事件番号:JP2009-0002 裁 定 申立人(その1): (名称)NSA, LLC (住所)アメリカ合衆国テネシー州コリアービル市クレセント通り140番地 申立人(その2): (名称)NSA Asia, LLC (住所)アメリカ合衆国テネシー州コリアービル市クレセント通り140番地 申立人NSA, LLC及び申立人NSA Asia, LLC代理人: 弁護士 岩瀬吉和 弁護士 諏訪公一 登録者 (名称)株式会社エヌエスエージャパン (住所)東京都中央区日本橋三丁目15番7号 登録者代理人:弁護士 戸谷雅美 弁護士 村川耕平 弁護士 木下聡子 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(「処理方 針」)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(「手続規則」)及び日本知的財産仲 裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立 書・答弁書・紛争処理パネルの手続規則第12条に基づく要請に応じて提出された書面・ 申立人ら及び登録者の提出した証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 申立人らの申立て(移転請求)を棄却する。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「NSA-JAPAN.CO.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人NSA, LLC及び申立人NSA Asia, LLCの主張の要旨 (1)登録者のドメイン名が、申立人らが権利又は正当な権利を有する商標その他表 示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること ア NSA International Inc.は、商標「nsa」につき登録第2439724号、第4 124038号、第4146932号及び第4196669号商標権を保有して いた。 NSA Inc.(2005年2月までの商号はNational Safety Associates Inc.)は、 2004年12月に、NSA International Inc.を吸収合併した。さらに、申立人 NSA, LLCは、2006年4月に設立され、NSA Inc.を吸収合併した。よって、 申立人NSA, LLCは、 NSA International Inc.が有していた権利義務関係を全 て(上記商標権を含む。)承継した。 申立人NSA Asia, LLCは、アジア地域における申立人NSA, LLCの事業を統 括している。 イ 登録者は、ドメイン名「NSA-JAPAN.CO.JP」(「本件ドメイン名」)をJPR Sに登録している。 ウ 本件ドメイン名の要部は、「NSA-JAPAN」であり、申立人らの商標「nsa」と比 較すると、NSAにJAPANという国名を付しただけのものであることから、そ の要部について同一である。したがって、本件ドメイン名は、申立人らの商標と 混同されるおそれが極めて高い。 (2)登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと ア 登録者は、NSA International Inc.との間で、平成12年(2000年)9月 15日付けで代理店契約(「2000年契約」)を締結し、申立人らの健康補助食 品食品「ジュースプラス」の日本国におけるマスターディストリビューターとな った。その後、登録者は、NSA International Inc.との間で、平成14年(20 02年)12月16日付けで修正代理店契約(「2002年契約」)を締結した。 しかし、登録者は、2002年契約4.3条に規定される最低購入金額分の製 品購入義務(「最低購入義務」)を、第2年度(平成15年12月16日から平成 16年12月25日まで)以降、履行しなかった。最低購入義務違反は、200 2年契約18.1条により解約事由とされており、申立人NSA, LLCは、30 日前の事前の通知をして、2002年契約を解約することができる。 そこで、申立人NSA, LLCは、登録者に対し、平成20年6月19日に、第 5年度(平成18年12月16日から平成19年12月25日まで)の最低購入 義務を履行するよう通知し、平成20年8月20日に、2002年契約を解約し た。 イ 登録者は、NSA International Inc.及びその承継人である申立人NSA, LLCが 食品衛生法に違反した製品を納入した結果、最低購入義務を履行できなくなった のであり、当該義務違反には申立人らの側に帰責性があると主張する。しかし、 食品衛生法違反の問題は、最低購入義務に影響を及ぼすものではない。 (ア) 2002年契約5条で申立人NSA, LLCが保証すべき瑕疵 2002年契約5条では、NSA International Inc.が保証すべき瑕疵は、① 4.6条により認められた瑕疵及び②当事者の合意により基準等に適合しない とされた瑕疵であると規定されている。さらに5条では、①又は②以外の瑕疵 の保証は排除されている。 上記①で引用される4.6条は、登録者が行った検査により発見される瑕疵 について述べたものである。登録者の主張する食品衛生法違反は、登録者が行 った検査によって発覚したものではないから、①の要件に該当しない。さらに、 ②の要件に関し、NSA International Inc.及び登録者が合意した事実は存在し ない。 したがって、登録者の主張する食品衛生法違反は、NSA International Inc. の承継人である申立人NSA, LLCが2002年契約で保証すべき瑕疵ではな い。 (イ) 2002年契約5条違反の救済 仮に、食品衛生法違反の問題が2002年契約5条の瑕疵に該当するとして も、2002年契約で登録者が受けられる救済は、瑕疵ある製品の修繕又は交 換という方法のみであり(2002年契約5条)、最低購入義務には影響がな い。 (ウ) 解約権行使の有効性 申立人NSA, LLCは、最低購入義務違反の発生後、直ちに解約権を行使し たわけではなく、話合い及び警告の上、解約権を行使したものである。また、 2002年契約の準拠法はテネシー州法であり、2002年契約の最低購入義 務が日本の食品衛生法によって影響を受けるものではない。 (エ) Gummies 及びCompletesタイプの「ジュースプラス」製品 登録者は、各種「ジュースプラス」製品(「ジュースプラス」製品にはCapsules, Gummies及びCompleteなどのタイプがある。)のうちGummies 及び Completesタイプの販売中止により、登録者による総売上が急減したと主張 する。 しかし、平成16年において、登録者の購入量に占めるGummies 及び Completesタイプの割合は、いずれも4%以下にすぎない。 (3)登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること 登録者は、本件ドメイン名を、「www.nsa-japan.co.jp」という形で登録者のサ イトに使用している。 需要者は、本件ドメイン名から、登録者のサイトを申立人らのグループの日本 における公式サイトと誤認混同するおそれがある。登録者は、かかる需要者に対 して健康補助食品「ジュースプラス」を販売することにより、商業上の利益を得て いる。 b 登録者主張の要旨 (1)登録者のドメイン名が、申立人らが権利または正当な利益を有する商標その他 表示と同一又は混同を引き起こすほど類似している、との申立人ら主張に対する反 論 登録者が、平成12年に、申立人ら主張の目的にて設立されたこと、本件ドメイ ン名をJPRSに登録していること、本件ドメイン名が「NSA」という表示を含むこ とは認め、その余は不知、否認又は争う。 (2)登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していない、と の申立人主張に対する反論 ア 登録者は、NSA International Inc.と2000年契約を締結し、NSA International Inc.の製造販売する各種「ジュースプラス」製品の日本におけるマ スターディストリビューターとなり、2000年契約に基づき、JPRSに本件 ドメイン名を登録した。さらに、登録者は、2000年契約を修正した2002 年契約締結後も、2002年契約に基づいて、問題なく各種「ジュースプラス」 製品の販売を行ってきた。 以上のとおり、登録者は、本件ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者又は紛 争処理機関から通知を受ける前に、各種「ジュースプラス」製品の提供及び販売を、 2000年契約及び2002年契約に基づいて、正当な目的をもって行うために、 本件ドメイン名を使用していたものであり、本件ドメイン名に関する権利又は正 当な利益を有している。 さらに、本件ドメイン名(「NSA-JAPAN.CO.JP」)と登録者の商号(「株式会 社エヌエスエージャパン」)とは、「NSA-JAPAN」と「エヌエスエージャパン」の 部分が一致しているため、登録者に権利又は正当な利益が認められるべきである。 イ 登録者が2002年契約の最低購入義務を履行できなかった原因は、申立人ら にある。自ら帰責性を有する申立人らからの解約の主張は認められない。 (ア) ジュースプラス製品につき食品衛生法違反の事実の公表がなされたこと (A) 「ジュースプラスベジタブルブレンド」及び「ジュースプラスフルーツブ レンド」のソルビン酸混入の公表 NSA International Inc.は、登録者に対し、平成16年、2002年契約 に基づく製品として、ソルビン酸が混入した「ジュースプラスベジタブルブ レンド」及び「ジュースプラスフルーツブレンド」を納入した。かかる製品は、 食品衛生法11条に違反するものであったため、成田空港検疫所長により 当該違反が指摘されるとともに、東京都中央区及び厚生労働省のHPにお いても、食品衛生法違反の製品として「ジュースプラスベジタブルブレン ド」及び「ジュースプラスフルーツブレンド」の名称が公表されるに至った。 ソルビン酸が混入した製品の納入があった平成16年夏ころ以降、各種 「ジュースプラス」製品の総売上高は、一貫して減少傾向を辿った。 (B) 「JUICEPLUS VANILLA COMPLETE」にフィトナジオンが使用され た旨の公表及び報道 NSA International Inc.の地位を承継したNSA, Inc.は、登録者に対し、 平成17年、2002年契約に基づく製品として、フィトナジオンが使用 された「JUICEPLUS VANILLA COMPLETE」を納品した。かかる製品は、 食品衛生法10条に違反するものであったため、成田空港検疫所長により 当該違反が指摘されるとともに、厚生労働省のHPにおいても、食品衛生 法違反の製品として「JUICEPLUS VANILLA COMPLETE」の名称が公表 されるに至った。 さらに、雑誌「AERA」の平成19年9月10日号において、「最近の約2 年間で食品衛生法違反が見つかった輸入健康食品の一覧」中に、 「JUICEPLUS VANILLA COMPLETE」がフィトナジオンを含有している 事実が指摘された。 (C) 小括 NSA International Inc.及びその承継人は、登録者に対し、法令に適合す る製品のみを販売する義務を負っていたところ、食品衛生法に違反する製 品の納品は、当該義務の違反に当たる。そして食品衛生法違反の事実の公 表及び報道により、各種「ジュースプラス」製品の売上が減少し、同製品に 対する信用も失われ、ひいては、登録者が最低購入義務を履行することも できなくなった。最低購入義務の不履行は、申立人らの責めに帰すべきも のである。 (イ) Gummies 及びCompletesタイプの「ジュースプラス」製品の販売中止 (A) Gummies NSA International Inc.又はその承継人は、登録者に対し、平成17年5 月、Gummiesタイプの「ジュースプラス」製品について、日本の法令上許可 されていない成分が含まれていたとの趣旨で、既出荷の製品の返送を依頼 した。登録者は、これを受け、当該製品を返送した。 平成17年5月以降、NSA International Inc.又はその承継人は、登録者 に対し、Gummiesタイプの「ジュースプラス」製品の販売を行わなくなった。 (B) Completes 「JUICEPLUS VANILLA COMPLETE」がフィトナジオンを含有してい る事実の発覚後(上記(ア)(B))、NSA International Inc.又はその承継人は、 登録者の求めにもかかわらず、誠意ある対処を採らなかった。平成18年 3月以降、NSA International Inc.又はその承継人は、登録者に対する Completesタイプの「ジュースプラス」製品の販売を中止した。 (C) 小括 「ジュースプラス」製品のうち、Capsules、Gummies及びCompleteの3 タイプは、いわゆる売れ筋の製品であり、そのうち2タイプの販売が行わ れなくなったことにより、登録者による各種「ジュースプラス」製品の総売 上総額は、大きく落ち込むことになった。 ウ 背景事情 申立人NSA, LLCが2002年契約の解約通知に至った背景には、Oak Hill Capital Partnersとの合意が影響していると推測される。 申立人NSA, LLCは、Oak Hill Capital Partnersに対し、平成18年、その 持株を売却し、その際の条件として、日本における「ジュースプラス」ビジネスを 展開する権利をOak Hill Capital Partnersに対し譲渡することが含まれていた 可能性が高い。 (3)登録者のドメイン名が不正の目的で登録又は使用されている、との申立人主張 に対する反論 登録者は、2000年契約及び2002年契約に基づいて、正当に各種「ジュー スプラス」製品を販売するため、本件ドメイン名を登録又は使用している。 5 争点及び事実認定 (1)本件ドメイン名と申立人らが権利又は正当な利益を有する商標その他表示との同 一性又は類似性(処理方針第4条a(i)) ア 申立人らの商標 (ア) 甲1、甲4の1ないし4及び陳述の全趣旨より、NSA International Inc.が 商標「nsa」につき登録第2439724号、第4124038号、第41469 32号及び第4196669号商標権を保有していたこと、NSA, Inc(200 5年2月以前の商号はNational Safety Associates Inc.)がNSA International Inc.を、申立人NSA, LLCがNSA, Incを順次吸収合併し、それぞれの地位を承 継したことが認められ、これによれば、現在、申立人NSA, LLCが「nsa」につき 上記商標権を保有していることが認められる。 (イ) 甲1及び甲2によれば、申立人NSA, LLCは、健康補助食品「ジュースプラ ス」製品を製造販売を業とする会社であり、日本を含むアジア地域における同事 業の統括を申立人NSA Asia, LLCに委ねていることが認められる。これによれ ば、申立人NSA Asia, LLCは、日本において商標「nsa」につき正当な利益を有 するものと認められる。 イ 本件ドメイン名と商標「nsa」との同一性又は類似性 本件ドメイン名のうち「NSA-JAPAN.CO.JP」では、「JP」は、日本の国別コード を示すトップレベルドメインであり、「CO」は、組織種別コードを示すセカンドレ ベルドメインであるから、いずれも特段の識別力を有するものではない。サードレ ベルドメインは、「NSA」と「JAPAN」がハイフンで結合されたものであり、 「JAPAN」は、国別コードからも明らかであるとおり、日本との関係を示すものに すぎない。したがって、識別力を有する要部は、「NSA」である。 「NSA」と申立人NSA, LLCの保有する上記商標とを比較すると、大文字と小文 字の相違があるにすぎず、字体が相違するとしても、称呼は一致する。 したがって、本件ドメイン名は、申立人NSA, LLCが保有し申立人NSA Asia, LLCも正当な利益を有する商標と混同を引き起こすほど類似していると認められ る。 (2)登録者の本件ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益の存否(処理方針 第4条a(ii)) ア 争いのない事実等 申立人ら及び登録者の陳述及び証拠より、以下の事実が認められる。 (ア) 登録者は、NSA International Inc.との間で、2000年9月15日付けで2 000年契約(甲5)を締結し、健康補助食品「ジュースプラス」の日本国におけ るマスターディストリビューターとなった。その後、登録者は、NSA International Inc.との間で、2002年12月16日付けで上記2000年契 約を修正し、2002年契約(甲6)を締結した。 (イ) 2002年契約4.3条(「最低購入要件」)には、登録者の最低購入義務が規 定されており、第5年度(平成18年12月16日から平成19年12月25日 まで)において、登録者は、最低でも100万米ドル分の「ジュースプラス」製品 を購入する義務を負っていた。2002年契約18.1条(「NSAIによる解 約」)の(a)には、登録者の最低購入義務違反が解約事由として記載されてい た。18.1条柱書では、登録者が18.1条(a)の義務に違反する場合、 NSA International Inc.は、30日前の事前の通知により、義務違反を治癒する 機会を与え、その期間内に義務違反が治癒されない場合には、NSA International Inc.が2002年契約を解約する権利を有すると定められていた(以上につき、 甲6)。 2002年契約5条(制限付き保証及び免責)では、NSA International Inc. が、①4.6条により瑕疵ありと決定される製品又は②既存の適用可能な製造者 保証、仕様及び/又は基準に適合しないと両当事者で決定された製品を修繕又は 交換することのみを保証する旨、さらに、NSA International Inc.は、5条で定 めるものを除き、明示又は黙示を問わず、製品に関してどのような形で発生しよ うとも、他の一切の保証を拒絶する旨、定められていた。そして、5条で引用さ れる4.6条(「製品の検査」)は、登録者は、引き渡された製品を検査する合理 的な時間(ただし、引渡日から6月を超えないものとする。)を有するものとし、 当該検査期間中にエヌエスエーが製品に瑕疵ありと決定する場合の対処方法を 規定するものであった(以上につき、甲6)。 2002年契約では、2002年契約上の紛争解決のために仲裁条項が規定さ れており(30条)、仲裁廷は、テネシー州法にしたがって紛争の事項を決定す るものとされていた(30.1条)。 (ウ) NSA International Inc.の2002年契約上の地位は、NSA, Inc(2005 年2月以前の商号はNational Safety Associates Inc.)に承継され、次いでNSA, Incの地位は、申立人NSA, LLCに承継された(甲1)。 (エ) NSA International Inc.は、登録者に対し、平成16年ころ、NATURAL ALTERNATIVES INTERNATIONALをして、2002年契約に基づく製品と してソルビン酸が混入した「ジュースプラスベジタブルブレンド」及び「ジュース プラスフルーツブレンド」を納品させた(乙5ないし7)。このソルビン酸の混入 は、食品衛生法第11条に違反するものであり、検疫の結果、成田空港検疫所長 により、平成16年9月5日、上記製品が食品衛生法に違反する旨の通知がなさ れた(乙5)。その後、「ジュースプラスベジタブルブレンド」及び「ジュースプラ スフルーツブレンド」にソルビン酸が混入した事実は、東京都中央区及び厚生労 働省のHPで公開された(乙6及び7)。 (オ) 申立人NSA, LLC((ウ)のとおり、NSA International Inc.の2002年契約 上の地位を承継した。)は、登録者に対し、平成17年ころ、NELLSON NUTRACEUTICALをして、フィトナジオンが使用された「JUICEPLUS VANILLA COMPLETE」を納品させた(乙8及び9)。フィトナジオンの食品へ の使用は、食品衛生法第10条に違反するものであり、検疫の結果、成田空港検 疫所長により、平成17年7月26日、上記製品が食品衛生法に違反する旨の通 知がなされた(乙8)。「JUICEPLUS VANILLA COMPLETE」にフィトナジオ ンが使用された事実は、厚生労働省のHPで公開され(乙9)、雑誌「AERA」平 成19年9月10日号でも報道された(乙10)。 (カ) 各種「ジュースプラス」製品の売上高は、平成16年夏ころまで、増加の傾向に あったが、それ以降、一貫して減少傾向を辿った。ただし、各月毎に売上高をプ ロットしたグラフは、平成16年夏ころ以降、総じてほぼ一定の傾きで減少して おり、特段の変曲点は見出されなかった(乙14)。 (カ) エヌエス-ジャパンは、第5年度(平成18年12月16日から平成19年1 2月25日まで)の最低購入義務に違反した(申立人らと登録者との間で争いが ない。)。 申立人NSA, LLCは、エヌエス-ジャパンに対し、平成20年(2008年) 6月19日、第5年度の最低購入義務を履行するよう通知した(甲11)。しか し、最低購入義務違反が治癒されることはなかった(申立人らと登録者との間で 争いがない。)。 そこで、申立人NSA, LLCは、2002年契約18.1条にしたがい、上記 通知から30日以上経過した同年8月20日、2002年契約を解約する意思 表 示をした(甲7)。 イ 争点 (ア) 処理方針第4条a(ii)の要件に関する争点は、エヌエスエージャパンによる第 5年度最低購入義務違反を理由とする申立人NSA, LLCの解約権の行使が有効 であるかどうかという点である。 登録者による第5年度最低購入義務違反は、2002年契約の文言上、申立人 NSA, LLCに解約権を発生させるものである。しかし、上記義務違反が申立人 NSA, LLCの責めに帰すべき事由によって生じている場合には、信義則上、かか る解約権の行使が有効として許容されるものではない。そして、解約権の行使が 有効でない場合には、2002年契約は依然として有効であるから、登録者は、 申立人NSA, LLCの提供する各種「ジュースプラス」製品のマスターディストリ ビューターであり、本件ドメイン名(NSA-JAPAN.CO.JP)について正当な利 益を有している。 (イ) 本件では、NSA International Inc.及びその承継人(申立人NSA, LLCを含 む。)が、登録者に対し、平成16年及び平成17年の2度にわたり、食品衛生 法に違反した「ジュースプラス」製品を納品したこと、食品衛生法違反の事実及び 違反した商品名が当局のHPで公表されたこと、平成17年のフィトナジオンの 使用については、平成19年7月ころに著名な雑誌「AERA」でも報道されたこと が認められる(上記ア(エ)及び(オ))。 その一方、各月毎に各種「ジュースプラス」製品の売上高をプロットしたグラフ は、平成16年夏ころ以降、総じてほぼ一定の傾きで減少しているものの、特段 の変曲点は見出し難い(上記ア(カ))。したがって、平成17年のフィトナジオン 使用の公表及び平成19年の報道が各種「ジュースプラス」製品の売上高の減少 にどの程度寄与したのか、定量的な評価は困難である。さらに、平成16年のソ ルビン酸混入が当局のHPで公表された時期は、成田空港検疫所からの食品衛生 法違反通知書(乙6)の日付である平成16年9月15日以降と認められるとこ ろ、売上高がピークアウトした平成16年夏ころとは、厳密に一致しているわけ ではない。したがって、平成16年のソルビン酸混入の公表が売上高のピークア ウトに寄与した程度についても、定量的な評価は困難である。 (ウ) しかし、消費者が食の安全に高い関心を有している今日では、食品衛生法 に違反する態様で食品に化学物質が使用されているという事実は、その化学物質 及び使用量が実際に健康被害をもたらすものであるか否かはともかく、消費者が 当該食品の購入を取り止める重要な要素というべきであり、「ジュースプラス」 製品などの健康補助食品の需要者は、とりわけ食の安全に対する関心が強いはず であるから、食品衛生法違反の事実が売上の減少に及ぼす影響は重大といえる。 本件において、第5年度(平成18年12月16日から平成19年12月25 日まで)に近接した平成16年及び平成17年の二度にわたり、NSA International Inc.及びその承継人(申立人NSA, LLC)を含む。)が、食品衛生 法に違反した「ジュースプラス」製品を納品し、その事実が公開されているのみな らず、後者については、第5年度中に著名な雑誌「AERA」でも報道されているこ とから、消費者の各種「ジュースプラス」製品に対する購入意欲が相当程度に失わ れたと認められる。これらの事情に照らし、食品衛生法違反の事実並びにその公 表及び報道が売上の減少に寄与した程度は、相当程度に大きいものであったと推 認できる。 (エ) 申立人らは、上記食品衛生法違反は、2002年契約でNSA International Inc. が保証した瑕疵には該当せず、仮に該当するとしても、最低購入義務違反に影響 を及ぼすものではないと主張するので、これらの点について検討する。 (A) 2002年契約5条でNSA International Inc.が保証した瑕疵 2002年契約において、NSA International Inc.の保証すべき瑕疵は、① 4.6条により瑕疵ありと決定される製品又は②既存の適用可能な製造者保証、 仕様及び/又は基準に適合しないと両当事者で決定された製品の瑕疵に限定 されている。そして、4.6条は、登録者による検査によって瑕疵が発見され た場合の規定である。本件では、平成16年及び平成17年の食品衛生法違反 のいずれも、成田空港検疫所の検疫によって発見されたものであり、登録者が 直接に検査を行ったわけではない。 しかし、2002年契約4.6条の趣旨は、製品の引渡しから長期間経過し た後に瑕疵が発見された場合であっても、NSA International Inc.がその対処 を迫られるとすると、大きな負担を負うことになるため、瑕疵を発見するため の検査期間を制限したものと解するのが相当である。この趣旨に照らし、登録 者による直接の検査のみならず、信頼すべき第三者が行った検査も、4.6条 における検査といえる。 しかも、食品の輸入に際し空港及び海港で検疫検査が行われることは、食品 の輸出入に携わる者が当然に知っているべき事実である。検疫は、輸入者が食 品を実際に入手する前に行われるのだから、輸入者は、自ら検査を行う前に、 その結果を入手することになる。かかる状況の下では、輸入者が、検疫と同じ 検査を再度繰り返すことなく、検疫所という公的機関の行った結果を信頼でき るものとして、これに従う場合、特段の事情のない限り、これを輸入者による 検査と同視すべきである。 したがって、平成16年及び平成17年に成田空港検疫所の検疫によって判 明した食品衛生法違反は、2002年契約4.6条により決定された瑕疵とい うべきであり、かかる瑕疵のある製品は、2002年契約5条の保証の対象と 認められる。 (B) 2002年契約5条違反の救済 2002年契約では、5条違反の救済方法は、瑕疵ある製品の修繕又は交換 に限られている。したがって、瑕疵ある製品の各々についての救済は、その修 繕又は交換に限られ、別途の損害賠償等が認められるわけではない。 しかし、2002年契約5条は、①4.6条によって瑕疵ありと決定される 製品又は②既存の適用可能な製造者保証、仕様及び/又は基準に適合しないと 両当事者で決定された製品、つまり個別の瑕疵ある製品の救済を規定したもの であり、取引全体を対象とするものとは認められない。そして、最低購入義務 は、個別の瑕疵ある製品ではなく、取引全体に及ぶものである。 したがって、製品の供給者において、消費者が購入を取り止めるような瑕疵 を発生させ、販売店による最低購入義務の履行を妨げてもなお、最低購入義務 に違反したことを理由に解約権の行使を有効と認めることは、継続的商品供給 契約である本件契約の趣旨に照らし、信義則上、相当ではない。 申立人らは、食品衛生法違反が5条の瑕疵に該当するとしても、4.3条の 最低購入義務は免除又は軽減されるものではなく、また、準拠法であるテネシ ー州法上、日本の食品衛生法の問題によって4.3条の最低購入義務は影響を 受けないと主張する。しかし、前述のとおり、最低購入義務違反の修正が問題 とされているのではなく、解約権の行使が信義則上有効と認められるのかが問 題とされているのであるから、申立人の主張は採用できず、他にテネシー州法 において、上記の事実関係の下においてもなお解約権の行使が有効であるとす る根拠を申立人らは主張立証しない。 (C) 小括 以上のとおり、2002年契約5条によっても、平成16年及び平成17年 の食品衛生法違反について、NSA International Inc.及びその承継人の帰責性 が否定されるものではない。 (オ) 以上の事実によれば、本件において、2002年契約が有効に解約されたと までは、にわかにいうことができず、「登録者が、当該ドメイン名に関係する権 利または正当な利益を有していない」(紛争処理方針第4条a(ii))とは認められ ない。 (3)本件ドメイン名の登録又は使用における不正目的の存否(処理方針第4条a(iii)) ア 争いのない事実 登録者は、申立人NSA, LLCによる平成20年8月20日付けの2002年契 約を解約する旨の意思表示(甲7)の後も、本件ドメイン名の使用を継続している。 イ 争点 申立人らの主張は、登録者が、2002年契約の解除により、申立人NSA, LLC の提供する各種「ジュースプラス」製品のマスターディストリビューターとしての 地位を失ったことを根拠としていると解される。他方、登録者は、2002年契約 に基づいて本件ドメイン名を使用している旨の主張をしている。したがって、第4 条a(iii)の要件の争点も、第4条a(ii)の要件と同様に、登録者による第5年度最低 購入義務違反を理由とする申立人NSA, LLCの解約権の行使が有効と認められる かどうかという点にある。 そして、第4条a(ii)の要件について前述した理由によれば、本件ドメイン名の 登録又は使用が処理方針第4条b(i)ないし(iv)の事情に当たるとはいえないし、そ の他「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で使用されている」(第4条a(iii)) とする事実は認められない。 6 結論 以上に照らし、紛争処理パネルは、登録者が、ドメイン名「NSA-JAPAN.CO.JP」につ いて権利又は正当な利益を有していないとはいえず、上記ドメイン名が不正の目的で使 用されているともいえないと判断する。 よって、処理方針第4条a(ii)及び(iii)の要件が充足されないため、申立人らの申立て (移転請求)は理由がなく、これを棄却することとし、主文のとおり裁定する。 2009年6月2日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 牧野利秋 単独パネリスト 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 電子メール 2009年3月17日 書面 2009年3月19日 (2)手数料受領日 2009年3月31日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2009年3月24日 JPRSへ照会 2009年3月24日 JPRSから登録情報の確認 確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること (4)適式性 日本知的財産仲裁センターは、2009年4月1日に申立書が処理方針と規則に照 らし適合していることを確認した。 (5)手続開始日 2009年4月2日 手続開始日の通知 2009年4月2日 申立人らへ通知(電子メール、ファクシミリ及び郵送) (6)登録者への通知日及び内容 1) 2009年4月2日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2009年5月1日 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 登録者より2009年5月1日に答弁書が提出された(電子メール)。 書面は2009年5月7日に受領。 (8)パネリストの選任 2009年5月13日 申立人らは1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 中立宣言書の受領日:2009年5月15日 パネリスト:牧野 利秋 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2009年5月13日 JPNIC及びJPRSへ通知(電子メール) 申立人及び登録者へ通知 (電子メール、ファクシミリ及び郵送) 裁定予定日:2009年6月2日 (10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2009年5月13日(電子メール及び郵送) (11)求釈明 センターは、パネリストの要請により、2009年5月18日に、申立人らおよび 登録者に対してそれぞれに対する釈明事項を示し、主張・立証のための陳述・書類の 追加を求めた(2009年5月22日期限)。これに対して、2009年5月22日、 申立人らから「追加主張書面」を、登録者から「釈明事項に対する回答書」を、それ ぞれ受領した(電子メール)。なお、各書面はいずれも同月25日に受領。 (12)最終主張 センターは、パネリストの要請により、2009年5月25日に、申立人らに対し ては登録者の求釈明に対する「答弁書」、登録者に対しては申立人らの「追加主張書 面」をそれぞれ添付して、本件につき最終主張があれば電子ファイルにて2009年 5月27日午前中に提出するよう求めた。これに対して、2009年5月27日午前 中に、申立人らから「最終主張書面」を、登録者から「釈明事項に対する回答書(2)」 を、それぞれ受領した(電子メール)。なお、各書面はいずれも2009年5月28 日受領。 (13)パネルによる審理・裁定 2009年6月2日 審理終了、裁定。