事件番号:JP2020-0005 裁 定 申立人: 名称:ジエイ バーバー アンド ソンズ リミテツド 住所:イングランド、エヌ・イー34、9ピーディー、サウス・シールズ、シモン サイド 代理人:弁理士 磯田直也 登録者: 名称:Li 住所:Weihai Road 750, Shanghai, China 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則および日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処 理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基 づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「BARBOUR.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「BARBOUR.JP」(本件ドメイン名)である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、商標登録第2063760号に係る商標、同第4005301号に係る商 標および国際登録第1194844号に係る商標(以下順に、「本件商標1」、「本件商標2」、 「本件商標3」といい、まとめて「本件商標」という。)の商標権を有し、日本における販 売代理店に本件商標の使用許諾をして、長年にわたり本件商標を使用して衣料の販売等を 業として行っているところ、登録者が本件商標と紛らわしいドメイン名を登録し、申立人 の高い知名度を利用する意図を有していると主張する。申立人によれば、(ⅰ)本件ドメイ ン名は、本件商標と混同を引き起こすほどに類似し、(ii)登録者は本件ドメイン名に関係 する正当な利益を有しておらず、(ⅲ)本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用され ている。 したがって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に ついて次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、 処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁 定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること (1)申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起 こすほど類似していること ア 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他の表示 (ア)本件商標 申立人は、本件商標1ないし3に係る商標権を有している(甲1、2)。 本件商標1は、「BARBOUR」とのアルファベット表記と「バブアー」とのカタカナ 表記を上下二列に併記してなり、「バブアー」または「バーバー」との称呼が生じる。また、 本件商標1の「BABOUR」および「バブアー」は、後記(イ)のとおり、日本を含め て世界的に知られた申立人の衣料ブランドの名称であるから(甲4~6)、申立人の衣料ブ ランドの観念が生じる。 本件商標2および本件商標3は、「BARBOUR」とのアルファベット表記からなり、 「バブアー」または「バーバー」との称呼が生し、本件登録商標1と同様の観念を生じる。 (イ)申立人による本件商標の使用 申立人は、1894年に英国で創業され、英国を代表するアウトドア・ライフスタイル ブランドとして、「BARBOUR」のブランド名で世界的に知られており、現在ではアウ トドア以外の各種衣料にも進出している。日本においては、申立人は、「BARBOUR」 ブランドで、日本における販売代理店を通じ各地の店舗において販売を行うほか、ネット での販売も行っており、「BARBOUR」は申立人の提供する衣料等のブランド名として、 広く認知されているものと認められる(甲4~6)。 イ 類似性 本件ドメイン名は、日本を意味するトップレベルドメインの「.JP」を除くと、「BA RBOUR」で構成され、本件商標1の「BARBOUR」と称呼が同一で外観において 類似している。また、本件ドメイン名は、本件商標2および本件商標と外観、称呼が同一 である。さらに、本件ドメイン名は、本件商標1ないし3と観念が同一である。 したがって、本件ドメイン名は、本件商標1と類似し、本件商標2および3と同一であ る。 ウ 小括 よって、本件ドメイン名は、申立人が商標権を有する本件商標と同一または混同を引き 起こすほど類似している。 (2)登録者が、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと 申立人は、登録者に対し、本件商標に係る商標権の使用許諾を与えたことはなく、また、 本件ドメイン名の取得、使用について許諾を与えたり、依頼をしたりした事実もないこと が認められる(甲9および申立書の全趣旨)。 一方、登録者による本件ドメイン名の使用態様については、次のとおりである。 ① 本件ドメイン名は、本件ドメイン名を構成する「BARBOUR」との名称で周知 されているとは認められず、また、登録者が「BARBOUR」の表示を使用して事業を 行っているとの事実も認められない。 ②本件ドメイン名の登録日(2020年5月1日。甲7)から本申立書提出日(202 0年9月14日)に至る3か月以上の期間の間、本件ドメイン名に係るウェブサイトには、 具体的なコンテンツは存在せず、「ドメイン barbour.jp は売り出し中です!」との文言と ともに広告リンクが表示されるのみである(甲8)。してみると、本件ドメイン名は、パー クドメインとして設定されていると認められる。 以上認定の事実によれば、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を 有していない。 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること 上記(2)のとおり、本件ドメイン名はパークドメインとして設定されており、登録者 は本件ドメイン名を使用した正当な事業を行っていない。また、本件ドメイン名に係るウ ェブサイトには、具体的コンテンツがないのに広告リンクが表示されること、および「ド メイン barbour.jp は売り出し中です!」との文言が表示されていることからすると、登録 者は本件商標と類似する本件ドメイン名を不正に利用して広告収入を得ること、あるいは、 本件ドメイン名を転売することを目的として、本件ドメイン名を登録し、使用していると 推測される。(甲8) また、申立人が、登録者の登録上の住所地宛ての郵便および登録上のメールアドレス宛 ての電子メールにより、登録者に対し、本件ドメイン名の使用は本件商標権を侵害し、か つ、不正競争行為に該当するとして本件ドメイン名の使用中止および移転を要求した(甲 9~14)ところ、登録者は、商標権侵害および不正競争行為については一切反論せず、 8500米国ドルの支払いがあれば直ちに本件ドメイン名を移転する旨回答して、本件ド メイン名の移転の対価を要求した(甲15)。この事実は、登録者による本件ドメイン名の 登録が、正当な事業目的に出たものではなく、本件ドメイン名の転売により利益を得るこ とを目的としたものであることを強く推認させる。 以上のとおりであるから、本件ドメイン名は、登録者により、不正の目的で登録され使 用されていると認められる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録された本件ドメイン名「BA RBOUR.JP」が、①申立人が正当な権利を有する商標と混同を引き起こすほど類似 し、②登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、③登録 者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「BARBOUR.JP」の登録を申立人 に移転するものとし、主文のとおり裁定する。 2020年11月11日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 弁護士 古 城 春 実 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2020年9月14日(電子メール)及び9月15日(書面) (2)手数料受領日 2020年9月18日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2020年9月18日 JPRSへ照会 2020年9月18日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登 録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2020年9月18日 に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2020年9月23日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2020年10月21日 (6)手続開始日 2020年9月23日 センターは、2020年9月23日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、 JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (登録者宛の通知については、JPRS登録情報の登録者住所に送付した通知は 「あて名不完全で配達できません」として返送された。また、申立書に記載された 登録者の住所に送付した通知は「転居先不明」として返送された。) (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2020年10月2 3日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子 メール及び郵送で申立人及び登録者に送付した。 (8)パネリストの指名 2020年10月23日 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 言明書の受領日:2020年10月27日 パネリスト:弁護士 古城 春実 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2020年10月23日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 裁定予定日:2020年11月13日 (登録者宛の(7)答弁書不提出通知書並びに(9)紛争処理パネルの指名及び裁 定予定日の通知については、JPRS登録情報の登録者住所に送付した通知は「あ て名不完全で配達できません」として返送された。また、申立書に記載された登録 者の住所に送付した通知は、裁定時において、中国の配達局で配達できず、保留と なっている。) (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2020年10月23日(電子メール及び郵送) (11)パネルによる審理・裁定 2020年11月11日 審理終了、裁定。