事件番号:JP2011-0002

              裁   定

  申立人:(名称)オープン エックス リミテッド
      (住所)イギリス国 ロンドン ダブリュー1ティー
          2アールエフ ホワイトフィールド ストリート
          12-14 カークマン ハウス
      (電話番号)44-208-114-9567
      (ファクシミリ番号) なし
      (電子メールアドレス)rick@openX.org
  代理人: 弁理士 山本 秀策
 (送達場所)〒540-6015 大阪府大阪市中央区城見1丁目2番27号
       クリスタルタワー15階 山本秀策特許事務所
       電話番号:06-6949-3910
       ファクシミリ番号: 06-6949-3915
       電子メールアドレス:shupatnt@shupat.gr.jp
  代理人:弁理士 安村 高明
      〒540-6015 大阪府大阪市中央区城見1丁目2番27号
          クリスタルタワー15階 山本秀策特許事務所
  代理人:弁理士 森下 夏樹
      〒540-6015 大阪府大阪市中央区城見1丁目2番27号
          クリスタルタワー15階 山本秀策特許事務所
  登録者:瀧 澤 勇 人
 (申立書記載の送達場所)〒960-8003
      福島県福島市森合字森下2-16ディアコート202
         電話番号:070-6564-9908
 (答弁書記載の送達場所)〒980-0822
      宮城県仙台市青葉区立町22-14西公園マンション501
     (電子メールアドレス):taki@pop01.odn.ne.jp
                                 taki@ngo.ne.jp

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センター
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立
書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定
する。

1.裁定主文
  ドメイン名「OpenX.JP」の登録を申立人に移転せよ
2.ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「OpenX.JP」である。
3.手続の経緯
(1)申立書受領日
      電子メール及び書面 2011年5月30日
(2)手数料受領日
      2011年5月30日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2011年5月30日  JPRSへ照会
      2011年5月30日  JPRSから登録情報の確認
      確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2011年6
月2日に、申立書が処理方針と規則に照らし、規則所定の「結語」の記載及び
処理方針の写しの添付を補充する補正書の正本1通・写3通並びに文書ファイ
ルを提出・送信すべき旨の申立不備通知を、電子メールおよびファクシミリに
て申立人に対し送信し、翌3日、補正書の文書ファイルを電子メールにより受
信し、同月6日、必要通数の補正書を受領した。
(5)手続開始日  2011年6月9日
      手続開始日の通知  2011年6月9日に申立人、登録者、JPRS及び
JPNICへ通知(電子メール及び郵送)
(6)登録者への通知日及び内容
     ① 2011年6月9日(電子メール及び郵送)
     ② 申立書及び証拠等一式
     ③ 答弁書提出期限  2011年7月7日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、2011年7月7日、「openx.jpドメインに関する答弁書」
と題する電子メールを登録者から受信したので、翌8日、規則に規定する部数
の書面を追送すべき旨を登録者に対し電子メールにより返信した。
センターは、2011年7月12日、登録者から上記電子メールを印字した書
面4通を受領したので、うち1通を同日、申立人代に対し郵送した。
(8)パネリストの選任  2011年7月14日
      申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2011年7月15日
      パネリスト:渡邊 敏
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2011年7月14日  JPNICおよびJPRSへ通知(電子メール)
                        申立人および登録者へ通知(電子メール及び郵送)
      裁定予定日:2011年8月4日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2011年7月14日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2011年7月21日  審理終了、裁定。

 単独パネリストは、紛争処理パネルが、規則及び補則に従って適正に構成
され且つ指名されたことを認定する。
 紛争処理パネルは、申立書、提出された証拠、方針、規則及び補則に基づ
いて裁定を下さなければならない。



4. 事実
 登録者が答弁書にて申立人の主張について認否しなかったので、申立人が主
張する事実のうち、パネリストが相当であると思量する事実をここに摘示する。
 (1) 申立人の所有する登録商標について
   申立人は、以下の商標を所有している(甲1)。
   【登録番号】商標登録第5184459号
   【登録日】平成20年11月28日
   【登録商標(標準文字)】OpenX
   【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
   第9類 電子応用機械器具及びその部品,電子計算機用プログラム(電
気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるものを含む。),ウェブサイ
トにおける広告用スペースの管理及び配信を行うコンピュータソフトウェア,
インターネットを通じてダウンロード可能なウェブサイトにおける広告用スペ
ースの管理及び配信を行うコンピュータソフトウェア,個人又は法人のサーバ
を利用して、インターネットを通じてダウンロード可能なウェブサイトにおけ
る広告用スペースの管理及び配信を行うコンピュータソフトウェア,ウェブブ
ラウザ用コンピュータソフトウェア,インターネットを利用して受信し、及び
保存することができる音楽ファイル,電気通信機械器具,電子出版物(電気通
信回線を通じてダウンロードにより販売されるものを含む。)
   第35類 広告,経営の診断又は経営に関する助言,経営及び事業の管
理,インターネットを介して行う広告,テレビ広告又はラジオ広告の制作,会
計処理,事業に関する情報の提供,販売を目的とした、各種通信媒体による商
品の紹介,小売業の経営の診断又は経営に関する助言,広告に関する情報の提
供又は指導・助言,事業に関する指導及び助言
   第42類 ウェブサイトにおける広告用スペースの管理及び配信を行う
コンピュータソフトウェアの設計・作成・保守に関する助言,ウェブサイトに
おける広告用スペースの管理及び配信を行うコンピュータソフトウェアの貸与,
ウェブサイトにおける広告用スペースの管理及び配信を行うコンピュータソフ
トウェアの設計及び開発,ウェブサイトにおける広告用スペースの管理及び配
信を行うコンピュータソフトウェアの保守,ウェブサイトにおける広告用スペ
ースの管理及び配信を行うコンピュータソフトウェアのインストール及びバー
ジョンアップ,コンピュータソフトウェアの設計・作成・保守に関する助言,
コンピュータソフトウェアの設計・作成又は保守に関する情報の提供,電子計
算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他の用途に
応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要と
する機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機用プログラム
の提供,電子計算機用プログラムの貸与,電子計算機を用いて行うデータ処理
   【出願番号】商願2008-27685
   【出願日】平成20年4月9日
   【優先日】平成20年1月9日
   【優先権主張国又は機関】英国(GB)

 (2)申立人の実情
  ① 申立人は、1998年phpAdsNewという社名で創業し、その
後OpenAdsに社名を変更し、2007年に現在の「OpenX」に社名
に変更した(甲2)。
  ② 申立人は、創業当時よりオープンソースのソフトウェアを世界各国の
お客様へ提供しており、2008年には、100カ国以上にまたがる10万サ
イトのウェブパブリッシャー約3万社に広告を配信している(甲3)。
  ③ 申立人は、その後も、全世界のユーザから多大な支持を受け事業を拡
大している。また、2009年11月には、米国マイクロソフト社と提携を結
び、15万以上のウェブサイトを通じて一月に3000億以上の広告を配信し
ている(甲4)。
  ④ 2010年8月、申立人傘下の米国企業OpenX Technologies, Inc.
は、電通の100%子会社cyber communications inc.と業務提携を行い、申
立人の新製品「OpenX Market Japan」を販売開始する旨を発表した(甲5、甲
6)。
  ⑤ 申立人の商標である「OpenX」は、前記(1)の通り、
   【優先日】平成20年1月9日(2008年)
   【優先権主張国又は機関】英国(GB)
     であり、イギリスには、平成20年1月9日に出願されており、日
本には、平成20年4月9日に出願されている。

5. 当事者の主張
 (1)申立人
  申立人によれば、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに
類似し、登録者はドメイン名について正当な利益を有していない。そしてドメ
イン名は不正の目的で登録、使用されている。
 よって、申立人は、紛争の対象であるドメイン名の登録について、移転の裁
定を下すことを求めている。
 (2)登録者
   本件紛争に係るドメイン名「OpenX.JP」に関しては、オープン
ソースソフトウェアOpenXを普及させるための自主的な活動をしている日
本OpenXユーザー会が運用している。
  登録者は、2008年2月16日にドメイン名を取得し管理している。
  ドメイン名を取得し、サイトを立ち上げた後、2008年8月7日にOpe
nX本社のOliver Georgeさんにメールで連絡し、OpenXイベントに日
本ユーザー会として参画した。
  また、OpenX本社のanna.skorupaさんにも2008年9月25日に連絡
し応援をもらっている。以上より、本件紛争に係るドメイン名「OpenX.
JP」は、申立人から了解をもらって運営している。
  本件事件で、登録者は責任をとって代表を辞任し、現副代表に代表の地位
を譲り、ドメイン名も譲渡し、今後もユーザー会の活動をサポートしていきた
い。
  よって、本件ドメイン名を申立人に移転する申立は棄却を求める。

6.争点および事実認定
 (1).争点について
    登録者は、申立人の主張に対して、特に反論せず、民事訴訟的には、
請求棄却を求め、請求原因は争わず、但し抗弁としてドメイン名の使用につい
て承諾を得ていると主張している事件である。
    したがって登録者の主張を善解すれば、方針第4条a③について、登
録者のドメイン名が、正当な目的で使用していることを主張していると解釈で
きる。この点については、(2)③で判断する。
 (2)規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することに
なっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された
陳述及び文書の結果に基づき、方針、規則、及び適用されうる関係法規の規定、
原則ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次事項の各々を証明しなければならないことを指
図している。
  ① 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標
その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  ② 登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有して
いないこと
  ③ 登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
 したがって、以上の①から③について申立人の主張について検討する。
 ア.  同一又混同を引き起こすほどの類似性について
 本件ドメイン名は、「OpenX.jp」であり、2008年2月16日に登
録され、申立書が提出された時点(平成23年5月27日)において、JPRS
に登録されている(甲第7号証)。
 本件ドメイン名のうち、「.jp」の部分は国別コードを表す部分に過ぎない
ことから、識別機能を果たす部分は、「OpenX」の部分である。
 これに対して、申立人が所有する商標は商標登録第5184459号であり、
商標は欧文字「OpenX」からなるものである。
  登録者のドメイン名の要部「OpenX」と申立人の商標である「Ope
nX」とを対比すると、まず外観では両者は共通である。
  称呼においては、登録者のドメイン名から生ずる称呼は「オープンエック
ス」であり、申立人の商標も同様であるから、両者は、類似する。
  観念においては、申立人の商標は造語であるので、両者の対比の要をみな
い。
  以上より、登録者のドメイン名の要部「OpenX」は申立人の商標と混
同を惹き起す程に類似している。
イ 権利又は正当な利益の欠如について
  この点については、登録者がドメイン名に関係する権利又は正当な利益を
有していることを証明しなければならないが、登録者は何の証明も行っていな
いので、上記イが推認される。
ウ 不正の目的での登録または使用
  (ア)本件ドメイン名の登録については、登録者は「代表である私、瀧澤
勇人が2008年2月16日に取得し管理しています。ドメインを取得し、サイト
を立ち上げた後、OpenX本社のOliverGeorgeさんに2008年8月7日にメ
ールで連絡し、OpenXイベントに日本ユーザー会として参画しました。」と
主張している。本件ドメイン名取得前の平成20年1月9日(2008年)に
本件商標登録第5184459号が、英国(GB)に優先出願しており、又申
立人は2007年に現在の「OpenX」に社名に変更(甲2)したのであり、
かえって申立人は、ドメイン名「http://www.openx.org/」及び
「http://openx.org/」を登録、使用している(甲8、甲9)。
 したがって、登録者が本件ドメイン名登録時に正当な目的を有していたこと
は立証されていない。
  (イ)正当な目的による使用については、登録者は、「また、OpenX本
社のanna.skorupaさんにも2008年9月25日に連絡し応援をいただいておりま
す。」と主張するが、単に応援をもらっていると主張し、その応援をしている人
物が申立人会社のどのような地位にいる人か不明である。いずれにしても本件
ドメイン名を使用するについて、申立人から何らかの権限を与えていると伺え
る主張乃至立証はなされていない。
 かえって、登録者は、「さて、運営にはドメイン代やサーバ代がかかるため、
右脇にグーグルアドセンスの広告を表示しておりました。広告表示については、
特に本家からは何も言われておりませんでしたので、そのまま運用しておりま
したが、今回のドメイントラブルで連絡を受け、弁理士さんより広告表示を外
すように指示がありましたので、ユーザー会のメンバーと相談し、外すことに
しました。」と主張しており、登録者は申立人が登録者のドメイン名使用を黙認
していたことを暗に認めた主張をしている。しかしながら黙認は正当な使用権
限を与えたことにはならない。
  又登録者は、2010年6月29日時点において、本件ドメイン名「Op
enX.jp」にて、各種バナー広告へのリンクを掲載しており(甲11)、こ
れらのテキストをクリックすると、それぞれのリンク先のバナー広告へリンク
するように設定されている(甲12)。
 上記バナー広告を掲載する行為は、明らかに利益を目的とした営利活動であ
る。登録者は無断で申立人の有する「OpenX」の名声に便乗して消費者を
本件ドメインに誘引し、各種のバーナー広告を利用してもらうことにより、利
得を得ているのである。
 なお、申立人が登録者に対し、本件ドメイン名の使用停止等を求めた通知書
を送付したことにより、登録者は、上記バナー広告の掲載を中止したことは、
前記の登録者の答弁書にも記載されている。
 以上より、登録者に本件ドメイン名を使用する正当な目的や権限がないのに、
本件ドメイン名を使用して営利行為を行っていたのであり、登録者には不正な
目的による使用をしていることが推認できる。

7. 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、方針の第4条iに従って、登録者によ
って登録されたドメイン名「OpenX.jp」が申立人へ移転されるべきで
あることを要求する。
  即ち、登録者のドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほど類似
し、登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有していず、登録者
のドメイン名が不正の目的で使用されているものと認定できる。

        日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル

              渡 邊   敏
              単独パネリスト
             2011年7月22日