事件番号:JP2014-0006 裁 定 申立人: (名称)独立行政法人 中小企業基盤整備機構 (住所)東京都港区虎ノ門三丁目5番1号虎ノ門37森ビル 代理人:弁護士 増田 健 弁護士 中崎 尚 弁護士 末永 麻衣 登録者: (名称)Mango B2B (住所)9F, S P A Centre, 55, Lockhart Road, Wan Chai, Hong Kong 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理 方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理 を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「j-goodtech.jp」及び「jgoodtech.jp」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「j-goodtech.jp」及び「jgoodtech.jp」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人の主張の要旨 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同 一又は混同を引き起こすほど類似していること ア 申立人は、商標「J-GoodTech」につき、指定役務を35類、41類とする登録第56 56006号商標(2014年3月14日登録)、及び「ジェグテック」につき、指定 役務を35類、41類とする登録第5657469号商標(2014年3月20日登録) を有している。 イ 登録者は、ドメイン名「j-goodtech.jp」及び「jgoodtech.jp」(合わせて、以下 「本件ドメイン名」という。)を2014年4月5日に登録した。 ウ 本件ドメイン名の要部は、「j-goodtech」ないし「jgoodtech」に存することが明ら かであり、申立人の登録第5656006号商標「J-GoodTech」(以下「申立人商標」 という。)と同一ないし酷似している。 エ したがって、本件ドメイン名が、申立人が権利を有する申立人商標と同一又は混同 を引き起こすほどに類似していることは明白である。 (2)登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと ア 申立人商標は、造語であって、商標やドメイン名として容易に発想・選択されるよ うなありふれた語ではない。また、申立人と登録者との間には一切の資本関係、取引 関係、業務提携関係は存在せず、かつ、登録者氏名と本件ドメイン名との間に関連性 を見出すこともできない。 イ 登録者は我が国、香港及び英国において「j-goodtech」若しくは「jgoodtech」又 はこれに類する商標登録又は商標登録出願を行っていない。 ウ 登録者が本件ドメイン名(j-goodtech)を用いて運営しているウェブサイトは、下 記(3)のとおり不正の目的で運営されている可能性が高い。 エ 以上により、登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有してい ないことは、明らかである。 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること ア 申立人商標がメディアに登場した時期(2013年10月から2014年5月)や 回数、登録者が本件ドメインを取得した時期(2014年4月)、当該商標が「ありふ れた名称」ではなく、申立人による造語であることからすれば、登録者が申立人の商 標を知らず、これと無関係に本件ドメイン名を偶然に登録したということは考えられ ない。 登録者は本件ドメイン名(j-goodtech)に係るウェブサイト(以下「本件サイト」 という。)を開設し、中小企業をターゲットとするビジネスマッチング事業を営むも のであるが、これは申立人が「J-GoodTech」の商標を用いて営む事業内容と同一であ る。「GoodTech」という名称はビジネスマッチング事業に一般的に使用される名称とは いえないにもかかわらず、登録者が、申立人商標と同一ないし酷似する本件ドメイン を用いて、申立人と同一内容の事業を営むことが偶然に起こるとは考えられない。 イ 本件サイトは、日本国内の企業の会社案内(説明文及び画像から成る。)を掲載して いるが、掲載企業の説明文及び画像等は、全て他のウェブサイトにおいて使用されて いるものと同一であり、オリジナルの内容を全く有しておらず、専ら他のウェブサイ トからの切り貼りにより作成されていると考えられ、登録者においてビジネスマッチ ング業務が実際に行われているのかは疑わしい。 本件サイトでは、英語で表記した場合はいずれもHakko Corporationとなる漢字標 記の異なる全く別の2社の情報が混合されて1つの企業(Hakko Corporation)の情報 として掲載されているが、これは、登録者が実際にビジネスマッチングのために関係 企業から情報を得て情報を掲載していれば起こり得ないミスであり、当該事実は、登 録者が申立人サイトと似せた本件サイトを意図的に創設した事実を裏付けるものであ る。 ウ 登録者は、プレミアムサービスと称して、本件サイトの利用者から金銭を徴収する ことを予定しており、商業上の利益を獲得する目的で、本件ドメインを活用した本件 サイトを開設したことは明らかである。 また、申立人は、2014年5月6日付で、登録者から、申立人との事業提携を打 診するメールを受領した(甲第1号証の1)。登録者が真にビジネスマッチング業務を 営んでおり、かつ、本件ドメイン名が偶然申立人商標と同一ないし酷似していること を知ったとすれば、それまで何らの関係も有していなかった申立人に対して、突然業 務提携を持ちかけることは不自然であり、このことは、登録者が当初より意図的に申 立人商標と同一ないし酷似した本件ドメインを取得して、申立人から何らかの商業上 の利益を得ること(ドメイン名の譲渡の対価取得等)を目的として本件ドメイン名を 登録・使用していたことを強くうかがわせる。 エ 以上の事実を総合すると、登録者は、申立人商標と同一ないし酷似したドメイン名 を意図的に取得し、申立人に対して本件ドメインの販売、貸与、又は移転による対価 を得るといった不正の目的で、本件ドメイン名を登録・使用していると考えられる。 b 登録者より答弁書は提出されなかった。 5 争点及び事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果 に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理 に従って、裁定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と 同一又は混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること そして、本件において登録者は答弁書を提出していないところ、規則第5条(f)は、 「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない限り、パネルは申立書 に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する。 したがって、上記(1)から(3)の要件に関する申立人の主張が不十分である又は各 要件該当事実の存在を否定する事実が認められるといった例外的な事情がない限り、申立 人の主張に従い、本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当である。 以下、検討する。 (1)同一又混同を引き起こすほどの類似性(処理方針第4条a(ⅰ)) 本件ドメイン名は、「j-goodtech.jp」及び「jgoodtech.jp」である。末尾の「.JP」は日 本の国別コードを示すトップレベルドメインであり、特段の識別力を有するものではない。 したがって、識別力を有する要部は、「j-goodtech」ないし「jgoodtech」である。 申立人は、日本国内において、「J-GoodTech」及びこれの日本語(カタカナ)読みである 「ジェグテック」について、商標登録をしている(甲第14号証)。 そして、本件ドメイン名の要部「j-goodtech」及び「jgoodtech」と申立人商標「J-GoodTech」 とは、大文字の有無、ハイフンの有無の差異に過ぎず、称呼「ジェグテック」(あるいは「ジェ イグットテック」)が共通し類似する。 したがって、本件ドメイン名は、申立人が保有し正当な利益を有する申立人商標 「J-GoodTech」と混同を引き起こすほど類似していると認められる。 (2)登録者の本件ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益の存否(処理方針第 4条a(ⅱ)) ア 登録者の名称は本件ドメイン名と一致しておらず、また、登録者が我が国において、 「j-goodtech」若しくは「jgoodtech」又はこれに類似する商標登録又は商標登録出願 を行っていることは認められず、登録者が本件ドメイン名の名称で一般に知られてい た事実も認めることはできない(処理方針第4条c(ⅱ))。 イ 申立人は、中小企業の起業、経営等のサポート事業を主な目的とする日本国の独立 行政法人である(甲第3号証)。申立人は、中小企業の経営サポートの一環として、ビ ジネスマッチング事業である「J-GoodTech」事業を展開しており、2014年3月に は同事業の中核となるウェブマッチングサイト「J-GoodTech」(以下「申立人サイト」 という。)を開設した。申立人サイトにおいて、対象企業は英文及び和文で自社の企業 概要等の情報を無料で掲載することができ、これにより、インターネットを通じてビ ジネスマッチングの機会を得ることが可能となる。 申立人は、覚えやすく、かつサービス内容及びコンセプトの伝わりやすさという観 点から、「優れた技術」を意味する英単語である「Good Technology」を短縮した 「GoodTech」に、日本(Japan)の頭文字である「J」を組み合わせた造語である 「J-GoodTech」を当該事業の名称として採用した。 申立人は、2013年10月3日に、「J-GoodTech」事業の立ち上げをマスメディア に向けて発表し、その翌日4日には、国内の新聞51紙で「J-GoodTech」事業が取り 上げられた(甲第4号証、甲第5号証の1から5)。2014年に入ってからは、申立 人は「J-GoodTech」事業に関し、複数の業界紙等に広告を掲載するなどの宣伝広告活動 を行った(甲第5号証の6から10、第6号証、第7号証、第8号証の1)。海外に 向けては、雑誌「FORTUNE」の北米版、ヨーロッパ版及びアジア版において「J-GoodTech」 に関する中面ページの公告を掲載し、宣伝広告活動を行った(甲第8号証の2から4)。 また、申立人の「J-GoodTech」事業は、2013年10月7日以降、国内外のテレ ビ番組でも複数回紹介された(甲9号証、甲10号証、甲第11号証)ほか、申立人 は、自社ウェブサイトにおいて、2013年10月3日に「J-GoodTech」事業のプレ スリリースを行い(甲12号証)、2014年3月には、自社ウェブサイトの中に、日 本語及び英語による申立人サイトを開設した(甲第13号証)。 以上のとおり、マスメディアでの紹介、広告掲載及び申立人サイトの開設などによ り、遅くとも2014年4月までには、申立人商標及び申立人の「J-GoodTech」事業 が国内外において一定の知名度を獲得していたことが認められる。 登録者は、本件ドメイン名を2014年4月5日に登録し(甲第15証)、本件ドメ イン名に係るウェブサイト(「本件サイト」)を開設した。本件サイトには、申立人サ イトと同様に、日本国内の中小企業の会社案内(説明文及び画像から成る。)が掲載さ れている。そして、本件サイトには、「Price and payment」などの項目が存在し、本 件サイトの利用者から金銭を徴収することが予定されている(甲26号証の2)。 以上のとおり、登録者が本件ドメイン名を登録したのは、申立人商標及び申立人の 「J-GoodTech」事業が国内外において一定の知名度を獲得した後であること、申立人 商標が造語であり、技術を介したビジネスマッチングにおいても一般的に使用される 名称とはいえないこと、登録者は本件ドメイン名に係る本件サイトを申立人サイトに 似せた上、本件サイトにおいて申立人の「J-GoodTech」事業と同様の事業を営む旨を 宣伝していることからすると、登録者が申立人商標又は申立人の「J-GoodTech」事業 を知らず、これと無関係に本件ドメイン名を偶然に登録したとは考えられない。 以上の事実から、登録者は、国内及び国外において一定の知名度を獲得した申立人 サイトと関連を有することを装い、申立人の商標やドメイン名を利用して消費者の誤 認を惹き起こすことにより商業上の利益を得る意図を有すると認められから、本件ド メイン名を非商業的目的に使用していないこと及び公正に使用しているとはいえない (処理方針第4条c(ⅲ))。 ウ 登録者が本件ドメイン名取得後に申立人の存在を知り、業務提携を申し入れたこと が認められる(甲1号証の1)が、この申入れがあったことだけでは、登録者が、本 件ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者又は紛争処理機関から通知を受ける前に、 商品又はサービスの提供を正当な目的をもって行うために、本件ドメイン名を使用し ていた、又は明らかにその使用の準備をしていたとは認められない(処理方針第4条 c(ⅰ))。 その他、本件全資料に照らしても、登録者が本件ドメイン名に関係する権利又は正 当な利益を有することをうかがわせる事情は認められない。 エ 以上によれば、登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有 していないといわざるをえない。 (3)不正の目的での登録及び使用(処理方針第4条a(ⅲ)) 登録者は、2014年4月5日に本件ドメイン名を登録している(2014年8月1 3日付けドメイン名照会に対する通知)。これは、申立人が申立人商標「J-GoodTech」を 登録した2014年3月より後である上、申立人がJ-GoodTech事業をマスメディアによ り広報した2013年10月以降、その名称と事業内容が広く知られた時期よりも後で あり、申立人の事業の内容及び名称を知って登録されたものと考えられる。 また、登録者が本件ドメイン名の下で作成しているウェブサイトは、申立人の事業と 似せており、その内容は他のサイトのコピーした画像を用いており、かつ掲載されてい る企業自身の申し込みがあれば起こりえないような誤認混同がうかがわれる(申立書8 頁ないし11頁及び引用されている甲号証)。このことは、登録者自身が本件ドメイン名 のもとで作成しているウェブサイトにより事業を行っているわけではないことを推認さ せる。その上、登録者が申立人に対して送付したメール(甲1号証の1)では事業提携 を持ちかけている。 以上を総合するならば、登録者は、本件ドメイン名に係るウェブサイトの作出により、 申立人から提携を名目とした経済的利益を引き出そうとしていることは明らかであり、 登録者の本件ドメイン名は不正の目的で登録又は使用されていると評価することができる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「j-goodtech.jp」及び「jgoodtech.jp」が申立人商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名 が不正の目的で登録され、かつ使用されているものと判断する。 よって、処理方針第4条ⅰに従って、ドメイン名「j-goodtech.jp」及び「jgoodtech.jp」 の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。 2014年10月30日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 主任パネリスト 牧野 利秋 ㊞ パネリスト 町村 泰貴 ㊞ パネリスト 福井 陽一 ㊞ 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2014年8月13日(電子メール及び書面) (2)手数料受領日 2014年8月13日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2014年8月13日 JPRSへ照会 2014年8月13日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:JPRSに登録されている登録者の氏名、電子メールアドレス及び住所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2014年8月 14日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認し た。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2014年8月14日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2014年9月11日 (6)手続開始日 2014年8月14日 センターは、2014年8月14日に申立人及び登録者には電子メール及び郵 送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 但し、登録者宛郵送分についてはJPRSに登録されている連絡先から「あて名不 完全で配達できません」として返送されたため、同年8月19日に申立書に記載 されている申立人が知る登録者の連絡先へ送付した。 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、2014年9月11日に登録者から答弁書提出期限延長の申請を 受けて、同年9月17日に、提出期限を同年9月29日まで延長する旨を通知し た。 センターは、同年9月24日に登録者から答弁書提出期限の再延長の申請を受 けて、同年9月26日に、提出期限を再延長することは認められない旨を通知し た。 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、同年9月30に 「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子メー ルと郵送にて申立人及び登録者に送付した。 (8)パネリストの選任 2014年10月9日 申立人が3名のパネルによって審理・裁定されることを選択したため、センター は、次の3名のパネリストを選任した。 パネリスト:町村泰貴(申立人が提示した候補者から指名) 牧野利秋(登録者から候補者の提示がなかったので、センターのパ ネリスト名簿登載者の中から指名) 福井陽一(「三番目のパネリスト」として指名) 中立宣言書の受領日:2014年10月14日(牧野利秋、福井陽一) 2014年10月27日(町村泰貴) (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2014年10月9日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 裁定予定日:2014年10月30日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2014年10月9日(電子メール及び郵送) (11)パネルによる審理・裁定 2014年10月30日 審理終了、裁定。