事件番号:JP2012-0002

                  裁 定

1 当事者
  申立人:
  (名称)株式会社ディー・エヌ・エー
  (住所)東京都渋谷区代々木四丁目30番3号
  申立人代理人:弁護士 佐々木 奏
         同   横山 経通
  登録者:
  (名称)スカンクワークス株式会社
  (住所)東京都渋谷区本町三丁目45番11号

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JP ドメイン名紛争処理方針、JP ドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP ドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書、追加陳述書面及び提出された証
拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

2 裁定主文
  ドメイン名「MOBAGE.CO.JP」の登録を申立人株式会社ディー・エ
 ヌ・エーに移転せよ。

3 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「MOBAGE.CO.JP」である。

4 手続の経緯
  別記のとおりである。

5 当事者の主張
 a 申立人
  (1) 申立人は、平成11年3月に設立された会社であり、「モバゲータウン」(現在
   は「Mobage」(モバゲー))との名称で携帯端末向けサイトの運営などの事業を行っ
   ている。
    また、申立人は、別紙目録記載の登録商標①ないし⑦(以下、「本件登録商標」
   という。)の商標権者である。
  (2) 登録者は、平成23年7月28日に登録されたドメイン名「MOBAGE.CO.JP」(以
   下、「本件ドメイン名」という。)を保有している。
  (3) 登録者の本件ドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他
   表示と同一または混同を引き起こすほど類似している(JPドメイン紛争処理方針
   4条a項(i)号)。
    本件ドメイン名のうち、「CO.JP」の部分は、登録者の属性を示すものであり、
   ドメイン名として一般的に用いられる表示にすぎないから、識別力を有する
   「MOBAGE」の部分を本件登録商標と対比すると、両者の観念及び称呼は同一であ
   り、外観も日本語表記とローマ字表記の違いがあるにすぎない。
  (4) 登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有せず、不正の目
   的で本件ドメイン名を登録している(同方針4a項(ii)号)。
    申立人が「モバゲータウン」の標章で運用するサイトは、ソーシャル・ネット
   ワーク・サービス、メール、チャット、日記、掲示板、サークル機能など、密度の
   高い会員間のコミュニケーションを提供する点において、他の公式モバイルゲーム
   サイトや無料モバイルゲームサイトとは異なる大きな特徴を持つ日本最大級のサ
   イトであり、平成23年9月末現在で会員数約3200万人に達しており、「モバ
   ゲータウン」関連事業の売上高は、平成22年度において、976億円余である。
    そして、申立人は「モバゲータウン」の「タウン」を省略し、「Mobage(モバ
   ゲー)」と称して広告・宣伝を行っており、「モバゲー」の標章は、本件ドメイン
   名が登録された平成23年7月28日当時申立人のサービスを表す標章として、全
   国的に著名になっていた。
    したがって、登録者は、全国的に著名な申立人の「モバゲー」や「Mobage」の
   標章の存在を認識しながら、不正の目的で本件ドメイン名を登録したものである。
  (5) 登録者には、「JP ドメイン名紛争処理方針」4条c項に定める事情は存しない。
   (ア)本件ドメイン名は、これを入力すると、当該ページが開発テスト環境である
   との表示(mobage.co.jp development test environment)がなされるにすぎない。
    また、申立人と登録者との間には、一切の資本関係、取引関係も存しない。
    したがって、登録者は、本件ドメイン名を商品またはサービスを提供する目的
   で使用していないし、その使用のための準備もしていないから、4条c項(i)号に
   定める事情は存しない。
   (イ)さらに、本件ドメイン名の名称で一般に認識されている事情は存在せず、申
   立人の「モバゲー」や「Mobage」の著名性からすれば、登録者が本件ドメイン名を
   使用すると、申立人の標章との誤認を引き起こし、その価値を毀損することを意図
   して使用していたり、そのような意図を有する第三者に対して本件ドメイン名を売
   却する可能性が存在し、また、登録者が本件ドメイン名を非商業的目的に使用し、
   または公正に使用しているともいえないから、4条c項(ii)および(iii)号に定
   める事情も存在しない。

 b 登録者
  (1) 本件ドメイン名が申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同
   一または混同を引き起こすほど類似しているとの申立人の意見に対する登録者の
   反論はない。
  (2) 登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないとの
   申立人の意見に対する反論
    登録者は、平成23年7月28日に本件ドメイン名を登録後、現在に至るまで
   登録者が受託開発している事業の開発環境として使用しており、社内および特定取
   引先のみにアクセスを許可している。本件ドメイン名にアクセスした場合、開発環
   境である旨(mobage.co.jp development test environment)の表示がなされ、一般
   に利用できないようパスワード認証が表示されることがその証左である。
    したがって、登録者には、申立人の商標権その他の表示の価値を毀損する意図
   を有することなく、本件ドメイン名を公正に使用していることは明らかであり、「JP
   ドメイン名紛争処理方針」4条c項(iii)号の事情に該当する。
  (3) 登録者は本件ドメイン名を不正の目的で登録または使用しているとの申立人の
   意見に対する反論
    登録者は、申立人の商標権その他表示を利用した事実は一切なく、不正の目的
    で使用もしていない。
     申立人の展開する「モバゲータウン」ないし「Mobage」については、サービ
    ス開始以来「Mbge」のドメイン名で運用されているが、本件ドメイン名とは関
    係なく成長しており、申立人の「モバゲータウン」関連事業の①売上高と②広
    告宣伝費は、2010年度第3・4半期は、①254億1100円、②52億
    2300万円であるのに対し、2011年度第3・4半期は、①302億47
    00万円、②49億1200万円であって、本件ドメインの登録により申立人
    の事業が混乱させられるに至るような状況は存在しない。

6 事実認定および判断
 (1)JPドメイン処理のための手続規則第15条(a)項は、パネルが紛争を裁
 定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。
  「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規
  則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下
  さなければならない」。
  また、方針第4条a項は、申立人が次の事項の各々を立証しなければならないこ
 とを指図している。
 「(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その
    他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有してい
    ないこと
  (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」

 (2)同一又は混同を引き起こすほどの類似性(4条a項(i)号)
 (ア) 申立人の保有する商標のうち、登録者が平成23年7月28日に本件ドメイン
 名を登録した以前に登録された商標は、別紙目録①ないし④であり、いずれも「モバ
 ゲー」なる仮名文字を横一連に構成したものであり、これを登録者のドメイン名である
 「MOBAGE.CO.JP」の要部である「MOBAGE」と対比すると、両者は「モバゲー」と称呼す
 る点において同一であり、また、外観は異なるものの造語であって特定の観念を生じな
 い構成を仮名文字とするかローマ字とするかの違いがあるにすぎない。したがって、本
 件ドメイン名と本件商標①ないし④は、その構成自体から客観的に、同一又は混同を引
 き起こすほどに類似していると認められる。
 (イ)また、甲13の12、甲14の1~112、甲15の1~21、甲16の1~4
 7によれば、申立人が上記本件ドメイン名の登録当時サイトで使用していた「Mobage(モ
 バゲー)」なる表示も、上記商標と同様本件ドメイン名と称呼において同一であり、ま
 た、外観は同一のローマ字表記(「obage」の部分が大文字と小文字の差がある。)が
 用いられており、かつ造語であって特定の観念を生じない点においても共通している。
   したがって、申立人の保有する上記商標及び表示と本件ドメイン名は、これに接す
  る者において混同を生じるほど類似しているといえる(登録者は、答弁書においてこ
  の点について「反論は行わない」としている。)。
 (3)登録者の権利又は正当な利益(4条a項(ii)号)
 (ア) 甲13の11及び上記甲号各証によれば、申立人が「モバゲータウン」の標章
  で運用するサイトは、平成22年10月末現在で会員数約2000万人に達しており、
  携帯電話、スマートフォン、PC等の通信端末を通じてソーシャルゲームを含むソー
  シャル・ネットワーク・サービスを提供し、「モバゲータウン」関連事業の売上高は、
  平成22年度において976億円余であったところ、平成23年2月に「モバゲータ
  ウン」のサービス名とロゴを一新し、同年3月28日より「モバゲータウン」の「タ
  ウン」を省略し、「Mobage(モバゲー)」と称して広告・宣伝を行っており、これら
  の諸事実を総合すれば、「Mobage(モバゲー)」の表示は、本件ドメイン名が登録さ
  れた平成23年7月28日当時申立人のサービスを表す表示として、全国的に著名に
  なっていたと認められる。
 (イ) これに対し、登録者が本件ドメイン名を登録したのは、申立人の保有する商標及
  び表示が全国的に著名であった後であり、登録者はこれにアクセスすることは容易な
  状況にあったと認められるだけでなく、登録者は本件ドメイン名に関連する商標権も
  保有せず、申立人とは何らの資本関係も取引関係もないことと、申立人が使用し著名
  となった「Mobage(モバゲー)」は造語であって、これら申立人の商標、標章に依拠
  しない限り、登録者が「MOBAGE」なるドメイン名を想起して登録できる状況にはなか
  つたと推認されることに鑑みれば、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正
  当な利益を有していなかったというべきである。
 (ウ) この点について、登録者は、 本件ドメイン名を登録後、現在に至るまで登録者が
  受託開発している事業の開発環境として使用しており、社内および特定取引先のみに
  アクセスを許可しており、登録者には、申立人の商標権その他の表示の価値を毀損す
  る意図を有することなく、本件ドメイン名を公正に使用している旨主張する。
   前掲甲19によれば、本件ドメイン名を入力すると、開発環境である旨
  (mobage.co.jp development test environment)の表示がなされ、パスワード認証が
  表示されることが認められる。しかし、甲3および甲4によれば、登録者はインター
  ネット、携帯電話網を使用したデジタルコンテンツの企画・開発、制作・配信業務を
  事業の目的とし、実際にもモバイルコンテンツの企画運営に従事する企業と認められ
  る。したがって、上記(ア)および(イ)認定の諸事実に照らせば、登録者は本件ドメ
  イン名が申立人の商標、標章として全国的に著名であることを知って不正の目的で登
  録したと推認すべきであり、この推認を破るためには、何故に自らのドメイン名に申
  立人の商標や表示と混同を生じるほど類似している「MOBAGE」という造語を登録した
  のかについて合理的な事情を主張証明すべきであるが、そのような主張も証拠も存し
  ない。
   したがって、登録者は、申立人の商標権その他の表示の価値を毀損する意図を有す
  ることなく、本件ドメイン名を公正に使用しているとはいえない。
   また、登録者は申立人の展開する「モバゲータウン」ないし「Mobage」については、
  サービス開始以来「Mbga.jp」のドメイン名で運用されているが、本件ドメイン名と
  は関係なく成長しており、本件ドメインの登録により申立人の事業が混乱させられる
  に至るような状況は存在しない旨主張するが、ドメイン名紛争処理方針は、誰でも原
  則として先着順に登録できるドメイン名登録制度を不正に利用して不正な利益を得
  ることを排除する趣旨であって、申立人の事業の伸展を理由にドメイン名の移転を免
  れることは許されない。

7 結論
  以上のとおりであるから、登録者によって登録された本件ドメイン名「MOBAGE.CO.
 JP」が申立人の商標および表示と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名
 について権利又は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録
 されかつ使用されているものと裁定する。
  よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「MOBAGE.CO.JP」の登録を申立人に移
 転するものとし、主文のとおり裁定する。

  2012年3月13日

                  日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル

                    竹田  稔


                    熊倉 禎男


                    下坂スミ子


【別紙目録】

 ① 商 標  : モバゲー
   出願日  : 平成11年(1999年) 9月27日
   登録日  : 平成12年(2000年)10月20日
   移転日  : 平成20年(2008年) 5月22日
   登録番号 : 第4424864号
   指定商品及び役務の区分 : 第9類

 ② 商標   : モバゲー
   出願日  : 平成11年(1999年) 9月27日
   登録日  : 平成12年(2000年)11月24日
   移転日  : 平成20年(2008年) 5月22日
   登録番号 : 第4434353号
   指定商品及び役務の区分 : 第35類

 ③ 商標   : モバゲー
   出願日  : 平成11年(1999年) 9月27日
   登録日  : 平成12年(2000年)11月24日
   移転日  : 平成20年(2008年) 5月22日
   登録番号 : 第4434354号
   指定商品及び役務の区分 : 第38類

  ④ 商標  : モバゲー別紙目録商標1
   出願日  : 平成19年(2007年) 9月11日
   登録日  : 平成22年(2010年) 4月 9日
   登録番号 : 第5315673号
   指定商品及び役務の区分 : 第9類、第16類、第35類、第38類、第41
  類、第42類、第45類

 ⑤ 商標   : モバゲー別紙目録商標2
   出願日  : 平成23年(2011年) 2月 2日
   登録日  : 平成23年(2011年) 8月 5日
   登録番号 : 第5430154号
   指定商品及び役務の区分 : 第9類、第16類、第35類、第38類、第39
  類、第41類、第42類、第45類

 ⑥ 商標   : モバゲー別紙目録商標3
   出願日  : 平成23年(2011年) 2月10日
   登録日  : 平成23年(2011年) 8月19日
   登録番号 : 第5433184号
   指定商品及び役務の区分 : 第9類、第16類、第35類、第38類、第39
  類、第41類、第42類、第45類

 ⑦ 商標   : モバゲー別紙目録商標4
   出願日  : 平成22年(2010年)12月13日
   登録日  : 平成23年(2011年) 9月22日
   登録番号 : 第5440507号
   指定商品及び役務の区分 : 第9類、第16類、第35類、第38類、第39
  類、第41類、第42類、第45類

                                     以上


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2012年1月5日 電子メール)及び6日(書面)
(2)手数料受領日
   2012年1月6日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2012年1月6日 JPRSへ照会
   2012年1月6日 JPRSから登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登
        録されている登録者の電子メールアドレス(以下「登録アドレス」)及
        び住所(以下「登録住所」)等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2012年1月6日に、
  申立書が処理方針と規則に照らし、申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
   1) 申立書送付日(手続開始日)
   2012年1月13日(電子メール及び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限 2012年2月9日
(6)手続開始日の通知
    2012年1月13日に、申立人及び登録者には電子メールと郵送で、JPRSと
   JPNICには電子メールで通知
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   当センターは2012年2月9日に答弁書を受領し、翌10日、答弁書が処理方針
  と規則に照らし、申立書が適合していることを確認した。
(8)パネリストの選任 2012年2月27日
   申立人が3名のパネルによって審理・裁定されることを選択したため、センターは、
  次の3名のパネリストを選任した。
   パネリスト:熊倉 禎男(申立人が提示した候補者から指名)
         下坂 スミ子(登録者が提示した候補者からパネリストを指名するこ
               とができなかったので、センターのパネリスト名簿登
               載者全員の中から指名)
         竹田 稔(「三番目のパネリスト」として指名)
   中立宣言書の受領日:2012年3月1日
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2012年2月27日 JPNICおよびJPRSへ電子メールで通知
              申立人および登録者へ電子メール及び郵送で通知(但し登
              録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」と
              して返送された)
   裁定予定日:2012年3月16日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2012年2月27日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2012年3月13日  審理終了、裁定。