事件番号:JP2019-0003 裁 定 申立人: (名称)インテーザ・サンパオロ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (住所)イタリア、イ-10121トリノ(トリノ)、ピアッツァ・サン・カルロ15 6番 代理人:弁理士 山尾 憲人 代理人:弁理士 勝見 元博 代理人:弁理士 澤 由里子 登録者: (名称)mnemonic Threat Intelligence (住所)Wergelandsveien 25, 0167 Oslo, Norway ※登録者宛通知の郵送分については、JPRS登録情報の登録者の所在地住所(日本国内) に送付した。 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル(以下、「パネル」という。)は、JPドメイ ン名紛争処理方針、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁 センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・ 答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「INTESASANPAOLO.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「INTESASANPAOLO.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、イタリア最大規模の金融機関として世界中で広く知られており、我が国にお いてもその商号の一部である「INTESASANPAOLO」を含む国際商標登録第9 20896号(甲14)及び国際商標登録第924099号(甲15)(以下、合わせて「本 件商標」という。)を有している。申立人は、登録者が申立人の本件商標を実質的に模写し、 申立人の本件商標ないしブランドにおける申立人の好評を利用する意図をもって登録者に よって採択された本件紛争に係るドメイン名「INTESASANPAOLO.JP」(以 下、「本件ドメイン名」という。)を登録していることを主張している。また、申立人は、 本件ドメイン名が申立人の周知な本件商標と混同を引き起こすほどに類似していること、 登録者は本件ドメイン名について正当な利益を有していないこと、そして本件ドメイン名 は不正の目的で登録されていることを主張している。従って、申立人は、本件ドメイン名 の申立人への移転を請求している。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 まず、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則第15条(a)においては、「パネ ルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用さ れうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない」と 規定されている。 次に、JPドメイン名紛争処理方針第4条aは、申立人が主張・立証の義務を負う要件 として、以下の事項を定めている。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と 同一又は混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること そして、本件において登録者は答弁書を提出していないところ、JPドメイン名紛争処 理方針のための手続規則第5条(f)においては、「もし登録者が答弁書を提出しないとき には、例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする」と規 定されている。 従って、上記(1)から(3)の要件に関する申立書における主張について、各要件に 関する申立人の主張が不十分である又は各要件該当事実の存在を否定する事実が認められ るといった例外的な事情がない限り、申立人の主張に従い、本件ドメイン名登録移転の裁 定を下すことが相当である。 以下、検討する。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と 同一又は混同を引き起こすほど類似していること 申立人は、我が国において欧文字「INTESA SANPAOLO」を含む以下の本件 商標を有していることが認められる。 (ア)国際登録第920896号「INTESA SANPAOLO」第9、16、35、 36、41、42類(甲14) (イ)国際登録第924099号「INTESA SANPAOLO(ロゴ)」第9、1 6、35、36、41、42類(甲15) 上記の本件商標に加え、申立人は、海外においても欧文字「INTESA SANPAO LO」を含む米国登録商標、欧州共同体商標、中国登録商標、インド登録商標をも有して いることが認められる(甲16乃至24)。 さらに、申立人はドメイン名「INTESASANPAOLO.COM」(以下、「申立 人ドメイン名」という。)を保有し、使用していることが認められる(甲28)。 したがって、申立人は、商標「INTESA SANPAOLO」について、権利又は正 当な利益を有するものと認められる。 次に、上記申立人の本件商標「INTESA SANPAOLO」と本件ドメイン名「I NTESASANPAOLO.JP」中の「INTESASANPAOLO」との間には、 「INTESA」と「SANPAOLO」との間のスペースの有無の差があるが、ドメイ ン名の場合、単語間のスペースを省略することは通常であるので、「INTESA SAN PAOLO」と「INTESASANPAOLO」とは実質的に同一と認められる。 さらに、本件ドメイン名「INTESASANPAOLO.JP」において、「.JP」 は、日本を意味するトップレベルドメインであって類否判断には影響しない部分であるか ら、本件ドメイン名においては、「INTESASANPAOLO」部分が要部となり、か かる本件ドメイン名の要部「INTESASANPAOLO」は、上記申立人の本件商標 と実質的に同一のものであるから、本件ドメイン名は、上記申立人の本件商標と混同を惹 起するほどに類似していると認められる。 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと 申立人は、本件ドメイン名がパークドメインとして設定され、コンテンツが存在しない (甲25)と主張し、併せて、申立人は登録者に本件ドメインの登録を依頼したことも使 用を許可したこともない(ドメイン名紛争処理方針第4条c. (i)非該当)と主張し、ま た、その他、登録者が、「INTESASANPAOLO」ないしは「INTESA SA NPAOLO」という名称で一般に知られているという事実はない(ドメイン名紛争処理 方針第4条c.(ⅱ)非該当)、と主張する。 当該申立人の主張に対して、登録者は答弁書を提出しておらず、また提出されたすべて の証拠を検討しても、ドメイン名紛争処理方針第4条c. (ⅰ)乃至(ⅲ)に該当するよう な登録者の本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益の存在を裏付ける事実や、権利 又は正当な利益の不存在を否定する例外的な事情は認められない。 したがって、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと 認められる。 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること 申立人は、本件ドメインの登録後半年以上経過した現在もなお、本件ドメイン名はパー クドメインとして設定されており、コンテンツが存在しないと主張する(甲25)。ここで、 パークドメイン(PARKED DOMAIN)とは、ドメインが取得されているものの、 コンテンツがないか、または広告などが表示されるようなドメインのことを言い、広告収 入を得ることができるようなケースも存在することが一般に認められる。また、申立人は、 申立人が知る限り、登録者が我が国に現実かつ真正な工業上または商業上の営業所その他 住所または居所を有するという事実は存在せず、実際に、登録者のウェブサイトには、我 が国に営業所等があることは言及されていない(甲29)と主張し、さらには、登録者は、 申立人からの本件ドメイン名の移転についての警告書に対し何ら回答も行っていないと主 張する。 そして、当該申立人の主張に対して、登録者は答弁書を提出していないことから、本件 ドメイン名は、周知な本件商標と実質的に同一な本件ドメイン名を登録し、使用すること によって、不正の利益を得る目的で取得されたものと推認され、また、提出されたすべて の証拠を検討しても、不正の目的での登録又は使用を否定する例外的な事情は認められな い。 したがって、本件ドメイン名は、登録者によって不正の目的で登録され、使用されてい るものと認められる。 6 結論 以上に照らして、本紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「INT ESASANPAOLO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者 が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正 の目的で登録されているものと判断する。 よって、方針第4条(i)に従って、ドメイン名「INTESASANPAOLO.J P」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。 2019年6月24日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 佐藤 俊司 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2019年4月15日(電子メール)及び4月16日(書面) (2)手数料受領日 2019年4月11日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2019年4月16日 JPRSへ照会 2019年4月16日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRS に登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2019年4月18 日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2019年4月22日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2019年5月28日 (6)手続開始日 2019年4月22日 センターは、2019年4月22日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、 JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2019年5月29 日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子メー ル及び郵送で申立人及び登録者に送付した。 (8)パネリストの指名 2019年6月4日 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 言明書の受領日:2019年6月7日 パネリスト:弁理士 佐藤 俊司 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2019年6月4日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 裁定予定日:2019年6月24日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2019年6月4日(電子メール及び郵送) (11)パネルによる審理・裁定 2019年6月24日 審理終了、裁定。