事件番号:JP2011-0001 裁 定 申立人:(名称)ロクシタンジャポン株式会社 (住所)〒102-0083 東京都千代田区麹町四丁目8番地 電話番号:03-3234-6941 ファクシミリ番号:03-3234-6951 電子メールアドレス:Yasuyo.GONDA@loccitane.co.jp 代理人:弁護士 佐 藤 雅 巳 (送達場所)〒107-0062 東京都港区南青山3丁目18番11号 ヴァンセットビル202号室 佐藤国際法律特許事務所 電話番号:03-3401-3630 ファクシミリ番号:03-3401-1343 電子メールアドレス: satolpo@mvd.biglobe.ne.jp 代理人:弁護士 古 木 睦 美 住所:〒107-0062 東京都港区南青山3丁目18番11号 ヴァンセットビル202号室 佐藤国際法律特許事務所 登録者:瀧 澤 勇 人 (送達場所)〒960-8003 福島県福島市森合字森下2-16ディアコート202 電話番号:070-6564-9908 (電子メールアドレス):taki@pop01.odn.ne.jp taki@ngo.ne.jp 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JP ドメイン名紛争処理方針、 JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センター JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立 書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定 する。 1.裁定主文 ドメイン名「LOCCITANE.JP」の登録を申立人に移転せよ 2.ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「LOCCITANE.JP」である。 3.手続の経緯 日本知的財産仲裁センターは、申立人の申立書を2011年5月16日に書 面で受領した。センターは、申立書が社団法人日本ネットワークインフォーメ ーションセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処理方 針のための補則(補則)の形式要件を充足することを確認した。申立人はセン ターに対して規定料金を支払った。この紛争手続の開始日は2011年5月1 9日である。 2011年5月17日に、センターは、本件に関してドメイン名及び登録者 の確認をJPNICに電子メールで行った。2011年5月17日に、JPN ICは、申立書に記載の登録者がドメイン名の登録者であることを確認し、ド メイン名照会に対する通知を電子メールでセンターに電送した。 申立書が方針及び規則を充足することを確認してから、センターは、201 1年5月19日に、申立書及び関連の証拠並びにJP ドメイン名紛争処理方針 を登録者に郵送した。 センターは、答弁書の提出最終期限日が2011年6月16日であることを 通知した。 登録者は、2011年6月16日に、「ドメインに関する答弁書」と題する 電子メールをセンター宛て送信してきた。 2011年6月23日に、単独パネリストの申立人の指定に照らして、セン ターは本件のパネリストとして弁護士渡邊敏に要請書を送付した。 2011年6月25日に、弁護士渡邊敏の受諾書及び公平性及び独立性の宣 言書を受領してから、センターは、弁護士渡邊敏が単独パネリストとして正式 に指名されたとする紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知を当事者に送 った。予定裁定日は2011年7月13日であった。単独パネリストは、紛争 処理パネルが、規則及び補則に従って適正に構成され且つ指名されたことを認 定する。 紛争処理パネルは、申立書、提出された証拠、方針、規則及び補則に基づい て裁定を下さなければならない。 4. 事実 登録者が答弁書にて申立人の主張について認否しなかったので、申立人が主 張する事実のうち、パネリストが相当であると思量する事実をここに摘示する。 (1) 申立人について ① 申立人の関係する登録商標について 申立人の輸入販売にかかるフランス法人L’OCCITANE 社の自然化粧 品の商標「L’OCCITANE」については、日本国において以下の登録がある。 なお、商標は何れも「L’OCCITANE」である(登録商標はゴシック体である。)。 (ア)商標登録第2317823号 登 録 日 平成3年(1991年)6月28日 出 願 日 平成1年(1989年)1月25日 商品区分 第3類 指定商品 せっけん類(薬剤に属するものを除く), 歯みがき,化粧品(薬剤に属するものを除く) (イ)商標登録第4096138号 登 録 日 平成9年(1997年)12月19日 出 願 日 平成8年(1996年)7月25日 商品区分 第3類 指定商品 せっけん類,香料類,化粧品 (ウ)商標登録第4147710号 登 録 日 平成10年(1998年)5月22日 出 願 日 平成8年(1996年)9月6日 商品区分 第24類 指定商品 織物,メリヤス生地他, (エ)商標登録第4147711号 登 録 日 平成10年(1998年)5月22日 出 願 日 平成8年(1996年)9月6日 商品区分 第25類 指定商品 被服,ガーター他 (オ)商標登録第4168674号 登 録 日 平成10年(1998年)7月17日 出 願 日 平成8年(1996年)9月6日 商品区分 第5類 指定商品 空気清浄剤,防臭剤(身体用のものを除く。), 脱臭剤(工業用のものを除く。),その他の薬剤 (カ)商標登録第4185489号 登 録 日 平成10年(1998年)9月4日 出 願 日 平成8年(1996年)9月6日 商品区分 第21類 指定商品 ガラス基礎製品(建築用のものを除く。)他 ② 申立人及びフランス法人L’OCCITANE について ア.申立人の親会社であるフランス法人L’OCCITANE 社は、1976 年に南フランスで創設者オリビエ・ボーサンによって設立され、全世界で店舗 を展開中であり、現在日本においての数多くの店舗を展開している(甲3の3) フランス法人L’OCCITANE 社は、厳選した植物素材を使用した自然のス キンケア、フレグランス、ボディケア、バス製品、ホームフレグランスの製品 を製造し、フランスで販売し、同時に、世界各国に輸出し、販売している。 申立人は、フランス法人L’OCCITANE 社の日本における子会社であり、 フランス法人L’OCCITANE 社の製品の日本における輸入販売を担当する会社で ある。 イ.申立人は、1998年11月5日に設立され(商業登記簿謄本)、 日本において「L’OCCITANE」化粧品を輸入販売し、広告をして来ており、売り 上げも年々増加していると推定できる。 ウ.「L’OCCITANE」商品は、申立人により、新聞や雑誌等で広告され ており(甲4-1ないし4-4)、全日空の「ANA SKY SHOP」(甲4-5、4- 6)においても広告されていた。 以上のように、「L’OCCITANE」は、フランス法人L’OCCITANE 社の製造にかかり、申立人の輸入販売にかかる植物性の自然化粧品に使用する 商標(ハウスマーク)として、我国において、広く知られている。 なお、2011年の池袋西武デパートのビューティーアニバー サリーでは、「L’OCCITANE」は「DIOR」、「GIVENCHY」と並んで冒頭に掲載され ているほど著名なブランドに成長している(甲4-28)。 ③ 申立人のウェブサイトのドメイン名は、「LOCCITANE.CO.JP」であ る(甲7)。申立人の親会社であるフランス法人L’OCCITANE 社のウェブサイト のドメインネームは、「LOCCITANE.COM」であるが(甲6)、同ウェブサイトのト ップページの国名で例えば日本を選択すると(「Asia & Middle East」をクリッ クすると各国の国名が表示される)、申立人のウェブサイト(LOCCITANE.CO.JP) (甲7)にジャンプするように構成されている。 5. 当事者の主張 (1)申立人 申立人によれば、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに 類似し、登録者はドメイン名について正当な利益を有していない。そしてドメ イン名は不正の目的で登録されている。 よって、申立人は、紛争の対象であるドメイン名の登録について、移転の裁 定を下すことを求めている。 (2)登録者 2007年の正月に本件ドメインを調査したところ、申立人がドメイン を取得していないことが分かったので、申立人が将来必要になると考え、取得 した。毎年更新手続きをしていた。移転については喜んで譲渡する。 6.争点および事実認定 (1).争点について 登録者は、申立人の主張に対して、特に反論せず、むしろ移転につい ては喜んで譲渡すると主張しているので、民事訴訟的には、請求の認諾に近い 事件である。規則第5条(f)は、「もし登録者が答弁書を提出しないときは、 例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」 と規定している。したがって争いのない事件については、申立人の主張通り、 移転の裁定を下すことが妥当と考える。 (2)ところで、本件について仮に争いがあるとすると、規則第15条(a) は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネ ルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述及び文書の結果に基づき、 方針、規則、及び適用されうる関係法規の規定、原則ならびに条理に従って、 裁定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次事項の各々を証明しなければならないことを指 図している。 ① 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標 その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること ② 登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有して いないこと ③ 登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること したがって、以上の①から③について申立人の主張について検討する。 ア. 同一又混同を引き起こすほどの類似性について 申立人が主張するように、登録者のドメイン名は、「LOCCITANE.JP」 であり、このうち「JP」は、国コードトップレベルドメインであり、要部は、 「LOCCITANE」である。 この登録者のドメイン名の要部「LOCCITANE」と申立人の商標である「L’ OCCITANE」とを対比すると、まず外観では両者の差異は、僅かに申立人の商標 は「L」の後に「’」が付されているが、登録者のドメイン名はそれが付されて いない点で相違し、他の部分で共通である。よって、カンマの相違だけなので 登録者のドメイン名は、申立人の商標と外観において類似する。 称呼においては、登録者のドメイン名から生ずる称呼は「ロクシタン」で あり、申立人の商標「L’OCCITANE」から生ずる称呼は「ロクシタン」であり、 両者は、類似する。 観念においては、申立人の商標は造語であるので、両者の対比の要をみな い。 以上より、登録者のドメイン名の要部「LOCCITANE」は申立人の販売商品に 付した商標と混同を惹き起す程類似している。 イ 権利又は正当な利益の欠如について この点については、登録者がドメイン名に関係する権利又は正当な利 益を有していることを証明しなければならないが、登録者は何の証明も行って いないので、上記イが推認される。 ウ 不正の目的での登録または使用 登録者は、この点について、2007年の正月に本件ドメインを調査し たところ、申立人がドメインを取得していないことが分かったので、申立人が 将来必要になると考え、取得したと主張している。 他方、申立人は、登録者は、現在本件ドメイン名を使用していないとし か主張していない。 以上の点より、登録者の使用についての不正な目的は伺えない。むしろ 登録者は2007年の正月に本件ドメインを調査したところ、申立人がドメイ ンを取得していないことが分かったので、申立人が将来必要になると考え、取 得したと主張しているが、その後、毎年更新手続きを行っている。この点は、 不正な目的による登録ではなければ、登録者が申立人にその旨を伝えてもよい のにそれも行っておらず、毎年登録者は申立人とは無関係に自己の費用で更新 手続きを行っており、したがって、登録者は将来ドメイン名を保有しておけば、 何らかの形で譲渡の対価が得られると考えるのが自然である。したがって、登 録者には、ドメイン名登録の際に、不正な目的が存在したと推認できる。 7. 結論 以上に照らして、6.(1)により紛争処理パネルは、方針の第4条iに従っ て、登録者によって登録されたドメイン名「LOCCITANE.JP」が 申立人へ移転されるべきであることを要求する。 ちなみに、登録者のドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほど 類似し、登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有していず、登 録者のドメイン名が不正の目的で登録されているものと認定できることを付け 加えておく。 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 渡 邊 敏 単独パネリスト 2011年7月8日