事件番号:JP2009-0008

裁 定

  申立人:
  (名称)株式会社オークネット
  (住所)東京都千代田区三番町8番1
  代理人:弁護士 上山 浩
      同   西本 強
      同   古谷友佳
  登録者:
  (名称)株式会社日本ドメイン
  (住所)神戸市灘区大和町三丁目2番12号


 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメ
イン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争
処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・申立人による平成
22年1月7日付反論書・登録者による平成22年1月21日付JPドメイン名紛争処理
方針に基づく反論書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定す
る。なお、申立人が提出した平成22年1月21日付反論書に関する取扱については、後
述のとおりである。


1 裁定主文
  ドメイン名「オークネット.jp」の登録を申立人に移転せよ
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「オークネット.jp」である(以下「本件ドメイン名」とい
う。)。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 申立書及び答弁書提出後に追加的に提出された書面と証拠の取扱いについて
 本件においては、申立書及び答弁書が提出された後、申立人は平成22年1月7日付
反論書及び甲第13号証から甲第17号証を提出し、更にその後平成22年1月21日
付反論書を提出したが、これらの主張書面及び証拠はパネルの陳述及び証拠の追加要請
(JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」という。)12条
参照)に基づくものではない。
   この点、JPドメイン名紛争処理においては、両当事者が平等に扱われ、各当事者の
それぞれの立場を表明する機会が公平に与えられること(手続規則10条(b)参照)
及び簡易迅速な処理(手続規則10条(c)参照)が求められ、パネルに適正と思われ
る方法で手続を実施し(手続規則10条(a)参照)、証拠の証拠能力、関連性、証明
力の決定を求められている(手続規則(d)参照)。
   このようなJPドメイン名紛争処理の趣旨及びパネルに与えられた権限からすると、
パネルの陳述及び証拠の追加要請に基づかない主張書面及び証拠の取扱については、当
事者の公平な取扱いに留意しつつも、迅速な手続進行にも配慮して、その採否はパネル
の裁量に任されているといえる。
   本件では、パネルは申立人が提出した平成22年1月7日付反論書及び甲第13号証
から甲第17号証についてはその提出を認め、その上で平成22年1月12日付で登録
者に対して同反論書に対する再反論の提出を求め、登録者は平成22年1月21日付で
JPドメイン名紛争処理方針に基づく反論書及び乙第18号証から乙第24号証を提
出した。このため、これらの主張書面及び証拠についてはその提出を認める。
   しかし、申立人が提出した平成22年1月21日付反論書については、その提出を認
め、更に当事者間の公平を失しないように登録者に対して再々反論の機会を与えるとい
うことになると、迅速な手続処理というJPドメイン名紛争処理の趣旨に反することに
なりかねない。
   このため、申立人による平成22年1月21日付反論書についてはその提出を認めな
い。

5 当事者の主張の要旨
 a 申立人
   登録者は、平成21年1月28日、本件ドメイン名をJPRSに登録し、インター
  ネットサイト(以下「本件登録者サイト」という。)を立ち上げた。
   本件ドメイン名がJPドメイン紛争処理方針4条a項の定める要件に該当するこ
  とは次のとおりである。
  (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること。
    申立人は、平成21年4月28日に「オークネット.jp」(以下「本件商標」
   という。)の商標登録の出願を行い、同年10月9日、商標登録された。本件にお
   いて、登録者の有する「オークネット.jp」という本件ドメイン名は、申立人の
   本件商標の「オークネット.jp」とまったく同じ字句により構成されており、申
   立人の商標と同一である。
    また、登録者の「オークネット.jp」という本件ドメイン名のうち、「jp」
   という部分は、日本の国別コードを示すトップレベルドメインであるから、特段の
   識別力を有するものではない。したがって、本件ドメイン名の識別力を有する要部
   は、「オークネット」という部分である。
    この点、本件ドメイン名の要部は、申立人の商号「オークネット」をそのまま
   用いているのみならず、申立人が運営する「aucnet.jp」というサイトの
   「aucnet」という部分をカタカナ表記しただけのものである。
    さらに、申立人は、登録者が本件ドメイン名を登録した平成21年1月28日
   より前に、その商号と同一の「オークネット」という商標を7種類、登緑している
   ところ、本件ドメイン名の要部は、申立人の「オークネット」という7種の登録商
   標と「同一」である。
    したがって、本件ドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する商標
   その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似しており、JPドメイン紛争処
   理方針4条a(ⅰ)の要件を充足する。

  (2) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
   ア 登録者は、本件ドメイン名に関する権利を有していないこと
     登録者は、本件ドメイン名に関して、何らの正当な権利を有していない。
      また、申立人と登録者との間には、一切の資本関係、取引関係、業務提携関
     係は存在せず、また、申立人は登録者に対し、過去および現在において、本件
     商標の使用を許諾したことはない。

   イ 登録者は、申立人の商標その他の表示を利用して、消費者の誤認を引き起こす
    ことにより商業上の利得を得る意図を持って、本件ドメイン名を使用している
    ① 登録者は、本件ドメイン名の登録時に申立人の商号その他の表示を認識し
     ていた
      登録者が、申立人の中古車情報サイトの存在及びその知名度を十分に認識
     した上で、「オークネット.jp」という日本語ドメイン名を取得したことは
     明らかである。
      申立人は、「株式会社オークネット」の商号のもと、昭和57年に設立さ
     れ、昭和59年に中古車オークション業界にネットワーク型オークションで
     あるテレビオートオークションを投入し、通信衛星を利用した事業者向けオ
     ークションを運営してきた。
      申立人は、中古車オークション業界では最大手であり、その著名度は極め
     て高い。申立人は、平成20年の年間全国オークション実績において、平均
     出品量第8位、系列別平均出品量第7位、平均成約単価11位、テレビ・ネッ
     トAA地区第1位の実績を有している。
      また、申立人は、平成19年7月6日には、「aucnet.jp」という
     ドメイン名で、 中古車オークションサイトを立ち上げており、当該サイトへ
     のアクセス数は、本件ドメイン名の登録完了日以前の平成21年1月27日
     時点で既に一日のアクセス数約1万2千人、月間累計アクセス数36万人を
     超えている。
      よって、本件ドメイン名登録時には、既に「オークネット」という申立人
     の商号はもちろん、「aucnet.jp」という名称自体が著名なものにな
     っており、「aucnet.jp」について申立人が有している商標権や過去
     および現在にわたり行なっている活動、さらには、中古車情報サイト「オー
     クネット」の日本における著名性(特にインターネット分野における高度の著
     名性)から考えて、本件ドメイン名を取得しようとした登録者が、その登録時
     に申立人の中古車情報サイトの存在及びその知名度を知らなかったというこ
     とは経験則上あり得ない。

    ② 本件ドメイン名を用いた登録者のサイト(以下「本件登録者サイト」とい
     う。)は、マックスビジョンが運営するサイトの「呼び込みサイト」に過ぎ
     ない
      登録者の「オークネット.jp」というドメイン名は、申立人の商号「オー
     クネット」をそのまま用いている。
      また、「オークネット.jp」というドメイン名は、申立人が運営する「a
     ucnet.jp」というサイトの「aucnet」という部分をカタカナ表
     記しただけのものである。
      さらに、「オークネット」という名称は、一般名称ではなく、申立人によ
     る「造語」である。かかる「造語」を偶然にも登録者において「思いついた」
     などということは、経験則上、あり得ない。
      加えて、登録者は、「オークネット」というキーワードを用いて消費者が
     Yahoo等の検索エンジンで検索した場合、検索結果の画面において、本
     件登録者サイトが上位に表示されるような「仕組み」を用いている。
      つまり、登録者が、自らの事業とは無関係な「オークネット」というキー
     ワードによって、消費者を本件登録者サイトに呼び込もうとしているのであ
     る。
      しかるに、本件登録者サイトにおける記載内容、及び、同サイトからリン
     クされている登録者の代表取締役柳生雄寛が代表を務める「マックスビジョ
     ン」という団体のホームページにおいて、「オークネット」という文字は何
     らの意味も持っていない。
      また、本件登録者サイトには、「オークネット.jpは、MaxVisio
     nが企画運営しています。」として、自己開発、人脈構築等の記載があるが、
     マックスビジョンホームページへのリンク以外には、意味のある記載がない。
      本件登録者サイトにアクセスした者が、当該サイトだけを見ても、意味が
     理解できないことから、ほとんど必然的にこれにリンクされているマックス
     ビジョンのホームページへアクセスすることになる。
      登録者及びその代表者たる柳生雄寛は、その事業(自己啓発事業)とは全く
     無関係の「オークネット」という名称により、「マックスビジョン」という
     団体のホームページに消費者を呼び込もうとしているのである。
      現に、申立人の顧客及び従業員からは、検索サイトで「オークネット.JP」
     を検索したところ、本件登録者サイトに誘導されたことから、「申立人と関
     係のあるサイトなのか」等の問い合わせが相次いでいる。
      更に、「オークネット」という名称は、申立人の商号であるのみならず、
     申立人の行っている中古車オークション業界等や消費者の間では、申立人及
     び申立人が行っている事業の「代名詞」として高い知名度を持つものである。
      したがって、取引者及び需要者のみならず一般世人のうち、「オークネッ
     ト」といえば、申立人及び申立人の事業を想起する者も多く、申立人及び申
     立人の事業につき検索することを試みて、誤って本件登録者サイト及びマッ
     クスビジョンのサイトにアクセスしてしまうおそれは極めて高い。
      以上からすれば、本件ドメイン名は、取引者及び需要者のみならず一般世
     人をして申立人と登録者との間に関係があるものと誤認混同を生じさせるお
     それが極めて高いことは明らかである。

    ③ 登録者は、直近において、本件ドメイン名以外にも、消費者を誤認させ、
     自己の利益を図った「前歴」がある。
      登録者は、株式会社ドワンゴの提供する著名性の高いサービス「ニコニコ
     動画」に着目し、「ニコニコ動画.JP」というドメイン名を取得し、サイト
     を開設していたところ、ドワンゴから日本知的財産仲裁センターにJPドメ
     イン名紛争処理の申立てがなされ、日本知的財産仲裁センターから、平成2
     1年10月2日、ドメイン名「ニコニコ動画.JP」を株式会社ドワンゴに移
     転せよとの裁定を受けている。
      このように、登録者は、直近において、本件ドメイン名以外にも、消費者
     を誤認させ、自己の利益を図った「前歴」があるのである。

    ④ 登録者の主張に対して
     ⅰ 登録者が主張している先願主義が妥当するのは、全く同一のドメイン名
      を複数の者が取得しようとした場面であるところ、本件は、申立人が「オ
      ークネット.jp」というドメイン名を取得しようとしているのではなく、
      登録者の本件ドメイン名の取得が処理方針の要件を充足することを理由に
      本件ドメイン名の移転を求めるものであって、先願主義が妥当する場面で
      はそもそもなく、登録者の上記主張は失当である。

     ⅱ 登録者は、本件ドメイン名と本件商標の登録の先後関係のみを問題とし
      ているが、これも大きな誤りである。
       申立人は、「オークネット」という商号を会社が設立された昭和57年
      3月11日より使用している。
       また、申立人は、「オークネット」という字句につき、本件ドメイン名
      が登録された平成21年1月28日より前に7種類の商標を登録している。
       さらに、申立人は、「aucnet.jp」というドメイン名を登録した
      平成19年7月以降、当該ドメイン名を用いたホームページにおいて、一
      貫して「オークネット.jp」という表示を用いて事業を展開してきた。す
      なわち、申立人は、本件ドメイン名又はその要部と同一の商号、商標及び
      表示を、登録者が本件ドメイン名を登録するはるか前の時点から、申立人
      のブランドを構成する中核的要素として、一貫して使用してきたのである。
       したがって、登録者が本件ドメイン名を本件商標より前に登録したから
      という理由で、登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益
      を有していることにはなり得ない。

     ⅲ 登録者は、「『多くのことをインターネットから学ぶ』という意味で『オ
      ーク(多く)ネット』と命名した」とし、かつ、本件登録者サイトは「一般
      公開するホームページではなく全国の大学生スタッフやOBスタッフ限定
      のサイトとして構築する計画」であるなどと主張する。
       しかし、本件登録者サイトが、真に40―60名のマックスビジョンの
      スタッフのために情報を提供するサイトなのであれば、わざわざ「オーク
      ネット.jp」といったマックスビジョンのサービスに全く無関係のドメイ
      ン名のサイトを開設したりはしない。
       また、スタッフなどの会社関係者用のサイトは、一般的には、「スタッ
      フはこちら」、「会員様はこちら」などとして当該会社のメインのホーム
      ページにリンクされる。会社関係者用サイトのドメイン名として当該会社
      と無関係なものが用いられたり、会社関係者用サイトが当該会社のホーム
      ページと全く無関係に独立して構築されることは常識的にはあり得ない。
       しかるに、本件登録者サイトは、登録者のビジネスとは全く無関係の「オ
      ークネット.jp」というドメイン名により、登録者のメインのホームペー
      ジとは全く独立した形で運営されている。
       また、マックスビジョンのスタッフは、マックスビジョン等のホームペ
      ージの存在は十分に認識していることから、本件登録者サイトがスタッフ
      専用のサイトなのであれば、これにマックスビジョン等のホームページを
      リンクする意味はない。
       にもかかわらず、登録者は、本件登録者サイトにおいて、マックスビジ
      ョンに関連するホームページを多数リンクしていたり、さらに、真に本件
      登録者サイトが「スタッフ専用」なのであれば、「オークネット.jp」や
      「オークネット」をキーワードとした検索結果において、本件登録者サイ
      トが上位でヒットするような仕組みを用いることは、全く無意味である。
      それよりも、スタッフの便宜を考えるならば、マックスビジョンのメイン
      のホームページにスタッフ専用のホームページをリンクするはずである。
       にもかかわらず、登録者は、敢えて本件仕組みを用いている。これは、
      逆にいえば、「オークネット.jp」というキーワードで検索したマックス
      ビジョンとは無関係の消費者が本件登録者サイトに訪れることを、登録者
      が企図していることの表れである。
       登録者は、甲10の記載からは本件仕組みを用いたということが認定で
      きないと主張するが、誤りである。甲10は、本件登録者サイトのhtm
      lテキストであり、このテキストに特定の字句が多く使用されれば使用さ
      れるほど、当該字句をキーワードとした検索結果において、当該サイトが
      上位にヒットするところ、登録者は、本件登録者サイトのhtmlテキス
      トにおいて敢えて「オークネット.jp」という字句を不必要かつ不自然に
      多く使用している。そして実際にも、「オークネット.jp」というキーワ
      ードで検索すると、本件登録者サイトが「オークネット.jp」という商標
      を用いて実際にビジネスを行っている申立人のホームページよりも上位
      (一番目)にヒットしていたのである。かかる事実こそが、登録者が本件仕
      組みを採用していたことの何よりの証左である。

     ⅳ また、登録者は、他社の会社名や商標などを日本語ドメイン登録し、「他
      社が気付いて取得してしまうと2度と手に入りません!」などと広告した上
      で、それを第三者に、当該ドメイン名の取得に直接かかった費用を大幅に
      上回る高額な金額でレンタルや売買を行っている。
       例えば、登録者は、「ニコニコ動画.tv」というドメイン名を月額2-
      5万円でレンタルしたり、「楽天.tv」というドメイン名を月額5万円以
      上でレンタルしたりしている。
       つまり、登録者は、日本語ドメイン名のレンタル等を業としている専門
      業者なのであり、「オークネット.jp」というドメイン名を取得するに際
      しては、当然、「オークネット」という表示を第三者がビジネスに使用し
      ていないかについて調査したはずであり、少なくとも本件ドメイン名を登
      録する時点では、申立人及び申立人のホームページの存在は認識していた
      はずである。

  (3) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
   ア 登録者は、自らの商業上の利得を得る目的で、インターネット上のユーザを、
    自ら及びマックスビジョンのウェブサイトに誘引しようとしている
     前記のとおり、登録者の「オークネット.jp」というドメイン名は、申立人
    の商号「オークネット」をそのまま用いている。また、「オークネット.jp」
    というドメイン名は、申立人が運営する「aucnet.jp」というサイトの
    「aucnet」という部分をカタカナ表記しただけのものである。
     さらに、登録者は、「オークネット」というキーワードを用いて消費者がY
    ahooなどの検索エンジンで検索した場合、検索結果の画面において、本件
    登録者サイトが上位に表示されるような「仕組み」を用いている。
     つまり、登録者が、自らの事業とは無関係な「オークネット」というキーワ
    ードによって、消費者を本件登録者サイトに呼び込もうとしているのは明白で
    ある。

   イ 登録者は、本件と同様の「前歴」もある確信犯であり、その悪質性は極めて高
    い
     平成21年10月2日、日本知的財産仲裁センターにおいて、申立人ドワン
    ゴと登録者マックスビジョンとの間におけるJPドメイン名紛争処理について、
    ドメイン名「ニコニコ動画.jp」の登録を移転せよとの裁定がなされた。
     この点、登録者とマックスビジョンは実質的に同一の主体(登録者とマック
    スビジョンの代表者は同一人物である)であり、近接した時期に、上記の事件
    と極めて酷似した「手口」で、本件ドメイン名を登録していることからすれば、
    登録者に、自らの商業上の利得を得る目的で、インターネット上のユーザを、
    自ら及びマックスビジョンのウェブサイトに誘引しようとしているといった不
    正の目的が認められるのは明らかである。
     また、登録者は、意図的に申立人と登録者との間に関係があるものと誤認混
    同を生じさせる恐れが極めて高い本件ドメイン名を登録し、本件登録者サイト
    を開設していることから、申立人の商標をドメイン名として使用できないよう
    に妨害するために本件ドメイン名を取得した可能性が高い(JPドメイン紛争
    処理方針4条b(ii))。
     さらに、本件の直前に本件と酷似する内容のJPドメイン名紛争処理の申立
    てがなされ、ドメイン名移転の裁定がなされていることをも考えると、登録者
    は、著名なサイトの名称等を次々に日本語ドメイン名として登録し、そのドメ
    イン名を販売、貸与又は移転することを目的として使用している可能性もある
    (JPドメイン紛争処理方針4条b(i))。

 b 登録者
   登録者が本件ドメイン名の登録を保有できる理由・根拠は、次のとおりである。
  (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること。
    登録者のドメイン名と、申立人が有する商標、商号及び「aucnet.jp」
   とが同一または類似していることは認める。
    しかし、登録者は以下に述べる理由から本件ドメイン名を取得し、申立人らが
   行っている事業内容とは異なる目的に使用してきたのであり、また、消費者らにお
   いて申立人の商標等と登録者の事業等とについて誤認混同は生じていない。
    登録者が主催している活動団体の組織名称などを考える際の思考パターンは、
   Maxvision(Max+Vsion)など二つの言葉を組み合わせる形が基
   本となっている。
    登録者は、MaxVisionという団体名称で、大学生や若手社会人向けに
   社会活動として「自己開発と人脈構築」をテーマとしたセミナー運営や勉強会を非
   営利(会場費など実費のみ参加者が負担するレベル)で開催しており、会場を借りて
   のリアルなセミナー運営だけでなく、そのリアルなセミナー講義の音声を録音した
   ものをインターネット上でも公開して自宅などで聞けるようにすることでより多
   くの大学生や若者に学びの場を提供しようと考え、インターネットを活用したセミ
   ナー音声を公開するサイトを2008年ごろから構築し始めた。セミナー音声には、
   無差別に一般公開できる内容のものと、企業名などが録音されているために一般公
   開できないものがあり、一般公開できない多くのセミナー音声をMaxVisio
   nの運営に関わるスタッフ限定で公開するサイトを作る企画が誕生し、その際に覚
   えやすく意味のあるネーミングを考えた際に「多くのことをインターネットから学
   ぶ」という意味でオーク(多く)ネットと命名した。
    また、本件ドメイン名を用いた登録者サイトには、「オークネット.jpは、M
   axVisionが企画運営しています。」と記載されているのに、リンクされて
   いるマックスビジョンのホームページには、「オークネット」という字句はどこに
   も見当たらないのは、オークネットは一般公開するホームペー」ジではなく全国の
   大学生スタッフやOBスタッフ限定のサイトとして構築する計画だからである。現
   にスタッフ専用サイトの企画がスタートした告知はMaxVisionのサイト
   上でスタッフに告知した。
    登録者はMaxVisionに関係するサイトを多数立ち上げて展開しており、
   サイトの制作に関しても業者に費用を支払い制作しているわけではなく、ホームペ
   ージ制作の素人であるスタッフや協力者が勉強しながらサイトの制作を行ってい
   るために、一般企業のサイト制作のスピードや完成度、運営力には当然劣る。ホー
   ムページを制作できるスタッフ自体数が少ないため、多数のサイトの中で優先順位
   をつけて順次更新している。ただし、一般公開向けのサイトよりもスタッフ限定の
   サイト制作が後回しになっているため更新頻度やサイト構築のスピードが遅くな
   っている。
    本件登録者サイトのオークネット.jpのアクセス解析を見ると、過去3ケ月の
   一日の平均アクセスは約7件と一桁であり、当然その中には、登録者の関係者のア
   クセスも含まれている。申立人は申立人のサイトに1日に1万2千人のアクセスが
   あり、その消費者が誤認して登録者のサイトに流れているとの主張をしているが、
   そのようなことは到底考えられる数字ではない。
    これは、逆に言うと明らかに消費者のほとんどが誤認していないという証拠に
   なる。

  (2) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
   について
   ア 本件ドメイン名の主たる部分である「オークネット」という表記は、申立人の
    商号「オークネット」と全く同じであるというが、登録者は、本件ドメインを商
    号として広告などをしている訳でも一切ない。また同じ商号であったとしても、
    同じ商号が日本国内に存在することは法律的に認められているはずである。
     ある商号と同じドメインについて他者の利用が認められないのであれば、世の
    中には同名の商号が多数存在するわけですからドメイン名紛争のパニックになる
    はずであり、そのために、ドメイン取得は先願主義という大原則の世界的ルール
    があるはずである。

   イ 申立人の商標権については、指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分
    は第35類であり、登録者の活動内容は全く関係や関連性がないものであるため
    商標権は一切侵害していない。

   ウ 申立人の主張する知名度については、登録者は全く知らず、登録者と同じよう
    に世間一般では認知されていないと思われる。

   エ 本件ドメインのサイトには、「オークネット.jpは、MaxVisionが企
    画運営しています。」としっかりと表記してあり、消費者に誤認させる意図は全
    くない。

   オ インターネットの仕組み上、ヤフーやグーグルなどの検索エンジンで、あるキ
    ーワードで検索すると、相当な数の検索結果が表示されることが普通であり、検
    索した人間が希望とする情報を得るサイトに辿り着くまでに、いくつものサイト
    表示を試みて、希望とする情報が無ければ自分で判断して、また別のサイトにア
    クセスすることはごく普通のことである。この行為で目的サイト以外のアクセス
    したサイトは、誤認させるためにサイトを作っていると言えるはずは当然ながら
    ない。
     確かに、本件ドメイン名のサイトは、申立人の商標と登録者のドメイン名は同
    じ文字であるため間違ってアクセスする可能性はあるが、当然それは逆もあり、
    MaxVisionのスタッフが間違えて申立人のサイトにアクセスする可能性
    もあることは、ある意味、インターネットの仕組み上、避けて通れない間違い(誤
    認)である。それなのに、オークネットと検索されれば全て申立人のサイトにアク
    セスするのが当然のような独占的な考えがインターネットの世界で通用するはず
    がない。

   カ ニコニコ動画.jpの件に関しては、本件とは全く関係がない。

   キ 申立人は、商標権を申請する際に当然、「オークネット.jp」という日本語ド
    メインが利用されているかを調べたはであり、登録者が使用していることを知り
    ながらそのドメイン名で商標権を取得し、それを盾にして登録者からドメインを
    剥奪しようとしている今回の行為の方が悪質きわまりないはずである。

   ク 申立人は、検索結果の画面において、本件登録サイトが上位に表示されるよう
    な「仕組み」を用いていると主張するが、本件ドメインのHTMLは、普通にサ
    イト制作するならごく当たり前の仕組みである。仮にa1tタグに、オークネット
    という文字が入っていることを申立人の主張する「仕組み」と言うのであれば、
    サイト制作に従事する人間であれば、サイトからリンクを張る際にリンク先の被
    リンクの効果を考えると、a1tに記載する文字が他のサイトからの被リンクと全
    て同じにa1tならないように調整するのは当然で、普通はそのリンク元の、この
    場合は本件ドメインサイトに関連する語句、一般的にはtit1eタグに含まれる内
    容の単語を使うのは、知っている人からすると当然な仕組みである。
     また、「オークネット.jp」というキーワードで検索した場合、ドメイン名
    で検索すると、世界に存在するほとんどのドメインが、そのドメイン名で検索す
    るとトップに来るものであり、特別な仕組みを用いているわけではない。

  (3) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
   ア 本件ドメインは、MaxVisionスタッフのためにMaxVisionや、
    コンセプトイノベーション、柳生語録、自己PR創造研究所のサイトでは非公開で
    あった音声データを限定公開する目的としてサイト立ち上げの準備をしている状
    態であり、明確な目的をもったサイト運営のために取得したドメインである。
     その名称は、これまでのMaxVisionの関係する活動の名称の決め方に
    準じて二つの単語から構成され、スタッフがインターネットを通じてセミナー音声
    を聞くことで多くの知識と気づきを得ることをイメージさせるネーミングとして
    「多くのことをインタ一ネット」から多くネット→オークネットになったものであ
    り独自に考案したものである。
     また、本件登録者サイトが一般公開でなく、MaxVisionスタッフ・会員
    専用であることも明記してある。

   イ 申立人の商標権登録確定日である平成21年10月9日はおろか出願日の平成
    21年4月28日よりも以前の平成21年1月28日より登録者は本件ドメイン
    を既に使用している。

   ウ 登録者が本件ドメインを使用することで、申立人サイトと間違ってアクセス数を
    稼いでいると主張しているが、この3ケ月ほど日々の平均アクセス数は一桁であり、
    当然、登録者やスタッフもアクセスしている数字であるので、間違ったアクセスが
    あったとしても統計学的に無視できるようなレベルであり、仮に間違ってアクセス
    する人が多数いたとしてもインターネット上では当たり前のことであるために、そ
    のような自己中心的な主張でドメインの移管が認められるはずがない。

  (4) その他
    申立人は登録者が高額でドメインをレンタルしていると主張するが、日本国内では、
   未だドメインのセカンダリーマーケット(中古市場)の認知が低いために、ドメイン
   売買などの相場を知らないために登録者が主観的に高額と判断しているだけで、実際
   には海外では、日本人では信じられない金額でドメイン名は売買やリースなどがされ
   ている。
    日本のヤフーオークションでもドメインの売買のカテゴリーが存在しており、ドメ
   インの売買はこれからの時代にマッチした事業であると、IT業界の国際的パイオニ
   ア企業が認めており、需要と供給のバランスにより高額で取引されるドメインが増え
   ると予測される。
    登録者は本件ドメインを売買する目的で取得していないため、日本ドメインのサイ
   トに掲載されたドメインが高額であり、高額でドメインを販売やリースをしている悪
   徳業者のような印象を与える申立人の主張があったため、海外でのドメインの市場や
   これからの日本での認知度を考慮して判断を求める。
    もし、登録者が本件ドメインを売買やリースなどの目的があるのであれば、株式会
   社日本ドメインのサイトに掲載しているはずである。本件ドメインは、登録者がMa
   xVisionの活動においてスタッフ専用のサイトを制作することが目的で利用
   していたことは、明白である。

6 争点および事実認定
  規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則
 についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問
 の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならび
 に条理に従って、裁定を下さなければならない。」
  方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図して
 いる。
 (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
   同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2) 登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
 (3) 登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
  同一または混同を引き起こすほど類似していること
  ア 申立人は「オークネット.jp」との商標を有するところ(甲第2号証)、この商標
   と本件ドメイン名とは同一である。

  イ また、本件ドメイン名のトップレベルドメイン「.JP」の部分は国別コード
   を表す部分に過ぎず、商品やサービスの出所を表示する機能はないといえる。
    よって、本件ドメイン名の要部はセカンドレベルドメインである「オークネッ
   ト」の部分にある。
    この点、申立人の商号は株式会社オークネットであり(甲第1号証)、「株式会
   社」の部分は法人としての種別を示すものであり、この語は特段の識別力を有する
   ものではなく、識別力を有する要部は「オークネット」である。申立人の上記商号
   は、方針第4条a(ⅰ)の申立人が「権利」を有する「その他表示」に該当し、「株
   式会社オークネット」の要部である「オークネット」と本件ドメイン名の要部であ
   る「オークネット」を対比すると、その称呼及び外観において同一であり、本件ド
   メイン名は申立人の商号と混同を引き起こすほど類似しているといえる。
    また、申立人は、平成19年7月6日には、「aucnet.jp」とのドメイン名
   で、中古車オークションサイトを立ち上げている(弁論の全趣旨)。申立人の上記
   ドメイン名は、方針第4条a(ⅰ)の申立人が「正当な利益を有する表示」に該当し、
   その要部である「aucnet」と本件ドメイン名の要部である「オークネット」と
   は称呼において同一であり、本件ドメイン名は申立人の有するドメイン名と混同を
   引き起こすほど類似しているといえる。
    更に、申立人は、上段に「AUCNET」とのアルファベットを配置し、その下
   段に「オークネット」との文字を配置した7件の商標を有するところ(甲第14号
   証の1~甲第14号証の7)、これらの商標と本件ドメイン名の要部とは、外観に
   おいて類似し、称呼において同一であり、本件ドメイン名は申立人の有する商標と
   混同を引き起こすほど類似しているといえる。
    なお、登録者は、本件ドメイン名と申立人の商号、ドメイン名及び甲第14号証
   の商標権とが同一または類似していることについては認めつつ、本件登録者サイト
   の実際の使用状況からすると出所の混同のおそれはないと主張している。
    しかし、JPドメイン名紛争処理方針4条a(ⅰ)の類似性の判断に際しては、
   申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と、当該ドメイン名とを対
   比し、外観、称呼、観念の観点から類似する場合には同要件を充足するものとし、
   出所の混同の有無については、JPドメイン名紛争処理方針4条a(ⅱ)及び(ⅲ)
   において検討すべきである。

 (2) 登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  ア 弁論の全趣旨によると、申立人と登録者との間には、一切の資本関係、取引関係、
   業務提携関係は存在せず、申立人は登録者に対し、過去および現在において、本件
   商標の使用を許諾したことはないものと認められる。また、登録者の商号である株
   式会社日本ドメインと、本件ドメイン名は一致しておらず、登録者は、「オークネ
   ット」との文字を含む商標を有していないことが認められる。

  イ この点、登録者は、MaxVisionという団体名称で、大学生や若手社会人
   向けに社会活動として「自己開発と人脈構築」をテーマとしたセミナー運営や勉強
   会を非営利(会場費など実費のみ参加者が負担するレベル)で開催しており、一般公
   開できない多くのセミナー音声をMaxVisionの運営に関わるスタッフ限
   定で公開するサイトを作る企画が誕生し、申立人の商号、商標、申立人が使用する
   ドメイン名の存在とは無関係に、二つの言葉を組み合わせるという、登録者が主催
   している活動団体の組織名称などを考える際の思考パターンに基づき、「多くのこ
   とをインターネットから学ぶ」という意味で本件ドメイン名を選択したこと、一般
   公開向けのサイトよりもスタッフ限定のサイト制作が後回しになっているため更
   新頻度やサイト構築のスピードが遅くなっていると主張する。
    また、登録者は、本件登録者サイトには、「オークネット.jpは、MaxVi
   sionが企画運営しています。」、本件登録者サイトは「MaxVisionの
   スタッフ・会員専用」としっかりと表記してあり、消費者に誤認させる意図は全く
   ないこと、申立人の主張する知名度については、登録者は全く知らず、登録者と同
   じように世間一般では認知されていないと思われること、インターネットの仕組み
   上、ヤフーやグーグルなどの検索エンジンで、あるキーワードで検索すると、相当
   な数の検索結果が表示されることが普通であり、検索した人間が希望とする情報を
   得るサイトに辿り着くまでに、いくつものサイト表示を試みて、希望とする情報が
   無ければ自分で判断して、また別のサイトにアクセスすることはごく普通のことで
   あること、本件登録者サイトのアクセス解析を見ると、過去3ケ月の一日の平均ア
   クセスは約7件と一桁であり、当然その中には、登録者の関係者のアクセスも含ま
   れており、申立人は申立人のサイトに1日に1万2千人のアクセスがあり、その消
   費者が誤認して登録者のサイトに流れているとの申立人の主張は失当であること
   等も主張している。
    登録者のこれらの主張の言わんとすることは、JPドメイン名紛争処理方針4条
   cの(ⅰ)または(ⅲ)の要件を満たし、登録者が本件ドメイン名に関する権利また
   は正当な利益を有していると主張しているものと考えられる。
    しかし、JPドメイン名紛争処理方針4条a(ⅲ)の要件について検討する際に
   述べるように、登録者は、本件ドメイン名の登録及び使用に際して、商業上の利得
   を得る目的で、申立人と誤認混同を生ぜしめることを意図しているものと認められ
   る以上、登録者の上記主張は認められない。

  ウ よって、登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していな
   い。
    なお、登録者は、本件ドメイン名は申立人の商標権を侵害していないとか、申
   立人の本件申立はドメイン名に関する先願主義に反する等と縷々主張するが、本件
   は商標権侵害や先願主義の問題ではなく、登録者による本件ドメイン名の登録また
   は使用がJPドメイン名紛争処理方針4条aに定められる要件を満たし、いわゆる
   サイバースクワッティング行為(ドメイン名不法占拠行為)に該当するかが問題と
   なっているのであり、登録者のこの点に関する主張は失当である。

 (3) 登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されていること
  ア 申立人の商号及び「aucnet.jp」とのドメイン名は、本件ドメイン名が
   登録された時点で周知または著名な表示であったか。
   ① この点、当事者の主張、証拠及び弁論の全趣旨から以下の事実が認められる。
    ⅰ 申立人は、「株式会社オークネット」の商号のもと、昭和57年に自動車の
     オークション販売等を目的として設立された株式会社である(甲第1号証)。

    ⅱ 申立人は、平成20年の年間全国オークション実績において、平均出品量
     第8位、系列別平均出品量第7位、テレビ・ネットAA地区第1位の実績を有
     している(甲第4号証)。

    ⅲ 申立人は、平成19年7月6日には、「aucnet.jp」とのドメイン
     名の中古車情報サイトを立ち上げ(弁論の全趣旨)、事業を行っている(甲
     第2号証及び甲第15号証)。当該サイトへのアクセス数は、本件ドメイン
     名の登録完了日以前の平成21年1月の月刊訪問者数は195436人であ
     り、月間類型アクセス数は361904人であり、平成21年1月1日~同
     年10月31日までの1日当たりの平均訪問者数は約1万人である(甲第5
     号証)。

   ② 以上の事実からすると、申立人の商号及びその運営する「aucnet.jp」
    とのドメイン名は、本件ドメイン名が登録された平成21年1月28日までに
    は、わが国において上記ⅲの中古車情報についての取引者・需要者の間に広く
    認識されていた周知の表示であったと認められる。

  イ 本件ドメイン名を用いた登録者のサイト(以下「本件登録者サイト」という。)
   は、マックスビジョンが運営するサイトの「呼び込みサイト」に過ぎないか
   ① この点、当事者の主張、証拠及び弁論の全趣旨から以下の事実が認められる。
    ⅰ 本件ドメイン名の要部であるオークネットという語は造語である(弁論の
     全趣旨)。

    ⅱ 登録者は、ドメインのリース・売買・仲介事業を目的とする会社であり(甲
     第7号証)、登録者のホームページでは、「ニコニコ動画.tv」というドメ
     イン名を月額2-5万円でレンタルしたり、「楽天.tv」というドメイン名
     を月額5万円以上でレンタルしたりするなど、他社の会社名や商標などを日
     本語ドメイン登録し、「他社が気付いて取得してしまうと2度と手に入りま
     せん!」などと広告した上で、それを第三者に、当該ドメイン名の取得に直接
     かかった費用を大幅に上回る高額な金額でレンタルや売買を行っている(甲
     第13号証の1及び甲第13号証の2)。
    ⅲ 本件登録者サイトには「オークネット.jpは、MaxVisionが企画
     運営しています。」、「このサイトは、『多く(オーク)の学びと出会いを
     ネットから得る!』を目的としたMaxVisionスタッフ・会員専用 オ
     ークネットjpサイト建設予定地です。現在、サイト製作 企画進行中」と
     の表示がされており、MaxVisionのホームページ及び同社が運営す
     る事業である、自己PR総合研究所、コンセプトイノベーション及び柳生語
     録.comのホームページへのリンク以外には、意味のある記載がない(甲第9
     号証及び弁論の全趣旨)。

    ⅳ 登録者の代表者が代表を務めるMaxVisionのホームページにおい
     ては、「MaxVisionグループ」として、登録者、柳生語録、コンセ
     プトイノベーション及び自己PR総合研究所などのホームページのリンクが
     されているが、本件ドメイン名についてのリンクはない(甲第11号証)。

   ② 以上の事実及び既に認定した申立人の商号及び「aucnet.jp」とのド
    メイン名が、本件ドメイン名が登録された時点において取引者・需要者に周知
    の表示であったことからすると、ドメインのリース・売買・仲介事業を目的と
    する会社である登録者は、本件ドメイン名を登録する際、取引者・需要者に周
    知の表示である申立人の商号及び「aucnet.jp」とのドメイン名の存在
    を知りつつ、これらの表示の要部と同一または類似している本件ドメイン名を
    選択したと認められる。
     そして、登録者は、本件登録者サイトにおいて、MaxVisionのホー
    ムページ及び同社が運営する事業である、自己PR総合研究所、コンセプトイ
    ノベーション及び柳生語録.comのホームページへのリンクをし、申立人が有す
    る取引者・需要者に周知の表示を含むホームページを訪れようとして本件登録
    者サイトを訪れた者が、MaxVisionのホームページ及び同社が運営す
    る事業である、自己PR総合研究所、コンセプトイノベーション及び柳生語
    録.comのホームページに呼び込まれることを容認して、本件登録者サイトを使
    用しているものと推認される。
     この点、登録者は、申立人の商号及び「aucnet.jp」とのドメイン名
    の存在について知らず、MaxVisionで行った一般公開できない多くの
    セミナー音声をMaxVisionの運営に関わるスタッフ限定で公開するサ
    イトを作る企画が誕生し、「多くのことをインターネットから学ぶ」という意
    味で本件ドメイン名を選択したこと、本件登録者サイトにおいてMaxVis
    ion等へのリンク以外に意味のある情報がないのは、一般公開向けのサイト
    よりもスタッフ限定のサイト制作が後回しになっているため更新頻度やサイト
    構築のスピードが遅くなっていること、本件登録者サイトには、「オークネッ
    ト.jpは、MaxVisionが企画運営しています。」、本件登録者サイト
    は「MaxVisionのスタッフ・会員専用」としっかりと表記してあり、
    消費者に誤認させる意図は全くないこと、本件登録者サイトのオークネット.j
    pのアクセス解析を見ると、過去3ケ月の一日の平均アクセスは約7件と一桁
    であり、当然その中には、登録者の関係者のアクセスも含まれており、申立人
    は申立人のサイトに1日に1万2千人のアクセスがあり、その消費者が誤認し
    て登録者のサイトに流れているとの申立人の主張は失当であること等も主張し、
    これらの主張に沿う記載が本件登録者サイトにも記載され(甲第9号証及び乙
    第14号証)、本件登録者サイトへのアクセス数はごくわずかであることを示
    す証拠が存在する(乙第15号証)。
     しかし、既に述べたように申立人の商号及び「aucnet.jp」とのドメ
    イン名が、本件ドメイン名が登録された時点において取引者・需要者に周知の
    表示であったことからすると、ドメインのリース・売買・仲介事業を目的とす
    る会社である登録者は、本件ドメイン名を登録する際、取引者・需要者に周知
    の表示である申立人の商号及び「aucnet.jp」とのドメイン名の存在を
    知らなかったとは到底考えられない。
     また、「オークネット」という語は造語であるところ、MaxVision
    で行った一般公開できない多くのセミナー音声をMaxVisionの運営に
    関わるスタッフ限定で公開するサイトを作る企画の下、「多くのことをインタ
    ーネットから学ぶ」という意味で本件ドメイン名を選択したということは通常
    考えがたいことである。仮に本件登録者サイトが登録者が主張するような目的
    の下、MaxVisionのOB及びスタッフ・会員専用サイトとするつもり
    であるのならば、スタッフらが本件登録者サイトを訪れやすいように、Max
    Visionのホームページ等の、「MaxVisionグループ」の欄にお
    いて、本件登録者サイトについてもリンクをしておくはずなのに、これをして
    いないことは不自然である。
     これらの点からすると、本件登録者サイトを作成した点に関する、登録者の
    主張は信用できない。
     さらに、登録者は、本件登録者サイトへの実際の訪問者数がごくわずかであ
    ることをもって、誤認混同が生じておらず、また、登録者は誤認混同を生じさ
    せる意図を有していないと主張するものと思われる。しかし、JPドメイン名
    紛争処理方針4条a(ⅲ)の要件、より具体的には同条b(ⅳ)にいう「誤認
    混同」の検討に際しては、現実に誤認混同が生じる必要はなく、誤認混同を生
    じさせる意図を登録者が有していれば足りる。
     本件では、申立人の商号及び「aucnet.jp」とのドメイン名が取引    者・
    需要者に周知であること及び登録者がドメインのリース・売買・仲介事業を営
    む会社であることからすると、その要部と同一または類似である「オークネッ
    ト」との語を本件ドメイン名について、取引者・需要者は、申立人と登録者と
    の間に何らかの密接な関係があるのではないかと誤信するおそれは高く、その
    ような事態が生じうることは登録者としても当然認識していたはずであり、そ
    れにもかかわらず登録者において敢えて本件ドメイン名を選択して登録したこ
    とは、登録者が取引者・需要者に申立人の商号及び「aucnet.jp」との
    ドメイン名と誤認混同を生じさせる意図を有していたことを認めるに十分であ
    って、前記誤認混同の要件を満たすと認められる。

  ウ 小括
    よって、本件において登録者は、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイ
   トについて申立人との誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上の
   ユーザを、そのウェブサイトに誘引するために、本件ドメイン名を用いていると認
   められ、JPドメイン名紛争処理方針4条b(ⅳ)に該当する以上、申立人のその
   他の主張を検討するまでもなく、登録者の本件ドメイン名が不正の目的で使用され
   ていると認められる。
    なお、登録者は、申立人の商標権登録確定日である平成21年10月9日はお
   ろか出願日の平成21年4月28日よりも以前の平成21年1月28日より本件
   ドメイン名を既に使用している旨主張する。
    しかし、前記認定のとおり申立人の商号及び「aucnet.jp」とのドメイ
   ン名が本件ドメイン名が登録された時点においてJPドメイン名紛争処理方針4
   条a項(1)の申立人が有する権利、正当な利益を有する表示に該当する取引者・需
   要者に周知の表示であって、本件ドメイン名が上記申立人の商号及び「aucne
   t.jp」とのドメイン名と同一または混同を引き起こすほど類似していることは
   前述のとおりであり、かつ本件ドメイン名登録が同処理方針4条のⅱおよびⅲの要
   件を満たす以上、登録者の前記主張は何ら理由がない。
    また、登録者は、海外では、日本人では信じられない金額でドメイン名は売買
   やリースなどがされており、日本のヤフーオークションでもドメインの売買のカテ
   ゴリーが存在しており、ドメインの売買はこれからの時代にマッチした事業である
   などと主張する。
    しかし、パネルは登録者の本件ドメイン名の使用態様が、JPドメイン名紛争
   処理方針4条b(ⅳ)に該当するなど、同方針4条aに定める要件を満たしている
   ので、申立人の申立てを認めたにすぎず、このようなドメイン名の売買が一律にJ
   Pドメイン名紛争処理方針4条aの要件を満たすであるとか、同方針4条b(ⅰ)
   に該当するなどと述べているのではないため、登録者の主張は失当である。

7 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「オークネ
ット.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名につい
て権利又は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録され且つ
使用されているものと裁定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「オークネット.jp」の登録を申立人に移
転するものとし、主文のとおり裁定する。

    2010年1月28日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            竹田 稔
              単独パネリスト


別記(手続の経過)

(1)申立書受領日
      電子メール 2009年11月20日 書面 2009年11月24日
(2)手数料受領日
      2009年11月20日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2009年11月25日  JPRSへ照会
      2009年11月25日  JPRSから登録情報の確認
      確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2009年11月25
    日に申立書は処理方針と規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始日  2009年11月26日
      手続開始日の通知  2009年11月26日
      申立人らへ通知(電子メール、ファクシミリ及び郵送)
(6)登録者への通知日及び内容
      1) 2009年11月26日(電子メール及び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2009年12月25日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、登録者の答弁書を2009年12月25日に受領した。
(8)申立人の平成22年1月7日付反論書の受領
   センターは、2010年1月7日、申立人から、登録者の答弁書に対する平成22
  年1月7日付反論書および追加証拠を受領した。
(9)パネリストの選任  2010年1月7日
      申立人らは1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2009年1月13日
      パネリスト:竹田 稔
(10)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2010年1月7日  JPNIC及びJPRSへ通知(電子メール)
                         申立人及び登録者へ通知
             (電子メール、ファクシミリ及び郵送)
      裁定予定日:2010年1月28日
(11)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2010年1月7日(電子メール及び郵送)
 (12)求釈明
   センターは、パネリストの要請により、2010年1月12日に、登録者に対して
  申立人の平成22年1月7日付反論書および追加証拠の写しを送付し、同反論書の記
  載について再反論があれば書面により提出するよう求めた(2010年1月19日期
  限)。これに対して、登録者から2010年1月21日に電子メールにより反論書の
  送信を受けた(書面および追加証拠は翌22日、郵便により受領)。
(13) 申立人の平成22年1月21日付反論書の受領等
  センターは、申立人から2010年1月22日に電子メールにより平成22年1
 月21日付反論書の送信を受けたが、前述のとおり、同反論書については提出を認
 めないこととした。
(14)パネルによる審理・裁定
      2010年1月28日  審理終了、裁定。