事件番号:JP2008-0003

裁 定

1 当事者
  申立人:
  (名称)アイジーエイ ファイナンセ ベースローテン フェンノートシャップ
  (住所)オランダ国、1012 アールシー アムステルダム、ニーユヴェザユトス
      フォールブルヴァル 21

  (名称)ロベルト カヴァリ エス・ピー・エー
  (住所)イタリア国、20121 ミラノ、ビア セナート 8

  (名称)ロベルトカヴァリジャパン株式会社
  (住所)東京都港区南青山五丁目11番5号住友南青山ビル7階
  申立人ら代理人:弁護士 中谷浩一

  登録者:
  (名称)Nannini Gabrio
  (JPドメイン登録情報上の住所)東京都杉並区高円寺北3-43-13

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書、追加陳述書面及び提出された証
拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

2 裁定主文
  ドメイン名「ROBERTOCAVALLI.JP」の登録を申立人ロベルト
 カヴァリジャパン株式会社に移転せよ

3 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「ROBERTOCAVALLI.JP」である。

4 手続の経緯
  別記のとおりである。

5 当事者の主張
 a 申立人
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
  示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  ① 申立人アイジーエイ ファイナンセ ベースローテン フェンノートシャッ
   プ(以下「申立人IGA」という。)
    申立人IGAは1997年以降申立人ロベルト カヴァリ エス・ピー・エ
   ー(以下「申立人SPA」という。)の主要株主であり、全世界にわたる商標
   「ROBERTOCAVALLI」の商標権者であり、日本においても「ro
   bertocavalli」のほか、「cavalli」の文字からなる別紙
   目録記載の11件の登録商標(以下「robertocavalli」の文字
   からなる商標を「robertocavalli商標」といい、別紙目録記載
   の商標を総称して「本件商標」という。)を有している。
    一方、登録者の本件ドメイン名のうち「.JP」の部分は国別コードを表す
   部分に過ぎず、商品やサービスの出所表示機能を果たす部分は「ROBERT
   OCAVALLI」のみにあることは明らかであり、当該部分は前記robe
   rtocavalli商標と同一又は混同を惹き起こすほど類似している。

  ② 申立人SPA
    申立人SPAはイタリア人ファッションデザイナーであるロベルトカヴァリ
   氏がデザイン、製作するドレス、衣類その他の製品を製造し、販売することを
   目的としたグローバル企業グループであるロベルトカヴァリ・グループの主た
   る企業であり、実質上ロベルトカヴァリ・グループの運営を行っている。この
   ため、robertocavalli商標については申立人IGAが商標権者
   として管理主体となっているが、その実質は申立人SPAにあり、かかる商標
   について正当な権利を有している。
    また、「ROBERTOCAVALLI」は、自己の商号の要部を形成し、
   申立人SPAはロベルトカヴァリ・グループの中核として、その営業主体表示
   として使用して営業活動を行っている。
    このため、申立人SPAは「ROBERTOCAVALLI」という表示の
   使用にあたって正当な権利を有している。
    一方、登録者の本件ドメイン名のうち「.JP」の部分は国別コードを表す
   部分に過ぎず、商品やサービスの出所表示機能を果たす部分は「ROBERT
   OCAVALLI」のみにあることは明らかであり、当該部分はrobert
   ocavalli商標と同一又は混同を惹き起こすほど類似している。

  ③ 申立人ロベルトカヴァリジャパン株式会社(以下「申立人RCJKK」とい
   う。)
    申立人RCJKKは2008年5月16日に設立されたロベルトカヴァリ・
   グループの日本法人であり、申立人SPAと申立人IGAが親会社である。
    申立人RCJKKはrobertocavalli商標を含む本件商標につ
   き、2008年5月16日付けで申立人SPA及び申立人IGAとの間で商標
   権使用許諾契約書を締結し、日本における使用許諾を得ている。そして、外国
   ブランド権利者名簿においても2009年3月発行予定のものにつき、同社を
   「国内権利者名又は連絡先」に変更登録するよう申請している。
    また、「ROBERTOCAVALLI」のカタカナ表記である「ロベルト
   カヴァリ」は、申立人RCJKKの商号の要部を形成し、設立と同時に申立人
   RCJKKはロベルトカヴァリ・グループの一員としてロベルトカヴァリジャ
   パン株式会社の営業主体表示として使用して営業活動を行なっているのである。
   よって、申立人RCJKKには、「ROBERTOCAVALLI」(ロベ
   ルトカヴァリ)という表示の使用について権利または正当な利益を有する。
    一方、登録者の本件ドメイン名のうち「.JP」の部分は国別コードを表す
   部分に過ぎず、商品やサービスの出所表示機能を果たす部分は「ROBERT
   OCAVALLI」のみにあることは明らかであり、当該部分はrobert
   ocavalli商標と同一又は混同を惹き起こすほど類似している。

(2)robertocavalli商標が、本件ドメイン名が登録された2008
  年5月26日より前から、周知・著名な商標であること
   本件ドメイン名は登録者により平成20年5月26日に登録されたが、「RO
  BERTOCAVALLI商標」はそれ以前から全世界において周知・著名であっ
  たことは下記の事実より明らかである。
  ① robertocavalli商標は、1950年後半から活動を開始した
   世界的に著名なイタリア人ファッションデザイナーであるロベルトカヴァリ氏
   に由来するものであるが、その名称はロベルトカヴァリ氏が、1972年に行
   われたファッションショーに初めて出展したときから国際的に認識されること
   となった。動物柄のプリントやキャットウォークはロベルトカヴァリ氏が初め
   て行ったものであり、ファッション専門誌などでは、ニュー・スタイル・ファ
   ッションの第一人者として紹介されるまでになっている。また、一般大衆にお
   いても多くの国際メディアにおいて大々的にとりあげられており、その商品は
   多くの有名人の支持を受け、ヴィクトリア・ベッカムに至っては大のお気に入
   りと公表してはばからない人気である。
  ② 韓国のLG電子は、著名な高級ブランドとコラボレーションした高級ファッ
   ション携帯を販売しているが、プラダ、ベルサーチに並んで、2006年にR
   OBERTOCAVALLIとのコラボレーションも行われている。
  ③ Googleで「robertocavalli」を検索すると、全世界の
   ウェブサイトで1220万件のヒットがあり、日本語サイトに限定しても28
   万6000件のヒットがある。
  ④ 申立人SPAの2005年の全世界の売上は9100万ユーロであり、10
   0億円を超える売上を有している。

   また、日本においてもrobertocavalli商標及びロベルトカヴァ
  リの名称は本件ドメイン名が登録された2008年5月26日までには、一般消費
  者に対して周知であったとともに、ファッション・デザイン業界においては、著名・
  周知であったことは下記の事実から明らかである。
  ① ロベルトカヴァリは、これまでのところ日本には直販店を有しておらず、国
   内では主にセレクトショップなどで販売されていただけである。それにもかか
   わらず、2005年には100万ユーロ(当時の換算レートで約1億4000
   万円)、2006年は9月末時点で約140万ユーロ(当時の換算レートで約
   2億円以上)をあげている。日本におけるこれまでのロベルトカヴァリの特徴
   としては、実際に購入するというよりも、セレブ御用達の憧れのブランドとし
   て、日本国内でも一般消費者に周知されている。
  ② 日本国内における著名性・周知性は、直販店がないにもかかわらず、日本語
   のサイトに限定しても約28万6000件のヒットがあることからもわかるこ
   とであり、一般消費者においても周知されていることを如実に表している。
  ③ ロベルトカヴァリの商品は、日本の高級ファッション雑誌「ヴォーグニッポ
   ン」にも何度か掲載されている。
  ④ 日本国内のファッション業界は、常にヨーロッパのファッションに目を向け
   ており、ファッションの中心であるミラノに対する関心は非常に高く、ミラノ
   のファッション・ウィークについては、日本国内でも紹介されており、そこで
   の著名性・周知性は、直ぐに国内ファッション業界の著名性・周知性に直結す
   るものである。例えば、甲23および24では、ミラノのファッションショー
   について詳細なレポートがなされており、ロベルトカヴァリについても世界的
   な有名なブランドとして紹介されているとともに、甲23では、トレンドとし
   て、その特徴がピックアップされている。
  ⑤ 甲25は、洋書ではあるが、代理人が都内の書店の洋書コーナーではなく、
   ファッション・コーナーで購入したものであり、国内のファッション業界にお
   いてもロベルトカヴァリが著名・周知であることの現れである。
  ⑥ 2008年4月18日に行われた大阪インポートコレクションと題するファ
   ッションショーには、ロベルトカヴァリの一ブランドであるJustCava
   lliも出展しており、人気を博している。

(3)本件ドメインの登録及び登録者
   JP WHOISによると本件ドメイン名は登録者名Nannini Gab
  rioにより、平成20年5月26日、株式会社日本レジストリサービスを通じて
  登録され、本申立日においても有効に存続しているものである。しかしながら、か
  かる登録者及び公開連絡窓口の情報は、虚偽の記載であると強く推認されることは
  下記の事実から明らかである。
  ① Nannini Gabrioたる氏名は、申立人らの関連する会社のイタリ
   ア人従業員として存在している実在の人物であり、同氏は本件ドメイン名の登
   録をしたことおよび登録に関し何らかの関与をしたことにつき、明確に否定し
   ている。
  ② JP WHOISの公開連絡窓口の欄には、名前として、同様にNannin
   i Gabrioの氏名が、E-mailとして077sz@gmail.c
   omが、住所として〒166-0002東京都杉並区高円寺北3-43-13
   が、電話番号として390553242210が記載されている。しかしなが
   ら、申立人らの関連会社の従業員であるNannini Gabrio氏のE-
   mail、住所および電話番号とは全く異なるものである。なお、Nanni
   ni Gabrioたる氏名は、イタリアにおいても殊更に多い氏名というわけ
   でもない。
  ③ 申立人らの代理人が平成20年9月29日、登録者の住所である杉並区高円寺
   北3-43-13を訪ねたところ、同所在地は「ルイセリョール」という名称
   の4階建て鉄筋マンションであった。管理会社の担当者に電話で確認したとこ
   ろ、当該物件にはヨーロッパ系の外国人は居住していない旨の確認がとれた。
   なお、代理人が敢えて「ヨーロッパ系の外国人」と指定して居住の有無を尋
   ねたのは、「ナッニーニ ガブリオ」たる氏名を尋ねたとしても、個人情報保
   護の関連から不動産会社からは回答が得られない可能性が高いこと、およびア
   ジア系の外国人にこのような氏名の住人がいる可能性がほとんどないことから
   である。
  ④ 登録者は、本申立に対して答弁書を提出しないのみならず、何らの返答もしな
   いでいるにもかかわらず、本申立がありその旨の通知がなされた後である、平
   成21年1月13日に、JP WHOISの登録情報中、公開開連絡窓口住所の
   英語表記である「Postal Address」の欄について、日本語記載
   の住所である東京都杉並区高円寺北3-43-13を英語に訳した従前の記載
   から、「Niewezijds Vooreburgwal 21,1012
   RC Amsterdam Netherlands」との、申立人IGAと
   同一の住所地の記載に変更している。

(4)登録者による本件ドメイン名の使用状況
   本件ドメイン名の登録者は、登録以後本件ドメイン名を自己の営業のために使
  用するなど、ホームページとしては利用しておらず、本件ドメイン名を入力すると、
  申立人らのホームページであるhttp:www.robertocavalli.
  com(以下「申立人らホームページ」という。)に転送されるように設定してい
  る。

(5)登録者が、権利又は正当な利益を有していないこと
   登録者が本件ドメイン名についての権利又は正当な利益を有していないことは
  以下の事実から明らかである。
  ① 前記(3)のとおり、本件ドメイン名の登録者は不詳であるが、日本国内にお
   けるrobertocavalli商標は全て申立人等が権利者となっており、
   登録者はrobertocavalli商標の商標権者ではない。また、申立
   人らは登録者を含む第三者にその使用を許諾したこともない。
  ② 前記(4)のとおり、本件ドメイン名の登録者は、ドメイン名の登録後本件ド
   メイン名を独自のウェブページとして使っておらず、本件ドメイン名を入力す
   ると申立人らホームページに転送されるだけであり、かかる状況からは今後使
   用する準備をしている様子もうかがうことは出来ない。
  ③ 申立人らの知る限り、国内において、ROBERTOCAVALLIの名称で
   一般的に認識されている会社および人物の存在はない。また、公開連絡窓口と
   なっている東京都杉並区高円寺北3-43-13においても、ROBERTO
   CAVALLIとの名称と関連する営業または事業を行っている形跡は一切な
   い。
  ④ 前記(2)のとおり、robertocavalli商標は日本を含め全世界
   において周知・著名なものとなっていた。また、本件ドメイン名を入力すると、
   直接申立人らホームページに転送されるように設定されている事実は、登録者
   が登録時において申立人らの名称および商標を認識していたことを強く裏付け
   るものといえる。

(6)登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
   下記の点からすると、登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録されてい
  るといえる。
  ① 登録時点において周知・著名な商標である場合には、当該商標の商品に関し何
   ら関連性を有しない第三者による登録・使用につき不正目的での登録に該当する
   ことは、JPドメイン名紛争処理方針の策定において参考とされたICANNの
   統一ドメイン名紛争処理方針(以下「UDRP」という)に関するWIPO仲裁
   調停センターにおいて便乗的不正目的(Opportunistic bad
   faith)として多くの裁定事例の中で認められてきたことであり、JPドメ
   イン名紛争処理方針に基づく裁定事例においても認められている。
    前記(2)のとおり、robertocavalli商標は周知・著名である。
   また、登録者が本件ドメイン名を登録したのは2008年5月26日であるが、
   RCJKKが日本に成立されたのは同年5月16日である。登録手続、および会
   社設立手続に要する時間的なログを勘案しても、このことは偶然の一致とは思え
   ず、登録者が、ロベルトカヴァリ・グループが、これまでに以上に日本市場を重
   視し、本格的に日本市場での販売促進する戦略にあわせて日本法人が設立される
   ことを知りながら、登録したものと強く推測されるところである。かかる推測は、
   本件ドメイン名を入力すると申立人らホームページに転送されていることから
   も明らかである。これは、登録者がロベルトカヴァリを認識しながら敢えて行な
   っていることであり、申立人らの正当な使用を妨げる目的で行なわれているもの
   であり、また、消費者の誤認を惹き起こすために本件ドメイン名を登録したこと
   は明らかである。
  ② 前記(3)のとおり、登録者はJP WHOISに虚偽の情報を記載している
   が、登録者情報について、登録申請の内容たる事実において虚偽が存在した場合
   には、登録者として本件ドメイン名登録の登録移転または取消を受ける場合があ
   ることについては、登録者自身同意していることである(方針第2条)。この点、
   登録者が、かかる虚偽情報を敢えて申請している以上、それに伴って方針に定め
   るような不利益を甘受すべきことも明らかである
    また、登録者は以下に述べるように、不正の目的で本件ドメイン名を使用してい
   る。
    登録者は、本件ドメイン名をホームページとして使用しておらず、本件ドメイン
   名を入力すると申立人らホームページに転送されるが、周知・著名なROBERT
   OCAVALLIの商品に何らの関連性を有しない登録者が、本件ドメイン名を保
   有して、一般消費者がかかるドメイン名を指定した場合申立人らホームページに転
   送するように設定すること自体が、便乗的な不正目的を肯定できるところである。

  (7)申立人らの求める救済措置
     申立人らは、選任されたパネルが、本件ドメイン名の登録について、主位的に
    は申立人RCJKKへの移転を求め、予備的に、同会社への移転が何らかの事情
    により不可能な場合には、他の申立人のうちいずれかへの移転の裁定を下すこと
    を求める。

 b 登録者
   登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結
果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条a.は、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図して
いる。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 そこで、本件につき以下検討する。
 (1)複数の申立人による同一のドメイン名に対する申立の可否
    本件は、紛争の対象たる本件ドメイン名に対し、申立人IGA、申立人SPA及
   び申立人RCJKKがその登録を申立人RCJKKへの移転を主位的に求める事案
   である。
    この点、方針及び規則には複数の申立人が同一のドメイン名に対して申立を行っ
   た場合の取扱についてなんら規定されていない。このような場合にかかる申立を不
   適当な申立として却下することや、個々の申立人ごとに申立を分離して裁定を行う
   ことは、ドメイン名に関する紛争について簡易迅速な解決を目的として制定された
   方針及び規則の趣旨に反するものであり、少なくとも、同一の企業グループに属す
   る複数の申立人により同一のドメイン名に対して申立が行われた場合は、パネリス
   トの裁量により複数の申立を併合して裁定を行うことが出来るものと解されるべき
   である。
    本件において申立人らは同一の企業グループに属する(甲18の2及び申立の全
   趣旨)ところ、共同して本件ドメイン名の登録を主位的には申立人RCJKKへの
   移転を求め、予備的に、他の申立人のうちいずれかへの移転する旨の裁定を下すこ
   とを求める申立を行っているが(申立書)、かかる申立を分離して各申立人ごとに
   裁定を行うべき事情は見あたらず、上記のとおり簡易迅速な紛争の解決という観点
   からすると、申立人らの申立を併合して裁定を行うべき事案であると認められる。

 (2)答弁書不提出の効果
    本件において登録者は、規則第2条(a)(i)ないし(ⅲ)に基づいて適式に申
   立書の送付を受けたにもかかわらず、答弁書提出期限までに答弁書を提出していな
   いから、同条(a)本文の規定により申立書は送付されたものとみなされる。
   答弁書が提出されない場合には、規則第5条(f)により、「例外的な事情がな
   い限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする」とされているところ、
   同規則第14条(b)には、「例外的な事情がある場合を除き、いずれかの当事者
   が本規則の規定もしくは要件またはパネルの要請を履行しないとしても、パネルは
   適切と思われる判断を下さなければならない」とされている。これらの規定より、
   パネルは、例外的な事情がない限り、登録者が答弁書を提出しないという事実のみ
   を理由として、申立人の申立てを認容することはできないし、かつ、申立書に記載
   された事実を登録者が自白したものとみなして判断することはできないものと解さ
   れる。したがって、パネルは、例外的な事情がない限り、処理方針及び手続規則の
   定める要件が充足されているかどうかの判断を、申立人の提出した証拠と当事者の
   陳述に基づいて認定しなければならないというべきである。
    本件において、例外的な事情は特に認められないので、申立人が主張するような
   方針第4条a.に定める3要件を充足する事実が、申立人が提出した証拠により認
   められるかどうかを検討する。

 (3)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること
    まず、申立人らが権利又は正当な利益を有する商標その他表示を有しているかど
   うかを検討する。
   ① 申立人IGA
     申立人IGAは、日本において「robertocavalli」または「c
    avalli」の文字からなる別紙目録記載の11件の登録商標の商標権者であ
    り、これらの商標は本件ドメイン名の登録された2008年5月26日以前に登
    録された商標である(甲第2、甲第3の2~4、甲第3の6~13、甲第14の
    1~11、甲15の1~2、甲16の1~2)ことが認められる。本件商標は、
    方針第4条a(ⅰ)にいう「申立人が権利又は正当な利益を有する商標」に該当
    する。
   ② 申立人SPA
     申立人SPAは、「ROBERTO CAVALLI S.p.A.」の商号
    を使用して営業活動を行っている(申立書、追加陳述書面、甲18の2)ことが
    認められる。かかる商号は、方針第4条a.(ⅰ)にいう「申立人が権利又は正
    当な利益を有するその他表示」に該当する。なお、申立人SPAは同社が実質上
    ロベルトカヴァリ・グループの運営を行っているおり、robertocava
    lli商標については申立人IGAが商標権者として管理主体となっているが、
    その実質は申立人SPAにあり、かかる商標について正当な権利を有していると
    主張するが、これを認めるに足る証拠はない。
   ③ 申立人RCJKK
     申立人RCJKKは、
    ⅰ 申立人RCJKKはrobertocavalli商標を含む本件商標につ
     き、2008年5月16日付けで申立人SPA及び申立人IGAとの間で商標
     権使用許諾契約書を締結し、日本における使用許諾を得ていること(甲18)
    ⅱ 申立人RCJKKは外国ブランド権利者名簿においても2009年3月発行
     予定のものにつき、同社を「国内権利者名又は連絡先」に変更登録するよう申
     請していること(甲19)
    ⅲ 申立人RCJKKは2008年5月16日に設立された会社であり、設立以
     来「ロベルトカヴァリジャパン株式会社」との商号を使用して営業活動を行っ
     ている(甲17、追加陳述書面)が、「ロベルトカヴァリ」は「robert
     ocavalli」のカタカナ表記であることが認められる。
      したがって、申立人RCJKKは我が国において本件商標の使用を許諾され
     た会社であり、本件商標は、前記(3)①のとおり方針第4条a.(ⅰ)にい
     う「申立人が権利又は正当な利益を有する商標」に該当する。また、申立人R
     CJKKの商号は、方針第4条a.(ⅰ)にいう「申立人が権利又は正当な利
     益を有するその他表示」に該当する。
    よって、申立人らはいずれも権利又は正当な利益を有する商標その他表示を有し
   ている。
    次に、申立人らが有する商標または商号と登録者の本件ドメイン名「ROBER
   TOCAVALLI.JP」とが、同一または混同を引き起こすほど類似している
   かどうかについて検討する。
    この点、本件ドメイン名のトップレベルドメイン「.JP」の部分は国別コード
   を表す部分に過ぎず、商品やサービスの出所を表示する機能はないといえる。よっ
   て、本件ドメイン名の要部はセカンドレベルドメインである「ROBERTOCA
   VALLI」の部分にある。
   ① 本件商標と本件ドメイン名の要部が同一又は混同を引き起こすほど類似してい
    るか
     本件商標のうち、robertocavalli商標については、本件ドメイ
    ン名の要部である「ROBERTOCAVALLI」と実質的に同一または本件
    ドメイン名と混同を引き起こすほど類似していると認められる。
   ② 「ROBERTO CAVALLI S.p.A.」との商号と本件ドメイン
    名の要部が同一又は混同を引き起こすほど類似しているか
     この点、申立人は申立人SPAの商号と本件ドメイン名の要部が同一又は混同
    を引き起こすほど類似しているかという点について明示的には主張していない
    が、申立の全趣旨からするとこの点についても主張していると認められるので、
    以下検討する。申立人らの主張からはS.p.A.がいかなる意味を有するかは
    不明であるが、申立人SPAの商号である「ROBERTO CAVALLI
    S.p.A.」と本件ドメイン名の要部である「ROBERTOCAVALLI」
    とは外観及び称呼において混同を引き起こすほど類似している。
   ③ 「ロベルトカヴァリジャパン株式会社」との商号と本件ドメイン名の要部が同
    一又は混同を引き起こすほど類似しているか
     申立人は申立人RCJKKの商号と本件ドメイン名の要部が同一又は混同を
    引き起こすほど類似しているかという点について明示的には主張していないが、
    申立の全趣旨からするとこの点についても主張していると認められるので、以下
    検討する。「ロベルトカヴァリジャパン株式会社」との商号のうち、「株式会社」
    の部分は法人としての種別を示すものであり、また、「ジャパン」は我が国を示
    すものとして,ごく一般的な語であり、これらの語は特段の識別力を有するもの
    ではなく、識別力を有する要部は「ロベルトカヴァリ」である。申立人RCJK
    Kの商号である「ロベルトカヴァリジャパン株式会社」の要部である「ロベルト
    カヴァリ」と本件ドメイン名の要部である「ROBERTOCAVALLI」を
    対比すると、その称呼において同一であり、本件ドメイン名はロベルトカヴァリ
    ジャパン株式会社の商号と混同を引き起こすほど類似しているといえる。
     したがって、申立人SPAが権利者であり、申立人RCJKKが使用を許諾され
    ている本件商標のうち、robertocavalli商標は本件ドメイン名「R
    OBERTOCAVALLI.JP」と実質的に同一であり、または本件ドメイン
    名と混同を引き起こすほど類似していると認められ、申立人SPAの商号及び申立
    人RCJKKの商号と登録者の本件ドメイン名「ROBERTOCAVALLI.
    JP」とは、混同を引き起こすほど類似している。

 (4)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
    この点については、本件ドメイン名について、登録者が権利又は正当な利益を有
   することを推定させる方針第4条c.(ⅰ)から(ⅲ)までに定める事実のいずれ
   かがあるかどうかを検討する。
   ① 登録者が本件ドメイン名を2008年5月26日に登録したことは認められる
    ものの(甲10、甲27)、それ以降登録者が商品またはサービスの提供を正当
    な目的をもって行うために本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用して
    いた事実または明らかにその使用の準備をしていた事実について登録者は全く主
    張していないし、これを認めるに足る何らの証拠も存しない。したがって、方針
    第4条c.(ⅰ)に定めるような事実を認めることはできない。なお、申立人ら
    は登録者の本件ドメイン名の使用状況について、本件ドメイン名を入力すると、
    申立人らホームページに転送されるようになっていると主張するが、これを認め
    るに足る証拠はない。
   ② 登録者が、本件ドメイン名の名称で一般に認識されていたような事実について
    も、登録者により主張立証がされていない。したがって、処理方針4条c.(ⅱ)
    に定めるような事実を認めることはできない。
   ③ 登録者が、申立人らの商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすこ
    とにより商業上の利得を得る意図、または、申立人らの商標その他表示の価値を
    毀損する意図を有することなく、本件ドメイン名を非商業的目的に使用し、また
    は公正に使用しているような事実については、登録者により主張立証がされてい
    ない。したがって、処理方針4条c.(ⅲ)に定めるような事実を認めることは
    できない。
    このように、本件ドメイン名について、方針4条c.(ⅰ)から(ⅲ)までに定め
   る事実は認められない。そして、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正
   当な利益を有していることを認めることができる事情は上記の事情に限定されるも
   のではない(方針4条c.ただし書)が、そのようなその他の事情について登録者に
   よる主張立証は存しない。
    よって、登録者は、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してい
   るとはいえない。

 (5)登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されていること
    この点について、申立人らは、登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録また
   は使用されていることの理由として、①robertocavalli商標は本件
   ドメイン名が登録された時点において周知・著名であり、正当な権利を有しない登
   録者による本件ドメイン名の登録行為は、申立人らの商標の存在を認識しながら、
   申立人らと登録者が何らかの関係を有するなど混同誤認を生ぜしめることを目的と
   して登録したものである。登録者がかかる不正な目的を有して本件ドメイン名を登
   録または使用していることは、登録者が本件ドメイン名を入力した場合、申立人ら
   ホームページに転送されるように設定していることからも明らかである。②登録者
   はJP WHOISに虚偽の情報を記載しているが、登録者情報について、登録申請
   の内容たる事実において虚偽が存在した場合には、登録者として本件ドメイン名登
   録の登録移転または取消を受ける場合があることについては、登録者自身同意して
   いることである(方針第2条)。この点、登録者が、かかる虚偽情報を敢えて申請
   している以上、それに伴って方針に定めるような不利益を甘受すべきことも明らか
   である、と述べる。
    申立人らが主張するかかる事実が認められるか、認められる場合、方針第4条b.
   (ⅰ)から(ⅳ)までに定める事実のいずれかが認められるかどうかを検討する。
   ① robertocavalli商標は本件ドメイン名が登録された時点におい
    て周知・著名であったか
     この点、登録者がrobertocavalli商標の存在を認識しながら、
    申立人らと登録者が何らかの関係を有するなど混同誤認を生ぜしめるという不
    正の目的をもって本件ドメイン名を登録したというには、登録者は本件ドメイン
    名を日本で登録していることからすると、robertocavalli商標が
    本件ドメイン名が登録された2008年5月26日時点において日本において
    周知・著名であったといえる必要がある。
     申立人らは、この点について立証するため、多数の証拠を提出しているが、外
    国語で記載された証拠がその多くを占めるため、この点について述べる。
     規則第11条はドメイン名紛争処理手続の手続言語について定めた規定であり、
    同条(a)は、手続言語は原則として日本語とすると定め、また同条(b)は、
    パネルは、手続言語以外で提出された書類について、その全部または一部につい
    て手続言語への翻訳の提出を求めることができると規定している。そして、本件
    においてパネリストは2008年12月19日付けで規則12条の追加の陳述
    書類の提出要請を行った際に(別記手続経過参照)外国語の証拠について申立人
    が主張の関係で必要と判断する範囲の翻訳文の提出を申立人らに対して要請し
    た。本件におけるかかる事情からすると、申立人らにより翻訳文が提出されるこ
    とのなかった外国語で記載された証拠については、事実認定の際の判断資料から
    除外されるものとして扱う。
     このような前提の下、本件において提出された証拠からは
    ⅰ ロベルト・カバリ(ママ)ブランドについて「Fashion Press」
     という日本語のファッション関係のホームページで説明がされている(甲8の
     2)こと
    ⅱ 韓国のLG電子が2006年にロベルトカヴァリ氏がデザインした携帯電
     話を発売したこと、2005年にも同社は同氏に携帯電話のデザインを依頼し、
     同氏が2005年にデザインした携帯電話は販売数が100万台を超えてい
     るとの紹介が「マイコミジャーナル」というホームページで2006年2月6
     日にされている(甲9の1)こと
    ⅲ H&Mが「ロベルトカヴァリ」とコラボレーション商品を発売することが決
     定されたとことを紹介するホームページが存在すること(甲9の2)
    ⅳ 2008年9月25日にGoogleで「robertocavalli」
     を検索すると、全世界のウェブサイトで1220万ヒットがあり、日本語サイ
     トに限定しても28万6000ヒットがあること(甲9の3、甲9の4)
    ⅴ ファッション雑誌「ヴォーグニッポン」においては、1999年10月号、
     2001年12月号、2002年7月号、2003年11月号、2003年5
     月号、2008年11月号に申立人らの商品が掲載されたこと(甲22の1~
     5、甲8の1)
    ⅵ ファッション雑誌「gap PRESS」84号及びファッション雑誌「M
     ODEMODE」2009年冬号において、2009年春夏ミラノコレクショ
     ンにおける申立人らのデザインがレポートされ、そのトレンドとして、その特
     徴がピックアップされていること(甲23、甲24)
    ⅶ ロベルトカヴァリに関する洋書がファッション・宝石として分類されて販売
     されていたこと(甲25)
    ⅷ 2008年4月18日に行われた「MSN presents OSAKA
     IMPORT COLLECTION」において申立人らの一ブランドである
     JustCavalliも出展したことがJustCavalliの商標と
     共に同ブランドの説明がMSNのサイトで紹介されたこと(甲26の1から甲
     26の4)
    が認められる。
     しかし、上記の証拠のうち、申立人らについての紹介が行われているホームペ
    ージについては、当該ホームページがどの程度のアクセスがあり、そのホームペ
    ージにおいて紹介されたことが一般消費者に対してどの程度の情報訴求力があ
    ったかは不明であり、特に上記ⅱの紹介については、その記載からすると韓国の
    LG電子がロベルトカヴァリ氏デザインによる携帯電話を発売したのはヨーロ
    ッパであり、日本においてかかる携帯電話が100万台以上販売されたわけでは
    ない。
     また、確かに申立人らの商品はヴォーグニッポンにおいても何度か掲載されて
    いるが、その掲載がされる際には、モデルが着用している商品またはイラストか
    らはrobertocavalli商標は読み取ることはできず、これらの商品
    やイラストの販売元が申立人らであることが頁の隅に小さな文字で「ドレス/R
    OBERTOCAVALLI」などと紹介されているのみであり、これをもって
    robertocavalliなる標章を商標として商品に使用したとは言い
    難い。
     Googleで「robertocavalli」を検索すると、全世界のウ
    ェブサイトで1220万ヒットがあり、日本語サイトに限定しても28万600
    0ヒットがあったとの点については、このような検索が行われたのは本件ドメイ
    ン名が登録された後の2008年9月25日のことであり、登録時においてどの
    程度のヒットがあったかは必ずしも明らかではなく、更にこれらのヒット数のう
    ち、どの程度が申立人らの表示と関係があるかは不明である。
     更に、申立人らは、ミラノのファッション・ウィークについては、日本国内で
    も紹介されており、そこでの著名性・周知性は、直ぐに国内ファッション業界の
    著名性・周知性に直結すると主張し、確かに甲23及び甲24では2009年の
    春夏ミラノコレクションでの申立人らのブランドについてその特徴等について
    も紹介がされているが、甲23及び甲24は本件ドメイン名が登録された200
    8年5月26日以降の事項に関する記事であり、2008年5月26日以前にも
    申立人らについて同様の紹介がされていたかは明らかではない。
     以上の点からすると、本件の証拠からは、robertocavalli商標
    は本件ドメイン名が登録された2008年5月26日の時点において日本にお
    いて周知・著名であったとは認められない。

   ② 登録者はJP WHOISに虚偽の情報を記載しているか
     この点、
    ⅰ 登録者は本件ドメイン名について株式会社日本レジストリサービスに対して
     登録の申請を行った際には、登録者の公開連絡窓口の欄中、「住所」欄には「東
     京都杉並区高円寺北3-43-13」、公開連絡窓口住所の英語表記である「P
     ostal Address」の欄に、日本語記載の住所である東京都杉並区
     高円寺北3-43-13を英語に訳した、「3-43-3 Koenji-k
     ita Suginamiku」と記載して申請していた(甲10)こと
    ⅱ 申立代理人の調査によると、登録者の住所地を訪ね、同所にあったマンショ
     ンの管理会社の上記マンションの担当者に対して電話で、上記マンションには
     ヨーロッパ系外国人が居住しているかと尋ねたのに対し、上記担当者は、ヨー
     ロッパ系の外国人は居住していないと回答した(甲11、甲12、甲13)こ
     と
    ⅲ その後、申立人らによる本件ドメイン名の登録を申立人RCJKKへの移転
     を求める本件申立が行われ、申立書が登録者の上記公開連絡窓口に郵送、FA
     X、メールで発送されたが、郵送による申立書の送付については、登録者の住
     所に対して行われたにもかかわらず、宛名不完全として返送された(別記手続
     経過参照)こと
    ⅳ 登録者は本申立に対して答弁書を提出せず、何らの返答もしないでいるにも
     かかわらず(別記手続経過参照)、本申立があり、その旨の通知がなされた後
     である、平成21年1月13日に、株式会社日本レジストリサービスが提供す
     るJP WHOISの登録情報中、公開開連絡窓口住所の英語表記である「P
     ostal Address」の欄についてのみ、日本語記載の住所である東
     京都杉並区高円寺北3-43-13を英語に訳した従前の記載から、「Nie
     wezijds Vooreburgwal 21,1012 RC Ams
     terdam Netherlands」との記載に変更している(甲27)
     が、この住所は申立人IGAと同一の住所地である(甲16の1、甲16の2、
     18号証の1、18号証の2)こと
    が認められる。
     以上の事実からすると、登録者は登録に際して虚偽の登録情報を株式会社日本
    レジストリサービスに申告し、また、平成21年1月13日に行った「Post
    al Address」の欄の記載の変更も虚偽の事実を株式会社日本レジスト
    リサービスに申告したものと認められる。本来、本件ドメイン名の登録者情報に
    ついて、登録申請の内容たる事実において虚偽が存在した場合には、登録者とし
    て本件ドメイン名登録の登録移転または取消を受ける場合があることについて
    は、登録者自身同意しているはずである(方針第2条)。登録者が上記のような
    客観的事実や状況に反する情報を登録者情報として株式会社日本レジストリサ
    ービスに提供して本件ドメイン名の登録を得ていたのであるならば、それに伴っ
    て方針に定めるような不利益を甘受すべきこともまた、明らかであるといわねば
    ならない。
     また、上記のとおり本件において、登録者は、平成21年1月13日に行った
    「Postal Address」の欄の記載を申立人IGAの住所地に変更し
    ているが、かかる登録者の行為はIGAの住所地を表示しながら、本件ドメイン
    名を申立人らの競業他社または申立人らの製品を取り扱う業者に販売・譲渡など
    を行なうことを意図しているものと認められる。
     このような本件ドメイン名の登録後の登録者の行動も鑑みると、登録者は本件
    ドメイン名について、何らかの商業上の利得を得る目的で、誤認混同を生ぜしめ、
    インターネット上のユーザーを誘引する意図において登録したものと認められ、
    処理方針第4条b.(iv)に該当する事情が認められるから、登録者は本件ドメ
    イン名を不正の目的で登録し、かつ使用しているものと認められ、処理方針第4
    条a.(ⅲ)に該当するというべきである。

 (6)小括
    以上より、方針第4条a.(i)から(iii)に定める3要件が充足されているも
   のと認められる。

  (7)申立人らの求める救済措置
     本件において申立人らは、選任されたパネルが、本件ドメイン名の登録につい
    て、主位的には申立人RCJKKへの移転を求め、予備的に、同会社への移転が何
    らかの事情により不可能な場合には、他の申立人のうちいずれかへの移転の裁定を
    下すことを求めている(申立書)。
     この点、方針第4条i.は、申立人がパネルに対して求めることのできる救済
    方法として、登録者のドメイン名登録の取消請求または当該ドメイン名登録の申立
    人への移転請求に限られると規定しているのみであり、本件のように複数の申立人
    がいる場合に、申立人が自己以外の他の申立人へドメイン名登録の移転を請求する
    ことの可否については、これを認める規定もこれを認めない規定も存在しない。
     この点、①ドメイン名登録の移転先として挙げられている申立人についての審
    理が他の申立人の審理と併合されて同一の裁定において審理されており、②ドメイ
    ン名登録の移転先として挙げられている第三者の申立人による申立が方針第4条
    a.(i)から(iii)に定める3要件を充足するものであり、③審理が併合され
    ている申立人間において当該申立人にドメイン名登録を移転することについて合
    意が得られ、全員が選定した特定の申立人に対する登録移転を求めている場合には、
    かかる救済措置を認めることがドメイン名に関する紛争について簡易迅速な解決
    を目的として制定された方針及び規則の趣旨にかなうものと認められる。
     本件においては、申立人IGA、申立人SPA及び申立人RCJKKによる申
    立は同一の審理に併合されており、申立人RCJKKによる申立は方針第4条a.
    (i)から(iii)に定める3要件を充足するものであり、申立人らは主位的には
    本件ドメイン名の登録について、申立人RCJKKへの移転を求めている。
     よって、本件においては申立人らが求めている、本件ドメイン名の登録を申立
    人RCJKKに移転の裁定をすることが認められる。

7 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「ROBE
RTOCAVALLI.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、
ドメイン名について権利又は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目
的で登録され且つ使用されているものと裁定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「ROBERTOCAVALLI.JP」
の登録を申立人RCJKKに移転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2009年2月27日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            竹田稔
              単独パネリスト


別記(手続の経過)
(1) 2008年10月31日 申立受領日
  日本知的財産仲裁センター(センター)は、電子メール及び書面による申立書を受領
 した。申立人は、センターに対して、11月5日に規定料金を支払った。
(2) 2008年10月31日 ドメイン名及び登録者の確認
  センターは、株式会社日本レジストリサービス(JPRS)に対し、電子メールによ
 って、ドメイン名及び登録者の照会をしたところ、JPRSは、同日、申立書に記載の
 登録者はドメイン名の登録者であることを電子メールによって通知した。
(3) 2008年11月6日 適式性の確認
  センターは、申立書が社団法人日本ネットワークインフォーメーションセンター(J
 PNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、JPドメイン名紛争処理方針のた
 めの手続規則(規則)、及び、JPドメイン名紛争処理方針のための補則(補則)の形
 式要件を充足するか否かを確認したところ、委任状が原本でないことを発見し、同日、
 委任状の原本の提出を申立人に求め、翌7日に委任状の原本を受領した。
(4) 2008年11月10日 手続開始日
  センターは、登録者に対し、郵送及び電子メールにより、申立通知書及び申立書を送
 付した。なお、登録者のファクシミリ番号が不明であったため、ファクシミリによる送
 信は不能であった。また、郵送による登録者への申立書及び申立通知書は、宛名不完全
 または宛先不明として返送された。以下、登録者に対する書類の送付方法とその送付結
 果は同じである。
(5) 2008年12月9日 答弁書提出期限
  登録者は答弁書を提出しなかった。翌日、センターは、当事者に対し、答弁書不提出
 通知書を送付した。
(6) 2008年12月16日 紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知日
  センターは、単独パネルとして竹田稔氏を選任するとともに、同日、裁定予定日を当
 事者並びにJPNIC及びJPRSに通知した。また、センターは、翌17日に竹田稔
 氏より宣言書を受領した。当初の裁定予定日は、2009年1月14日であった。
(7) 2008年12月19日 申立人に対する陳述・書類の追加提出要請書の発送
  パネルは、規則第12条に基づき、申立人に対して陳述・書類の追加提出を求めたた
 め、センターは、陳述・書類の追加提出要請書を申立人に発送し、その写しを登録者に
 送付した。追加提出期限は、2009年1月16日であった。
 それに伴い、センターは、裁定期限を2009年2月13日とする裁定期限延長通知
 書を当事者並びにJPNIC及びJPRSに発送した。
(8) 2008年12月24日 申立人による上申書の提出
  申立人は、センターに対し、追加提出期限を1月30日まで延長して欲しい旨の上申
 書を提出し、パネルは、これを認めた。同日、センターは、裁定期限の(再)延長通知
 書を当事者並びにJPNIC及びJPRSに発送した。
 裁定予定日は、2009年2月27日である。



(別紙目録)
① 登録番号 第5104884号
  登録日 平成20年1月18日
  登録商標 CAVALLI

② 登録番号 第4934440号
  登録日 平成18年3月10日
  登録商標
            
JUST cacalliロゴ

③ 国際登録番号 第744720号
  登録日 平成14年11月22日
  登録商標
            
JUST cacalliロゴ

④ 登録番号 4419813号
  登録日 平成14年11月22日
  登録商標
            
roberto caclliロゴ

⑤ 登録番号 4396518号
  登録日 平成12年6月30日
  登録商標
            
roberto caclliロゴ

⑥ 登録番号 4341211号
  登録日 平成12年2月2日
  登録商標
            
roberto caclliロゴ

⑦ 登録番号 4529155号
  登録日 平成13年12月14日
  登録商標
            
roberto caclliロゴ

⑧ 登録番号 5114149号
  登録日 平成20年2月29日
  登録商標
            
roberto caclliロゴ

⑨ 国際登録番号 790550号
  登録日 平成15年6月13日
  登録商標
            
roberto caclliロゴ

⑩ 国際登録番号 737870号
  登録日 平成13年8月24日
  登録商標
            
roberto caclliロゴ

⑪ 国際登録番号 867164号
  登録日 平成19年1月26日
  登録商標
            
roberto caclli serpentineロゴ