事件番号:JP2012-0003 裁 定 申立人: (名称)阪急電鉄株式会社 (住所)大阪府池田市栄町1番1号 代理人:弁護士 松村 信夫 :弁護士 塩田 千恵子 :弁護士 坂田 優 :弁護士 小野 昌延 登録者: (名称)GMOインターネット株式会社 (住所)東京都渋谷区桜丘町26番1号セルリアンタワー11階 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「紛 争処理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」 という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の 補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「HANKYU―JUTAKU.JP」の登録を取り消せ 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「HANKYU―JUTAKU.JP」である(以下、「本件 ドメイン名」という)。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 争点および判断 (1)登録者 ア 当事者の主張 本件登録者は、自らを本件ドメイン名の「真の登録者」ではなく、本件ドメイン 名は本件登録者が提供するドメイン名登録サービスを通して、申立外阪急住宅株式 会社(以下、「申立外会社」という。)が実質的に登録したドメイン名であるから、 「真の登録者」は申立外会社であり、申立外会社を本件紛争処理手続においても当 事者として取扱うか、あるいは本件申立を不適切なものとして却下すべきと主張す るため、まずこの点について判断する。 イ 当パネルの判断 (ア)汎用JPドメイン名の登録者となる者は、株式会社日本レジストリサービス(以 下、「JPRS」という。)が定める汎用ドメイン名登録等に関する規則(以下、「登 録規則」という。)に従って申請を行うものであるところ、登録規則第37条では、 当該ドメイン名について第三者との間に紛争がある場合には、紛争処理方針に従っ た処理を行うことに同意して登録を行うものである旨規定されている。したがって、 紛争処理方針に基づく紛争処理手続は、登録者の同意に基づくものであり、また当 該同意があるからこそ、裁判外紛争処理制度としてはじめて機能するものである。 紛争処理方針は第4条柱書において、「本条は、登録者が、このJPドメイン名 紛争処理手続に応じなければならない紛争を定めたものである。」と規定し、同条 aは「適用対象となる紛争」として、「第三者(以下「申立人」という)から、手 続規則に従って紛争処理機関に対し、以下の申立があったときには、登録者はこの JPドメイン名紛争処理手続に従うものとする。」とし、「(i)登録者のドメイン 名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を 引き起こすほど類似していること、(ii)登録者が、当該ドメイン名に関係する権 利または正当な利益を有していないこと、(iii)登録者の当該ドメイン名が、不正 の目的で登録または使用されていること」と規定している。 ここで「登録者」とはJPRSにおいてドメイン名の登録をした者をいうところ (紛争処理方針第1条)、ドメイン名の登録申請者は、登録申請時にその本人性を 含む登録申請事項が正確かつ真実であることを表明保証し(登録規則第7条第1 項)、登録されたドメイン名については登録者名を含む所定の事項が公開される(登 録規則第19条)。そして、紛争処理方針第4条によるJPドメイン名紛争処理手 続の係属中、「登録者」は当該ドメイン名登録を他の者に移転することができない (紛争処理方針第8条(i))。これは、自らを「登録者」として公開した者が、紛 争処理手続の申立てをされた場合に、直ちに登録を移転することにより自らの責任 を逃れようとすることを防止する趣旨である。 これらに加えて、紛争処理方針第2条によれば、「登録者」はドメイン名の登録 申請に際し、JPRSに対して、登録申請書に記載した陳述内容が、完全かつ正確 であることを告知し(同条(a))、当該事項が事実でなかった場合、「登録者」は 紛争処理方針に従ってドメイン名登録の移転または取消の不利益を受ける場合が あることに同意する旨規定していることに鑑みれば、「登録者」が自らを登録者と して登録申請書に記載した以上、登録規則という契約上の関係で結ばれた者として、 紛争処理手続に服するとともに、その手続の結果として生じる不利益を受けるべき 者は、「登録者」以外にないということは明らかである。 上記各規定に鑑みれば、紛争処理方針第4条a(i)から(iii)を主張して手続 規則に従って申立てが行われた場合、自らの本人性を含む登録事項が正確かつ真実 であることを表明保証し、「登録者」として公開された者が、紛争処理手続の申立 て後に「真の登録者」が別にいるとして、紛争当事者となることを免れることは許 されない。 本件において申立人は、紛争処理方針第4条a(i)から(iii)を主張して手続 規則に従って申立てを行っているのであるから、同条柱書に基づき、本件登録者が 当事者である。 (イ)また、本件登録者は、本件ドメイン名のwhois検索結果の登録者名及び公 開連絡窓口として本件登録者の名称及び連絡先等が表示されているのは、申立外 会社が本件登録者の提供する「Whois情報公開代行サービス」と称するサー ビス(以下、「情報公開代行サービス」という。)を利用しているためであり、申 立人もこの事実を認識しており、仮に申立人が申立外会社に有効かつ十分な答弁 の機会を与えない目的で、本件登録者を当事者として本件申立を行っているとす れば、当該不適切な申立は却下されるべきであると主張する。 しかし、本件申立前において申立人が本件登録者に対して登録の経緯及び申立 外会社による使用の経緯の説明を求めたものの(甲14)、本件登録者は「真の登 録者」が誰であるか一向に明らかにしなかった(甲15、甲17)。そのため、申 立人はJPRSに対して誰を紛争当事者たる登録者として申立てを行うべきか確 認し(甲18)、当該確認結果に沿って申立てを行うこととなった。かかる経緯に 鑑みれば、申立人が申立外会社に有効かつ十分な答弁の機会を与えない目的で本 件申立てを行っているとは認められない。これに対して、本件登録者は、本件申 立がなされた後になって初めて「真の登録者」の存在を主張し、本件申立による 紛争処理手続の当事者ではないと主張したのであるから、本件申立の前後におい て矛盾する態度を示している。かかる事実に基づけば、本件登録者の当該主張は、 紛争処理方針及び紛争処理手続の定めるところに沿わないだけでなく、その主張 には合理的な理由が見いだせない。 (ウ)小括 以上より、本件登録者が、本件における申立の相手方たる「登録者」となる。 (2)同一又は混同を引き起こすほどの類似性(紛争処理方針第4条a(i)) ア 当事者の主張 (ア)申立人の主張 申立人は、「阪急」、「HANKYU」、「Hankyu」及び「はんきゅう」の申 立人表示が周知著名であること、申立人が「阪急」、「HANKYU」、「Hanky u」及び「はんきゅう」について商標登録を受けており、現在は申立人の親会社か ら許諾を受けて使用していること、並びに、当該申立人表示及び商標と、本件ドメ イン名の要部「HANKYU」とが類似しており、申立人表示の著名性も考え合わ せると、混同の恐れがあることがあることを主張する。 (イ)本件登録者の主張 これに対して本件登録者は、自らが「真の登録者」ではなく答弁する地位にない として実質的な反論を行わない。 (ウ)以上の主張に基づき、以下の通り判断する。 イ 当パネルの判断 (ア)本件登録者が実質的な反論を行わないところにおいて、当事者から提出された 証拠及び公知の事実によれば、申立人の主張に沿った事実が認められる。 (イ)申立人が正当な利益を有する商標及び申立人表示 申立人は、年間輸送人員約6.05億人、年間運賃収入約897億円(2009 年度)の大手民営鉄道会社である(甲2)。 かかる申立人は、「阪急」、「HANKYU」、「Hankyu」又は「はんきゅう」 の商標(以下、「申立人商標」という)について、合計33の指定役務について商 標登録を受けており(甲10の1から33)、現在は当該各登録商標について、申 立人の持株会社である阪急阪神ホールディングス株式会社が保有し、申立人は同社 から使用許諾を受けている。 また、申立人は、その商号を阪神急行電鉄株式会社と称していた大正7年以降、 「阪急」の名称(申立人表示)を、ビル名、百貨店名、プロ野球球団名及び野球場 名等に、広く略称として用いていた(甲4、甲5)。さらに、申立人は昭和48年 には正式社名を「阪急電鉄株式会社」と改称し(甲3の1)、申立人の「阪急」の 表示は、申立人の鉄道事業・沿線開発に伴う各種事業の発展に伴い申立人の関連事 業を示す表示としても広く使用され、現在では申立人を中心として、運輸、各種サ ービス業を主体にグループ各社が申立人表示を使用して営業活動を行っている(甲 1、甲5から甲7)。 以上のような申立人商標及び申立人表示についての申立人による使用期間及び 使用範囲に鑑みると、申立人商標及び申立人表示は、日本国内において申立人の商 品等表示として使用されると共に、申立人を中核とした企業グループの基幹となる 商品等表示として広く全国的に認識されていた。このような状況に鑑みれば、少な くとも平成22年10月4日における本件ドメイン名の登録時には、申立人商標及 び申立人表示は既に著名となるに至っており、高い顧客吸引力を有していたと認め られる。 したがって、申立人には、申立人商標及び申立人表示の使用を継続する正当な利 益がある。 (ウ)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 本件ドメイン名は「HANKYU-JUTAKU.JP」であるところ、「.J P」の部分はトップレベルドメインであって国別コードの日本を意味し、使用主体 が属する国を表示するものに過ぎない。 次に、「HANKYU-JUTAKU」のうち、「-」は「HANKYU」と「J UTAKU」を分離する記号であり、また「JUTAKU」の部分は、「-」によ り「HANKYU」から分離され、住宅という業種を意味する一般名称であるから、 識別力が希薄である。したがって、本件ドメイン名において第三者の商標又は商品 等表示との間で自他識別力を有する部分というのは「HANKYU」と考えられる。 本件ドメイン名の「HANKYU」と、申立人が正当な利益を有する申立人商標 のうち「HANKYU」及び「Hankyu」は、外観、称呼及び観念共に同一又 は類似である。また、申立人表示「阪急」や申立人商標のうち「阪急」及び「はん きゅう」は、「HANKYU」と称呼が同一である。また、外観は異なるものの、 「はんきゅう」という称呼を通じて商品等表示として観念される語は、「阪急」だ けであるので、本件ドメイン名の要部「HANKYU」と申立人表示「阪急」、「は んきゅう」とは、称呼を通じてその意味内容を容易に想起しうることに鑑みれば、 観念においても類似していると認められる。 当該同一又は類似性に加え、上記申立人表示の著名性を前提とすれば、取引者、 需要者は、本件ドメイン名から、申立人と本件登録者とを同一営業主体と混同を引 き起こしかねず、又は両者間にいわゆる親会社、子会社の関係若しくは系列関係等 の何らかの営業上の関係があるものと混同を引き起こしかねない。 したがって、本件ドメイン名は、申立人が正当な利益を有する商標及び申立人表 示と同一又は混同を引き起こすほど類似と認められる。 (3)権利または正当な利益の欠如(紛争処理方針第4条a(ii)) ア 当事者の主張 (ア)申立人の主張 申立人は、本件登録者は申立人とは一切の資本関係、取引関係、業務提携関係 等に立たず、申立人が本件登録者に対して、前記商標等の使用を許諾した事実も ない以上、本件登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有し ていないと主張する。 (イ)本件登録者の主張 これに対して本件登録者は、自らが「真の登録者」ではなく答弁する地位にな いとして実質的な反論を行わない。 イ 当パネルの判断 ②権利または正当な利益については、その存在について登録者による主張が予定 されているところ(紛争処理方針第4条c参照)、本件登録者はその存在について 何ら実質的な主張を行わない。 したがって、本件登録者がドメイン名について権利または正当の利益を有してい るとは認められない。 (4)不正の目的での登録または使用(紛争処理方針第4条a(iii)) ア 当事者の主張 (ア)申立人の主張 申立人は、申立人表示が著名であること、及び申立外会社が本件ドメイン名を 使用したホームページにおいてビジネスを本格開始していることから、申立外会 社が本件ドメイン名を使用して、周知著名な申立人表示の名声ないし社会的評価 を利用して当該サイトに誘導して、自己の営業への勧誘を行うことで営業利益を 獲得させようとしたものであり、不正の目的での使用に該当すると主張する。 また、申立人は、ドメイン名につき権利を侵害された者は、JPRSのドメイ ン名登録情報検索サービスで登録者を確認し、登録者に対して日本知的財産仲裁 センターにドメイン名に関する申立てを行うところ、本件登録者が「真の登録者」 は自分でなく別にいると主張することは、当該ドメイン名紛争処理制度の根幹と なるJPRSの当該情報検索サービスにおいて虚偽の表示を情報公開しているに 等しく、かつ本件登録者が指定事業者であり自ら本件ドメイン名を使用する可能 性は全くないにもかかわらず当該虚偽表示をしていること自体が本件ドメイン名 につき権利を侵害された者が権利行使をすることを妨害ないし困難にする目的で 行っている登録行為であり、不正目的による登録であると主張する。 加えて、申立人は、本件登録者が指定事業者として登録されれば申立人の商標・ 商品等表示と混同を生じることが明らかな申立人表示と類似の本件ドメイン名に ついて登録を援助すべきでないにもかかわらずこれを援助し、上記虚偽の情報公 開を行う一方で本件ドメイン名を使用させており、これにより不正目的によるド メイン名使用者のドメイン名の取得に加担することにより、自らも登録サービス に対する対価を得て商業上の利益を得ている点で、不正目的による登録であると 主張する。 さらに、申立人は、本件登録者が上記のとおり本件ドメイン名登録を援助すべ きでないにも関わらず、申立外会社が上記のとおり不正目的で本件ドメイン名を 使用することを知りながらあえて申立外会社に対して本件ドメイン名を使用させ ている行為は本件登録者が本件ドメイン名を使用したというに等しく、不正目的 での使用に該当すると主張する。 (イ)登録者の主張 これに対して本件登録者は、自らが「真の登録者」ではなく具体的な答弁・陳 述をする地位にないと主張しつつ、仮に登録者であるとしても、申立人の主張は 失当であると主張する。 また、本件登録者はドメイン名登録者の情報保護のための必要なサービスとし て情報公開代行サービスを提供しているにすぎず、ドメイン名紛争又はそれに類 する訴訟等の対象となった場合においてはじめて情報公開代行サービスに関する 「真の登録者」との間における契約関係を解除し、「真の登録者」情報をwhoi s上で開示する(当該ドメイン名を「真の登録者」に移転するという趣旨である と考えられる。)という運用を行っており、本件登録者に不正の目的は存在しない と主張する。 更に本件登録者は、指定事業者としてドメイン名の登録申請の受付において登 録しようとするドメイン名が第三者の権利を侵害しているかどうかの実体審査権 利及び義務はなく、またオンラインによる簡便な登録が前提となっているドメイ ン登録制度において、申立人が主張する運用は現実的に不可能であるから、ドメ イン名に関する登録申請の受付において第三者の権利侵害性等に関する実体審査 義務があることを前提に、当該審査を実施せずに行った本件ドメイン名の登録及 び使用が不正目的によるものであるという申立人の主張は失当であると主張する。 イ 当パネルの判断 (ア)申立外会社による本件ドメイン名の使用 本件ドメイン名は、現在、申立人の競業者である申立外会社により使用され、 本件ドメイン名を使用した、URL「http://www.hankyu-j utaku.JP/」において、「阪急住宅株式会社」と題するウェブサイトが公 開されている(甲12)。そして、同ウェブサイトでは、「日本の不動産を中国人 に効果的且つ円滑に販売・仲介・管理します」との広告が出されており、201 0年10月27日より、中国富裕層向け日本不動産投資ビジネスを本格開始して いることが記載されている(甲12)。しかしその一方で、申立人商標及び申立人 表示が、日本国内において申立人の商品等表示として使用されると共に、申立人 を中核とした企業グループの商品等表示として広く全国的に認識され、少なくと も平成22年10月4日における本件ドメイン名の登録時には著名となるに至っ ており、高い顧客吸引力を有していたと認められることは上記のとおりである。 また、本件ドメイン名から、申立人と本件登録者とを同一営業主体と混同を引き 起こしかねず、又は両者間にいわゆる親会社、子会社の関係若しくは系列関係等 の何らかの営業上の関係があるものと混同を引き起こしかねないことは上記のと おりである。 申立人表示の著名性の高さ、それに伴う名声及び顧客吸引力の大きさからする と、本件登録者が実質的な反論を行わない以上、当該顧客吸引力を認識していた か、認識しえたものと認められる。このような状況に鑑みると、申立外会社が、 上記の通り、本件ドメイン名を使用して、著名な申立人商標及び申立人表示の顧 客吸引力を利用して、本件登録者の上記ウェブサイトに誘導して、自己の営業へ の勧誘を行うことで営業利益を獲得しようとしたものと理解せざるをえない。よ って、申立外会社が、紛争処理方針4条b(iv)の「商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登 場する商品およびサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係 などについての誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユー ザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するた めに、当該ドメイン名を使用しているとき」に該当すると認められ、申立外会社 による本件ドメイン名の不正目的による使用があるものと認められる。 (イ)本件登録者による不正目的による登録又は使用 本件登録者は、申立外会社が本件登録者の提供するドメイン名の登録サービス を通じて本件登録者に本件ドメイン名の登録を委託し(乙1)、また当該サービス の一環として申立外会社の情報に代えて本件登録者の情報をwhois情報とし て開示する情報公開代行サービスを、申立外会社に対する契約に従って提供した ことにより本件登録者となったものである(乙2)。 本件登録者は、JPドメイン名の指定事業者として、申立人商標及び申立人表 示と混同を引き起こしかねない本件ドメイン名について、登録サービスを行い、 かつ情報公開代行サービスを行っている。しかし、このような情報公開代行サー ビスは、結果として不正目的によるドメイン名の使用者の行為を助長するばかり か、登録者を隠れ蓑として、権利者からのドメイン名の登録の取消等の権利行使 を妨害することを許すことになっている。これは、登録者が登録時に不正目的で ドメイン名の登録又は使用しないことを告知する義務(紛争処理方針第2条(c)) に違反するだけでなく、登録規則に基づく契約上の登録者の責任として不正目的 による登録又は使用が紛争処理手続によって争われる場合にはその手続に服する という紛争処理方針の趣旨を没却せしめるものである。 現に、本件登録者は、申立人から本件ドメイン名の登録の経緯及び申立外会社 による使用の経緯の説明を求められた際(甲14)、「真の登録者」が誰であるか 一向に明らかにせず(甲15、甲17)、申立人による権利行使を妨げている。他 方で、本件登録者は、情報公開代行サービスを魅力とする不正目的による本件ド メイン名の使用者から、登録サービス及び情報公開代行サービスの対価を受ける ことにより(乙2)、自らの営業利益を増大させることも可能となる。 上記のとおり、申立人商標及び申立人表示は本件ドメイン名の登録時点におい て著名であり、高い顧客吸引力を有していたところ、その著名性に鑑みれば、本 件ドメイン名が登録されれば申立人商標及び申立人表示と混同を引き起こしかね ないものであった。登録者が登録申請に際し、不正の目的でドメイン名を登録又 は使用していないことを告知すべき義務を負っていることに鑑みれば(紛争処理 方針第2条(c))、申立外会社が本件ドメイン名を使用することの認識を有して いた本件登録者としては、登録され使用されれば申立人の商標・商品等表示と混 同を引き起こすほど申立人表示と類似の本件ドメイン名について、申立外会社に よる上記不正の目的の有無を確認し、登録サービス及び情報公開代行サービスの 提供を拒絶するべきであったといえる。 この点について、本件登録者は、ドメイン名登録自体において第三者の権利を 侵害しているかどうかの実体審査の権利及び義務はないと主張するが、ここで問 題とされるべきは第三者に対する権利侵害性そのものではなく、登録サービス及 び情報公開代行サービスを提供して自ら登録者になる事業者が、登録者として負 うべき不正目的での登録又は使用でないことに関する告知義務をドメイン名登録 時に負う以上、自らのサービスを提供する申立外会社に対しても不正目的での使 用をしない義務を課し、その内容を確認することが、登録者になる事業者の義務 として当然に必要となるというだけのことであって、何ら第三者の権利侵害に対 する実体的審査を前提にするものではない。つまり、本件登録者による上記確認 及び拒絶義務は、自らを登録者として登録申請を行う際の上記告知義務を前提と して生じるものであり、指定事業者としての登録申請の受付における実体審査義 務の有無とは無関係である。情報公開代行サービスの提供により本件登録者の情 報をwhois情報として開示すること自体は禁止されていないものの、そうで あるからといって、上記告知義務並びに当該義務を前提として派生する確認及び 拒絶義務から免れることが許されるものではない。従って、本件登録者の主張に は理由がない。 以上述べたような立場にあるにも拘わらず、自らの登録者としての立場をそも そも否定しつつ、当該各サービスを提供し、当該各サービスに対する対価を受け 取っている点において、本件登録者には本件ドメイン名の登録申請時点で不正の 利益を得る目的があったというべきであり、登録者の行為自体において本件ドメ イン名の登録又は使用において「不正の目的」が認められる。即ち、本件登録者 は登録サービス及び情報公開代行サービスを申立外会社に提供し、申立外会社よ り対価を受けて本件ドメイン名を「登録」し、申立外会社に本件ドメイン名の使 用を許諾し、使用させているという意味で、本件ドメイン名を「使用」している。 以上のより、本件登録者についても、不正の目的で本件ドメイン名を登録し、 使用しているものと認められる。 (ウ)小括 したがって、本件登録者の本件ドメイン名は、不正の目的で登録され、使用さ れている。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、本件登録者によって登録された本件ドメイン名 「HANKYU―JUTAKU.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 本件登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、本件登録者の ドメイン名が不正の目的で登録され且つ使用されているものと裁定する。 よって、方針第4条iに従って、本件ドメイン名「HANKYU―JUTAKU.JP」 の登録を取り消すものとし、主文のとおり裁定する。 2012年3月30日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 矢部 耕三 単独パネリスト 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2012年1月11日(電子メール)及び13日(書面) (2)手数料受領日 2012年1月12日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2012年1月13日 JPRSへ照会 2012年1月13日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者は本件ドメイン名の登録者であること、JPRS に登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2012年1月16日に、 申立書が処理方針と規則に照らし、申立書が適合していることを確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2012年1月17日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2012年2月14日 (6)手続開始日の通知 センターは、2012年1月17日に、申立人及び登録者には電子メール及び郵送 で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日が2012年1月17日である ことを通知した。 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、2012年2月15日に登録者から答弁書提出期限延長の申請を受けて、 同日、提出期限を2月17日まで延長する旨を通知した。 センターは、2月17日に答弁書を受領し、同日、答弁書が処理方針と規則に照らし、 申立書が適合していることを確認した。 なお、センターは、2012年2月13日に申立外阪急住宅株式会社から、同月17 日に登録者から、それぞれ上申書を受領した。 (8)パネリストの選任 2012年2月24日 申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 中立宣言書の受領日:2011年2月28日 パネリスト:矢部 耕三 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2012年2月27日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 裁定予定日:2012年3月15日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2012年2月24日(電子メール及び郵送) (11) 追加陳述書及び証拠書類 2012年3月1日、パネリストは、手続規則12条の規定により、申立人及び登 録者に対し、それぞれ次の事項に関する追加陳述及び書類の提出を求めた(電子メ ール及び郵送)。 申立人に対し: 1 登録者の如何なる行為が、JPドメイン紛争処理方針4条a(iii)の事由(登録 者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること)に該当 する行為となるのかについて、その論理構成に関する申立人の主張を補充した 陳述及び書類 2 申立人と申立外阪急住宅株式会社との間における訴訟係属の有無とその具体的 内容を記載した陳述および書類 登録者に対し: 1 申立書の陳述・主張内容に対する答弁・反論、及び問題とされているドメイン名 の登録を登録者が保有できることについてのすべての理由・根拠を記載した陳 述及び書類 2 登録者と申立外阪急住宅株式会社との間における「whois情報公開代行サー ビス」に係る利用規約その他の契約条項を記載した書類・申立人と申立外阪急 住宅株式会社との間における訴訟の有無とその具体的内容を記載した陳述及び 書類 2012年3月7日、センターは、申立人及び登録者の双方から追加陳述書及び書証 を受領した。 2012年3月8日、パネリストは、申立人及び登録者に対し、それぞれ相手方の追 加陳述及び書証について再反論があれば、3月15日までに提出するよう求めた。 2012年3月13日、センターは、申立外阪急住宅株式会社から、上申書を受領し た。 2012年3月15日、センターは、登録者から、追加陳述書を受領した。 (12) 裁定期限の延長 2012年3月8日、パネリストは、手続規則10条(c)但書の規定により本件裁 定期限を同年3月30日まで延長する旨を、申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに通知 した。 (13)パネルによる審理・裁定 2012年3月30日 審理終了、裁定。