事件番号:JP2010-0005

                                   裁 定

  申立人:
  (名称)ソシエテ デ オー ド ヴォルヴィック
  (住所)ヴォルヴィック 63530 ゾーン アンデュストリエル デュ シャン
     セ
  代理人:弁護士 佐藤雅巳
      弁護士 古木睦美
  登録者:
  (名称)株式会社Sole Brain
  (住所)仙台市泉区南光台4-9-5

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメ
イン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争
処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書および提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。
 なお、答弁書は提出されなかった。
1 裁定主文
  ドメイン名「VOLVIC.JP」の登録の取消しをせよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「VOLVIC.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおり。
4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人の主張は以下のとおりである。
 登録者は本件紛争に係るドメイン名「VOLVIC.JP」を登録しているところ、この
ドメイン名(以下、「本件ドメイン名」ともいう)のセカンドレベルドメインは申立人の登
録商標「VOLVIC」と同一であり、かつ、「Volvic」を要部としこれと図形との
結合商標からなる登録商標を実質的に模写し、当該登録商標における申立人の名声を利用
する意図をもって登録者は本件ドメイン名を登録している。本件ドメイン名は、申立人の
商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者は本件ドメイン名について正当な利益を有
していない、そして本件ドメイン名は不正の目的で登録され且つ使用されている、という
ものである。
 かかる理由に基づき、申立人は、ドメイン名登録の取消を請求した。
 b 登録者
  登録者は答弁書を提出しなかった。
5 争点および事実認定
 パネルが紛争を裁定するに際し、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則第15
条(a)は、パネルに次のように指図している。「パネルは、提出された陳述・文書および
審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、なら
びに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
 また、JPドメイン名紛争処理方針第4条a.は、申立人が次の3項目のすべてを立証し
なければならないことを定めている。
 「(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」
 以下、かかる定めに基づき、申立人は上記項目について立証しているか否かを判断する。
5-1 「登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表
示と同一であり、または混同を引き起こすほど類似していること」について
 (1) 登録者は、本件ドメイン名「VOLVIC.JP」を、本申立日現在、登録してい
る(甲第1号証)。登録者は、商号を株式会社Sole Brainとする標記の住所に所
在する株式会社であり、仙台市青葉区中央1-3-1AER8階に事務所を有し、SEO
/SEMコンサルティング、ホームページ制作などを業としている(甲第2号証)。申立人
の主張によれば、登録者と、申立人及び申立人のミネラルウォーター「Volvic」の
日本における輸入販売元であるダノンウォーターズオブジャパン株式会社との関係はない、
とされている。
 (2) 申立人のミネラルウォーターの表示「Volvic」の周知性
 ア 申立人は、ヨーグルトの生産量で世界第1位、エビアン(Evian)、ボルヴィッ
ク(Volvic)等のミネラルウォーターの販売量で世界第2位、ビスケットの生産量
で世界第2位を占めるフランスの企業Group Danone (グループダノン)(甲第
3号証、甲第4号証)のミネラルウォーター「Volvic」の製造販売を業とする会社で
ある(甲第4号証)。
 イ 申立人の製造するミネラルウォーター「Volvic」は、グループダノンに属す
る会社であるソシエテ アノニム ド オー ミネラル デビアン(Société Anonyme des
eaux minérales d'Evian)が100%出資するダノンウォーターズオブジャパン株式会社
が販売促進及びブランド管理を行ない(甲第4号証、甲第5号証)、キリンビバレッジ株式
会社、コンパニー ジェルヴェ ダノン(ダノングループのヨーグルト部門の会社である)
及び三菱商事株式会社の3社の合弁会社であるキリンMCダノンウォーターズ株式会社が
輸入販売している(甲第6号証)。
 ウ ダノンウォーターズオブジャパン株式会社は、そのウェブサイト「VOLVIC.C
O.JP」(甲第7号証)で、申立人の「Volvic」ブランドのミネラルウォーターの
紹介宣伝に努めている(甲第8号証)。なお、申立人のウェブサイトのドメイン名は、「v
olvic.fr」である(甲第9号証)
 エ 申立人の、商標「Volvic」を使用したミネラルウォーターは、1986年の
日本市場への参入(甲第4号証)以来、着実に市場シェアを拡大し、その売上数量も年々
増大しており(甲第10号証)、輸入ミネラルウォーターの中で最大のシェアを誇っている
ことが窺える(甲第11号証)。
 オ 申立人の製品は、ダノンウォーターズオブジャパン株式会社の関連会社であるキリ
ンMCダノンウォーターズ株式会社により、「Volvic」をハウスマークとして使用し、
販売されている(甲第8号証)。
 カ ダノンウォーターズオブジャパン株式会社及びキリンMCダノンウォーターズ株式
会社は、積極的にさまざまな雑誌を通じて宣伝広告に努めるとともに、同時にテレビ等を
通じ、「Volvic」製品のテレビ露出キャンペーンを行ってきた(甲第12号証の1な
いし甲第12号証の8)。こうしたさまざまな宣伝広告やキャンペーンを通じて、表示「V
olvic」は、申立人がそのミネラルウォーターに使用する商標として、本件JPドメイ
ン名の登録当時(2008年5月1日)既に我国において周知であり、今日においても周
知であることが認められる。
 キ 申立人は、我国に、文字表示「VOLVIC」について、そして「VOLVIC」
を要部としこれと図形表示との結合表示からなる多数の商標登録を有するとともに(甲第
14号証の1、14号証の6ないし14号証の9)、国際登録商標を有している(甲第14
号証の1ないし甲第14号証の12)。
(3) 「同一または混同を引き起すほど類似していること」について
 本件ドメイン名において、「JP」は国コードトップレベルドメインであり、要部は、セ
カンドレベルドメインである「VOLVIC」にある。
 本件ドメイン名のセカンドレベルドメイン「VOLVIC」と申立人の周知の表示である
「Volvic」とを対比すると、本件ドメイン名のセカンドレベルドメインの外観と申
立人の周知の表示「Volvic」の外観とは第2文字以下の大文字小文字の相違に過ぎ
ないから、本件ドメイン名のセカンドレベルドメイン「VOLVIC」は申立人の周知の表
示「Volvic」と外観において実質的に同一である。
 また、本件ドメイン名のセカンドレベルドメイン「VOLVIC」から生ずる称呼「ボ
ルビック(又は「ボルヴィック」、「ヴォルヴィック」)」は、申立人の周知の表示である「V
olvic」から生ずる称呼「ボルビック」(又は「ボルヴィック」「ヴォルヴィック」)と
一致する。
 さらに、本件ドメイン名のセカンドレベルドメイン「VOLVIC」と申立人の周知の
表示である「Volvic」から生ずる観念は、強いていえばいずれも地名を観念すること
を除いて、格別の意味を有するものではない。
 したがって、本件ドメインのセカンドレベルドメイン「VOLVIC」は、申立人の周
知の表示「Volvic」と実質的に同一であるといい得るものであり、少なくとも混同を
引き起こすほど類似しているということができる。
5-2「登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと」
について
 本件ドメイン名の登録者である株式会社Sole Brainは、仙台市泉区南光台4
-9-5所在のSEO/SEMコンサルティング、ホームページ制作、リスティング公告
販売、労務コンサルティングを業とする株式会社であるが、申立人と業務上又は組織上の
なんらかの関係を有することについての知られた社会的な事実もない。
 また、本件ドメイン名は、現在、使用されていないが、申立人の提出する証拠(甲第1
5号証の1)によれば、登録者は、かつて本件ドメイン名の下で、「volvic FAN」
と称する「volvic愛飲家がvolvicについて語るサイト」を運営していたとも
推認できなくはない。しかしながら、このサイトには、「volvic」、「健康に良い?!」、
「他のミネラルウォーターとの違い」及び「在宅ワーク」のタグが付されており、それぞ
れのタグに導かれるページをみても、「volvic愛飲家がvolvicについて語るサ
イト」が相当期間真摯に運営されていた事実は認めることができないし、かつミネラルウ
ォーター愛飲家に対してさまざまなミネラルウォーターの品質又は内容等について啓蒙的
な商品情報が提供されていたとの事実も認めることができない。むしろ、申立人が以下で
主張するように、登録者は、周知な表示「Volvic」の名声ないし社会的評価を利用
して、別サイトに誘導することを通じて、営業利益を獲得しようとするものであると考え
るのが合理的である。
 登録者は答弁書を提出せず、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有してい
ることの証明をしないことも合わせ考慮すると、登録者は本件ドメイン名の登録について
権利又は正当な利益を有するものと認めることはできない。
5-3「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」につ
いて
 上述の通り、本件ドメイン名は、申立人のミネラルウォーターに使用する表示「Volv
ic」と実質的に同一であり、あるいは少なくとも混同を引き起すほど類似し、かつ、当
該表示「Volvic」は、本件ドメイン名の登録時に周知であったばかりなく、本申立
時にも継続して周知であることは、5-1(2)において認定したように明らかである。
 本件ドメイン名は、現在、使用されていない。申立人の提出する証拠(甲第15号証の
1)によれば、登録者は、かつて本件ドメイン名の下で、「volvic FAN」と称す
る「volvic愛飲家がvolvicについて語るサイト」が運営されていたようにも
見えるが、volvic愛飲家がvolvicについて意見を交換していたこと、さらに
はミネラルウォーター愛飲家に対してさまざまなミネラルウォーターの品質又は内容等に
ついて啓蒙的な情報が提供されていたとの痕跡をこのサイトから認めることはできない
(甲第15号証の2ないし4)。
 このサイトには、「在宅ワーク」のタグが設けられており、このタグをクリックすると、
株式会社エリアライズのサイトにジャンプしていた(甲第16号証の1ないし3)。ジャン
プした先のサイトは「ネットショップで簡単在宅ワーク」と題するページ(甲第16号証
の2)あるいは「エリアスタッフ」と題するページ(甲第16号証の3)であることが認
められる。
 かかる状況から合理的に判断すれば、登録者は、周知な「Volvic」表示の名声な
いし社会的評価を利用して、株式会社エリアライズのサイトに誘導して、ネットショップ
への勧誘と、在宅ワークへの勧誘を行うことで営業利益を獲得させようとしたものと認め
られる。JPドメイン名紛争処理方針4条b.(iv)の定めるところでは、「商業上の利得」
の帰属は登録者に帰属することをいうものとも見えるが、登録者に「商業上の利得を得る
目的」あるいは「商業上の利得を得させる目的」という「目的」の認識さえあれば、その
帰属が登録者に帰属する場合だけでなく、第三者に帰属する場合も含むと解される。この
結論は、この規定b.の本文但書で、不正の目的の認定に際しては、(i)ないし(iv)所定の
事情に限定されないと定められているところからも是認できる。
6 結論
 これまで述べたところから、紛争処理パネルは、登録者によって登録された本件ドメイ
ン名「VOLVIC.JP」が申立人の登録商標と実質的に同一でありあるいは少なくと
も混同を引き起こすほど類似し、本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しない
登録者により不正の目的で登録されているものと裁定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「VOLVIC.JP」の登録の取消を命
ずるものとし、主文の通り裁定する。

    2010年9月8日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            土肥 一史
              単独パネリスト


別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      電子メール 2010年7月9日 書面 2010年7月9日
(2)手数料受領日
      2010年7月9日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2010年7月12日  JPRSへ照会
      2010年7月12日  JPRSから登録情報の確認
      確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2010年7月1
  3日に、申立書が処理方針と規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始日  2010年7月14日
      手続開始日の通知  2010年7月14日に申立人、登録者、JPRS及びJPNIC
  へ通知(電子メール、ファクシミリおよび郵送)
(6)登録者への通知日及び内容
      1) 2010年7月14日(電子メールおよび郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2010年8月12日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      日本知的財産仲裁センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、
  2010年8月13日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不
  提出通知書を、電子メールと郵送にて申立人および登録者に送付した。
(8)パネリストの選任  2010年8月19日
      申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2010年8月24日
      パネリスト:土肥 一史
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2010年8月20日  JPNICおよびJPRSへ通知(電子メール)
                          申立人および登録者へ通知
              (電子メール、ファクシミリおよび郵送)
      裁定予定日:2010年9月8日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2010年8月19日(電子メールおよび郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2010年9月8日  審理終了、裁定。