事件番号:JP2007-0004 裁 定 申立人: (名称)株式会社毎日新聞社 (住所)東京都千代田区一ツ橋1-1-1 代理人:弁護士 森 亮二、同 安藤 広人 登録者: (名称)株式会社東京優勝 (JPドメイン名登録情報上の名称)日本語JPドメイン管理 (住所)東京都渋谷区代々木1-38-5 KDX代々木ビル5階 (JPドメイン名登録情報上の住所)東京都渋谷区千駄ヶ谷5-32-5 206 代理人:弁護士 富田 寛之 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理 方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「毎日.JP」の登録を申立人に移転せよ 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「毎日.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の特定 申立人は冒頭記載のとおりの法人であって、1872年(明治5年)2月21日創刊の新 聞社であることが、甲第2号証の会社の概要によって認められる。 一方、登録者は、冒頭記載のとおりの法人であり、芸能プロダクション事業を中心に、 音楽や舞台、映像製作等の業務を行っている。登録者の名称及び住所とJPドメイン名登録 情報上の名称及び住所とは異なるが、陳述・書類の追加提出書類において、登録者及びそ の公開連絡窓口である株式会社ヒューメイアレジストリの陳述により、登録者が本件ドメ イン名の登録者であって、本件手続の当事者として、その同一性は認められる。 5 当事者の主張 a 申立人 (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と 同一または混同を引き起こすほど類似していること 申立人は、「毎日」との名称を商標登録している(登録第3222549号 疎甲1)。 また、申立人は、明治21年に「大阪毎日新聞」と社名を変えて以降、100年以上の長 きにわたって「毎日」の名を使用して新聞を発行しており(疎甲2)、申立人の略称として 「毎日」の名が使われていることは、全国的に著名かつ周知のものである。 一方で、本件申立時に登録者は「毎日.JP」のドメインを登録している(疎甲3)。そ して、登録者の本件ドメイン「毎日.JP」のうち、国別の識別記号である「.JP」を除く「毎 日」の部分は、申立人の商標と同一である。 (2) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと 登録者との接触は、ドメイン名管理業者の株式会社ヒューメイアレジストリを通じて 行っているが、相手方の名前が「田中」、接続先のメールアドレスが「domain trade@yahoo.co.jp」というだけで、その他の情報は一切得ることはできなかった。 しかし、現時点では「毎日.JP」のドメイン名は使用されていないこと(疎甲4)、登録 者が「毎日」の商標を保有しているという事情は伺われないこと、登録者の公開連絡窓口は ドメイン名管理業者であること、公開連絡窓口を通じて交渉を行った窓口は法人ではなく 個人であること、交渉相手のメールアドレスが「domain trade」というものでありドメイン 名の転売を予定しているものであることなどを総合して判断すると、登録者はサイバース クワッターであり本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しているとはいえないことは 明らかである。 (3) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること 申立人担当者は、ドメイン名登録業者の株式会社ヒューメイアレジストリを通じて、 登録者と接触し、登録者に対してドメイン名を譲渡してほしいとの要望をおこなった。す ると、登録者は「毎日.JP」のドメインについては、これまで何名かから譲ってほしいとの要 望を受けたことを明らかにした上で、譲渡代金の希望価格を出すように要望した(疎甲5の 1)。そこで、申立人担当者が幾ら程度であれば、譲っていただけるのかと打診したところ、 最低でも1000万円であるとの回答であった(疎甲5の2)。 一方で、前記(2)で主張したとおり、登録者は「who is」の公開情報に一切情報を出さ ず、しかも、登録者の使用しているメールアドレスは「domain trade@yahoo.co.jp」であり、 ドメインの売買を目的として取得されたフリーメールであることが容易に推認できる。 したがって、本件ドメインの登録は「JPドメイン名紛争処理方針」第4条b(i)の「登 録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面 で確認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移転す ることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき」に該当する ことは明らかであり、不正の目的で登録されていることは明らかである。 一方で、登録者は本件申立の時点で「毎日.JP」を使用しているとは認められず、また 世間一般に「毎日.JP」のドメイン名が登録者の名称で認識されているとは認められない。 b 登録者 (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と 同一または混同を引き起こすほど類似していること、の反論 同一又は混同を引き起こすほどの類似性を判断するにあたっては、当該名称が営業表 示としての識別力を有している必要がある。このことは、商品又は営業の普通名称を普通 に用いられる方法で使用する行為を不正競争防止法2条1項1号に掲げる不正競争の適用 除外とする同法第19条1項1号の趣旨からも導かれるものである。 そして、一般名称は、ここでいう識別力を有さないと言える。「毎日」は、日本語とし て現在においてもだれしもが使うことが出来る一般的用語であり、この言葉の使用を申立 人が独占する権利は全く認められないと言うべきであろう。特に、「毎日」という言葉は、 毎日○○するなどの文章の中で必ず使われる言葉であり、他に代替するような言葉は見あ たらないのであるし、毎日継続して使う必要のある商品や毎日自由に使えるサービスなど の商品やサービスの特徴を示す言葉として使わざるを得ない言葉である。 判例上も、「成城」の名称についてドラッグチェーン「セイジョー」が「成城調剤薬局」 を訴えた事例において、「営業の普通名称に店舗等の所在地の地名を付した営業表示は、本 来的に特定人の独占になじまないものであって、特段の事情がない限り、その使用は自由 であると結うべきである。」と判示し、ドラッグチェーン「セイジョー」の主張を退けてい る(東京地裁平成16年3月5日判決、平成15年(ワ)第19002号)(乙第3号証)。 そして、当該特段の事情について鑑みると、確かに、「毎日新聞社」は、100年以上 の歴史を有しており、一般的に著名であると言えるかも知れない。しかしながら、「毎日」 と言われてもそれが必ずしも申立人を示すものであるというような著名性は無いと言うべ きである。「毎日」は、申立人が略称として使用しているにすぎないし、「毎日」との商標 登録も平成8年に登録が認められたにすぎず、ごく最近使用を始めたものである。そして、 指定表品及び指定名称も印刷物に限定されているものである。一般人の感覚としても、新 聞を指し示されて「毎日」と言われれば毎日新聞であると連想するかもしれないが、単に 「毎日」と言われてもそれが申立人を指すとは連想されないと言えるのである。しかも、 「毎日」という言葉はあまりにも一般的用語であり、これを自由に使えない場合国民の表 現、営業に著しい支障を来すものであるから、当該特段の事情については他の用語にもま して厳格に解釈されるべきである。 ちなみに、ヤフー電話帳で「毎日」で検索を行うと5472件がヒットし(乙第4号 証)、「株式会社毎日」で検索を行うと429件がヒットし(乙第5号証)、「有限会社毎日」 で検索を行うと95件がヒットする(乙第6号証)。また、「毎日牛乳」を商標として使用 している会社などもある(乙第7号証)。「毎日」という言葉が、申立人の主張するように 「毎日新聞社」の営業表示として特別の識別性を有し、全国的に著名かつ周知のものであ るとするならば、これらの会社は全て、不正競争防止法違反となるはずであるが、そのよ うな主張は全く不合理であると言わざるを得ない。 なお、本件は、「読売」「讀賣」又は「よみうり」について識別性を認めた事例とは事 情を異にする(東京地裁平成16年11月29日判決、平成16年(ワ)第13859号) (乙第8号証)。即ち、そもそも「読売」とは、江戸時代の瓦版もしくは瓦版売りを指す言 葉で、江戸時代に作られた比較的新しい言葉であり、新聞の別称であるとも言える(乙第 9号証)。従って、用語としてそもそも新聞社になじむ言葉であり、これを新聞社が使用す る事に違和感は無い。また、「読売」は歴史的用語であって、現在では新聞を著す言葉とし ては一般に使われていない。更に、読売新聞社はグループ会社を拡大させ、新聞、雑誌、 レジャー(旅行や遊園地)、テレビ、カルチャー、スポーツ(巨人軍、ヴェルディ川崎)な どあらゆる分野に進出し、「読売」という言葉自体が読売グループとの関係を連想させる状 態にある(乙第10号証)。一方毎日新聞はそのような状況にはない(乙第11号証)。こ のような事情から当該判例は、特に識別性を認めたものであり、本件とは全く事情を異に するのである。ちなみに、「毎日」を含む商標は、475件であるが、そのほとんどは、申 立人とは無関係である(乙第12号証、第13号証)。これに対して、「読売」を含む商標 は、79件であるが、そのほとんど全てが読売グループに属するものである(乙第14号 証)。ちなみに、「日経」に関する商標はほとんどが日本経済新聞の関連であるが、「朝日」 については、ほとんど朝日新聞とは無関係である(乙第15号証、第16号証)。 従って、そもそも申立人の主張する「毎日」には、識別性が認められないから、同一 性、類似性も認められないと言うべきである。 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと、 の反論 登録者は、「毎日」の商標を保有していないが、毎日と言う言葉は一般用語であって、 だれしもがこれを使用する正当な権利を有しているものである。このことは、著作権法第 19条1項1号の趣旨からも明らかである。 申立人は、登録者が正当な権利を有していないなどと主張しているが、登録者は、法 人であり、ドメイン名管理業者を通じて登録を行っているものである。また、芸能プロダ クションという業種であることから表だって名前を出すのを避け、担当者である田中が申 立人からのアクセスに対応したものである。また、メールアドレスも、特定されるような アドレスを避け、ドメイン名に関する業務に使用するために作成したものであって、特段 転売のために名付けたわけではない。 登録者は、芸能プロダクション事業を中心に、音楽や舞台、映像製作等を行う株式会 社であり(乙第17証、第18号証)、研修生等に対するレッスンも行っている。登録者は、 毎日レッスンを受けることができるようなサービス「毎日レッスン」などの展開を考えて おり、本件ドメインをそのようなサービスの為に利用しようと考え準備していた。そして、 「毎日○○」という商標は容易に取得することが可能であり、登録者がそのようなサービ スを展開するに当たって何らの支障はない。実際の使用が遅れたのは、日本語ドメインの 使用に関する環境が整っていなかったからである。 従って、登録者は当該ドメイン名に関する権利または正当な利益を有しているもので ある。 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること、の反論 情報の公開、メールアドレスについては(2)で主張したとおりであり、何ら登録者 の目的と関係ない。また、日本語ドメインはインターネットエクスプローラーが対応して いないなどの理由から長らく使用することができず、ようやく今年になって普及の目処が たった段階である。登録者もようやく使用ができることとなったことを喜んでいた矢先に 本件申立があったものである。 また、1000万円の主張については、そもそも、登録者は本件ドメインの売却の意 思は無く、高額の申し出をすれば相手があきらめるであろうと思ってメールに記載したも のである。そもそも、申立人からは何回か譲渡の申し入れがあったが、売却するつもりの 無い登録者はこれを無視していたのである、すると、管理会社から、連絡をとってくれる ようにとのメールがあったため、渋々申立人と連絡をとったのである(乙第19号証)。と ころが、申立人は、当初毎日新聞であることを名乗らず、単に「荒井」とだけ名乗ってお り、しかも、こちらから金額を提示するよう求めてきたのである。登録者としては、個人 であれば、1000万円と提示すれば簡単にあきらめるだろうと考え、1000万円とい う金額を提示したのである。すると、申立人は、突然毎日新聞社であることを告げてきて、 10万円+現在までのドメイン管理料という申し出をしてきたのである。これに対して、 申立人は、既に500万円でのオファーがあった旨を伝えたほか、「このドメインはもとも と販売目的で所有しているドメインではなく、今後予定しているプロジェクトの宣伝広告 用として利用を予定している大切なドメインなので、1000万円以下ではお譲りするつ もりはないのです。」と告げている(乙第20号証)。ここで、初めて申立人は本当のこと を伝えたのである。1000万円という値段は売りたくないという気持ちとそれだけ本件 ドメインが大切であるという気持ちが込められているのである。 この申立人と登録者のやりとりを見れば、登録者は、毎日新聞をねらって高額に本件 ドメインを売りつけようとする意図がないことは明らかである。むしろ、登録者は出来る だけ譲渡の交渉を避けようとしていたほか、相手方が毎日新聞と分かった時点できちんと 本当の気持ちを伝え申し出を断っているのであり、高額での売却を主として本件ドメイン を保持していなかったことは明らかである。 一方、申立人は、登録者が本心を伝えたメールをあえて証拠からはずし、ことさらに 登録者の悪意を取り上げているほか、交渉の過程においてあえて毎日新聞という名前を開 示していないなど、登録者に対する悪意に満ちているとしか考えられない。しかも、交渉 の過程においてあえて登録者に対して先に金額を提示しているが、これは、「不正の目的」 の立証を目指したものであると考えられる。なぜなら、申立人は毎日新聞.comのドメイン 名において、本手続きを経験しており、この経験から「不正の目的」の立証について知識 を持っていたために、このように証拠集めをしたものと考えられるのである。このような 視点に立っても、申立人の主張は到底信用するに足りないと言うべきであろう。 そもそも、(2)でも述べたとおり、登録者は、自己のサービスの為に本件ドメインを 使用することを主たる目的としており、この準備を行おうとしていたのであり、何ら不正 な目的は無かったのである。また、申立人の顧客を誘引し、あるいは申立人の事業を混乱 させるような事情も一切認められない。 従って、登録者には不正な目的は無く、申立人の主張は認められない。 6 争点および事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則 についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結 果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理 に従って、裁定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性(方針第4条a(i)) ドメイン名紛争処理手続は、混同の解消を目的とする不正競争防止法とは異なり、サ イバースクワッティングに対して迅速な救済を与えることを目的とするものである。それ ゆえ、方針第4条a(i)における判断は、申立人の商標と登録者のドメイン名とを比較 して、一般人が外観・称呼の点で両者を取り違えるほどに類似しているかどうかを検討す れば足りると解される。 この観点から判断すると、登録者のドメイン名「毎日.JP」は、そのうち「.JP」の部 分が国別コードにより日本を意味する部分であるので、識別力を有するのは「毎日」の部 分にあるものと認められる。 この登録者のドメイン名の要部「毎日」と申立人の商標「毎日」とを対比すれば、両 者は外観・称呼を共通するものと認められる。 したがって、本件においては、方針第4条a(i)の要件を充足する。 なお、登録者は、「成城」「読売」等の判例をあげて答弁しているが、ドメイン名紛争 処理手続の上記目的より、該主張は採用されない。 また、登録者は、「毎日」には識別性が認められないと主張するが、申立人の商標の識 別力の強弱(ストロング・マークかウィーク・マークかの別)の問題は、方針第4条a(iii) の要件判断に際しては影響を与える場合があるかも知れないが、登録者のドメイン名と申 立人の商標との類似性判断をする際の問題ではない。 (2)権利または正当な利益(方針第4条a(ii)) 方針第4条a(ii)の要件は、申立人が主張する必要があるが、「権利または正当な利 益」の有無は登録者に固有の事情であるので、登録者が証明責任を負うものと解すべきで ある。 方針第4条cは「登録者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有している ことの証明」として、以下のような事情がある場合には、登録者は当該ドメイン名に関す る権利または正当な利益を有していると認めなければならないと規定する。 (i) 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関か ら通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該 ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、または明らかにその使用の準 備をしていたとき (ii) 登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、当該ドメ イン名の名称で一般に認識されていたとき (iii) 登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすこと により商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図 を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用している とき 登録者は、本件申立時において、本件ドメイン名を使用していない。また、使用の準 備は客観的に証明できるものでなければならないが、登録者は、「実際の使用が遅れたのは、 日本語ドメインの使用に関する環境が整っていなかったからである。」「日本語ドメインは インターネットエクスプローラーが対応していないなどの理由から長らく使用することが できず、ようやく今年になって普及の目処がたった段階である。」と答弁しているのみであ る。 この点に関して、株式会社日本レジストリサービス(JPRS)に確認したところ、日本語 JPドメイン名の一般への登録は2001年5月7日から開始されており、日本語JPドメイン 名がマイクロソフト社のInternet Explorerを用いてWEBページを閲覧できるようになっ たのも2001年5月7日からとのことである。 また、登録者は、「毎日」の商標を保有しておらず、当該ドメイン名の名称でも一般に 認識されていない。 さらに、登録者は、本件ドメイン名を使用していない以上、当該ドメイン名を非商業 的目的に使用し、または公正に使用していることもない。 したがって、登録者には、上記方針第4条c(i)ないし(iii)の事情を認めることは できない。 また、登録者の名称「株式会社東京優勝」との関係においても本件ドメイン名の要部 である「毎日」とは何ら関連性を有しないものであり、本件ドメイン名を自ら登録または 使用する何らかの必要性があったものとは認められない。 なお、登録者は、毎日レッスンを受けることができるようなサービス「毎日レッスン」 などの展開を考えており、本件ドメインをそのようなサービスの為に利用しようと考え準 備していたと主張するが、「毎日レッスン」等のサービス展開と本件ドメイン名とは直接関 係ないものである。 以上のように、本件においては、「登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正 当な利益を有していないこと」について、申立人から一応の主張がなされており、登録者 が本要件の証明責任を負うと解すべきところ、登録者によるこの点の証明は不十分である といわざるを得ない。 よって、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有するものと認 めることはできず、本件においては、方針第4条a(ii)の要件を充足するものと認める。 (3)不正の目的での登録または使用(方針第4条a(iii)) 方針第4条bは、方針第4条a(iii)を受けて、「不正の目的で登録または使用してい ることの証明」として、(i)ないし(iv)に規定された事情がある場合には、当該ドメイン 名の登録または使用は、不正の目的であると認めなければならないとしている。 本件においては、申立人と登録者との間で譲渡交渉が行われたので、これについて検 討する。 申立書、甲第5号証の1及び2、答弁書、乙第19号証、乙第20号証、並びに追加 の陳述書の記載から総合判断すると、まず、申立人担当者である荒井氏が、会社名を伏せ 個人名で、公開連絡窓口であるドメイン名登録・管理業者の株式会社ヒューメイアレジス トリを通じて、JPドメイン名登録情報上の登録者である日本語JPドメイン管理の担当者 の田中氏と接触し、本件ドメイン名の譲渡の申し入れを行った。 この申し入れに対し、田中氏は、荒井氏に譲渡希望金額を聞き合わせたが、逆に、荒 井氏から譲渡価格を問い合わせてきたので、最低売却価格1,000万円以上と提示した。 この回答に対し、荒井氏は、申立人会社名を明らかにした上で、申立人側の譲渡希望 額は10万円+現在までのドメイン管理料であると主張した。 この回答に対し、田中氏は、本件ドメイン名に関しては、何度かオファーがあり、5 00万円で購入希望者がいる旨、並びに、本件ドメイン名は販売目的で所有しているもの ではなく、今後予定しているプロジェクトの宣伝広告用としての利用を予定しており、1 000万円以下で譲るつもりはない旨の返答を行った。 これらはメールでのやり取りであり、田中氏は日本語JPドメイン管理のメールアドレ スである「domain trade@yahoo.co.jp」を使用し、荒井氏は個人のメールアドレスを使用し、 会社名を名乗った時点で申立人会社におけるメールアドレスを使用した。 なお、申立書からも明らかであるが、上記譲渡交渉において、申立人は、本件ドメイ ン名の登録者が「domain trade@yahoo.co.jp」のメールアドレスを有する田中氏と解してお り、株式会社東京優勝であると知ったのは答弁書を受領した時点である。 そこで、上記経緯から判断すると、登録者は、申立人担当者である荒井氏が会社名を 明示した後においても、「このドメインはもともと販売目的で所有しているドメインではな く、今後予定しているプロジェクトの宣伝広告用としての利用を予定している大切なドメ インなので、1000万円以下ではお譲りするつもりはないのです…。」(下線はパネリス ト)の回答をしている(乙第20号証中の⑦)。 登録者は答弁書において、「1000万円という値段は売りたくないという気持ちとそ れだけ本件ドメインが大切であるという気持ちが込められているのである。」と主張してい るが、たとえ個人としての荒井氏への返答ではそうとも言えるかも知れないが、申立人会 社名を名乗った後ではそうは解されない。 また、登録者は、追加の陳述書において、登録者の名称「株式会社東京優勝」とJP ドメイン名登録情報上の名称「日本語JPドメイン管理」とが異なるのは、本件ドメイン名 の取得に際し、芸能プロダクションであるという名前を出したくなかったことによると陳 述しているが、両者の名称は余りにも相違し不自然である。 ところで、方針第4条a(iii)は「登録または使用」と定められているため、後発的 に不正な目的で使用する場合をも含まれると解されるところ、上記金額提示の回答は、方 針第4条b(i)の「登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に 直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を 販売、貸与または移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得し ているとき」に該当すると考えられ、不正の目的で登録または使用されていると認められ る。 したがって、本件においては、方針第4条a(iii)の要件を充足するものと認める。 7 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「毎日.JP」 が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名について権利また は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されて いるものと裁定する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「毎日.JP」の登録を申立人に移転するもの とし、主文のとおり裁定する。 2007年11月28日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 福井 陽一 単独パネリスト 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2007年9月14日(電子メール) 2007年9月18日(郵送) (2)料金受領日 2007年10月3日 金189,000円(消費税込)入金 (3)ドメイン名、登録者の確認日 2007年9月14日 センターの照会日(電子メール) 2007年9月14日 JPRSの確認日(電子メール) 確認内容 1) 申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者であること (4)適式性 センターは、2007年9月18日、申立書がJPNICの処理方針、 規則、補則の 形式要件を充足しているか確認したところ、不備が発見されたため、申立人に通知し た。2007年9月20日に、補正書類一式(紛争書類方針の写し、証拠一覧・説明 書)を受領し、補正後の申立書がJPNICの処理方針、 規則、補則の形式要件を充足 していることを確認した。 (5)手続開始日 2007年10月3日 手続開始の通知 2007年10月3日 JPNIC及びJPRSへ(電子メール) 申立人代理人へ(電子メール及び郵送) (6)登録者・登録担当者への送付、内容及び到達 1)2007年10月3日、センターは申立書及び申立通知書を登録者及び登録担 当者へ郵送した。 2)センターは、答弁書提出期限が2007年11月1日であることを通知した。 3)2007年10月3日、登録者は、電子メールにて、申立書及び申立通知書を 受領した。郵便物は、2007年10月4日に受領された。 (7)答弁書の提出の有無及び受領日 提出有り 2007年10月31日(電子メール及び持参) (8)パネリストの選任 申立人は1名パネルを要求 中立宣言書の受領日 2007年11月9日 パネリスト 福井 陽一 (9)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日(JPNIC、JPRS及び両当事者へ) 2006年11月8日(FAX、電子メール及び郵送) 裁定予定日 2007年11月29日 (10)上申書の提出及び受領日 センターは、2007年11月16日に申立人代理人より上申書を受領した。パネ リスト及び登録者に同日付で電子メールにより送信した。 (11)陳述・書類の追加提出 センターは、パネリストの要請により、2007年11月16日に、登録者に対し て、陳述・書類の追加提出を電子メールにて要請した。これに対して、登録者は、2 007年11月20日に、陳述書を提出し、2007年11月21日にセンターは受 領し、パネリスト及び申立人に電子メールにより送信した。 (12)上申書の提出及び受領日 センターは、2007年11月21日に申立人代理人より上申書を受領した。パネ リスト及び登録者に同日付で電子メールにより送信した。 (13)パネルによる審理 2007年11月28日 パネルによる裁定