事件番号JP2015-0004 申立人:アメリカ合衆国 ニューヨーク州 10019 ニューヨーク市 東57番街300 ハースト コミュニケーションズ インコーポレーテッド 代理人:東京都港区南青山3丁目8番38号南青山東急ビル3F 株式会社ハースト婦人画報社 代表取締役 イヴ・ブゴン 登録者:100-0001 東京都 ドメイン販売中です。お問い合わせください。 (なお、上記はJPRSからの登録情報の回答のとおりである。) 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理 方針、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産 仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並び に条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げ た結果、以下のとおり裁定する。 1.裁定主文 ドメイン名「COSMOPOLITAN.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2.ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「COSMOPOLITAN.JP」である。 3.手続の経緯 別記のとおりである。 4.当事者の主張 a 申立人 (1)申立人は、1887年創業の出版、放送、エンターテインメント、不 動産を業とする米国法人であり、創業と前後して雑誌 「COSMOPOLITAN」を創刊し、世界各国で「COSMOPOLITAN」 商標を登録使用している。日本においては「COSMOPOLITAN」、 「COSMOPOLITANS」および「コスモポリタン」等の商標を指定 商品16類に属する商品その他の分類に属する指定商品等に登録 を得、使用している。 (2)登録者のドメイン名「COSMOPOLITAN.JP」は、申立人の商標と 混同を引き起こすほど類似している。このことは、本件ドメイン名 紛争処理手続の対象となる紛争を定めたドメイン名紛争処理方針 (以下方針という)第4条a(i)の要件に該当する。 (3)登録者は、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有 していない。 登録者は、実質的な情報提供を行うウェブサイトの運営に当該ド メイン名を用いておらず、またその意図もなく、また登録者が当該 ドメイン名の名称で一般に認識されている事実もなく、直接かかっ た費用以上の販売を意図している。 また登録者は、申立人、申立人の関連企業または申立人の提携企 業等とも何の関係もない。すなわち方針第4条c(i)(ⅱ)および(ⅲ) に規定されたいずれの事実も認めることができず、方針第4条a(ⅱ) に該当する。 (4)ドメイン名は不正の目的で登録され且つ使用されている。登録者 は現在もドメインマーケット上で当該ドメイン名を18,000USドルで 販売中であり、「COSMOPOLITAN」の知名度を利用し、高額で 販売するという意図で、登録を維持している。このことは明らかに 方針第4条b(i)にいう事情と認められ方針第4条a(ⅱ)に該当 する。また登録者は当該ドメイン名の他多数のドメイン名を登録し ているが、これらも高額で多者に販売することを目的に保有してい ることが推認される。 以上により、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 (1)ドメイン名が申立人の商標と外見上類似していることは認める が、COSMOPOLITANという表示は普通名詞であるので混同を生 じない。 (2)登録者は本ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有する。 ドメイン登録は、原則として誰でも先着順で自由に登録するこ とができることが、制度の大前提である。したがって普通名詞の ように、本来誰でも使える言葉をドメイン名として登録すること は、誰もが有している権利である。登録者が本ドメインを登録し たのは、正当な早い者勝ちという競争に打ち勝った結果としての 正当な権利行使であり、その登録を継続していることも当然の権 利である。 また登録者が本ドメイン名を積極的に使用していなかったとし ても、これをどう利用しようと基本的には自由であり、権利行使 の一態様である。商標と異なり不使用取消の制度もないのである から、登録者が登録したドメイン名を使用しないまま継続するこ とは許されている。 従って登録者は本ドメイン名の登録及び使用に関して正当な権 利を有している。 登録者は2005年1月1日に本ドメインを登録し、2015年2月 1日に更新登録を経由しているが、申立人はこれを10年も放置 し、ようやく2015年6月1日に登録者に1,000米ドルで買入れ の申入れをしてきた。 登録者は早い者勝ちの登録が原則である競争に勝ち抜き、その 登録を10年にわたり保有し続けていたものを申立人は登録者か ら奪い取ろうとしている。 (3)登録者に不正な目的はない。 登録者は申立人又は申立人の競業者に対してドメイン名を販売 することを目的としていない。そして申立人または申立人の競業 者に対し、ドメイン名の譲渡を持ちかけたことはない。申立人が 自ら買い取りを持ちかけてきたので、これに答えたにすぎない。 登録者がドメイン名を販売しているのは事実であるが、普通名詞 からなるドメイン名は人気が高く市場において価値が高くなる。 このような市場経済に照らし適正と思われる価格で、ドメイン名 の販売を申し出たからと言って、不正の目的と言われる筋合いは ない。 従ってドメイン名紛争処理方針4条bの規定(i)に該当しな い。 また同方針4条bの規定(ⅱ)に該当する申立人が権利を有す る商標をドメイン名として登録したことも、妨害行為を行ったこ ともない。 また同方針4条bの規定(ⅲ)に該当する競業者の事業を混乱 させることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録したもの でもない。 また同方針4条bの規定(ⅳ)に該当する事情もない。 以上のとおりであるので、「申し立ては成り立たない」との裁定 がなされるべきである。 5.争点および事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することにな っている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出 された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則およ び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定 を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならな いことを指図している。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商 標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること。 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有してい ないこと。 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されているこ と。 以上3点いずれについても争いがあるので、以下のように事実認 定をする。 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 当該ドメイン名「COSMOPOLITAN.JP」と登録商標 「COSMOPOLITAN」は、外観、称呼および観念から判断して同一 または混同を引き起こすほど類似である。 登録者が類似性を否定する根拠として主張するCOSMOPOLITAN が普通名詞であるということは、類似性の判断に何らの影響を及ぼ すものではない。 (2)権利または正当な利益 申立人は、この点に関しドメイン名は、ウェブサイトを開設、運 営して、有用な情報の提供や経済活動を行い、情報社会の発展に資す るように用いられるのが本来あるべき姿なのに、登録者は当該ドメ イン名をかかる情報提供を行うウェブサイトの運用に用いておらず その意図もない、と主張する。それに対し、登録者は、自己の商品ま たはサービスの提供を行うために、当該ドメイン名またはこれに対 応する名称を使用していることの主張あるいは立証などは一切する ことなく、本来ドメイン名登録は誰でも先着順で自由に登録できる、 特に普通名詞のように誰でも使える言葉をドメイン名として登録す ることは誰もが有している権利である、従って登録者が当該ドメイ ン名を登録したのは、正当な早い者勝ちという競争に打ち勝った結 果として正当な権利行使であり、その登録を継続しているのも当然 の権利である、と主張し、自ら方針第4条c(i)の規定する権利ま たは正当な利益の趣旨を無視すると同時に、事業のためにドメイン 名を使用していないことを認めている。 また、方針第4条c(ⅱ)、(ⅲ)に定める事情があることは、登 録者の主張しないところであり、これを認めるに足りる証拠はない。 従って登録者に権利または正当な利益があるとは認められない。 (3)不正の目的での登録又は使用 登録者は、当該ドメイン名を10年間という長期間登録しつづけ てきたのであるが、その間当該ドメイン名をウェブサイトの運営を 通して自己の営業に使用することなく、ただ販売広告のみに使用し たことが認められる。 この点につき登録者は、申立人または申立人の競業者にドメイン 名の譲渡を持ちかけたことはない、申立人が自ら買い取りを持ちか けてきたので、これに答えたにすぎない、登録者がドメイン名を販売 しているのは事実であるが、普通名詞からなるドメイン名は人気が 高く市場価値が高くなるとして、申立人の申し出た買取り価額 1,000USドルに対して「glamour.jp」が16,500米ドルで販売した実 績があり「cosmopolitan.jp」はそれ以上の価値があると答えたのに 対し、再度10,000米ドルとの申立人の提案があったと主張している。 以上の当事者間に当該ドメイン名売買の交渉があったことは事 実であるが、結局両者の間に、売買契約は締結されずに本件紛争に至 っている。 以上の事実は方針第4条b(i)の「登録者が申立に対して当該ド メイン名に直接かかった金額を超える対価を得るために当該ドメイ ン名を登録しているとき」に該当すると判断される。 6.結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録された ドメイン名「COSMOPOLITAN.JP」が申立人の商標と混同を引き起 こすほど類似し、登録者がドメイン名について権利または正当な利 益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録され且 つ使用されているものと裁定する。 よって方針第4条iに従って、ドメイン名「COSMOPOLITAN.JP」 の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。 2015年12月15日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 小 林 十四雄 牧 野 利 秋 齊 藤 純 子 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2015年9月7日(電子メール)及び9月9日(書面) (2)手数料受領日 2015年9月15日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2015年9月15日 JPRSへ照会 2015年9月15日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、 JPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所 等 (但し、上記回答に記載された登録者の氏名は「ドメイン名販売 中です。お問い合わせください」、及び住所は「100-0001東京 都」のみである。なお、電子メールアドレスは申立書の記載と 一致している。) (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2015年 9月15日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していること を確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2015年9月18日(電子メール及び 郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2015年10月22日 (6)手続開始日 2015年9月18日 センターは、2015年9月18日に申立人及び登録者には電子メール及 び郵送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (但し、前記(3)記載のとおり、JPRSの回答に記載された登録者の住所は 宛先不完全のため、申立書に記載のあった申立人が検索した登録者の住所で ある住所1宛てに送付、及び同年9月25日に住所2宛てに郵送したが、い ずれも「あて名が不完全で配達できません」として返送された。) (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、2015年10月19日(電子メール)及び同年10月21 日(郵送)に登録者から答弁書提出期限延長の申請を受けて、同年10月2 1日に、提出期限を同年11月2日まで延長する旨を通知し(電子メール及 び郵送)、同年10月29日(メール)及び同年10月30日(郵送)に答 弁書を受領した。 なお、同答弁書受領以降のセンターから登録者宛ての通知は、同答弁書に 記載された氏名・住所に宛てて郵送している。 (8)パネリストの選任 2015年11月18日、同年11月25日 申立人が3名のパネルによって審理・裁定されることを選択したため、セ ンターは、2015年11月18日に次の3名のパネリストを選任した。 パネリスト:弁理士 西村雅子(申立人が提示した候補者から指名) 弁護士 牧野利秋(登録者が提示した候補者から指名) 弁護士 小林十四雄(「三番目のパネリスト」として指名・ 主任パネリスト) その後、西村雅子氏について、手続規則第7条に該当する可能性のある事 情が発生したため、センターは同氏に代わり、同年11月25日に次のパネ リストを選任した。 パネリスト:弁理士 齊藤純子(申立人が提示した候補者から指名) 中立宣言書の受領日:牧野利秋 2015年11月24日 小林十四雄 2015年11月25日 齊藤純子 2015年12月2日 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2015年11月18日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 裁定予定日:2015年12月9日 (パネリストの変更、裁定予定日の延長) 2015年11月25日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 裁定予定日:2015年12月15日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2015年11月18日(電子メール及び郵送) 2015年11月25日(電子メール及び郵送)※齊藤純子氏のみ (11) 裁定期限の延長 前述(8)及び(9)に記載のとおり、パネリストの変更のため、パネ リストは、手続規則10条(c)但書の規定により本件裁定期限を2015年 12月15日まで延長する旨を、同年11月25日に申立人、登録者、JPNIC 及びJPRSに通知した(電子メール及び郵送)。 (12)パネルによる審理・裁定 2015年11月24日 申立人へ追加陳述の求め 同年11月27日 申立人からの追加書類受領 同年11月30日 申立人からの追加書類受領 同年12月15日 審理終了、裁定