事件番号:JP2020-0007

                  裁 定

  申立人:
  名称:コンフェデラシオン・ナシオナル・デュ・クレディ・ミュチュエル
     (CONFEDERATION NATIONALE DU CREDIT MUTUEL)
  住所:88-90、リュ・カルディネ(rue Cardinet) 75017パリ、フランス
  代理人:弁理士 佐藤 俊司
      弁護士 古西 桜子
       同  長岡 征斗
       同  安西 みなみ

  登録者:
  名称:Li
  住所:威海路(Weihai Road) 750、200041、上海、中華人民共和国

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則および日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則ならびに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて
審理を遂げた結果(登録者からの答弁書の提出はなかった)、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「CREDITMUTUEL.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「CREDITMUTUEL.JP」(以下、本件ドメイン名と呼ぶ)である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人は、登録者が、周知性を満たす申立人の登録商標「CREDIT MUTUEL」と同一、少な
くとも混同を引き起こすほど非常に類似している本件ドメイン名を、「CREDIT MUTUEL」の
ブランドの標章の周知性および申立人の社会的信用を認識したからこそ、登録しているこ
とを主張する。申立人によれば、本件ドメイン名は、申立人の商標と同一または混同を引
き起こすほどに類似し、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有し
ておらず、本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
 したがって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

 b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則につ
いてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類および審問の結果に
基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従
って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してお
り、以下、順に検討する。
 (i) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (ii) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (iii) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
 方針第4条a(i)については、申立人の主張によれば、申立人は、フランスその他の国に
おいて「CREDIT MUTUEL」の語から構成され、または当該語を含む多数の商標登録に関し、
権利者として登録されているとのことである。かかる主張は、申立人の提出した証拠(附
属文書E.1ないしE.4)により裏付けられており、これに反する他の証拠はない。
•  "CREDIT MUTUEL"、1988年7月8日出願、図形商標、フランス登録番号1475940、ニー
  ス協定第35類および第36類
•  "CREDIT MUTUEL"、1990年11月20日出願、図形商標、フランス登録番号1646012、ニ
  ース協定第16類、第35類、第36類、第38類および第41類
•  "CREDIT MUTUEL"2011年5月5日出願、欧州共同体商標登録番号9943135、ニース協
  定第9類、第16類、第35類、第36類、第38類、第41類、第42類および第45類
•  "CREDIT MUTUEL"1991年5月17日出願、図形商標、国際登録番号570182、ニース協定
  第16類、第35類、第36類、第38類および第41類、指定地域ベネルクス、イタリ
  ア、ポルトガル
 そして、本件ドメイン名の「.JP」よりも前の部分が、かかる申立人の商標「CREDIT MUTUEL」
と同一の語である以上、本件ドメイン名につき申立人が権利を有する商標と「同一または
混同を引き起こすほどの類似性」があることは明らかである。

 (2)権利または正当な利益
 方針第4条a(ii)は、同条cにおいて、「登録者は当該ドメイン名に関係する権利または
正当な利益を有していると認めなければならない」3つの事情が列挙されている。
 この点、本件においては、(i)登録者が、商品またはサービスの提供を正当な目的をもっ
て行うために、本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していた事実、または明
らかにその使用の準備をしていた事実を認めることはできない。また、(ii)登録者が、本
件ドメイン名の名称で一般に認識されていた事実も認めることもできない。さらに、(iii)
登録者が、本件ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用している事実も認
めることができない。
 他方、申立人によれば、登録者は申立人の事業とは一切関係がない。すなわち、申立人
の代理人であるといった事実、申立人のための活動を行ったり申立人と取引を行ったりし
ている事実はなく、また、本件ドメイン名を使用しまたは登録申請するに際して申立人か
ら使用許諾や許可が与えられた事実もないとのことであり、これに反する他の証拠はない。
 以上より、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してはいな
い。

 (3)不正の目的での登録または使用
 方針第4条a(iii)については、同条bにおいて、「不正の目的での登録または使用」と
認めるべき事情が列挙されている。そのうちの(i)は、登録者が、申立人に対して、当該ド
メイン名に直接かかった金額を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与ま
たは移転することを主たる目的としている場合である。
 この点、証拠からは、本件ドメイン名が申立人の商標権を侵害する旨を記した2020年3
月31日付の申立人代理人による登録者の連絡先電子メールアドレスに向けた電子メール
の送付に対し、”The price is $6999 USD. You can buy it now at …”といった内容の電
子メールが、同年4月17日に返信されている事実が認定できる(附属文書CおよびD)。
この点だけをとらえても、登録者が、本件ドメイン名に直接かかった金額を超える対価を
得るために、本件ドメイン名を販売することを主たる目的として本件ドメイン名を使用し
ていることは明らかである。
 また、方針第4条b(iv)は、登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイト
などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そ
のウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン
名を使用している場合もその例に挙げている。
 この点、証拠(H.1ないしH.5およびI.1ないしI.3)からは、本件ドメイン名は、銀
行、金融、保険の分野で、いくつかのハイパーリンクを備えたドメインパーキング型のウ
ェブページに使用されているが、これらのハイパーリンクにより、同年6月時点では、外
為どっとコム、外為オンライン、埼玉りそな銀行、アイフル、SMBCモビット等の申立人の
競合他社のウェブサイトや、消費者金融等にリダイレクトされ、同年10月時点では、アイ
フル、SMBCモビット等の申立人の競合他社のウェブサイトのハイパーリンクを備えたキャ
ッシングに関する情報をまとめたウェブサイトや、三菱UFJ銀行、楽天銀行カードローン
等の申立人の競合他社のウェブサイトのハイパーリンクを備えた、カードローンに関する
情報をまとめたウェブサイト等にリダイレクトされるといった事実、さらに、アクセスの
度にランダムでこれらの競合他社のハイパーリンクがランダム表示されるようになってい
る事実が認められる。
 かかるドメインパーキング型のウェブサイトにより広告収入等を得る可能性がある以上、
登録者が自らの商業上の利得を得る目的を有していたことは明らかであり、また、かかる
ウェブサイトの構造からは、誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上の
ユーザーをそのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、
本件ドメイン名を使用していたことも明らかである。
 以上より、本件ドメイン名は、不正の目的で登録または使用されている。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録された本件ドメイン名が申立
人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または
正当な利益を有しておらず、登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用され
ているものと判断する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「CREDITMUTUEL.JP」の登録を申立人に移転
するものとし、主文のとおり裁定する。

   2020年12月23日

    日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
           単独パネリスト 早川 吉尚


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2020年10月23日(電子的送信)
(2)手数料受領日
   2020年10月22日 申立手数料の受領
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2020年10月23日 JPRSに照会
   2020年10月23日 JPRSから登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者がドメイン名の登録者であること、JPRS
        に登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2020年10月2
  3日に、申立書が紛争処理方針、手続規則及び補則に照らし申立書が適合しているこ
  とを確認した。
(5)手続開始日
   センターは、2020年10月27日に申立人、JPRS及びJPNICには電子的送信に
  より、登録者には郵送及び電子メールにより、手続の開始を通知した。
(6)登録者への通知内容
   1)手続開始日:2020年10月27日
   2)申立書及び証拠等一式
   3)答弁書提出期限:2020年11月26日
     (登録者宛の通知については、JPRS登録情報の登録者住所に送付した通知
    は「あて所に尋ねあたりません」として返送された。また、申立書に記載された
    登録者の住所に送付した通知は「名あて国で保管していましたが、受取人様から
    の請求が無く保管期限が過ぎました。」として返送された。)
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2020年11月2
  7日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的
  送信により申立人及び登録者に送付した。
(8)パネリストの指名
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  020年12月3日に次のパネリストを指名した。
   パネリスト:弁護士 早川 吉尚
   公正性・独立性・中立性に関する言明書の受領日:2020年12月7日
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2020年12月3日 申立人及び登録者に電子的送信により通知
              JPNIC及びJPRSに電子的送信により通知
   裁定予定日:2020年12月23日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2020年12月3日(電子的送信)
(11)パネルによる審理・裁定
   2020年12月23日 審理終了、裁定。