事件番号:JP2016-0001 裁 定 申立人: (氏名/名称) Wynn Resorts Holdings, LLC (住所) 3131 Las Vegas Boulevard South Las Vegas, Nevada 89109 U.S.A. 代理人:弁護士 岩瀬 ひとみ 弁護士・弁理士 紋谷 嵩俊 弁護士 村田 知信 弁理士 八木 智砂子 登録者: (氏名/名称) 株式会社クロエ (住所) 神奈川県横浜市中区住吉町3-36-2 関内DEXビル 1992-202 代理人:弁護士 大久保 理 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方 針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づい て審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「WYNN.CO.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「WYNN.CO.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、申立人の登録商標「WYNN」「Wynn」を実質的に模写し、申立人の社名 や商標等の名声や信用へのフリーライドを目的として、登録者によって採択されたドメイン 名を登録し、使用していることを主張する。申立人によれば、ドメイン名は、申立人の商標 と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメイン名について正当な利益を有していな い、そしてドメイン名は不正の目的で登録されている。 したがって、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者は、ドメイン名が申立人の登録商標と混同を引き起こすほど類似していることは 認め、ドメイン名について正当な利益を有していないこと並びに不正の目的で登録されてい ることは争う。 5 争点及び事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則につ いてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書及び審問の結果に基 づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に 従って、裁定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 登録者のドメイン名である「WYNN.CO.JP 」の第3レベルドメイン「WYNN」と申立 人の登録商標「WYNN」(甲第2号証の2)とを比較すると、外観及び称呼において共通 する。そして、「WYNN」は造語と認められ、特定の観念をもつものではない。また、申 立人の登録商標の指定役務は登録者の事業と共通する。 したがって、登録者の本件ドメイン名は、申立人の登録商標と同一又は混同を起こすほど 類似している。 (2)権利又は正当な利益 甲第2号証及び甲第3号証(いずれも枝番を含む。以下において同じ。)によれば、申立 人は、「WYNN」(登録第5504289号)、下掲の商標(以下「Wynnロゴマーク」という。) (登録第5504290号)をはじめとする本件ドメインに関する権利又は正当な利益を有する 商標を有している。 この点に関し、登録者は概略以下のとおり述べて、権利及び正当な利益を有すると主張す る。 ア)登録者は申立人から通知を受ける5年ほど前から、「Wynn」標章を使用している。 イ)登録者の店舗は、幅広い客層から高い評価を受けている。 ウ)登録者の店舗は「Wynn」という名称で広く認識されている。 エ)登録者が本件ドメイン名を登録したのは、申立人商標の商標登録前である。 しかしながら、かかる主張はいずれも理由がない。 すなわち、答弁書の記載及び甲第22号証から、登録者が「Wynn」標章の使用を開始し た時期は2010年頃と認められるところ、次項で認定するとおり、申立人の商標「WY NN」はそれまでに我が国において一定程度の周知性を獲得していたと認められる。そして、 登録者が使用するロゴマーク(甲第26号証。乙第1号証の2,6,7)は申立人商標「Wynn ロゴマーク」と酷似している。かかる事実から、登録者は申立人の商標を知り、本件ドメイ ン名の登録を受けたものと認められる。 したがって、上記主張ア及びエは理由がない。 また、登録者の店舗の評価や周知性は申立人との関係における「正当な利益」の有無を左 右するものではない。 したがって、上記主張イ及びウは理由がない。 よって、登録者に権利又は正当な利益があるということはできない。 (3)不正の目的での登録及び使用 (3-1)申立人商標の周知性 Wynn Resorts Limitedが、ラスベガス及びマカオでホテル・カジノ・ナイトクラブ等の リゾート施設事業を行っていること、その事業が米国で高い評価を受けていることが認めら れる(甲第1号証の1ないし14)。そして、申立人はWynn Resorts Limitedの完全子会 社であり、知的財産権の管理などを行っていることが認められ(甲第1号証の15)、申立 人とWynn Resorts Limitedとは、事業主体としての一体性が認められる。そこで、Wynn Resorts Limitedの事業において使用されている商標「WYNN」の周知性について検討する。 「エイビーロード、海外都市地域別の満足度ランキング」(甲第9号証)によれば、ラス ベガスは2009年のランキング2位であり、登録者が本件ドメイン名を登録した2012 年以前に発行された旅行ガイド誌である「るるぶ/ラスベガス」「地球の歩き方/ラスベガ ス」「HANAKO」「遊技通信」で、ラスベガスの「WYNN」がリゾートホテルとして紹介 されており(甲第13号証)、「るるぶ/香港・マカオ」「地球の歩き方/マカオ」 「BRUTUS」「まっぷる/香港 マカオ」(甲第14号証)でマカオの「WYNN」がリゾ ートホテルとして紹介されている。 甲第13号証、甲第14号証の旅行ガイド誌はいずれも一般観光客を対象としたものであ ることと、満足度ランキング2位というデータを総合すると、2012年までには、申立人商 標「WYNN」はラスベガス及びマカオのリゾートホテルとして、海外旅行に関心のある者 において、一定の周知性を獲得していたものと推認できる。 そして、2015年7月、8月時点におけるインターネットサイト情報(甲第15号証な いし甲第18号証)によれば、申立人商標の周知性は現在も維持されているものと推認でき る。 登録者は、申立人施設が日本に存在しないこと、ラスベガスとマカオの施設はカジノがメ インであることなどを理由に周知性を否認する。 しかしながら、上記のとおり、申立人の施設はカジノに特化したものではなくリゾートホ テルとして一般の旅行ガイド誌で紹介されているのであり、登録者の主張には理由がない。 (3-2)不正の目的 登録者は、申立人商標「Wynnロゴマーク」に酷似した標章を使用していること、申立人 商標「WYNN」は我が国においても一定の周知性を獲得していると推認できること、そし て申立人の事業に含まれるナイトクラブと登録者の事業である「キャバクラ」とは近似性の 強い事業であること、申立人の事業は米国で高い評価を受けており、我が国でも高級なリゾ ートホテルとして紹介されていること、登録者は2016年1月21日現在、登録したドメ インにコンテンツを掲載していないこと(甲第25号証)、そして、申立人からの通知書(甲 第31号証、甲第32号証)に対して回答した事実も認められないこと等を総合すると、登 録者は、申立人の「WYNN」商標の名声や信用にフリーライドして利益を得ることを目的 として、すなわち不正の目的で本件ドメイン名を登録したものと認められる。 登録者は、ドメイン名登録の時点において申立人商標は日本国内において周知性を獲得し ていなかったと主張し、フリーライドを否認する。しかし、上記のとおり申立人商標はドメ イン名登録時点で周知性を獲得していたと推認できるのであり、登録者の主張には理由がな い。 また一件記録を検討しても、本件ドメイン名の不正の目的での使用及び保有を否定する例 外的な事実は見当たらない。 したがって、登録者の本件ドメイン名は不正の目的で使用及び保有されていると認められ る。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「WYNN.CO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名 について権利又は正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録され 且つ使用されているものと裁定する。 よって、方針第4条iにしたがって、ドメイン名「WYNN.CO.JP」の登録を申立人に移 転するものとし、主文のとおり裁定する。 2016年3月25日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 峯 唯 夫 単独パネリスト 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2016年1月26日(電子メール)及び1月27日(書面) (2)手数料受領日 2016年2月1日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2016年2月1日 JPRSへ照会 2016年2月1日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登 録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2016年2月2日に、 申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2016年2月3日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2016年3月3日 (6)手続開始日 2016年2月3日 センターは、2016年2月3日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、 JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、2016年3月2日に登録者から答弁書を受領し、代表者の資格を証明 する公的証明書類の提出が必要と判断してその旨通知し、3月7日に郵送で補正を受 領した。センターは,処理方針と規則に照らし答弁書が適合していることを確認し、 3月8日に答弁書を電子メール及び郵送にて申立人に送付した。 (8)パネリストの選任 2016年3月9日 申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 中立宣言書の受領日:2016年3月14日 パネリスト:峯唯夫 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2016年3月9日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 裁定予定日:2016年3月30日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2016年3月9日(電子メール及び郵送) (11)追加陳述書及び証拠書類 2016年3月11日に電子メール及び3月15日に郵送にて申立人から受信した 上申書に対し、パネリストは、3月15日に申立人に対し、手続規則12条の規定に よる追加陳述の必要はない旨通知した(電子メール及び郵送)。 (12)パネルによる審理・裁定 2016年3月25日 審理終了、裁定。