事件番号:JP2017-0001 裁 定 申立人: 名称 復縁屋株式会社 住所 東京都杉並区高円寺北2丁目39番3号 FREUDE left side 1F 登録者: 氏名 domain manager 住所 東京都新宿区西新宿3-9-3 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン名 紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方 針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて 審理した結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「別れさせ屋.JP」の登録を取り消す。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「別れさせ屋.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、申立人の主たるサービス名称の一つであり、商標法に基づく登録を行っている 標準文字商標と同一であり、すでにあるWEBサイト「別れさせ屋工作.JP」と類似であると主 張する。申立人によれば、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登 録者はドメイン名について正当な利益を有していない、そしてドメイン名は、不正の目的で登 録または使用されている。 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者は、答弁書を提出し、ドメインパーキングサービスを利用して2014年5月から「別 れさせ屋.JP」に複数の広告を表示させ、サイト訪問者に広告をクリックしてもらうことで収益 化(商業利用)していたもので販売等目的のために登録ドメイン名を取得したものではないと 主張する。また、登録者によれば、申立人は、2001年に放送されたTVドラマで一般に知られ るようになった知名度を自己のサービス名に利用したにすぎず、さらに登録商標「別れさせ 屋」は申立人の実際のサービスと直接関係すると思われる分野のものではなく、商標権等の 権利を盾に正当な権利を有する登録者からドメイン名を奪い取ろうとする行為であると主張 する。以上の主張に基づき、登録者は、申立ての棄却を求めた。 5 争点および事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に参照すべき原則について、パネルに次 のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、 本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなけ ればならない。」 方針第4条a項は、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 i)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と 同一又は混同を引き起こすほど類似していること ii)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと iii)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること 順次、各要件を充足しているか否かを検討する。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と 同一又は混同を引き起こすほど類似していること (a)申立人の商標 申立人は、登録商標「別れさせ屋」(商標登録5911101号、標準文字登録、指定役務35類 広告業、トレーディングスタンプの発行、経営の診断又は経営に関する助言、市場調査又は 分析、商品の販売に関する情報の提供、ホテル事業の管理、財務書類の作成又は監査若し くは照明に関する情報の提供、職業のあっせん、競売の運営、輸出入に関する事務の代理 又は代行,新聞の予約購読の取次ぎ,速記,筆耕,書類の複製,文書又は磁気テープのファ イリング,電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作,建 築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライター・複写機及びワード プロセッサの貸与,求人情報の提供,自動販売機の貸与,アプリケーションプログラムの小 売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電子計算機用プログラムの 小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売 又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,印刷物の小売又は卸売の業 務において行われる顧客に対する便益の提供,紙類及び文房具類の小売又は卸売の業務 において行われる顧客に対する便益の提供,ダウンロード可能な音楽又は音声の小売又は 卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,録音済み記録媒体の小売又は卸 売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,楽器及びレコードの小売又は卸売の 業務において行われる顧客に対する便益の提供,ダウンロード可能な映像又は画像の小売 又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,録画済み記録媒体の小売又 は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電子出版物の小売又は卸売の 業務において行われる顧客に対する便益の提供)の商標権者である。この商標権は、2016 (平成28)年1月6日に商標登録され、裁定期日現在、存続期間内である。 (b)登録者のドメイン名 登録者は、ドメイン名「別れさせ屋.JP」(XN- -48JM9L298KIVK.JP)について、2014年5月1 日に登録しており、裁定期日現在、有効に存続している。 (c)申立人の登録商標と登録ドメイン名の同一または類似 登録ドメイン名の文字列のなかで、「.JP」の部分は、当該文字列がJPドメイン名であること を示すトップレベルの部分であり、当該ドメイン名の主要部分である「別れさせ屋」の部分(セ カンドレベル)と、登録商標とを対比することによって、同一または類似を判断することができ るとするのが、当センターにおける過去の裁定に示された考え方であり、当パネルも、これを 採用する。登録商標の文字列が「別れさせ屋」であるから、これと登録ドメイン名の主要部分 は同一であるから、第1要件の成立を認めることができる。この点について、登録者は、答弁 書において、申立人の登録商標の指定役務に、申立人会社が「探偵業・興信所などの調査 業務、カウンセリング業務、広告業ならびにフランチャイズ事業、システム提供業務の紹介を 行っている。」と申立書で述べているにもかかわらず、別れさせ屋サービス(登録者によれば、 「依頼により男女を別れさせる極めて特殊なサービス」)に直接関連すると思われる分野で商 標登録を取得していないことを挙げるが、方針の文言上、そのように限定的に解さなければ ならない理由は無く、実質的にみても、登録者の主張通りと考えるとすれば、およそ「別れさ せ屋サービス」について、特定人が関連する権利を有することは正当でないということとなっ てしまいかねず、自らのドメイン名登録が正当であるとの主張と矛盾をきたしかねないし、そ もそもドメイン名登録は、結びつけられるウエッブサイトの内容を問わずに登録可能であるか ら、少なくとも、登録者の主張する論点については、第3要件等の判断において、考慮要素の ひとつとすれば足りると解すべきである。 なお、登録者が本要件の充足について主張している「リバースドメインネームハイジャッキン グ」については、下記(4)において当パネルの判断を示す。 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと 登録者は、答弁書において、当該登録ドメイン名を、「ドイツ企業が提供する 『ParkingCrew.com』という名称のドメインパーキングサービスを利用して2014年5月から『別 れさせ屋.JP』に複数の広告を表示させ、サイト訪問者に広告をクリックしてもらうことで収益 化(商業利用)していた。』(3頁(2)第3段落)と認め、それら広告を表示させることこそがドメ インの収益化手法として、あたかも正当な利益を有する広告ビジネスの一環であるかのごとく 主張している。しかし、パーキングサービスのみの登録ドメイン名の使用は、正当な理由のあ る使用と認められない。例えば、方針4条c(i)では、商品またはサービスの提供を正当な目的 をもって行うために、当該ドメイン名を使用していたときに正当な利益を認めると規定している。 この論理からいえば、登録者は、パーキングサイトに示される広告を自ら選択して、インター ネットユーザーに対して提供される情報を特定している場合ならば正当な利用と解する余地 もあるが、そもそも「別れさせ屋.JP」を掲載したパーキングサイトのスクリーンショット(申立人 添付資料09、登録者も答弁書において当該スクリーンショットに言及し、その機能を説明して いることから、申立人・登録者双方が同意した証拠として扱うことができる)には、特定の営業 主体がひとつも示されておらず、かつ、登録者自身の説明によれば(答弁書3頁(2)第3段落 7行目)、「機械によって最適化された関連リンクをクリックすることで該当する広告が表示す る仕組みになっていました。」と説明され、登録者自身が提供する情報を特定していないこと が明らかである。このような態様の「収益化」は、少なくとも商標権者が当該ドメイン名を登録 したいと欲する状況を押しのけてまで正当化できるものと考えることはできない。パーキング サービスのみの登録ドメイン名の使用が、正当な利益のある使用といえないとする見解は、 当センターの裁定例に先例がある(日本知的財産仲裁センター2008 年2 月29 日 JP2007-0010 裁定[GUCCI.JP]https://www.nic.ad.jp/ja/drp/list/2007/JP2007-0010.pdf, 日本知的財産仲裁センター2014年9月2日JP2014-0002裁定[MYSOFTBANK.JP] https://www.nic.ad.jp/ja/drp/list/2014/JP2014-0002.html等)。また、gTLDに適用される UDRP(統一ドメイン名紛争処理方針)に基づく裁定例でも、同様の考え方を採用する裁定が 多くあり、これを反映して、世界知的所有権機関(WIPO)は、パネリストの共通見解として、パ ーキングサイトでの使用のみの場合に、正当な利益を有しないとする見解を示している (WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, 2nd ed.,2.6, http://www.wipo.int/amc/en/domains/search/overview2.0/#26)。なお、登録者は、以上の 点以外に、登録ドメイン名に関連する権利または正当な利益を有する理由を主張しておらず、 商標登録等の権利を有していないと考えられる。 以上の理由から、本パネルは、第2要件について、登録者が権利または正当な利益を有し ていないと判断する。 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること 登録者は、登録ドメイン名の「ドメインパーキングでの収益化を開始した」2014年当時、申立 人が商標登録を得ていなかったから、申立人に対して販売等目的のために登録ドメイン名を 取得したということはあり得ないと主張する。しかし、方針4条a項(i)は、「不正の目的で登録 または使用されている」との文言を用い、使用時点において不正の目的を有していれば足り ると解される。このように考えるべきことは、日本知的財産仲裁センター2001年2月5日 JP-2001-0002裁定[goo.ne.jp]が次のように述べていることからも明らかである。「登 録者ドメイン名の取得は申立人 gooサイトの開設及び申立人商標権の登録に先立つも のであるから、取得時において登録者が「goo.co.jp」としてドメイン名を登録するこ とは自由であり、この登録に正当な利益を有していないとすることはできない。しかし、 その後不正な目的でこれを使用する等の場合には、その登録を維持する正当な利益は失 われると解するのが相当である。処理方針4条a.(ⅱ)が「登録者が、当該ドメイン名 の登録についての権利または正当な利益を有していないこと」と規定した趣旨は、単に 「登録」自体についてのみならず、その後当該ドメイン名の登録を維持する上において 権利または正当な利益を有していない場合をも含むものというべきである。」この点は、 方針の立案過程でも意識して論じられており(松尾和子・佐藤恵太編『ドメインネーム紛争』68 頁(2001年、弘文堂)松尾執筆部分。なお、松尾和子氏は、方針を制定したJPNICタスクフォ ースの主査である)、たとえ登録時点では不正目的を確認できないとしても、その後不正目的 を生じて登録ドメイン名が使用されれば、第3要件を満たすと判断することができる。 では、登録者の登録ドメイン名の使用態様は、不正の目的による使用といえるか。登録者 の使用態様として確認できるのは、パーキングサイトへの登録ドメイン名の掲載である。この 点は、答弁書に「登録者がドメイン名『別れさせ屋.JP』を取得しドメインパーキングでの収益 化を開始した2014年5月時点」と記載されている通り、登録者自身も認めている(答弁書3 頁(3) 1行目)。登録者添付書類の「別れさせ屋.JP」ドメインのParkingCrew.comサイトにおけ る収益表の記載によると、「収益化」すなわちパーキングサイトへの登録ドメイン名の掲載が 2014年5月からとされており、少なくともその時期以降、当該登録ドメイン名が継続してパー キングサイトに掲載されていたことは明らかである。そして、そのパーキングサイトにおける 「別れさせ屋.JP」ページのスクリーンショット(申立人添付資料09、なお、申立書3頁(3)3行目、 最初の「添付資料07」の記載は「添付資料09」の、第2の「添付資料07」の記載は「添付資料 10」の誤りである)には、「このドメインを購入する。」というリンクを設け、そのリンクのすぐ下 に、「別れさせ屋.JP」と記載して、どのドメイン名が購入対象かを一見して明らかにする工夫 がなされ、当該登録ドメイン名を譲り受けたいと希望する者と少なくとも交渉する意思表示を、 登録者自身が明確にしている。すなわち、「このドメインを購入する。」と記載された当該リンク は、そのリンク先に、当該ドメイン名を購入する希望者の情報を書き込むフォームが提供され、 ドメイン名登録者に対して購入希望内容を送信できるようにされている。そのフォームには、 名前、メールアドレス、電話、会社名、ウエッブサイト、オファー価格等を記載できるようにされ ており、申立人もこのフォームを用いて1000USドルという購入オファーを登録者に知らせ、フ ォームの内容が電子メールにて転送されたものと推測される(申立人添付資料11、2頁後半 の2017年1月4日付の部分。なお、パーキングサイトにおける「別れさせ屋.JP」のページは、 裁定期日において直接確認できないが、登録者は、申立書に添付された当該ページのスクリ ーンショット(申立人添付資料09)の存在を答弁書において否定せず、また、同様のパーキン グサイトに登録者によって設けられた他の同種ドメイン名にかかるウエッブページには、現在 も上記のしくみがそのまま維持され「収益化」を継続していることを登録者自身も否定してい ない(答弁書4頁3行目)ので、「別れさせ屋.JP」ページでも、この仕組みが採用されていたこ とを合理的に推測できる)。 この点について、登録者は、販売目的を否定するが(答弁書3頁(2)1~3行目、3頁(3)下か ら4行目等)、当パネルは、この主張を採用することができない。理由は、上記に示した点(登 録者自身が、パーキング譲渡価格を交渉する意思表示を明確にしていること)に加えて、以 下の6点である。第1に、上記認定の通り、パーキングサイトの当該登録ドメイン名のページ における登録者自身による情報提供が「このドメイン名を購入する。」と記載されたリンクのみ であることである。パーキングサイトにおける「別れさせ屋.JP」ページにおいて、関連リンクと して掲載された「別れさせ屋」から「復縁工作」までの10項目にわたるリンクは、「The Sponsored Listings displayed above are served automatically by a third party.」と記載されて いることから、登録者が自己のウエッブサイトの当該スペースを他者に貸し出しているのと同 様の位置づけをすべきものであり、そこに登録者が主張する「収益化」の根拠があるとしても、 当該サイトにおいて登録者自らによってなされる情報発信は、まさに「このドメインを購入す る」というリンクに限定されているからである。第2に、登録者が主張するように、パーキング サイトへの登録ドメイン名の掲載が広告ないし情報提供を主目的とするのであれば、「このド メイン名を購入する。」リンクの存在を明確に認知していながら、このリンクの掲載を停止して いなかった事実の説明がつかないことである(答弁書3頁(2)第4段落では、付加機能が標準 装備と記載され、登録者が意図して購入希望者との連絡チャンネルを開設したことが明らか である)。第3に、申立人と登録者の間の電子メール(申立人添付資料11、登録者もその存 在を争わない)には、「購入の申し出があれば、希望価格での売却が可能か検討させていた だきます。大変申し訳ありませんが、先日にお受けした希望価格での売却には応じることが できません。」と記載され、申立人による1000USドルのオファーを拒否する趣旨が売却価格 つりあげを狙うもの、と解するのが合理的と考えられること、第4に、登録者は、上記電子メー ルにおいて、「本ドメインは、環境・準備が整い次第、独自の内容のホームページを作成する ことを念頭に登録・維持してきたもの」と記載するが、2014年4月に当該登録ドメイン名を登録 して以来、3年ほどを経過しているにもかかわらず、その兆しは認められず、申立書に記載さ れた「特段のサービスを実施しないまま、販売目的で公開し」という申立人の主張に対して、 登録者が具体的な根拠をもった反論を示していないこと、第5に、パーキングサイトをリンク 先に含むウエッブページをGoogleは検索対象として検索結果に表示しないポリシーを採用し ており(https://support.google.com/adwordspolicy/answer/6008942、リンク先の要件の記載 項目)、ウエッブページによる広告の最大のメリットである検索エンジンによる検索ができない 態様の使用を、「広告」というには特段の理由が必要と考えられるところ、登録者はそのよう な主張をせず、特段の理由を推測できる証拠を提出していない。そればかりか、当該登録ドメ イン名以外に申立人主張(申立書3頁(3) 3行目および添付資料10)によれば14件の同種ド メイン名について、現状において「このドメイン名を購入する。」リンクを伴うパーキングページ の掲載を現在でも継続していることから、ドメイン名の譲渡先との連絡チャンネルを開設する ことが主目的と考えるほうが合理的ないし自然と思われること、第6に、一般にパーキングサ イトにドメイン名を掲載する目的は、「短いドメイン名や分かりやすい単語のドメイン名は利用 価値が高いとされ、転売目的で取得だけして自分では利用しない保有者も多い。そうしたドメ インを有効活用するために生まれたサービスがドメインパーキングである。」 (http://seesaawiki.jp/it_pc/d/ におけるドメインパーキングの記載)として知られており、これ に反する事情は、答弁書から明らかにされているとはいえないこと等、以上7点の理由から、 パーキングサイトへの当該登録ドメイン名の掲載が販売目的でないとする登録者の主張は、 採用することができない。この点、申立人が主張する通り、方針4条b項(i) は、「登録者が、 申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認で きる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主 たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき」に、当該ドメイン名の登録ま たは使用を不正の目的であると認めなければならないと規定している。本パネルは、登録者 のパーキングサイトにおける当該登録ドメイン名の使用が、この規定に該当し、不正の目的 による使用であると判断する。登録者がいかなる経緯で当該ドメイン名を登録したかは定か でないが、JPRS-WHOISの検索結果を見る限り、新規の登録であると推測される。他者から 譲り受けたのでないとすれば、通例、登録者が申立人に返信した電子メール(申立人添付資 料11)に記載された1000 USドル超える価格の費用が直接かかったと考えることはできず、 当該登録ドメイン名の移転による対価取得の目的でなされた使用行為であると認定すること ができる。 (4)リバースドメイン名ハイジャックの登録者主張 登録者は、答弁書2頁において、「『申立人の行為が商標権者等の権利を盾にドメイン名を 奪い取ろうとする』リバースドメインネームハイジャッキングに該当する」と主張するので、念の ため検討する。リバースドメイン名ハイジャッキングについて、方針は何も規定していないが、 手続規則15条(e)項は、「もし申立内容が、処理方針を不正の目的で利用して登録者からそ のドメイン名を奪い取ろうとする行為・・・に該当するものであると認められたときには、パネル はその裁定において、不正の目的による申立であり、このJPドメイン名紛争処理手続の濫用 に該当するものである、との判断を示さなければならない。」と規定するが、いかなる場合が 濫用かを定義していない。従って、パネルは条理に従い濫用か否かを判断することとなるが、 本パネルは、本申立てが不正の目的によりなされたものと判断することができない。世界知 的所有権機関仲裁センターが示すドメイン名パネリストの共通見解によれば、gTLDのドメイ ン紛争に適用されるUDRPにおけるリバースドメイン名ハイジャッキングの成立要件として、 申立人が4条a項に示された3要件を欠くことを知っていたことを証拠により立証することが必 要とされている(WIPO, Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, 2nd ed., 4.17, http://www.wipo.int/amc/en/domains/search/overview2.0/#417)。しかしながら、その 種の主張は登録者によってなされておらず、3要件を具備しないことを申立人が知らなかった ことを裏付ける証拠も、提出されていないため、両当事者から提出された全証拠をもってして も、リバースドメインハイジャックの認定をすることは、できない。また、実質的にみても、申立 人会社の商業登記簿(申立人添付資料02)および帝国データバンクの情報(申立人添付資 料03)から、法人としての実体を確認することができ、また、申立人会社の主たる業務として ウエッブサイト(申立人添付資料04)に示された「復縁のための別れさせ屋」サービスは、クラ イアントが復縁を望む相手(例えば夫)に浮気をやめさせる工作をするとすれば、適否はとも かくとして、その手法として夫と浮気相手を別れさせるという可能性は存する。申立人が全く 営業実態を有していないのならば、登録者が主張するように、ドメイン名登録を奪い取ろうと する行為と言えなくもないが、そのような主張立証もない。以上の理由から、本申立てを不正 目的の申し立てと考えることはできない。 以上の理由から、本パネルは、4条a項に規定された3つの実体要件をすべて満たすものと 判断する。 (5)救済 申立人は、登録ドメイン名の登録移転を求めているが、本パネルは、取消裁定が適切と判 断する。その理由は、次のとおりである。 第1に、登録ドメイン名の移転裁定は、他に当該登録ドメイン名の登録を取得したいと考え ている者に先んじて登録を得ることとなるが、本件事実関係においては、申立人を優先的に 取り扱うべき理由がないと考えられる。なぜなら、申立人が保有する登録商標「別れさせ屋」 (商標登録5911101号)は、指定役務に「42類、個人の身元または行動に対する調査」を含ん でおらず、その指定役務に関する商標「別れさせ屋」は、第三者が商標登録している(商標登 録4549416号)。もちろん、本裁定の事案にその第三者は関係しないが、本裁定において登 録ドメイン名「別れさせ屋.JP」を申立人に移転させるとすれば、「別れさせ屋」の文字列を含 む正当な権利を有する者相互の紛争を誘発する可能性があることは明らかといえる。そのた め、本パネルは、本件のように特段の事情が存する場合には、申立の一部認容の趣旨で、 取消の限度で申し立てを認めるのが適切であると考える。日本知的財産仲裁センターにおけ る裁定の先例は存しないようであるが、gTLDに適用されるUDRPに基づく世界知的所有権機 関仲裁センターには、先例がある(例えば、Dr. Ing. h.c. F. Porsche AG v. Automotive Parts Solutions, WIPO Case No. D2003-0725 [911hyndai.com] )。 第2に、移転を求めたのであるから、救済は移転であるべきとの考え方も採用の可能性は ある。しかし、方針4条i項は、救済内容として、「登録者のドメイン名登録の取消請求または 当該ドメイン名登録の申立人への移転請求に限られる。」とのみ規定し、それぞれの救済が どのような場合に選択されるのかは規定されておらず、解釈に任されているということができ る。問題となるのは、移転請求を申立人がしているときに、取消裁定が許されるかであるが、 移転請求をしている事案で取消の裁定をすることは理論的に許容し得るとの考えが、当セン ターパネリストでもある町村泰貴教授によって示されている(松尾等編前掲書93頁(町村執 筆)。ただし、教授が想定する事案は、本件事案とやや傾向を異にする)。そして、「.co.jp」ドメ イン名のように、1社1ドメイン名に限定されている場合に、既に申立人会社が他に「.co.jp」ド メイン名を登録しているとすれば、移転を裁定することは、そもそも登録機関が実施できない 態様を裁定することを意味することになりかねず、その事情を考慮して、取消裁定にとどまる との判断は、実際上もあり得ると考えられる。 第3に、本来、日本のドメイン名紛争処理方針は、UDRPの場合と同様、登録者の不正の 目的を明らかに認定できる事案についてのみ移転裁定をすべきであるとの基本ポリシーが採 用されており(JP-DRP制定者である日本ネットワークインフォメーションセンターも、公式サイ トでその趣旨を明らかにしている(https://www.nic.ad.jp/ja/drp/jpdrp.html)(なお、JP-DRP研 究会(JPNIC), JP-DRP解説6-7頁(https://www.nic.ad.jp/ja/drp/JP-DRPguide.pdf)も参 照)、その趣旨は、正当な商標権者が複数存在し、相互の紛争を誘発することが明らかと思 われる本件のような事案について、一方の正当な商標権者のみに優先的なドメイン名取得を 認めるような裁定はすべきでないという点にも及ぶと考えるべきである。 なお、パネルが独自に調査した事実を本件判断の基礎とする点につき、疑義があるかもし れないので、この点について一言しておく。本パネルは、裁定をより正確なものとするために なされるパネル独自の調査結果を証拠として扱い、判断の基礎とすることは許されると考え る。まず、JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則10条(a)は、「パネルは、処理方針 と本規則に従って、適正と思われる方法で手続を実施しなければならない。」と規定し、審理 も手続のひとつの段階であるから、何を証拠として採用するかは、パネルの権限に委ねられ ている。そして、本パネルは、J-platpatにおける登録商標「別れさせ屋」の検索結果から明ら かとされた第三者による「別れさせ屋」商標の登録情報を証拠として採用することが適切と考 えた(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage#)。同規則第15条(a)は、 「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、・・・・・・裁定を下さなければな らない。」と規定している。しかし、「のみ」の文言が用いられていないことから、提出された文 書等に証拠を限定する趣旨ではなく、裁定を正確なものとする補充調査の結果を証拠とする ことが認められると考えるべきである。補充調査は、当事者から提出された証拠の証拠力認 定のために不可欠である。例えば、普通名称か否かを判断するために辞書を確認することや、 表示の著名性認定のために、著名表示集のウエッブサイト等を検索すること等は必要性が 高い。それら、当事者から提出されなくともパネルが参照し、証拠として採用できるものには、 公表されたドメイン名紛争処理裁定、方針・規則等の制定過程やその解釈論に関する資料 (研究者の見解を含む)及びこれらを掲載するウエッブサイトの検索結果、公の商標データベ ースの検索結果、一般的なレファレンス資料(辞書、百科事典等)が含まれると考えるべきで ある。同様の見解は、WIPO裁定Sensis Pty Ltd., Telstra Corporation Limited v. Yellow Page Marketing B.V., WIPO Case No. D2011-0057 [yellowpage-adelaide.com] (http://www.wipo.int/amc/en/domains/search/text.jsp?case=d2011-0057) に採用され、かつ世界知的所有権機関パネリスト共通見解4.5 (http://www.wipo.int/amc/en/domains/search/overview2.0/#45)にも、示されている。 6 結論 以上の通り、本紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「別れさせ屋.JP」 が申立人の登録商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名について権利又 は正当な利益を有しておらず、当該登録ドメイン名が不正の目的で使用されているものと判 断する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「別れさせ屋.JP」登録を取り消すべきこととし、主文 のとおり裁定する。 2017年5月10日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 主任パネリスト 下坂スミ子 パネリスト 佐藤恵太 パネリスト 齊藤純子 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2017年2月2日(電子メール)及び2月10日(書面) (2)手数料受領日 2017年1月30日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2017年2月2日 JPRSへ照会 2017年2月2日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登録 されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、申立人に対し、2017年2月 6日に申立書等の原本の提出及び申立書記載事項についての不備を通知、2月10日 に訂正された申立書を受領、2月14日に関係書類の原本の提出についての不備を通 知、2月20日に関係書類を受領し、申立書が処理方針と規則に照らし適合していること を確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2017年2月23日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2017年3月24日 (6)手続開始日 2017年2月23日 センターは、2017年2月23日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、 JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、2017年3月14日に答弁書をメールにて受領し、提出者に対し、3月21 日に登録者の登録情報及び答弁書等の原本の提出についての不備を通知し、3月24 日に登録者情報についての回答及び訂正された答弁書等を受領し、答弁書が処理方針 と規則に照らし適合していることを確認し、3月27日に電子メール及び郵送で申立人に 送付した。 (8)パネリストの指名 2017年4月5日 申立人が3名のパネルによって審理・裁定されることを選択したため、センターは、次 の3名のパネリストを選任した。 パネリスト:学識経験者 佐藤恵太(申立人が提示した候補者から指名) 弁理士 齊藤純子(登録者が提示した候補者から指名) 弁理士 下坂スミ子(「三番目のパネリスト」として指名) 中立宣言書の受領日:2017年4月10日 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2017年4月5日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 裁定予定日:2017年4月25日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2017年4月5日(電子メール及び郵送) (11)裁定期日の延期 2017年4月24日、パネリストは、手続規則10条(c)の但書の規定により本件裁定期 限を5月10日まで延長する旨を、申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに通知した。 (12)パネルによる審理・裁定 2017年5月10日 審理終了、裁定。