事件番号:JP2018-0001 裁 定 申立人: (名称) アクサ (住所) フランス国 パリ 75008 アヴニュー マチニヨン 25 代理人: 弁理士 筒井 大和 弁理士 筒井 章子 登録者: (名称) 株式会社グランプリ (住所) 愛媛県松山市粟井河原406-1 代理人:なし 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは,JPドメイン名紛争処理方針, JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り,申立書・ 提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果,以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「AXAGOLF.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「AXAGOLF.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張(概要) A 申立人の主張 (1) 登録者のドメイン名が,申立人が権利または正当な利益を有する商 標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること ア 申立人 申立人は,アクサ グループとして君臨し,日本国内ではアクサ ジャパン グ ループが形成され,申立人が有する「AXA」の文字を含む登録商標「АXA ア クサ」(ローマ字「AXA」を上段にカタカナ文字「アクサ」を下段に書してな る)(登録第3001852号〔平成6年8月31日登録〕),商標登録第3000720号, 商標登録第4246186号,国際登録第1030368号,「AXA」からなる国際登録第 1290037号(平成29年3月24日国内登録),の合計5件について,現在日本国 内において唯一同商標を使用する権利を有している(甲2~7)。 イ 申立人の正当な利益を有する表示 申立人は,上記のとおり,同社が有する「AXA」の文字を含む登録商標 「AXA アクサ」(ローマ字「AXA」を上段にカタカナ文字「アクサ」を 下段に書してなる)(登録第3001852号登録〕(以下「本件登録商標」とい う。)や,「AXA」からなる国際登録第1290037号など5件の登録商標につ いて,現在日本国内において唯一同商標を使用する権利を有しており,「AX A」の表示(以下「申立人表示」という。)について正当な利益を有する。 ウ 本件ドメイン名 登録者は,「AXAGOLF.JP」なるドメイン名(以下,「本件ドメイン名」と いう。)を,2014年(平成26年)8月21日に登録している。 エ 本件ドメイン名と申立人表示との同一性 本件ドメイン名と申立人表示は類似している。 (2) 登録者が,ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有し ていないこと 登録者は,本件ドメイン名の登録時点(2014年8月21日)において申立人や そのグループとは直接的あるいは間接的にも一切取引がなく,申立人表示を使 用してドメイン名を登録する権利を何ら有しておらず,さらに申立書提出時点 においても登録を継続している。 (3) 登録者のドメイン名が,不正の目的で登録または使用されている こと 申立人グループの一員であるアクサ生命保険株式会社は,2013年より5年 (年1回)に渡り女子プロゴルフトーナメントの1つである「アクサレディス ゴルフトーナメント in MIYAZAKI」の特別協賛を行ってきており,同トーナメ ントはテレビ放送やネット放送されている。一方,登録者は,ゴルフクラブや ゴルフボールを販売しているが,「AXA」や「アクサ」の表示がゴルフと特 別な関係にあり知名度の高い表示であることが知られているので,登録者が, 不正に当該ドメイン名の登録を継続している。 これらのことから,本件ドメイン名について,登録者が不正の目的で登録を 継続していることは明らかである。 (4) よって,申立人は,本件ドメイン名の登録を申立人に移転せよとの 裁定を求める。 B 登録者の答弁 登録者は答弁書を提出しなかった。 5 争点および事実認定 A 登録者の不答弁の効果 (1) 本件において,登録者は,答弁書を提出していない。 (2) しかしながら,本手続には弁論主義は適用されず,パネルは,登録 者が答弁書を提出しないという事実により申立人の主張事実等について(擬 制)自白の拘束力が生じるものとすることはできず,JPドメイン紛争処理方 針(以下,「処理方針」という。)および手続規則の定める要件が充足されて いるか否かの判断を,申立人の陳述,提出した証拠,条理等に基づいて行なわ なければならない,というべきである(手続規則第15条(a)等)。 ただし,本件において登録者は答弁書を提出していないところ,「もし登録 者が答弁書を提出しないときには,例外的な事情がない限り,パネルは申立書 に基づいて裁定を下すものとする。」と規定がある(規則第5条(f))。 したがって,下記処理方針第4条a.の①から③の3要件に関する申立人ら の主張・立証が明らかに不十分であると判断される例外的な事情がない限り, 申立人の主張に従い,本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当であ る。 (3) 規則第15条(a)は,パネルが紛争を裁定する際に使用することに なっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは,提出され た陳述・文書および審問の結果に基づき,処理方針,本規則および適用されう る関係法規の規定・原則,ならびに条理に従って,裁定を下さなければならな い。」。 そして,処理方針第4条a.は,申立人が次の3項目のすべてを立証しなけ ればならない,と指図している。 ① 登録者のドメイン名が,申立人が権利または正当な利益を有する商標 その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること ② 登録者が,当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有して いないこと ③ 登録者の当該ドメイン名が,不正の目的で登録または使用されている こと B 処理方針第4条a.の各号についての当パネルの判断 (1) 同一または混同を引き起こすほどの類似性 申立人の有する本件登録商標は,上記のとおり,ローマ字「AXA」を上段に カタカナ文字「アクサ」を下段に書してなる「AXA アクサ」から構成されて おり,本件ドメイン名は「AXAGOLF.JP」からなる。 そして,本件ドメイン名のうち「JP」の部分はトップレベルドメインであっ て国別コードの日本を意味し,使用主体が属する国を表示するものであるに過 ぎないから,本件ドメイン名において,識別力を有する要部は,セカンドレベル ドメインであるローマ字からなる「AXAGOLF」の部分にあると認められる。 ところで,本件登録商標は,「AXA」を上段に「アクサ」を下段に書して なる結合商標であるが,上下2段構成の態様や,「AXA」のカタカナ読みが 「アクサ」と理解されるのが通常と考えられることから,「AXA」と「アク サ」の外観と,単一の「アクサ」の称呼が生じると解するのが自然である。な お,「AXA」や「アクサ」は造語であり,特定の観念は生じない。 一方,登録者の本件ドメイン名の要部である「AXAGOLF」は,「AXA」と 「GOLF」の結合表示であるが,「GOLF」は外来語の「ゴルフ」を意味する普通 名称である。したがって,「GOLF」の部分は識別力が乏しく,造語である 「AXA」に部分に識別力があると認められる。そして,「商標その他表示と同 一または混同を引き起こすほど類似している」か否かの判断にあたっては,識 別力のある部分を比較すべきである。 なお,本件登録商標は申立人のハウスマークと解され,申立人が中心となっ ているアクサグループは,世界最大級の保険・金融グループであり(甲10~ 12),日本国内においても,アクサ ジャパン グループは自動車保険ランキ ング等で上位を占めており(例えば,甲8,23~36),また,申立人の子会社で あるアクサ生命保険会社は,2013年3月より継続して年に1度開催される女子 プロゴルフトーナメントの1つである「アクサレディスゴルフトーナメント in MIYAZAKI」の特別協賛を行ってきており,同トーナメントはテレビ放送さ れている(甲42)。そのハウスマークである「アクサ」や「AXA」には周知 性があると認定することが可能である。 そうすると,申立人表示の本件登録商標の「AXA」の部分と,本件ドメイ ン名の主たる識別力を有する「AXA」の部分を比較すると,称呼,外観,観念 において同一であるから,全体として,混同を引き起こすほど類似していると いうべきである。 (2) 権利または正当な利益 登録者は,申立人やそのグループであるアクサ グループとは直接的あるい は間接的にも取引がないので,登録者が,本件ドメイン名に関係する権利また は正当な利益を有していない,と判断する。 (3) 不正の目的で登録または使用 登録者は,ゴルフ用品の製造・販売の事業を行っており(甲53),その代表 者はゴルフ界のトップアマとして活躍してきたようであり(甲56),その使用 するロゴには申立人所有の登録商標(商標登録第3000720号)のモノグ ラムと同じロゴが使用されていること(甲54)から,「アクサレディスゴルフ トーナメント in MIYAZAKI」を知ったうえで本件ドメイン名を登録・使用して いると推認できるので,登録者は,本件申立人表示を不正の目的で登録・使用 していると判断される。 6 結 論 以上に照らして,紛争処理パネルは,登録者によって登録された本件ドメイ ン名「AXAGOLF.JP」が申立人表示と全体として混同を引き起こすほど類似し, 登録者が,ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず,登録者の ドメイン名が不正の目的で登録・使用されているものと認定する。 よって,処理方針第4条i.に従って,紛争処理パネルは,ドメイン名 「AXAGOLF.JP」の登録を申立人に移転するものとし,主文のとおり裁定する。 2018年4月5日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 小 松 陽一郎 (単独パネリスト) 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2018年1月22日(電子メール)及び1月24日(書面) (2)手数料受領日 2017年12月28日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2018年1月24日 JPRSへ照会 2018年1月25日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、 JPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2018 年1月30日に代表者の資格を証明する公的証明書類の添付が必要と判断 してその旨を申立人に通知した。申立人から上申書を2月5日に受領し、 補正期間を2月20日まで延長することを通知し、2月7日に代表者の資 格を証明する公的証明書類を受領し、申立書が処理方針と規則に照らし適 合していることを確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2018年2月9日(電子メール及 び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2018年3月12日 (6)手続開始日 2018年2月9日 センターは、2018年2月9日に申立人及び登録者には電子メール及 び郵送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2018 年3月13日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提 出通知書を、電子メール及び郵送で申立人及び登録者に送付した。 (8)パネリストの指名 2018年3月15日 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 言明書の受領日:2018年3月19日 パネリスト:弁護士・弁理士 小松 陽一郎 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2018年3月15日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 裁定予定日:2018年4月5日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2018年3月15日(電子メール及び郵送) (11)パネルによる審理・裁定 2018年4月5日 審理終了、裁定。