事件番号:JP2007-0007 裁 定 申立人: (名称)ルイ・ヴィトン・マルチエ (住所)フランス国 パリ 75001 リュ デュ ポン ヌフ 2 代理人: 弁護士 高松薫 弁護士 泉潤子 弁護士 奥原力也 登録者: (名称)ヴォイクスジャパン株式会社 (住所)名古屋市中区栄4丁目16-24メーゾンオザワビル5F 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン紛争処理方針、JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメ イン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出され た証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「louisvuitton.co.jp」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「louisvuitton.co.jp 」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人の主張 (1)本件ドメイン名 登録者は、louisvuitton.co.jp(以下「本件ドメイン名」という)を、株 式会社日本レジストリサービス(JPRS)に登録している。 (2)申立人の商標と著名性 申立人は、日本国内において、「LOUIS VUITTON」につき、 多数の商標権(以下「本件各商標」という)を取得している(資料1ないし 16)。 申立人は、1854年、フランス・パリにおいてルイ・ヴィトン(Lou isVuitton)により創業された旅行鞄専門店に由来する、150年 以上の歴史を有する服飾・鞄ブランドである。 日本国内では、1978年に日本初のルイ・ヴィトン・ストアがオープン し、日本国内において54店舗(うち百貨店内41店舗)展開し、主な需要 者層である若い女性向け雑誌等において、申立人を「人気ブランド」等とし て取り上げた記事は枚挙にいとまがない(資料17)。 申立人の商号そのものであり、かつ、ブランド名である「LOUIS V UITTON」(ルイヴィトン)という商標は、日本国内はもとより、世界 的にも知らない者のいない著名なものであるといえる(資料18、19)。 (3)本件ドメイン名と本件各商標の同一性または混同類似性 本件ドメイン名のうち、「co」及び「jp」は、それぞれセカンドレベルドメ イン及びトップレベルドメインであり、使用主体が属する国及び組織形態を 表示するものであるに過ぎないことからすれば、本件ドメイン名において主 たる識別力を有する要部が「louisvuitton」であることは明らかである。 そして、本件ドメイン名の要部である「louisvuitton」と、本件各商標は、 「LOUIS」と「VUITTON」の間にアルファベット一文字分の空白 があること以外には、小文字の大文字の違いがあるだけであり、同一または 誤認混同を生ずるほどに類似している。 (4)登録者の本件ドメイン名に関する権利や正当な利益の欠如 登録者が本件ドメイン名を登録した2004年11月時点において、本件 各商標は世界的に周知・著名であったため、登録者が本件各商標を知らなか ったということはおよそありえない。 登録者は、いわゆるウェブデザイン会社(資料20)であって、申立人と 何らの取引関係がなく、申立人が登録者に対し本件各商標の使用を許諾した 事実も本件ドメイン名の取得を依頼した事実もない。 従って、登録者は、本件ドメイン名についての権利または正当な利益を有 していないことは明らかである。 (5)本件ドメイン名の不正目的登録・使用 本件各商標は著名であり、登録者が本件ドメイン名を取得した際に、本件 各商標について知らないということはありえない。このように、本件各商標 が周知・著名である場合には、登録者が、本件ドメイン名の登録について権 利又は正当な利益を有する特段の事情が存在することを明らかにしなけれ ば、本件ドメイン名の登録は、インターネット上のユーザーを誤認混同させ る不正の目的でなされたものといえる。 しかも、申立人が登録者に対し、本件ドメイン名が申立人の商号及び周知 表示であることを指摘した上で、本件ドメイン名の使用の停止及び譲渡を要 求したところ、登録者は「ドメイン取得、更新費 3年間 12万円」「ド メイン移動費 15万円」「ドメイン保管費 80万円」を内容とする合計 107万円もの譲渡料を払うよう要求した(資料21、22)。申立代理人 から登録者に対し、譲渡料の根拠を示すよう求めたところ、登録者は要求金 額を減額し、「ドメイン更新費、保管費合わせて1年につき5万円」「移動費 と再登録費については申立人の負担」である旨回答した(資料23、24)。 申立人代理人の調査によれば、一般に、ドメイン登録料は年間7940円(税 込8337円)、ドメイン更新料は年間6880円(税込7224円)に過 ぎない(資料25)ため、申立代理人は、登録者に対し、1年につき5万円 という譲渡料の根拠につき回答を求めたが(資料26)、登録者からは何ら 回答がなかった。このような経緯からは、登録者が不当な対価を得て本件ド メイン名を販売する目的で本件ドメイン名を登録または取得したものであ ることは明らかである。 したがって、登録者が不正の目的で本件ドメイン名を登録していることは 明らかである。 (6)よって、申立人は、本件ドメイン名の登録を申立人に移転せよとの裁定を 求める。 b 登録者の答弁 登録者は答弁書を提出しなかった。 5 争点及び事実認定 a 登録者の答弁書不提出の効果 (1)本件において登録者は、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以 下、「手続規則」という。)第2条(a)(i)に基づいて適式に申立書の送付を 受けたにもかかわらず、答弁書提出期限までに答弁書を提出しなかった(別 紙手続の経緯参照)。従って本件において争点は形成されていない。 (2)答弁書が提出されなかった場合、手続規則によれば、パネルは申立書に基 づいて裁定を下すものとするとされている(第5条(f))が、パネルは登録 者が答弁書を提出しないという事実のみを理由として、申立人の申立を認容 すること、及び、申立書記載の事実、判断について登録者が全部自認したも のと扱うこと(擬制自白)は許されず、JPドメイン紛争処理方針(以下、 「処理方針」という。)および手続規則の定める要件が充足されているか否 かの判断を申立人の提出した証拠と当事者の陳述(審理の全趣旨)に基づい て認定しなければならないものと言うべきである。 (3)そこで、本件申立事件が処理方針第4条a.に定める3要件を充足してい るかどうかを検討する。 b 処理方針第4条a.の各号について (1)処理方針第4条a.は、申立人が次の事項の各々を証明しなければならな いことを指図している。 (i)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標そ の他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること (ii)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してい ないこと (iii)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されているこ と そこで、各要件について検討する。 (2)本件ドメイン名と本件各商標の同一性または混同類似性 申立人は、英文字から成る登録商標「LOUIS VUITTON」につ いて正当な権利及び利益を有する(資料1ないし16)。 次に、本件ドメイン名と本件各商標との同一・類似性を検討すると、まず、 「louisuvuitton.co.jp」のうち、「co.jp」の部分は、使用主体が属する国 及び組織を表示するものであるに過ぎない。 以上から、本件ドメイン名において、主たる識別力を有するのは、 「louisvuitton」の部分にあると認められ、登録者のドメイン名 「louisvuitton.co.jp」の要部は「louisvuitton」と認められる。 そこで、登録者の本件ドメイン名の要部「louisvuitton」と、申立人の本 件各商標の要部である「LOUIS VUITTON」とを比較すると、両 者の間には空白部分の有無及び大文字と小文字の差異しかなく、称呼・外観 等において、同一又は混同を引き起こす程の類似性を認めることができる。 したがって、本件ドメイン名は本件各商標と誤認混同を生ずるほど類似す ると認められる。 (3)登録者の本件ドメイン名に関係する権利や正当な利益の欠如 次に、(ii)関し、申立人は既に本ドメイン名に関し自らの権利または正当 な利益を有する商標を有していることを立証していること、登録者の権利・ 利益は登録者が最も立証することが容易であることから、本要件については、 登録者がかかる権利または利益を立証しなければならない。 ところが、登録者は答弁書を提出せずこれを立証しない。また、一件記録 を検討しても、登録者にかかる権利または利益があることを推認させる事情 は見当たらない。登録者は、本件ドメイン名に対応する名称を使用しておら ず、本件ドメイン名で一般に認識されておらず、本件ドメイン名も使用して いないため、処理方針第4条c.の各号に該当する事情も見当たらない。 よって、登録者が権利または正当な権利を有していないと認めることがで きる。 (4)本件ドメイン名の不正目的登録・使用 登録者が本件ドメイン名を登録した2004年11月時点において、申立 人の本件各商標は、世界的にも国内的にも著名であったことが認められる (資料17ないし19、審判の全趣旨)。 そうすると、登録者は、本件各商標の存在を認識し、かつ、本件ドメイン 名を使用すれば本件各商標との誤認混同が生じることを認識しながら登録 したものであると認めることができる。 また、登録者が申立人に対し、本件ドメイン名移転の対価として、107 万円の要求をしたことが認められるが(資料23、24)、一般的なドメイ ン登録費用や更新費用は登録者の要求よりも低廉であること(資料25)、 本件ドメイン名取得に要した他費用が高額であったことの反証もないこと から、登録者の要求額は本件ドメイン名に直接かかった金額を超えるもので あると認めることができる。そして、登録者が当該ドメイン名に直接かかっ た金額を超える金額を要求したことをもって、登録・取得時に不正目的があ ったと直ちに認定することはできないが、かかる要求があったことは、登 録・取得時に不正目的があったことを強く推認させる事実であり、登録者に よって当該ドメイン名の登録または取得に不正目的がなかったことを証明 しない限り、登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイ ン名に直接かかった金額を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売 または移転することを目的として、当該ドメイン名を登録または取得したも のと認定することができると解するべきである。 本件において、登録者は答弁書を提出せず、登録または取得時に不正目的 がなかったことの主張立証をなしておらず、一件記録を検討しても、登録者 に登録または取得時に不正目的がなかったことを推認させる事情は見当た らない。 したがって、登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメ イン名に直接かかった金額を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販 売または移転することを目的として、当該ドメイン名を登録または取得して いるとき(処理方針第4条b(i))に該当する。 よって、本件ドメイン名は不正の目的で登録されているものと認められる。 6 結 論 以上に照らして、当パネルは、登録者によって登録された本件ドメイン名 「louisvuitton.co.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者 が登録者のドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のド メイン名が不正の目的で登録されているものと認定する。 よって、処理方針第4条i.に従って、ドメイン名「louisvuitton.co.jp」の 登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。 2007年12月14日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル パネリスト 山 上 和 則 (単独パネリスト) 別記(手続の経過) (1) 申立受領日 電子メール 2007年10月16日 書面 2007年10月17日 (2) 適式性 日本知的財産仲裁センターは、申立書が社団法人日本ネットワークインフォーメーションセン ター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、JPドメイン名紛争処理方針のた めの手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方針のための補則(補則)の形式要件を充足す ることを確認した。 (3) 手続開始日 2007年10月19日 申立人はセンターに対して2007年10月16日に規定料金を支払った。 (4) ドメイン名及び登録者の確認日 センターの照会日(電子メール) 2007年10月16日 JPRSの確認日及び確認内容(電子メール) 1) 2007年10月16日 2) 申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者である。 3) 登録担当者は飯沼正樹である。 (5) 登録者・登録担当者への通知日及び内容 1) 2007年10月19日 2) 申立書、申立通知書(郵送、ファクシミリ、及び電子メール) 3) 答弁書提出期限 2007年11月16日 (6) 答弁書の提出の有無及び提出日 登録者は答弁書を提出しなかった。 (7) 答弁書不提出通知書の登録者への送付日 2007年11月19日 (8) パネリストの選任 ■ 単独(□ 申立人の指定 □ 相手方の指定 ■ センターの選任) パネリストの氏名 山上和則 (9) 紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日 2007年11月26日 (10)宣言書の受領日 2007年11月27日 (11)予定裁定日 2007年12月14日