事件番号:JP2016−0006

                 裁 定

  申立人1:
  (名称)Eataly srl
  (住所)Strada Statale, 231, 2 I-12066 Monticello d’Alba (CN) (taly)
  申立人2:
  (名称)Eataly Distribuzione Srl
  (住所) Via Nizza, 224 I-10100 Torino TO (Italy)
  申立人3:
  (名称)Eataly Net S.r.l.
  (住所)Strada Statale 231 2, 12066 Monticello d’Alba (CN) Italy
  代理人:弁理士 恩田 誠
      弁理士 恩田 博宣
  登録者:
  (名称)ジェートレード株式会社
  (住所)東京都文京田区後楽1−1−5後楽園サイドビル

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「EATALY.JP」の登録を申立人3であるEataly Net S.r.l.に移転せよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「EATALY.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 (a)申立人ら
(ア)申立人らについて
 申立人1及び2は、後記各登録商標の所有者であり、申立人1は、申立人2の株式を60%
保有している。また、申立人2は、申立人3の株式を50.53%保有している。
(イ)申立人らは、登録者によって登録されている本件紛争に係るドメイン名「EATALY.JP」
(以下「本件ドメイン名」という)は、申立人1及び2が所有する「EATALY」及び
「EATALY(ロゴ)」からなる後記各登録商標、申立人ら及びその関連会社が所有する
各種のドメイン名、並びに申立人らの名称と、同一又は混同を引き起こすほど類似してい
ること、登録者は本件ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有していないこと、そし
て本件ドメイン名は不正の目的で登録されていることを主張している。
 従って、申立人は、本件ドメイン名を申立人3への移転を請求している。

 b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果
に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
 そして、本件において登録者は答弁書を提出していないところ、規則第5条(f)は、
「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない限り、パネルは申立書
に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する。
 したがって、上記(1)から(3)の要件に関する申立人らの主張が不十分である又は
各要件該当事実の存在を否定する事実が認められるといった例外的な事情がない限り、申
立人らの主張に従い、本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当である。

以下、検討する。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一又は混同を引き起こすほど類似していること
(a)申立人らの商標及びドメイン名
 申立人1及び2は、我が国において次の登録商標を所有している。
(ア)国際登録第902726号「EATALY(ロゴ)」第35類及び第43類
  (証拠書類2−1)
(イ)国際登録第957648号「EATALY」第35類、第41類及び第43類
  (証拠書類2−2)
 申立人ら及びその関連会社は、「EATALY」の文字を含む「Eataly.com」等の多数の
ドメイン名を所有している(証拠書類3)。
(b)申立人らの商標及びドメイン名に対する正当な理由
 申立人1及び2は、上記(ア)及び(イ)の商標をわが国において登録しており、また、
申立人ら及びその関連会社は「EATALY」の文字を含むドメイン名を多数所有してい
る。
 「EATALY」の文字は、「食べる」を意味する英単語の「EAT」と「イタリア」を
意味する「ITALY」の英単語とを組み合わせて名づけた造語である。
 申立人らの「EATALY」の歴史は、2007年1月にイタリアのトリノで開設されたフ
ードマーケットに始まり、我が国では2008年9月27日に東京の代官山で1号店が誕生し、
現在は、日本橋三越と横浜ポルタに「EATALY」の店舗が出店されていることが認め
られる。
 したがって、申立人らは、申立人らの商標及びドメイン名につき正当な利益を有するも
のと認められる。
(c)本件ドメイン名と申立人らの商標との混同を惹起するほどの類似性
 本件ドメイン名「EATALY.JP」の「JP」は、単に国別コードに過ぎないため、本件ドメイ
ン名においては「EATALY」の文字部分が要部となる。
 他方、申立人らの上記(ア)の商標は、「EATALY」の欧文字及び図形部分からなる
ものであり、また、上記(イ)の商標は「EATALY」の欧文字のみからなるものであ
る。したがって、本件ドメイン名は、その要部を申立人らの上記(ア)及び(イ)の商標
と同一のものであるから、本件ドメイン名は、申立人らの上記(ア)及び(イ)の商標と
混同を惹起するほどに類似していると認められる。

 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 申立人らは、登録者が本件ドメイン名又はこれに対応する名称を使用していた事実は発
見できず、登録者の名称及び住所から検索したウェブサイト中でも、「EATALY」の語
が使用されている事実は発見できなったと主張する。
 これらの主張に対して、登録者は答弁書を提出しておらず、また、提出された証拠(証
拠書類7)に照らしても、登録者の本件ドメイン名に関する権利又は正当な利益の存在を
裏付ける事実や、権利又は正当な利益の不存在を否定する事実は見当たらない。
 また、「EATALY」の語は申立人らが創作した造語であることも併せ考慮すれば、登
録者は、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと認められる。

 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
 登録者は、本件ドメイン名を2010年2月9日に登録している(証拠資料1)。これは、申
立人らが我が国における「EATALY」1号店を2008年9月に開店した後であり、「E
ATALY」の語は申立人らが創作した造語であることも併せ考慮すれば、登録者は、申
立人らの「EATALY」に関する各種報道(証拠書類4乃至6)に接した後に本件ドメ
イン名を登録したものと考えられる。
 そして、本件ドメイン名の登録から6年を経過するも、未だに本件ドメイン名を使用し
ていないのは、単に、申立人らが本件ドメイン名「EATALY.JP」を使用することを妨害す
るために、保有し続けているものと推認され、これは、「不正の目的での登録」に該当する
と言える。
 なお、登録者は、本件ドメイン名の他にも、「ALASKASEAFOOD」、「SOLB
EER」等の他人のブランド名を用いたドメイン名を複数取得しており(証拠資料11及
び17)、これらもまた不正の目的で登録・維持されていることが推測できることを付言す
る。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「EATALY.JP」
が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名について権利又は
正当な利益を有していない、登録者のドメイン名が不正の目的で登録されているものと裁
定する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「EATALY.JP」の登録を申立人3に移転する
ものとし、主文のとおり裁定する。

    2016年6月27日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                           神林 恵美子
              単独パネリスト


別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2016年4月21日(電子メール)及び4月22日(書面)
(2)手数料受領日
      2016年4月22日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2016年4月22日  JPRSへ照会
      2016年4月22日  JPRSから登録情報の回答
      回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登
                録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2016年4月25
    日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
      1) 申立書送付日(手続開始日) 2016年4月27日(電子メール及び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2016年5月31日
(6)手続開始日  2016年4月27日
      センターは、2016年4月27日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、
    JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
      但し登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送された。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2016年6月1日
    に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子メール
    及び郵送で申立人及び登録者に送付した。
      但し登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送された。
(8)パネリストの選任  2016年6月7日
      申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2016年6月22日
      パネリスト:弁理士 神林恵美子
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2016年6月7日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
                         申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
      但し登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送された。
      裁定予定日:2016年6月27日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2016年6月7日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2016年6月27日  審理終了、裁定。