事件番号:JP2020-0009

                  裁 定
  申立人:
  (名称)バイトダンス株式会社
  (住所)東京都新宿区西新宿区2-6-1 新宿住友ビル
  代理人:弁理士 加藤 勉、同 萼 経夫、同 今井雅夫
  登録者:
  (氏名)古屋 隆大
  (住所)東京都渋谷区桜丘町26-1セルリアンタワー11階
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 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書及び提出された証拠に基づいて審
理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「BYTEDANCE.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「BYTEDANCE.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人の主張
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 本件ドメイン名は、「BYTEDANCE.JP」と欧文字で横書きしてなる構成であるが、本件ドメ
イン名の要部である「BYTEDANCE」の部分から「バイトダンス」の称呼が生じ、全体として
「バイトダンス(踊り)」の観念が生ずる。
 これに対して、申立人の登録商標「登録商標:ByteDance」(登録商標第614
3761号)の要部である「ByteDance」の部分から、「バイトダンス」の称呼が生じ、全
体として「バイトのダンス(踊り)」の観念が生ずる。
 したがって、本件ドメイン名の要部「BYTEDANCE」は、登録商標「ByteDance」と称呼、
観念において同一又は出所の混同を引き起こす程に類似している。
 更に、申立人の社名「ByteDance 株式会社」の「株式会社」を除く部分および親会社
「ByteDance Ltd.」の「Ltd.」を除く部分は、登録商標の要部と略同一であるので、本件
ドメイン名の要部に対し同等の類否を主張することができる。
 よって、申立人は、登録商標その他表示について正当な利益を有すると共に本件ドメイ
ン名の移転の申立てに関し利益を有する。
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 本件ドメイン名の登録日は2020年8月16日であるところ、本件ドメイン名の登録
は、ショートビデオアプリ「TikTok」の名称と共に上記アプリを運営する申立人並びにそ
の親会社の本件表示「ByteDance」及び登録商標が広く知りうる状態になった後に行われた
ものであり、かつ、前項で述べたように本件ドメイン名は上記登録商標と同一又は出所の
混同を生ずるほど類似している。
 また、申立人の親会社は、登録者に対して上記登録商標についての使用許諾を与えてい
ない。
 よって、登録者は、本件ドメイン名を登録し、使用することに正当な利益を有していな
い。
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
 登録者は、本件ドメイン名を使用している事実はないようであり、単に保持しているの
みである。
 本件ドメイン名は、申立人および親会社の本件表示「ByteDance」が、前記「TikTok」の
ダウンロード数の増大に伴って広く知られるようになった後において登録されたこと、本
件ドメイン名の登録時に既に申立人の上記登録商標が登録されていたこと等の事情を合わ
せ考えると、申立人による本件ドメイン名の登録は、申立人による本件ドメイン名と同一
のドメイン名の登録を不可能にする登録の妨害行為である。また、登録者が本件ドメイン
名をインターネット上で使用したならば、申立人および親会社の著名な表示を利用して、
インターネット上のユーザーを自己のウェブサイト等に誘引することになり、申立人並び
に親会社の商品又は役務の出所等について混同誤認を生ずるおそれがある。よって、本件
ドメイン名は、不正の利益を得る目的で登録されたものである。
 b 登録者の主張
 登録者は「お名前.com」による情報公開代行サービスを利用していたものの、申立書他
一件記録を受領した。しかし、答弁書を提出しなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類および審問の結果
に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に
従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。

 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
   と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 本件では、登録者が答弁書を提出しなかった。例外的な事情がない限り、パネルは申立
書に基づいて裁定を下すものとされる(規則第5条(f))一方で、方針第4条 aは、申
立人に対して上記(1)~(3)のすべてを立証する義務を課している。そのため、仮に
答弁書が不提出であったとしても、そのことにより直ちに申立人の主張が認められ、登録
者のドメイン名登録が剥奪されるわけではなく(擬制自白の不適用)、パネルが申立書に基
づき事実の認定等を行ったうえで裁定を下すことになる。

 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 申立人は、「登録商標:ByteDance 」との登録商標(登録商標第6143761
号)を保有しているところ、同登録商標は、色彩を有する図形と文字列からなるものであ
り、文字列の部分が看者の注目を引く部分と認められるから、この登録商標の要部は
「ByteDance」である。また、申立人の社名は「ByteDance株式会社」である。よって、申
立人は、「ByteDance」という商標ないし表示について、権利及び正当な利益を有している
と認められる。
 申立人が権利及び正当な利益を有していると認められる「ByteDance」という商標ないし
表示から、「バイトダンス」の称呼が生ずると共に、「「BYTE」の部分が「コンピュータ処理
の基本単位、バイト」の観念を有し、「DANCE」の部分が「ダンス(舞踊)」の観念を有する
ことから、全体として「コンピュータ情報が踊るダンス」との観念が生ずる。
 他方、本件ドメイン名は、「BYTEDANCE.JP」と欧文字で構成されているところ、末尾の「JP」
の部分は、本件ドメイン名が日本国に割り当てられたccTLD(国別コードトップドメイン)
であることを示す文字列にすぎないから、何ら識別力を有さず、「BYTEDANCE」の部分が本
件ドメイン名の要部である。この要部から、「バイトダンス」という称呼が生じ、「BYTE」
の部分が「コンピュータ処理の基本単位、バイト」の観念を有し、「DANCE」の部分が「ダ
ンス(舞踊)」の観念を有することから、全体として「コンピュータ情報が踊るダンス」と
の観念が生ずる。
 ここで、申立人が権利または正当な利益を有していると認められる「ByteDance」という
商標ないし表示と、本件ドメイン名の要部を比較すると、「バイトダンス」という称呼と、
「コンピュータ情報が踊るダンス」との観念において一致する。
 以上より、登録者のドメイン名は、申立人が権利及び正当な利益を有する商標ないし表
示と、混同を引き起こすほど類似しているものと認められる。
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
登録者は個人であり、その氏名は、本件ドメイン名の要部である「BYTEDANCE」との文字
列と関係がない。また、申立人は、申立人の親会社が登録者に対して上記登録商標につい
ての使用許諾を与えていないと主張しているところ、当該主張は、申立人自身も、登録者
に対して本件ドメイン名の要部である「BYTEDANCE」との文字列についての使用許諾を与え
ていないとの趣旨を含むものと解される。
 さらに、登録者は答弁書を提出せず、その他一件記録を検討しても、登録者が本件ドメ
イン名に関係する権利又は正当な利益を有していることをうかがわせる事情は認められな
い。
 以上より、登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない
と認める。
 なお、申立人は、本要件との関係で、本件ドメイン名の登録日と申立人の表示又は商標
が広く知られた時期の前後について主張するが、そのような事実は、登録者が本件ドメイ
ン名に関係する権利または正当な利益を有しているか否かとは関係がなく、次の第三要件
で検討されるべきことがらである。
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
 本件ドメイン名を含むURL「http://www.bytedance.jp/」に一般的なインターネットブ
ラウザを用いてアクセスしようとしても、何らのウェブサイトも表示されない。その他一
件記録を検討しても、本件ドメイン名が使用されている形跡はうかがわれない。本件は、
いわゆる消極的保持(パッシブ・ホールディング)の事案である。
 消極的保持の事案であるからといって、不正の目的による登録または使用という要件が
認められないわけではなく、周辺事情を踏まえ、当該要件が充足されるか否かを判断する
べきである。
 申立人は、本件ドメイン名の登録日である2020年8月16日は、申立人の親会社が
設立された2012年3月及び申立人が設立された2016年8月よりも後であること、
2020年2月には、申立人が提供するアプリ「TikTok」が、スマートフォンアプリのダ
ウンロードサイトであるGoogle PlayとAppstoreで過去最高のダウンロード数で世界一と
なったと報道されたこと、さらに2020年3月ころに、「TikTok」の提供者である申立
人が日本経済団体連合会(経団連)に入会したことが報道されたことを指摘する。しかし、
これらの事実からは、本件ドメイン名の登録日である2020年8月16日の時点におい
て、「TikTok」というアプリの名称が周知または著名であったことは認められるとしても、
申立人の商号及び申立人の登録商標の要部である「ByteDance」が周知または著名であった
と認めるには、やや証拠関係が弱いといわざるを得ない。もっとも、本件ドメイン名の要
部である「BYTEDANCE」との文字列は、「BYTE」という単語と「DANCE」という単語を組み合
わせた造語であるから、上記の状況下において、登録者が、申立人の商号を知らず、偶然
に、本件ドメイン名の要部として「BYTEDANCE」との文字列を選択した可能性は極めて低い。
したがって、登録者は、本件ドメイン名の登録時点において、意図的に、本件ドメイン名
の要部として「BYTEDANCE」との文字列を選択したものと認められる。
 そして、登録者が、なぜ本件ドメイン名の要部として「BYTEDANCE」との文字列を選択し
たか、その意図を推測するに、登録の時点において、申立人が提供するアプリ「TikTok」
が人気を博していたことから、その提供元である申立人の商号または登録商標の構成要素
である「BYTEDANCE」との文字列を要部として含む本件ドメイン名を取得しておけば、その
後、申立人その他の関係者に本件ドメイン名を売却したり、本件ドメイン名を使用した自
己のウェブサイトにインターネット上のユーザーを誤ってアクセスさせたりすることによ
り、一定の金銭的利益を得ることを目的としていた可能性が十分にあり、少なくとも、そ
のような金銭的利益が得られるかも知れないと期待を抱いていた可能性は否定できない。
他方で、このような推測を打ち消すに足りる事情は認められない。そのような目的ないし
期待は、インターネットの情報流通を円滑化させるというドメイン名制度の趣旨に反し、
不正なものといわざるを得ない。
 以上より、登録者の当該ドメイン名が不正の目的で登録されたことを認めることができ
る。

6 結論
 以上のとおり、本申立は、方針第4条aの各要件をすべて充足していると認められる。
 よって、本パネルは、方針第4条iにしたがい、ドメイン名「BYTEDANCE.JP」の登録を
申立人に移転することが相当と認め、主文のとおり裁定する。

   2021年3月8日

    日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
           単独パネリスト 弁護士 山内 貴博


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   2020年12月24日(電子的送信)
(2)手数料受領日
   2020年12月24日 申立手数料の受領
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2020年12月24日 JPRSに照会
   2020年12月25日 JPRSから登録情報の回答
   回答内容:申立書に記載された登録者がドメイン名の登録者であること、JPRS
        に登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2020年12月2
  8日に、申立書が紛争処理方針、手続規則及び補則に照らし申立書が適合しているこ
  とを確認した。
(5)手続開始日
   センターは、2021年1月7日に申立人、JPRS及びJPNICには電子的送信により、
  登録者には郵送及び電子メールにより、手続の開始を通知した。
(6)登録者への通知内容
   1)手続開始日:2021年1月7日
   2)申立書及び証拠等一式
   3)答弁書提出期限:2021年2月5日
    (但し電子メール送信分については一部が送信不能であった。)
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2021年2月8日
に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信
により申立人及び登録者に送付した。
(8)パネリストの指名
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  021年2月15日に次のパネリストを指名した。
 パネリスト:弁護士 山内 貴博
   公正性・独立性・中立性に関する言明書の受領日:2021年2月15日
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2021年2月15日 申立人及び登録者に電子的送信により通知
              JPNIC及びJPRSに電子的送信により通知
   裁定予定日:2021年3月8日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2021年2月15日(電子的送信)
(11)パネルによる審理・裁定
   2021年3月8日 審理終了、裁定。