事件番号:JP2011-0006

               裁   定

申立人:
(名称) 特定非営利活動法人地球憲章アジア太平洋・日本委員会
(住所) 東京都渋谷区神宮前六丁目35番の3号コープオリンピア504
代理人:なし
登録者:
(名称) 柏熊 正元
(住所) 東京都中野区弥生町1-60-7-101
代理人:なし

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは,JPドメイン名紛争処理方針,
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センター
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り,申立書・
答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果,以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「EARTHCHARTER.JP」の登録を申立人に移転せよ

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「EARTHCHARTER.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張

 A 申立人の主張
(1) 登録者のドメイン名が,申立人が権利または正当な利益を有する商
標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

   ア 申立人

 申立人は,世界の有識者からなる国際地球憲章委員会が起草し,2000年に決
定した国際的なcharter(憲章)の名称である「earthcharter」(地球憲章)の
普及を図るため設立された正当性ある日本のNPO法人であり,普及策の一環
としてearthcharter.jpのドメイン名で2006年に登録し,WEBサイトを開設し
ていた。

   イ 申立人の正当な利益を有する表示

 申立人である特定非営利活動法人地球憲章アジア太平洋・日本委員会(代表:
広中和歌子)は,上記のとおり国際的なearthcharter(地球憲章)の普及のた
めに設立した正当性ある日本のNPO法人であり,「earthcharter」の表示(以
下「申立人表示」という。)について正当な利益を有する。

   ウ 本件ドメイン名

 登録者は,「EARTHCHARTER.JP」なるドメイン名(以下,「本
件ドメイン名」という。)を,2009年(平成21年)7月1日に登録して
いる。

   エ 本件ドメイン名と申立人表示との同一性

 本件ドメイン名と申立人表示は同一である。

 (2) 登録者が,ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有して
いないこと

   ア 登録者は本件ドメイン名を使用しているWEBサイトで
「earthcharter」(地球憲章)を全く扱っていない

 登録者は,本件ドメイン名を使用したWEBサイトにおいてWindows Media
Playerのデジタル著作管理の名目でアダルトサイトへのリンクを提供している
だけで,本来の「earthcharter」(地球憲章)に関する情報を全く扱っていな
い。

   イ 「earthcharter」を検索した人々から申立人への苦情が頻発

 最近,「earthcharter」(地球憲章)をWEB上で検索した人々から,申立人
に対して「エロサイトいつまで続けるのか!」といった苦情・抗議が頻発する
ようになった。

   ウ 登録者は本件ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を
有していない

 以上のように,登録者は本件ドメイン名を使用したWEBサイトにおいて,本
来の「earthcharter」(地球憲章)に関する情報を全く扱っておらず,また,
「earthcharter」(地球憲章)についての情報を得たい人々から申立人に対し
苦情・抗議が頻発していることから,登録者は本件ドメイン名の登録に関する
権利または正当な利益を有していないことは明らかである。

 (3) 登録者のドメイン名が,不正の目的で登録または使用されていること

   ア ドメイン名「earthcharter.jp」は申立人が2006年に登録していた

 ドメイン名「earthcharter.jp」は申立人が「earthcharter」(地球憲章)の
普及を図るため2006年に登録したものが,再登録の時期を逸したため,登録者
に奪われてしまった。

   イ 登録者はドメイン名の販売等を目的として取得

 登録者は,本件ドメイン名の取得に直接かかった金額を超える対価を得るた
めに,本件ドメイン名を販売,貸与または移転することを主たる目的として,
当該ドメイン名を取得したと考えられる。

   ウ 登録者はアダルトサイトに誘引するために,本件ドメイン名を使用
している

 本件ドメイン名のホームページと連動するページは,アダルトサイトへのリ
ンクを提供しており,そのリンクには,「↓不適切な画像も入っていますので
18歳以上のみ-無修正動画エログ」との表示がなされていることから,このよう
な誤解を招く方法を利用して,インターネット上のユーザーを,アダルトサイ
トに誘引するために,当該ドメイン名を使用していると考えられる。

   エ 登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されている

 以上のように,本件ドメイン名は,申立人が2006年に登録していたが,再登
録の際の間隙を縫って,登録者がドメイン名の販売等を目的としてこれを奪い,
また,アダルトサイトに誘引するために,本件ドメイン名を使用していると考
えられる。

 これらのことから,登録者の本件ドメイン名が,不正の目的で登録され使用
されていることは明らかである。

 (4) よって,申立人は,本件ドメイン名の登録を申立人に移転せよとの
裁定を求める。

 B 登録者の答弁

  登録者は答弁書を提出したが,上記A(1)から(3)について,いずれも
反論の意思なく,すみやかな移転を希望する,と答弁した。

5 争点および事実認定

 A 登録者の答弁の効果

 (1) 本件において,登録者は,提出した答弁書において,申立人の申立
ての根拠・理由(規則第3条(b)(ⅸ))である上記4(1)~(3)について,
いずれも反論の意思なく,すみやかな移転を希望する,と答弁している。

 (2) しかしながら,本手続には弁論主義は適用されず,パネルは,登録
者が争わない意思を表明したという事実により申立人の主張事実等について
(擬制)自白の拘束力が生じるものとすることはできず,JPドメイン紛争処
理方針(以下,「処理方針」という。)および手続規則の定める要件が充足さ
れているか否かの判断を申立人の陳述,提出した証拠等に基づいてしなければ
ならないというべきである(手続規則第15条(a)等)。

 ただし,パネルは,当事者の主張に拘束されることはないとしても,双方当
事者の主張が一致している事実については,原則として当事者の態度を尊重す
べきものであると解する。

 (3) 規則第15条(a)は,パネルが紛争を裁定する際に使用することになっ
ている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは,提出された陳
述・文書および審問の結果に基づき,処理方針,本規則および適用されうる関
係法規の規定・原則,ならびに条理に従って,裁定を下さなければならない。」。

 そして,処理方針第4条a.は,申立人が次の3項目のすべてを立証しなけ
ればならない,と指図している。

  ① 登録者のドメイン名が,申立人が権利または正当な利益を有する商標
その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

  ② 登録者が,当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有して
いないこと

  ③ 登録者の当該ドメイン名が,不正の目的で登録または使用されている
こと

 B  処理方針第4条aの各号についての当パネルの判断

 (1) 同一または混同を引き起こすほどの類似性

 登録者は,本要件について,反論の意思なしと答弁している。

 また,申立人は,登録商標を有している事実について主張していないが,申
立人である特定非営利活動法人地球憲章アジア太平洋・日本委員会は,国際的
なearthcharter(地球憲章)の普及のため設立した正当性ある日本のNPO法
人であり,証拠1(申立人のパンフレット)によれば,「地球憲章」,「The Earth
Cherter」の表示,そのホームページやE-mailのドメイン名表示等から,その
著名性の有無にかかわらず,その活動主体を表す申立人表示「earthcharter」
について正当な利益を有する,と認められる。

 一方,本件ドメイン名は「EARTHCHARTER.JP」であり,このう
ち「JP」の部分はトップレベルドメインであって国別コードの日本を意味し,
使用主体が属する国を表示するものであるに過ぎないから,本件ドメイン名にお
いて,主たる識別力を有する要部は,セカンドレベルドメインである大文字のロー
マ字からなる「EARTHCHARTER」の部分にあると認められる。

 そして,登録者の本件ドメイン名の要部「EARTHCHARTER」と,
申立人表示「earthcharter」とを比較すると,称呼(アースチャーター)・観
念(地球憲章)において同一であり,大文字と小文字の違いはあるが外観も類
似している。

 よって,本件ドメイン名は,申立人表示と,全体として混同を引き起こすほ
ど類似する,と認められる。

 (2) 権利または正当な利益

 登録者は,本要件についても,反論の意思なしと答弁している。

 また,登録者は,本件ドメイン名を使用したWEBサイトにおいて
「earthcharter」(地球憲章)に関する情報を全く扱っておらず,かえって申
立人表示の国際的な価値を毀損する意図を有していると推認される。

 よって,登録者が権利または正当な権利を有していないと認めることがで
きる。

 (3) 不正の目的で登録または使用

 本要件についても,登録者は反論の意思なし,と答弁している。

 また,本件ドメイン名のホームページ(http://www.earthcharter.jp/)と連
動するページは,アダルトサイトへのリンクを提供しており,地球憲章に関す
る情報を得ようとするインターネット上のユーザーを,アダルトサイトに誘引
するために,当該ドメイン名を使用していると推認される。

 よって,本件ドメイン名は不正の目的で登録され使用されているものと認め
られる。

6 結 論

  以上に照らして,紛争処理パネルは,登録者によって登録された本件ドメ
イン名「EARTHCHARTER.JP」が申立人表示と全体として混同を引
き起こすほど類似し,登録者が,ドメイン名について権利又は正当な利益を有
しておらず,登録者のドメイン名が不正の目的で登録されかつ使用されている
ものと認定する。

 よって,処理方針第4条i.に従って,紛争処理パネルは,ドメイン名「E
ARTHCHARTER.JP」の登録を申立人に移転するものとし,主文のと
おり裁定する。

  2011年10月11日
   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
               小 松 陽一郎
               (単独パネリスト)

別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      電子メール 2011年8月22日 書面 2011年8月23日
(2)手数料受領日
      2011年8月22日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2011年8月23日  JPRSへ照会
      2011年8月23日  JPRSから登録情報の確認
      確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2011年8月25
  日に、処理方針とJPドメイン名紛争処理手続規則(以下、規則という。)に照ら
  し、当事者の記載、添付書類等において補正・追完を要する不備がある旨の申立書
  不備通知を申立人に対して行い(電子メール、ファクシミリ及び郵送)、補正申立
  書及び添付書類をその翌日から起算して2営業日目の同年8月29日に電子メー
  ルで、及び同月30日に郵送で受領した。
   なお、補正申立書記載の申立の趣旨を変更する再補正申立書を同年8月30日
  に電子メールで、及び9月1日に郵送で受領した。また、補正申立書記載の申立
  人住所を登記された主たる事務所の住所に訂正する旨の訂正申立書を受領した。
(5)手続開始日  2011年9月1日
      手続開始日の通知  2011年9月1日に申立人、登録者、JPRS及びJPNIC
  へ通知(電子メール、ファクシミリ及び郵送。)
(6)登録者への通知日及び内容
   1) 申立書、補正申立書、再補正申立書及び証拠等一式
    通知日  2011年9月1日(通知方法  電子メール及び郵送)
    通知内容  答弁書提出期限 2011年10月3日
   2)訂正申立書
    通知日   2011年9月26日
    通知方法  電子メール及び郵送
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、2011年9月13日、答弁書(書面)を受領し、同日、答弁書が
  手続規則に適合していることを確認したが、電子メールによる文書ファイルの送信
  を受けなかったので、翌14日、文書ファイルのメール送信が必要である旨を登録
  者に通知(電子メール)し、18日、答弁書の文書ファイルを電子メールにより受
  信した。
(8)パネリストの選任  2011年9月26日
      申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2011年9月30日
      パネリスト:小松 陽一郎
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2011年9月26日  JPNIC及びJPRSへ通知(電子メール)
              申立人及び登録者へ通知(電子メール、ファクシミリ及
              び郵送)
      裁定予定日:2011年10月17日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2011年9月26日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2011年10月11日  審理終了、裁定。