事件番号:JP2020-0002 裁 定 申立人: (氏名/名称)株式会社クラシコム (住所)東京都千代田区国立市中二丁目18番42 代理人:弁護士 森田 雅也 復代理人:弁護士 唐木 大輔 登録者: (氏名/名称)Po Moon (住所) 香川県善通寺市善通寺町1-3-7 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理 方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「hokuohkurashi.JP」の登録を取り消せ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「hokuohkurashi.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、登録者が取得したドメイン名「hokuohkurashi.JP」(以下「本件ドメイン名」 という。)は、申立人の商標登録第5410014号「北欧、暮らしの道具店」(以下「申 立人登録商標」という。)を表示して申立人が運営しているECサイトのドメイン名 「hokuohkurashi.com」(以下「申立人ドメイン名」という。)と、トップレベルドメイン以 外は完全に一致するものであり、かつ、本件ドメイン名は、申立人の上記登録商標を無断 で使用している申立人のECサイトのドメイン名として使用されていることを主張する。 申立人によれば、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者 はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、ドメイン名は不正の目的で登録また は使用されている。 したがって、申立人は、ドメイン名登録の取消を請求する。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果 に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理 に従って、裁定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 申立人は、甲第1号証に示す商標登録第5410014号「北欧、暮らしの道具店」の 商標権者である。 また、申立人が提出した甲第2号証には、「北欧、暮らしの道具店」の表示の下に、各種 アイテムの写真と共に「お買いものカート」の表示及び、例えば「日常がちょっと上質に なるグラス」等の説明書が記載されている。更に、甲第2号証第1頁右サイドには、「キッ チン」、「生活日用品」、「インテリア雑貨」、「食器」、「ファッション」、「ファブリック」、「ポ スター」、「かご/手工芸品」、「テーブル小物」、「キッズアイテム」、「食品」、「本」という 表示があり、これらは当該ECサイトにおける取扱商品のラインアップを記載しているも のと推測される。これらの記載より、甲第2号証のウェブサイトは申立人が運営する商品 販売のためのECサイトであると認められる。 そして、甲第2号証の各頁の左下には、「https://hokuohkurashi.com」が表示されてい るため、申立人ドメイン名「hokuohkurashi.com」は、申立人登録商標を表示する申立人の ECサイトのドメイン名として、登録され使用されていると認められる。また、申立人ド メイン名は、申立人登録商標「北欧、暮らしの道具店」中の「北欧 暮らし」の欧文字表 示に相当するので、申立人は、申立人ドメイン名「hokuohkurashi.com」につき正当な利益 を有すると認められる。 一方、本件ドメイン名は、「hokuohkurashi.JP」であり、トップレベルドメイン以外は申 立人ドメイン名と完全に一致するものである。したがって、本件ドメイン名は、申立人が 正当な利益を有する申立人ドメイン名と同一又は混同を引き起こすほど類似するものと認 められる。 (2)権利または正当な利益 JPドメイン名紛争処理方針第4条Cは「申立書を受領した登録者は、手続規則第5条 を参照し、答弁書を紛争処理機関に対して提出しなければならない」と規定するが、登録 者は答弁書を提出していない。そこで、申立人から提出された主張及び証拠に基づき、登 録者が本件ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有していないかを検討する。 申立人提出の甲第3号証には、「北欧、暮らしの道具店」という表示の下、各種アイテ ムの写真と共に、それぞれのアイテムには、例えば「Hokuohkurashi鍋つかみオーブングロ ーブコットン結婚祝い新築祝いキッチン」等の説明書及び「\4,254税込」という価格が表 示されている。これより、上記説明書及び価格表示は、各写真に掲載されている商品の説 明書及び価格表示であると認められる。さらに、甲第3号証のウェブサイトには、「キッチ ン」、「生活日用品」、「インテリア雑貨」、「食器」及び「ファッション」という表示があり、 これらは当該ECサイトにおける取扱商品のラインアップを記載しているものと推測され る。 したがって、甲第3号証が示すウェブサイトは、「北欧、暮らしの道具店」という店舗名 の下で、キッチン小物やインテリア雑貨などの商品を販売するためのECサイトであると 推認され、そして本件ドメイン名は、当該ECサイトのドメイン名として使用されていた と認められる。(なお、現在は、「北欧雑貨道具店」に店舗名が変更されている。) そして、甲第3号証中の「北欧、暮らしの道具店」の表示は、甲第1号証に示される申 立人登録商標と同一であって、その指定役務である「台所用器具の小売又は卸売の業務に おいて行われる顧客に対する便益の提供」等に使用されていたと認められるため、甲第3 号証中の「北欧、暮らしの道具店」の表示は、申立人登録商標に係る商標権を侵害するも のである。 したがって、本件ドメイン名は、申立人登録商標に係る商標権を侵害するECサイトの ドメイン名として使用されたものであるから、商品又はサービスの提供を正当な目的を持 って行うために使用されていたと認定することはできない。 なお、甲第3号証が示すウェブサイトの運営会社は、同ウェブサイトのウェブページ「特 定商取引法に基づく表示」では、「hokuohkurashi株式会社」と表示されており、登録者が 答弁書を提出していないため、登録者と当該ウェブサイトの運営会社との関係は不明であ る。しかしながら、両者の関係がどうあれ、本件ドメイン名が申立人登録商標に係る商標 権を侵害するために使用されたものであって、正当な目的をもって商品またはサービスの 提供を行うために使用されたものではないことは明白である。したがって、登録者が、ド メイン名に関する権利又は正当な利益を有していると認めることはできない。 (3)不正の目的での登録または使用 上記(2)で認定した通り、本件ドメイン名は、申立人登録商標に係る商標権を侵害す るECサイトのドメイン名として使用されたものである。 また、申立人提出の甲第4号証の1乃至8には、それぞれ「先般インスタをみていたら、 下記のような広告を見ました。なんだか同じなようで、違うと思い連絡させていただきま す。」、「これは....間違えて『.jp』のほうでお買い物しそうになるほど一緒なんですが....」 等と記載されている申立人ユーザーからの投稿が示されており、殊に、甲第4号証の8に は、「いつも届いていたように思う注文後の自動送信メールが届いていません。なりすまし サイトの記事を読んだので、もしかしたら....と思い問い合わせをさせていただきました。 注文されておりますでしょうか?」との記載があり、これより、投降した申立人ユーザー は、本件ドメイン名が使用されているECサイトを申立人のECサイトであると誤認混同 して商品を注文したものと推測される。 以上からすれば、本件ドメイン名は、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイト及 び当該ウェブサイトに登場する商品の出所につき誤認混同を生ぜしめることを意図して使 用されたものであることは明白である。したがって、本件ドメイン名は、不正の目的で登 録及び使用されたものと認められる。 なお、本件ドメイン名が使用されているウェブサイトでは、現在は、店舗名が「北欧雑 貨道具店」に変更されてはいるものの、取扱商品群に何ら変更はない上、各商品には、依 然「hokuohkurashi鍋つかみ」等の表示が記載されている。したがって、店舗名の変更は、 上記認定に影響するものではない。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「hokuohkurashi.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイ ン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的 で使用されたものと判断する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「hokuohkurashi.JP」の登録を取り消すも のとし、主文のとおり裁定する。 2020年7月7日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 弁理士 神林 恵美子 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2020年3月27日(電子メール)及び3月30日(書面) (2)手数料受領日 2020年3月30日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2020年3月31日 JPRSへ照会 2020年3月31日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登 録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2020年4月1日 に補正(補正書、証拠)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、2020年4月 3日に補正書類を受領した。 センターは、2020年4月6日に補正(2回目)(補正書、委任状)が必要と判 断してその旨を申立人に通知し、2020年5月12日に補正書類を受領し、申立書 が処理方針と規則に照らし適合していることを確認した。 なお、センターは、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言発 出を受け、2020年4月8日から2020年5月6日まで業務を停止したため、こ の期間は、JPドメイン名紛争処理方針のための手続において、営業日数に含めていな い。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2020年5月13日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2020年6月10日 (6)手続開始日 2020年5月13日 センターは、2020年5月13日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、 JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (但し、登録者宛の通知のうち、JPRS登録情報の登録者住所に郵送した通知は「あて 所に尋ねあたりません」として返送された。) (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2020年6月11 日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子メー ル及び郵送で申立人及び登録者に送付した。 (但し、登録者宛の通知のうち、JPRS登録情報の登録者住所に郵送した通知は「あて 所に尋ねあたりません」として返送された。) (8)パネリストの指名 2020年6月17日 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 言明書の受領日:2020年7月1日 パネリスト:弁理士 神林 恵美子 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2020年6月17日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 (但し、登録者宛の通知のうち、JPRS登録情報の登録者住所に郵送した通知は「あて 所に尋ねあたりありません」として返送された。) 裁定予定日:2020年7月7日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2020年6月17日(電子メール及び郵送) (11)パネルによる審理・裁定 2020年7月7日 審理終了、裁定。