事件番号:JP2012-0009 裁定 申立人 名称:グッチオ グッチ ソチエタ ペル アツィオー二 住所:イタリア国, 50123 フィレンツェ, ビア トルナヴォー二 73/ ロッソ 代理人:弁護士 松尾 眞 同 兼松由理子 同 大江耕治 同 杉本亘雄 同 尾城亮輔 登録者 名称:ネットオウル株式会社 住所:京都市中京区川原町通三条上る下丸屋町403番地 FISビル7F 登録担当者:根来 千賀子 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本仲裁センターJPドメイン名 紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書不提 出通知書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定す る。 1.裁定主文 ドメイン名「GUCCISTORE.JP」の登録を申立人に移転せよ 2.ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「GUCCISTORE.JP」である。 3.手続の経緯 別記のとりである。 4.当事者の主張 a 申立人 申立人は、登録者が、申立人の所有する著名な登録商標及び営業表示を実質 的に模倣し、これら標識が有する顧客吸引力を利用する意図をもって、登録者 が、本件ドメイン名を登録していることを主張する。申立人によれば、当該ド メイン名は申立人が商標権を有し、かつ正当な利益を有する当該商標その他表 示と同一又は混同を引き起こすほど類似している、 登録者は当該ドメイン名について正当な利益を有していない、 そしてドメイン名は不正の目的で登録され、かつ使用されている。 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。ただし、登録者は、答弁書を提 出していないが、答弁書に代わる回答書によりドメイン名登録の事実、登録者 の電子メールアドレス、住所等及び使用を客観的に確認できた。 5.争点及び事実認定 a 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際にしようすることとなっ ている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳 述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関 係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを 指図している。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標そ の他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有して いないこと (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること b 事実認定および判断 (1) 「登録者のドメイン名が権利または正当な利益を有する商標その他表 示と同一または混同を引き起こすほど類似していること」について ア 申立人が商標その他表示「GUCCI」について正当な利益を有すること ① 申立人商標その他表示「GUCCI」と、その著名性 申立人は、グッチオ・グッチが1921年にイタリア国フィレンツェにおいて 皮革製品の製造販売業を始めたところから発展した法人であり、申立人は、 創業直後から「GUCCI」(グッチ)の商標を一貫して使用している。当該商標 は、わが国において、昭和44年(1969年)以降、第2007423号、第1545439 号を含む合計56件の登録を取得し、その指定商品もハンドバッグ、ベルト、 靴等の皮革製品を初めとし、婦人服、時計、アクセサリー等極めて多くの商 品につき所有し、国際登録2件も保有している(甲1号証の1ないし57参 照)。また、1972年頃にわが国に第1号の直営店。現在62店舗を(甲3号 証)、2001年6月には株式会社グッチグループジャパンを各設立し、「「GUCCI」 及び「グッチ」の表示を通して、積極的に営業の展開をしている。 ② 申立人の商標その他表示の広告媒体について 本件ドメイン名登録の直前である平成23年6月から11月の間、日本国内市 場における雑誌中、発行部数約7万部以上のものを例にとると、申立人は、 合計26誌に、その登録商標「GUCCI」を大書した1頁又は見開き全面広告を掲 載し(甲5の1ないし26)している。さらに、申立人は、この間全国紙に合計4 回、「GUCCI」を表示した大きな広告を掲載した(甲6)。 以上の次第であって、申立人の「GUCCI」の商標その他表示は、遅くとも 平成23年当初には、皮革商品、服飾、アクセサリーにつき、男女や年齢の 別なく周知著名性を獲得していることは明らかである。 ③ その他辞書類等の客観的証拠について 「新グローバル英和辞典」(三省堂)には「イタリアのバッグ、衣料品、そ の他のファッション商品メーカー」を意味する名詞として、「エクシード英 和辞典」(三省堂)には、「イタリアのバッグ・ファッション商品のメーカー (の製品)」を意味する名詞として、「Gucci」が登載されている。また、 「Infoseek楽天マルチ辞書」においては、「グッチ【GUCCI】」が「グッチ グループ(GUCCIGROUP)の基幹ブランド。高級皮革製品を中心に、高級婦人・ 紳士服、服飾雑貨、宝飾品、時計、香水など。」等と説明されており、この 記載から申立人商標その他表示は著名性につき疑問の余地がないところで ある (甲7の1ないし3)。 以上の次第であって、「GUCCI」の商標その他表示は、申立人が創業当初 から使用を開始し、長年の間の営業努力の結果として、本件ドメイン名が登 録された平成23年12月10日より以前に、すでに申立人の販売する前掲各種商 品等を示す商標その他表示として、営業発祥の地であるヨーロッパのみでな く、日本国内においても当然周知著名性を獲得していたことは明らかである。 イ 他方、登録者のドメイン名は「GUCCISTORE.JP」であり、「JP」は単に 国別コードにすぎず、「STORE」の部分は売店、商店等を意味する普通名詞あっ て、識別力のあるところは、本来日本人には馴染みのない「GUCCI」の部分で ある。よって、この部分を同一とする登録者のドメイン名は、申立人が権利 または正当な利益を有する上記著名な商標その他の表示と実質的に同一であ り、少なくとも、混同を引き起こすほど類似していることは明白である。 (2)「登録者が、ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有し ていないこと」 登録者は自らドメイン名取得サービスを運用していることを認めているが、 それとは関係なく、前項に記載したとおり、登録者が、極めて著名であり、申 立人が57件にも及ぶ登録商標「GUCCI」を主要な構成部分とするドメイン名 についての権利を有する道理はなく、また、申立人が株式会社グッチグループ ジャパン以外の第三者にその使用を許諾したことはない。よって、登録者が正 当な利益を有し得ないことはいうまでもない。 (3)「登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」 ア 登録者の本件ドメインについて 本件ドメインである「GUCCISTORE.JP」は、ドメイン名取得代行「スタードメ イン」から平成23年12月10日、株式会社日本レジストリサービスを通じて登録 され、本申立時点においても有効に存続している(甲2)が、本件ドメインに対 して利用規約違反により利用制限を実施したとの回答を行っていることから (甲10)、本件ドメイン名は登録者がそのサービスとして取得登録したものと考 えられる。そして、登録者は本件ドメインの運用に関与しておらず、その意思 もないと考えられる。 イ 登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること 本件ドメイン名の使用者は不明であるが、少なくとも平成24年2月21日まで は、「www.guccistore.jp」とのURLのもとにおいて、「Guccistore」の名称の 通販ウェブサイト(以下、「本件サイト」という。)が運営され、申立人の商品 と称する商品が多数通信販売されていた(甲11)。 申立人は、当該サイトを通じて、平成24年2月20日、申立人の商標ないし著 名な商品等表示である「GUCCI」を左右のテンプル前方金具部分に印字等した サングラス(商品名:1×GUCCI サングラス グッチ サングラス シルバー) を購入し(甲12、甲13)、鑑定を行ったところ、申立人商品の偽造品であり、真 正品ではないことが判明している。 ウ また、当該サイトは、申立人の店舗を意味する「Gucci store」等である ほか、ウェブページの上部において「グッチ公式」にハイパーリンクが設定さ れ、あるいは、申立人の社史が紹介され、その他随所に「GUCCI」「グッチ」 等の申立人商標を使用している(甲11、甲12)。よって、当該店舗は申立人の運 営するネットショップであるかのような外観を呈している。 エ 以上のように、当該サイトは、申立人の偽造品を販売するとともに、そ れ自体が申立人の運営するネットショップであるかのように誤信される営業 を行っているのであって、本件ドメイン名は「登録者が、商業上の利得を得る 目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、または それらに登場する商品およびサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関 係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インター ネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケー ションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき」(方針4条 (b)(iv))に該当するから、パネルは、「当該ドメイン名の登録または使用は、 不正の目的であると認めなければならない。」 なお、上記の通り登録者は本件ドメインの運用に直接関与していないと解 されるが、登録者の名前を借用した第三者が不正の目的で使用等している場合 であっても、(3)「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使 用されていること」の要件を充足するものということができる(日本知的財産 仲裁センターの2012年2月24日付裁定(事件番号:JP2012-0001)参照)。 6.結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「GUCCISTORE.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者がド メイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、また、登録者のドメイ ン名が不正の目的で登録されかつ使用されているものと裁定する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「GUCCISTORE.JP」の登録を申立 人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。 2012年8月31日 松尾 和子 単独パネリスト 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2012年6月28日(電子メール)及び6月29日(書面) (2)手数料受領日 2012年7月3日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2012年6月29日 JPRSへ照会 2012年6月29日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRS に登録されている登録者の電子メールアドレス(以下「登録アドレ ス」)及び住所(以下「登録住所」)等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2012年7月4 日に、委任状の提出及び資格証明書の提出があると認められない旨を申立人に通知 したところ、補正された委任状及び資格証明書を同年7月6日に受領したことを もって、申立てが処理方針と規則に適合していることを確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2012年7月9日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2012年8月7日 (6)手続開始日 2012年7月9日 センターは、2012年7月9日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、 JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2012年8月8 日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不出通知書を、電子メー ルと郵送にて申立人及び登録者に送付した。 (8)パネリストの選任 2012年8月14日 申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 中立宣言書の受領日:2012年8月17日 パネリスト:松尾 和子 弁護士 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2012年8月14日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 裁定予定日:2012年9月3日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2012年8月14日(電子メール及び郵送) (11)パネルによる審理・裁定 2012年8月31日 審理終了、裁定。