事件番号:JP2015-0002

                裁 定

  申立人:
  (名称)Realogy Group LLC.
  (住所)175 Park Avenue, Madison, NJ 07
940
  代理人:西村あさひ法律事務所
      弁護士 福岡 真之介
      弁護士 大向 尚子
      弁護士 春山 俊英(連絡担当)
  登録者:
  (名称)株式会社コールドウエルバンカーアフリエイツジャパン
  (住所)東京都渋谷区道玄坂一丁目17番11号ミナミビル8階

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP
ドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書及
び提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「COLDWELLBANKER.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「COLDWELLBANKER.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人は、米国法人コールドウエルバンカー(Coldwell Banker LLC)の完全
親会社であり、同社から本件登録商標(商標登録第4234028号「COLDWELL
BANKER」など5件の登録商標)の使用権等を付与されている。
 申立人によれば、登録者は契約(本件契約、甲3)に基づいて一定の範囲で本
件登録商標等を使用する権限を付与されたが、コールドウェルバンカーの名称
や商標を登録することまでは許諾されていなかった。登録者は、本件契約に基づ
くRoyalty Feeをはじめとする申立人に対する債務の支払いを遅滞するように
なったため、申立人は履行を催告したが、登録者は債務の本旨に従った履行を行
わなかった。そこで、申立人は、登録者に対して、2014年5月6日付通知書
(甲10)により、本件契約を解除する旨の意思表示をした。したがって、登録
者は、遅くとも2014年5月6日以降、本件ドメイン名を使用する権利又は正
当な利益を有していない。登録者の本件ドメイン名は、申立人の登録商標と同一
又は混同を起こすほど類似している。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
 b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになってい
る原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文
書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の
規定・原則、ならびに条理        に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを
指図している。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その
他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこ
と
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
 上記(1)から(3)の要件を判断するに当たり、規則第15条(a)は、「パ
ネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則お
よび適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さな
ければならない」と規定する。他方で、本件において登録者は答弁書を提出して
いないところ、規則第5条(f)は、「もし登録者が答弁書を提出しないときに
は、例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとす
る。」と規定する。
 したがって上記(1)から(3)の要件に関する申立書における主張について、
各要件に関する申立人の主張が不十分である又は各要件該当事実の存在を否定
する事実が認められるといった例外的な事情がない限り、申立人の主張に従い、
本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが妥当と考える。

(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 登録者のドメイン名である「COLDWELLBANKER.JP」と申立人の登録商標
「COLDWELL BANKER」(甲第2号証)を比較すると、外観において、「COLDWELL」
と「BANKER」の文字からなる点、共通する。また、称呼については、前者は「コ
ールドウエルバンカー ジェイピー」、後者は「コールドウエルバンカー」であ
るが、前者の「JP」の部分は当該ドメイン名がJPNIC管理のものであることを示
す国名コードにすぎないのでその要部は「コールドウエルバンカー」の部分であ
る。そして、観念においては、「COLDWELL BANKER」は造語と看取され特定の意味
を持つものではない。さらに、申立人の登録商標の指定役務は登録者の事業と共
通する。
 したがって、登録者の本件ドメイン名は、申立人の登録商標と同一又は混同を
起こすほど類似している。
 
(2)権利又は正当な利益
 甲第1号証乃至甲第5号証によれば、申立人は、本件ドメインに関する権利又
は正当な利益を有する商標を有している。そして、登録者が本件ドメイン名に関
係する権利又は正当な利益を有していないことについて、申立人から主張がな
されており、また、「権利又は正当な利益」の有無は登録者に固有の事情がある
ので登録者が証明責任を負うものと解すべきである。
 しかしながら、登録者は答弁書を提出しておらず、これを立証しない。また、
一件記録を検討しても、登録者の本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利
益の存在を裏付ける事実や、権利又は正当な利益の不存在を否定する例外的な
事実は見当たらない。
 したがって、登録者は、遅くとも、申立人との本件契約が解除された2014
年5月6日以降、本件ドメイン名を使用する権利又は正当な利益を有していな
い。

(3)不正の目的での登録、保有又は使用
 申立人は、登録者に対して一定の範囲で本件登録商標等を使用する権限を付
与していたが、登録者等にコールドウエルバンカーの名称や商標を登録するこ
とまでは許諾していない。また、申立人の主張及び提出した証拠によると、登録
者は本件登録商標等を使用する権限を有していたが、申立人に対する債務の支
払いを遅滞するようになったため、催告し、履行を行わなかったので、2014
年5月6日付通知書により契約解除の意思表示をした。登録者は契約解除され
た後も、本件ドメイン名の使用継続を含む、本件商標権の侵害行為を行っていた
ということである(甲7)。
 以上の申立てに対して、登録者は答弁書を提出しておらず、また一件記録を検
討しても、本件ドメイン名の不正の目的での使用及び保有を否定する例外的な
事実は見当たらない。
 よって、遅くとも2014年5月6日以降、登録者が本件ドメイン名を使用及
び保有する行為は、取引者、需要者に申立人とのライセンス契約が継続している
かのように誤信させることによって利益を上げる目的があるものと推認するこ
とができる。
 したがって、登録者の本件ドメイン名は不正の目的で使用及び保有されてい
ると認められる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「COLDWELLBANKER.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者
が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン
名が不正の目的で使用及び保有されているものと裁定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「COLDWELLBANKER.JP」の登録を
申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

    2015年4月20日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
               西村 雅子
              単独パネリスト

 
別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2015年2月18日(電子メール)及び2月19日(書面)
(2)手数料受領日
      2015年2月24日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2015年2月24日  JPRSへ照会
      2015年2月24日  JPRSから登録情報の回答
      回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、
        JPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所
        等
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2015年
  2月25日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合しているこ
  とを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
      1) 申立書送付日(手続開始日) 2015年2月25日(電子メール及
    び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2015年3月25日
(6)手続開始日  2015年2月25日
      センターは、2015年2月25日に申立人及び登録者には電子メール
  及び郵送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
   但し、登録者宛郵送分については、「受取人不在のため当局に保管する旨
  を通知し7日間留め置きしたが連絡がないのでお返しいたします。」として
  返送された。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2015年3月2
  6日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、
  電子メールと郵送にて申立人及び登録者に送付した。
   但し、登録者宛郵送分については、「受取人不在のため当局に保管する旨
  を通知し7日間留め置きしたが連絡がないのでお返しいたします。」として
  返送された。
(8)パネリストの選任  2015年4月1日
      申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2015年4月2日
      パネリスト:弁理士 西村 雅子
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2015年4月1日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
                         申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
      裁定予定日:2015年4月21日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2015年4月1日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2015年4月20日  審理終了、裁定。