、不使用の事案であっても、先例では不正の目的を認めていることからも、本件に
  おいても不正の目的があると考える。
    b  登録者
     登録者によって答弁書は提出されなかった。

5  争点および事実認定
  JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定す
る際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、
提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる
関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
  JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)第4条aは、申立人が次の事項
の各々を証明しなければならないことを指図している。
  (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
  (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
  登録者によって答弁書は提出されなかったが、申立人から提出された陳述及び証拠の結
果に基づき、次のとおりの事実を認定した。

  (1)  本件ドメイン名と申立人の表示との類似性
    本件ドメイン名「CYBERLINK.JP」のうち、「.JP 」は国別コードにより日本を意味
する部分にすぎず、多くのドメイン名に共通する要素であるから、登録者のドメイン名に
おいて主たる識別力を有するのは「CYBERLINK」の部分といえる。そして、申立人の表
示は「CyberLink」であり、これと本件ドメイン名とは、サイバーリンクという称呼を共通
するものであり、要部において一致している。よって、本件ドメイン名が申立人の表示と、
混同を引き起こすほど類似していると認めることができる。尚、申立人の表示と本件ドメ
イン名との相違点は、単に、小文字と大文字の表記の一部に相違があるに過ぎないのであ
って、このことは混同を引き起こすほどの類似性があると認めることの妨げにはならない。

  (2)  申立人と、申立人の表示
    a.申立人
      申立人は、平成17年3月9日に設立登記をし、その商号は、申立人の表示の読み
  方であるサイバーリンクに株式会社を付したサイバーリンク株式会社である(甲第4号証
  乃至甲第6号証)。そして、申立人は、主としてDVD、 MPEG、 デジタル放送、ストリ
  ーミング配信関連ソフトウェアの研究開発、販売を行っている会社である(甲第4号証)。
  尚、申立人は、台湾において設立されたCyberLink Corp.の日本法人である(甲第1号証
  の1、2)。ところで、平成10年に日本法人サイバーリンク株式会社が設立された(甲第
  3号証)が、後に、新たにサイバーリンクトランスデジタル株式会社と、申立人とが設立
  された(甲第4号証乃至甲第6号証)。
      b.申立人の表示
        申立人の親会社である台湾法人CyberLink Corp. は  台湾法人(親会社)のほかに、
  アメリカ法人(CyberLink USA)、ヨーロッパ法人(CyberLink Europe B.V.)、日本法人
  (CyberLink Japan)があり、またイギリス、スペイン、オーストラリア、韓国、中国、
  香港、インドに販売代理店を有している(甲第1号証の1、2)。また、アメリカのフォー
  ブス誌の「世界の最優秀中小企業200」に入賞した旨、平成18年11月1日に発表さ
  れた(甲第2号証)。
    申立人は様々なソフトウェアを取り扱っているが、主となっているのがDVD再生ソフ
  トウェア「Power DVD」の開発・販売であり、日本及び世界のパソコンやハードディスク
  ムービーに標準搭載されている。具体的には、富士通、日立、ビクターの製品などに搭載
  されており(甲第1号証の1、2と甲第5号証)、認知度は高い製品である。
    日本においても、売上高は約65,000万円(平成18年度)にもなり(甲第5号証)、
  インターネットの大手検索サイト「グーグル」において「サイバーリンク」「cyberlink」で
  調べると申立人会社の案内及び申立人の扱っているソフトウェアの紹介がトップにでる
  (甲第7号証)。
    インターネット上でも申立人はホームページを作成しており(英語版は
  www.cyberlink.com、日本語版はwww.jp.cyberlink.com)そこにおいてソフトウェアの販
  売を行うとともに、ユーザーに対するサポートを行っている(甲第1号証の1、甲第8号
  証)。
  (3)  申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示であるか
     前項における認定事実から、申立人は「CyberLink」表示を、申立人ないしは申立人が
  属する企業グループを示すところの営業主体表示として使用して営業活動が行ってきたの
  であり、申立人の表示「CyberLink」は、処理方針第4条a(ⅰ)に規定するところの「申
  立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示」に該当すると認める。

  (4)  登録についての権利又は正当な利益
      登録者は、会社法人として登記されておらず、実態のない会社である(甲第9号証)。
  そして、登録者の住所地において「サイバーリンクインターナショナル」の表札もなく、
  登録者が会社を経営している状況はなく(甲第10号証)、また、登録者の電話番号は、使
  われておらず(甲第11号証)、従って、登録者は現実に本件ドメイン名を使用して事業を
  行っていない、と言わざるを得ない。さらに、登録者は本件ドメイン名を登録後Web上で
  使用していない、との事実が認められる。
    なお、登録者は申立人とは、資本的にも組織的にも何ら関係はなく、また一切の取引関
  係はない。その上、登録者は、本件について答弁をせず、本件ドメイン名の登録について
  の権利または正当な利益について、何らの主張も立証もしていない。
    よって、登録者は、処理方針第4条a(ⅱ)に規定するところの本件ドメイン名の登録
  についての権利または正当な利益を有していないものである。

  (5)  不正の目的での登録・使用
      前項において認定のとおり、登録者は本件ドメイン名を登録後Web上で使用していな
  いし、登録者は現実にドメイン名を利用した事業も行っていないとの事実が認められる。
    しかしながら、登録者における不正の目的については、現在の使用がないときでも、登
  録が不正の目的でなされたと評価し得るなら、処理方針第4条a(ⅲ)に規定の要件を充
  足するのである。即ち、右(ⅲ)項には、「不正の目的で登録または使用されていること」
  と規定されているからである。
    尚、申立人主張のとおり、不使用の事案であっても不正の目的を認めた先例がある(甲
  第12号証の1  JP2001-0002事件)。更に、不使用の事案であっても不正の目
  的を認め得ることはWIPOの裁定における一致した見解である(WIPO Overview of
  WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions 3.2、 UDRPについての選定された疑
  問点に関するWIPO裁定見解のWIPOによる概観3.2。以下、WIPOの概観という。
  及び、甲第12号証の2と3の各裁定例。)
    そこで、本件ドメイン名の登録が不正の目的でなされたかどうかを以下検討する。
    先ず、処理方針第4条b(ⅰ)乃至(ⅳ)には、登録または使用が不正の目的である認
  められる事情が列挙されているところ、本件登録者の登録の事情は、そのいずれにもあた
  るものとはいえない。しかしながら、処理方針第4条b(ⅰ)乃至(ⅳ)は、例示列挙で
  あることは規定上から明らかであり、従って、本件において、本件登録者の登録は不正の
  目的の目的によるものかは、本件登録者の事情、状況等を総合して判断しなければならな
  い。ところで、WIPOの概観でも、以下の旨述べ、関連裁定例として、Telstra Corporation
  Limited v.Nuclear Marshmallows D2000―0003、Jupiters Limited v Aaron Hall D2000
  ―0574そして、Ladbroke Group Pic v.Sonoma International LDC D2002-0131他を挙げ
  ている。すなわち、WIPOの概観は「ドメイン名の現実の使用が無いということは、害
  意を認定することを妨げるものではない。登録者が害意で行動しているかどうかについて
  決定するために、パネルは事件のあらゆる状況を検討しなければならない。害意があると
  される状況の例としては、申立人がよく知られた商標を有していること、申立に対して応
  答の無いこと、身許を明らかにされることから逃れること、そして、ドメイン名の善意の
  使用ということを考えることが不可能であることが含まれる。パネルは、登録をめぐる状
  況においてドメイン名が害意により使用されたかどうかについて推認できる。」旨、述べて
  いる。
    本件についてこれをみるに、先ず、本件ドメイン名の登録は、従前のサイバーリンク株
  式会社の営業を、ソフトウェアOEM 製品販売、技術供給事業とパッケージソフトウェア
  販売事業との分業のため、新たにサイバーリンクトランスデジタル株式会社と、申立人と
  が設立され営業を開始する旨平成17年4月1日付けでニュースリリースした後に登録さ
  れたものであることがあげられる。即ち、このことが新会社設立のご案内と題してインタ
  ーネットにより発表された二ヶ月後である平成17年6月3日に、本件ドメイン名の登録
  をしたものであることが認められる(甲第3号証乃至甲第6号証)。更に、本件登録者は本
  件ドメイン名を登録後Web上で使用していないし、登録者は現実にドメイン名を利用した
  事業も行っていないことは、既に認定したとおりである。また、本件申立に対し登録者は
  何らの応答をしていない。そして、CyberLinkは、営業主体表示として、申立人ないしは
  申立人が属する企業グループを示すものとして、申立人は、これを使用して営業活動が行
  ってきたのであって、少なくとも、申立人が属する企業グループを示すものであることは、
  広く知られていたと認めることができること等の事情を勘案すると、本件登録者の登録は
  不正の目的によるものである。

6.結論
    以上に照らして、本紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「CYBERLINK.JP」は、申立人が権利又は正当な権利を有するところの申立人の表示と混
同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有して
おらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録されているものと裁定する。
    よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「CYBERLINK.JP」の登録を申立人
に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

           2007年1月25日

                                日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                                              芹  田  幸  子
                                              単独パネリスト


別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2006年11月20日
(2)料金受領日
      2006年11月21日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2006年11月21日  JPRSへ照会
      2006年11月21日  JPRSから登録情報の確認
      確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
        日本知的財産仲裁センターは、2006年11月22日に申立書が処理方針と規
      則に照らし適合しているかを確認したところ、不備が発見されたため申立人に通知。
      2006年11月24日に申立人より当該不備を補正した差し替え書面の提出あり。
(5)手続開始日  2006年11月24日
      手続開始日の通知  2006年11月24日
      申立人へ通知(電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)
(6)登録者への通知日及び内容
      1)2006年11月24日(電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)
        JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則第2条(a)の規定により送付擬制。
      2)申立書及び証拠等一式
      3)答弁書提出期限  2006年12月22日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      提出なし
(8)パネリストの選任  2007年1月4日
      申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2007年1月9日
      パネリスト:芹田  幸子
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2007年1月4日  JPNIC及びJPRSへ通知(電子メール)
                          申立人及び登録者へ通知
                         (電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)
      裁定予定日:2007年1月25日
(10)パネリストによる審理経過
      2007年1月11日  申立人へ陳述・書類の追加提出要請書を送付
                            (電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)
      2007年1月15日  申立人より「説明書」を受領
      2007年1月16日  申立人へ陳述書類の追加提出要請書を送付
                            (電子メール・ファクシミリ及び配達証明郵便)
      2007年1月18日  申立人より「訂正申立書」を受領