事件番号:JP2016-0007

               裁   定

申立人:
(名称) テラーメイト・ジャパン株式会社
(住所) 東京都港区北青山一丁目2番3号 青山ビルヂング9
代理人:なし

登録者:
(名称) 豊田D&C株式会社
(住所) 東京都中央区京橋1丁目11番2号 八重洲MIDビル4F
代理人:なし

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは,JPドメイン名紛争処理方針,
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP
ドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り,申立書・
提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果,以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「TELLERMATE.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「TELLERMATE.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。


4 当事者の主張(概要)
 A 申立人の主張
 (1) 登録者のドメイン名が,申立人が権利または正当な利益を有する商
標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
   ア 申立人
 申立人は,テラーメイト リミテッドのグループ会社として,同社が有する登
録商標「TELLERMATE」(登録第2636675号〔1994年3月31日登録〕
及び国際登録第772299号〔2004年5月21日登録〕)について,現在日本国内
において唯一同商標を使用する権利を有している(甲1)。
   イ 申立人の正当な利益を有する表示
申立人は,上記のとおり,テラーメイト リミテッドのグループ会社として,
同社が有する登録商標「TELLERMATE」について,現在日本国内にお
いて唯一同商標を使用する権利を有しており,「TELLERMATE」の表
示(以下「申立人表示」という。)について正当な利益を有する。
   ウ 本件ドメイン名
 登録者は,「TELLERMATE.JP」なるドメイン名(以下,「本件
ドメイン名」という。)を,2014年(平成26年)11月14日に登録している。
   エ 本件ドメイン名と申立人表示との同一性
 本件ドメイン名と申立人表示は同一である。
 (2) 登録者が,ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有して
いないこと
 登録者は,本件ドメイン名の登録時点(2014年11月14日)において,テラー
メイト リミテッドとは直接的あるいは間接的にも一切取引がなく,申立人表
示を使用してドメイン名を登録する権利を何ら有しておらず,さらに申立書提
出時点においても登録を継続している。
  (3) 登録者のドメイン名が,不正の目的で登録または使用されている
こと
 申立人が本件ドメイン名を発見した後の2015年2月18日に,申立人とテラ
ーメイト リミテッドは,同社国内総代理店であるリテールメイト株式会社(RM
社,甲3)に事実確認を行った結果,RM社代表が,登録者はRM社と取引があり,
「テラーメイト販売株式会社」という会社(甲4)を登録者と同じ住所に設立
しドメイン名を使用させていることを認めた。
 そこで,申立人らは,RM社に即刻是正措置を取ることを要請し,また,テラ
ーメイト リミテッドは,RM社に対し,2015年2月19日付書状(甲5)により,
同社をして本件ドメイン名の登録者から申立人への早期移転の要請,および代
理店契約違反により30日内の契約解除等の通知をした。
 しかしながら,本件ドメイン名の移転がなされなかったため,申立人は,当
時の登録者代表者に直接連絡したところ,登録者代表者は本件ドメイン名が登
録されていることは間接的に認めたものの,すべてRM社の指示によるものであ
り当該ドメイン名の使用の権利も有しているという主張をして移転手続を拒否
した。また,2015年7月に申立人とRM社間で契約(甲6)を取り交わし,本件
ドメイン名の申立人への早期移管を約束することを確認したが,やはり移転手
続が実現されないまま,2015年12月に登録更新を行なわれている。
 したがって,登録者が意図的に申立人からの要請を無視し,不正に当該ドメ
イン名の登録を継続している。
 これらのことから,本件ドメイン名について,登録者が不正の目的で登録を
継続していることは明らかである。
 (4) よって,申立人は,本件ドメイン名の登録を申立人に移転せよとの
裁定を求める。

 B 登録者の答弁
  登録者は答弁書を提出しなかった。

5 争点および事実認定
 A 登録者の不答弁の効果
 (1) 本件において,登録者は,答弁書を提出していない。
 (2) しかしながら,本手続には弁論主義は適用されず,パネルは,登録
者が答弁書を提出しないという事実により申立人の主張事実等について(擬制)
自白の拘束力が生じるものとすることはできず,JPドメイン紛争処理方針(以
下,「処理方針」という。)および手続規則の定める要件が充足されているか
否かの判断を,申立人の陳述,提出した証拠等に基づいてしなければならない
というべきである(手続規則第15条(a)等)。
 ただし,本件において登録者は答弁書を提出していないところ,「もし登録
者が答弁書を提出しないときには,例外的な事情がない限り,パネルは申立書
に基づいて裁定を下すものとする。」と規定がある(規則第5条(f))。
 したがって,下記処理方針第4条a.の(1)から(3)の要件に関する申
立人らの主張・立証が明らかに不十分であると判断される例外的な事情がない
限り,申立人の主張に従い,本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当
である。
 (3) 規則第15条(a)は,パネルが紛争を裁定する際に使用することにな
っている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは,提出された
陳述・文書および審問の結果に基づき,処理方針,本規則および適用されうる
関係法規の規定・原則,ならびに条理に従って,裁定を下さなければならない。」。
 そして,処理方針第4条a.は,申立人が次の3項目のすべてを立証しなけ
ればならない,と指図している。
  ① 登録者のドメイン名が,申立人が権利または正当な利益を有する商標
その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  ② 登録者が,当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有して
いないこと
  ③ 登録者の当該ドメイン名が,不正の目的で登録または使用されている
こと

 B  処理方針第4条aの各号についての当パネルの判断
 (1) 同一または混同を引き起こすほどの類似性
 テラーメイト リミテッドは,2件の登録商標「TELLERMATE」(登録
第2636675号〔1994年3月31日登録〕及び国際登録第772299号〔2004年5月
21日登録〕)を有しており(なお,上記国際登録の商標権者は「Tellermate  Plc」
であるが,甲3の「Schedule 3 Trade Marks」からも同一主体と解する。),ま
た,申立人は,日本国内において同商標を使用する権利を有していると推認さ
れる(甲5,甲6)。
 そして,本件ドメイン名は「TELLERMATE.JP」であり,このう
ち「JP」の部分はトップレベルドメインであって国別コードの日本を意味し,
使用主体が属する国を表示するものであるに過ぎないから,本件ドメイン名に
おいて,主たる識別力を有する要部は,セカンドレベルドメインである大文字
のローマ字からなる「TELLERMATE」の部分にあると認められる。
 そして,登録者の本件ドメイン名の要部「TELLERMATE」と,申立
人表示「TELLERMATE」とを比較すると,称呼・観念・外観が同一と
評価される。
 よって,本件ドメイン名は,申立人表示と,全体として混同を引き起こすほ
ど類似する,と認められる。
 (2) 権利または正当な利益
 登録者は,テラーメイト リミテッドとは直接的あるいは間接的にも取引が
なく,申立人表示を使用してドメイン名を登録する権利または正当な利益を有
しているとは認められないので,権利または正当な権利を有していないと判断
する。
 (3) 不正の目的で登録または使用
 テラーメイト リミテッドは,その国内代理店であったリテールメイト株式会
社(RM社,甲3)に対し, 2015年2月19日付書状(甲5)により,本件ドメ
イン名の登録者から申立人への早期移転の要請等を通知した。
 また,2015年7月31日付けで,申立人とRM社間で契約(甲6)が締結され,
契約書第7条で,RM社から登録者対し本件ドメイン名の使用中止の申入れ等の
適切な措置をとることの約束条項が定められた。
 しかし,その後も移転手続が実現されないまま,2015年12月1日付けで登録
更新が行われている(甲2)。
 よって,申立人の主張事実をすべて裏付ける証拠が提出されているとは言え
ないが,上記各事実及び申立人の「申立の理由」等を総合すれば,本件ドメイ
ン名は,少なくとも不正の目的で登録されているものと推認される。

6 結 論
 以上に照らして,紛争処理パネルは,登録者によって登録された本件ドメイ
ン名「TELLERMATE.JP」が申立人表示と全体として混同を引き起
こすほど類似し,登録者が,ドメイン名について権利又は正当な利益を有して
おらず,登録者のドメイン名が不正の目的で登録されているものと認定する。
 よって,処理方針第4条i.に従って,紛争処理パネルは,ドメイン名「T
ELLERMATE.JP」の登録を申立人に移転するものとし,主文のとお
り裁定する。

  2016年8月8日
   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
               小 松 陽一郎
               (単独パネリスト)




別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
   2016年5月26日(電子メール)及び5月27日(書面)
(2)手数料受領日
   2016年5月27日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2016年5月31日 JPRSへ照会
   2016年5月31日 JPRSから登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること,JPRSに登
        録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は,2016年6月1日
  に申立書記載事項及び添付資料について不備があると判断してその旨を申立人に通知
  し,6月8日に訂正申立書を受領し,申立書が処理方針と規則に照らし適合している
  ことを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
   1) 申立書送付日(手続開始日) 2016年6月13日(電子メール及び郵送)
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2016年7月11日
(6)手続開始日 2016年6月13日
   センターは,2016年6月13日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で,
  JPRS及びJPNICには電子メールで,手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは,提出期限日までに答弁書を受領しなかったので,2016年7月12
   日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を,電子メー
   ル及び郵送で申立人及び登録者に送付した。
(8)パネリストの選任  2016年7月19日
   申立人は,1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
   中立宣言書の受領日:2016年7月25日
   パネリスト:弁護士 小松陽一郎
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2016年7月19日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
             申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
   裁定予定日:2016年8月8日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2016年7月19日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2016年8月8日  審理終了,裁定。