事件番号:JP2021-0002
                   裁 定
  申立人:
  (氏名/名称)SWISSLASTIC AG ST. GALLEN
        (スイスラスティック・アクチェンゲゼルシャフト・ザンクト・ガレン)
  (住所)Rorschacher Strasse 304, 9016 St. Gallen, Switzerland
      (スイス、9016 ザンクト・ガレン、ロールシャッハー・シュトラーセ、304)
  代理人:弁理士 木原 美武
      弁理士 冨井 美希
      弁理士 中島 由賀
      弁理士 齋藤 恵
      弁理士 稲山 史子
  登録者:
  (氏名/名称)株式会社ベノサンジャパン
  (住所)180-0023 東京都武蔵野市境南町2-6-19-904
  代理人:弁護士・弁理士 小泉 妙子

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「VENOSAN.CO.JP」の登録を取り消せ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「VENOSAN.CO.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
a 申立人
 登録者のドメイン名「VENOSAN.CO.JP」(以下、「本件ドメイン名」という。)と申立人の
登録商標は同一又は類似であり、登録者が本件ドメイン名についての権利又は正当な利益
を有しておらず、登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されていること
は明らかである。したがって、本件ドメイン名登録の取消を請求する。

(1) 申立人の主張の要旨
① 登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な権利を有する商標その他表示と同一
又は混同を引き起こすほど類似していること
ア 申立人は、商標「VENOSAN」について日本を含む複数国において商標権を有している。
イ 申立人によれば、「VENOSAN」商標を付した申立人の製品である医療用ストッキング又
は医療用ソックスは、1963年より現在に至るまで、各国販売代理店と通じて、50年以上に
わたり販売されており、その年間売上高(2015年~2020年の平均)は、 日本において約
20万スイスフラン(約2,360万円。1スイスフラン=118円の場合。以下同様)、世界に
おいて約2,000万スイスフラン(約23億6,000万円)にのぼり、VENOSAN商標が、医療
用ストッキング又は医療用ソックスの需要者の間で周知性を獲得していることは明らかで
ある。
ウ 本件ドメイン名「VENOSAN.JP」の出所識別機能を有する要部は「VENOSAN」の部分であ
り、申立人の登録商標と本件ドメインとの同一又は類似について外観、称呼、観念を総合
して考慮すれば、申立人の商標「VENOSAN」と本件ドメイン名「VENOS ANSHOP.JP」とが混
同を生じるほど類似していることは明らかである。

② 登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
ア 本件ドメイン名の登録者は、申立人の日本における正規販売代理店ではなく、また、申
立人から「VENOSAN」を使用することについて何らの権原を与えられたものではない。
 登録者は、日本において、申立人のVENOSAN製品を申立人に無断で販売し、申立
人のVENOSAN商標を自身のウェブサイトで申立人の許可なく使用している。したが
って、登録者は申立人のVENOSAN商標を当然に知っていると考えられ、登録者が「V
ENOSAN」を自己のドメインとして選択したことが、単なる偶然であったとは考えら
れない。
 上記事実を考慮すると、本件ドメインに係る登録者は、権利及び正当な利益を明らかに
欠くものといえる。
イ ドメイン登録者は、その関連会社である株式会社ディーピーシー(以下、「ディーピー
シー」という)と申立人との販売契約に基づき、「VENOSAN」製品の販促のため、当
該ドメイン名を取得したと主張する。ディーピーシーと申立人とが過去に販売契約を締結
していたことについて、争うところはない。しかしながら、販売契約にドメイン名の登録
を認めるような具体的な文言はなく、また、登録者も認める通り、2020年6月30日
をもって販売契約は終了し、それ以降、登録者は申立人のブランド名である「VENOS
AN」を使用することについて、何らの権限も与えられていない。
 「VENOSAN」は申立人所有のブランド名であり、たとえ正規の販売代理店であっ
ても、ブランド名を含むドメイン名を自身の名義で無断で登録する権限を有しない。まし
てや、販売契約が終了した以上、登録者が申立人のブランド名を含む当該ドメインを使用
する権利を有するものでないことは明らかである。

③ 登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
ア 登録者の本件ドメインのウェブサイト上において、「ベノサンサポート」を表示するな
ど登録者が申立人の正規販売店であるとの印象を需要者に与え、また、「ベノサンストーリ
ー」と題して申立人の企業を紹介する等して申立人との間に取引提携関係があると需要者
に誤認させるもので、申立人の正規販売店であるか取引提携関係があると誤認させ、自身
の販売サイトへ誘導するものに他ならない。
 したがって、このような本件ドメイン名の登録及び使用は、登録者が、商業上の利得を
得る目的で、申立人と取引提携関係、推奨関係などについて商品の需要者に誤認混同を生
ぜしめることを意図して、自身の販売サイトへ誘引するという不正な目的に基づくもので
あることに疑いの余地は無いものである。
イ 登録者が使用する本件ドメイン名のホームページでは、「VENOSAN」ブランド
のストッキングに代わって「FOOTNURSE」というストッキングが販売されていなが
ら同じページ内に「ベノサン」が混在しており、また、「Doff N’ Donner」
というブランドで一般的に販売されているストッキングを履くための補助器具を「ベノサ
ン『ローリー』」という「ベノサン」を含む名称で販売され「VENOSAN」ブランドの
ストッキングの附属品であるかのような印象を需要者に与えている。このような表示は、
「VENOSAN」ブランドにフリーライドする目的からに他ならず、不正の目的が推認
される。
 更に、ホームページにリンクされている「楽天」や「YAHOO!ショッピング」等の
ウェブサイトでも、「VENOSAN」製品以外の製品が多数販売されている。
 このような状況下、客観的に見て、登録者がホームページにおいて単に在庫処分のため
に「VENOSAN」の正規品を販売しているとの主張は論理的でなく、説得力に欠ける。

b 登録者
 登録者は答弁書及び追加提出書類を提出し、対象とされている本件ドメイン名の登録を
登録者が保有できることについての理由・根拠を次の通り主張する。

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同
一または混同を引き起こすほど類似している、との申立人の主張に対する反論
ア 申立人が、商標「VENOSAN」について商標登録を日本で保有していることは認める。し
かし、申立人の2件の登録(国際登録第1404648号及び同第1403960号)はいずれもつい
最近のことである。また、申立人の登録商標はいずれも第10類のみを指定するものであ
り、その主たる指定商品は医療用圧迫ストッキングや医療用靴下などのみである。
イ 甲第8号証は、単に社名、都市名、国名、大陸名が記載されただけのリストであって、
作成者も作成日時も不明な上、いつからいつまで、どのような商標を付したどのような製
品を、どの程度の数量販売したかについて何も記載されていないのであるから、証拠とし
ての価値がなく、申立人の上記主張を裏付ける証拠になりえない。申立人の「VENOSAN」製
品の日本及び世界における年間売上高に至っては、何の証拠も提出されていないから、こ
のような申立人の主張及び証拠からは、申立人の「VENOSAN」商標が周知性を獲得している
ことを裏付ける事実は全く立証されていないと言うほかない。申立人「VENOSAN」商標の周
知性を証明できる証拠は存在せず、申立人の「VENOSAN」商標は周知ではないと自認してい
るに等しいと受け取るのが自然である。
ウ 登録者が調査したところ、リンパ浮腫用の医療用圧迫治療用弾性ストッキングという
狭い市場でも、VENOSAN製品のシェアは3%にも満たない。更に、リンパ浮腫用以外の医
療用圧迫治療用弾性ストッキングの市場を除く、リンパ浮腫用の医療用圧迫治療用弾性ス
トッキング及び非医療用の着圧ストッキング・ソックス・レギンス・タイツも含めた圧迫・
着圧ストッキング系製品の市場全体でみると、VENOSAN製品のシェアは、2360万円/
(8億円+85億円)となるから、実に0.25%しかないことが分かる。ここにリンパ
浮腫用以外の血栓予防・静脈還流障害治療用弾性ストッキングの市場を加えれば、VENOSAN
製品のシェアは更に小さくなる。この事実から、「VENOSAN」製品は需要者の間で周知性を
獲得しているとの事実がないことは明白である。
エ ドメイン名取得当初は、「VENOSAN」製品の販売促進を行うために本件ドメイン名を取
得したが、その後は登録者の企業努力と投資によって登録者の販売サイトを示すドメイン
名として認知されるようになった。つまり、本件ドメイン名には、登録者の事業上の信用
が化体するに至っているのである。にもかかわらず、申立人は、独占的販売契約を一方的
に解約し、まだ売却できていない在庫を適正な価格で買い取ったり、費用を投じて取得、
維持してきた本件ドメイン名に対する補償を何ら行ったりすることなく、いきなり本件ド
メイン名の取消を求める本申立を行ったのである。従って、これらの事実経緯を無視して、
仮に本件ドメイン名の取消が認められることがあるとすれば、JPドメイン名紛争処理方
針及びJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則を適切に適用した結果とはいえない
だけでなく、社会的妥当性も欠く不当な判断と言わざるを得ない。
オ なお、登録者の事業上の信用が化体された本件ドメイン名に対して、取消の申立が正
当化される事実関係もそれを立証する証拠の提出もないのに、その取消を求める行為は、
「申立内容が、(中略)登録者に対する嫌がらせ行為に該当するようなものである」から、
本件ドメイン紛争処理の裁定において、「不正の目的による申立てであり、このJPドメイ
ン名紛争処理手続の濫用に該当するものである」との判断を頂きたい(JPドメイン名紛
争処理方針のための手続規則15条(e))。
カ 本件ドメイン名と申立人の登録商標との同一または類似についてこの点の申立人の主
張については、特に争うところはない。

(2)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない、との申立
人の主張に対する反論
ア 登録者の代表取締役である金盛弘(以下「金盛氏」という)は、登録者の他、株式会
社ディーピーシー(以下、「ディーピーシー」という)の代表取締役も務めており、いずれ
も金盛氏のみが1人で取締役を務める法人である(乙第2号証、第3号証)。
 商標「VENOSAN」(国際登録第0562687号)の前商標権者であったSalzmann AG(以下
「Salzmann」という)は、「VENOSAN」という名称で医療用圧迫ストッキング等を販売して
おり、2009年6月にデイーピーシーに対して日本における「VENOSAN」の医療用圧迫ストッ
キング等の独占的販売権を付与した(本販売契約1)。本販売契約1において、「ディーピ
ーシー」とは、ディーピーシー及びその関連会社を意味するものとされているところ(本販
売契約1の第1.3条)、ここにいう関連会社とは「その過半数の所有権が、本契約のいずれか
の当事者の過半数の所有権と直接的または間接的に共通している組織」を含むものとさ
れている(本販売契約1の第1.4条ⅲ)。しかるに、デーピーシーも登録者もベノサンジャ
パンも金盛氏1人が100%株主であって(乙第6号証、第7号証)、登録者もベノサンジヤ
パンも本販売契約1の第1.4条ⅲによりデイーピーシーの関連会社に該当するから、デイ
ーピーシーと同様に「VENOSAN」製品の独占的販売権を付与されていたものである。
 そのため、登録者は、本販売契約1の第3条及び第6.1条に基づき、「VENOSAN」製品の
販促のため、2009年5月1日に商号を株式会社ベノサンジャパンに変更し(乙第2号証)、
2010年12月1日には当該ドメイン名を取得して(甲第9号証)、ディービーシーが購入し
た「VENOSAN」製品を、正規代理店として販売していた。
 本販売契約1は、途中でSalzmannの地位が申立人に移転され、それに伴って、再度本販
売契約1とほぼ同一内容の販売契約が申立人とデイーピーシーとの間で締結された(本販
売契約2)。2019年12月9日付けで、申立人から2020年6月30日をもって本件販売契約
2を終了させる旨を知らせる通知がデイーピーシー宛に送付された(乙第9号証)。これに
より、本販売契約2は、2020年6月30日をもって終了した。
イ 登録者は、本販売契約2終了後も、在庫を処分するため、申立人から入手した正規品
である「VENOSAN」製品の販売を継続しているが、申立人が自らデイーピーシーに対して販
売した「VENOSAN」製品が、申立人の製品として販売されているのであるから、申立人の登録
商標の出所表示機能及び品質保証機能が害されることはない。また、申立人の業務上の信
用が損なわれることもないし、需要者の利益が損なわれることもない。従って、何ら違法、
不当ではないことは、並行輸入に関する最高裁判決(平成15年2月27日第一小法廷判
決・民集57巻2号125頁)からも明らかであり、登録者が当該ドメイン名に関係する
権利または正当な利益を有していない、との申立人の主張は事実に反する。
ウ 以上の通り、登録者は、本販売契約1に基づき、「VENOSAN」製品の正規代理店として、
販促のため、本件ドメイン名を取得したものであり、その後本販売契約1が本販売契約2
に切り替えられ、終了した後も、正規代理店当時のページを最近まで使用して、継続して正
当に入手した正規品を販売しているに過ぎないから、「JPドメイン名紛争処理方針」第4
条b(jv)の「登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他の
オンラインロケーション、またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサー
シップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、イ
ンターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーション
に誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき」に該当しないことは明白である。
 なお、現在、登録者は本件ドメイン名のホームページをリニューアルし、登録者のホー
ムページであることが分かるように適切な表記に修正している(乙第10号証)。

④ 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されている、と申立のなした意見
  に対する反論
 登録者は、正規代理店として、契約に基いて、独自の裁量で2011年9月23日に販促の
一環として当該ドメイン名を取得し、正規代理店であったベノサンジャパンの販売用サイ
トとして使用し、「VENOSAN」製品を販売してきた。2020年6月の本販売契約2の終了後は、
単に在庫処分のため、正規代理店当時のホームページをそのまま使用して、ベノサンジャ
パンが正規品の販売を継続しているに過ぎないものである。
 従って、本件は「JPドメイン名紛争処理方針」第4条c(i)の「登録者が、当該ドメイン
名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、商品またはサ
ービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名
称を使用していたとき」に該当する。

5 争点および事実認定
 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定す
る際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、
提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関
係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)第4条aは、申立人が次の事
項の各々を証明しなければならないことを指図している。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
    と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 申立人は、商標「VENOSAN」(国際登録第0562687号)他の登録を有していることが認めら
れ、日本において商標「VENOSAN」につき正当な利益を有するものと認められる。
 本件ドメイン名「VENOSAN.CO.JP」と申立人の商標「VENOSAN」との同一又は類似につい
て、両者が混同を生じるほど類似している点について、当事者に争いはない。
 したがって、本件ドメイン名は、申立人が権利を有する商標「VENOSAN」と混同を引き起
こすほど類似していると認められる。

(2)権利または正当な利益
 申立人及び登録者の主張及び証拠より、登録者は、申立人の商品について、2009年6月
より独占的販売権を有していたが、2020年6月30日をもって販売契約は終了しており、
それ以降、申立人から申立人が有する商標「VENOSAN」を使用することについて権原は
与えられていないことが認められる。
 登録者は、本件ドメイン名は自身の企業努力と投資によって登録者の販売サイトを示す
ドメイン名として認知されるようになった。つまり、本件ドメイン名には、登録者の事業
上の信用が化体するに至っていると主張する。しかし、登録者は、申立人の正規代理店と
して「VENOSAN」製品を販売し、販売契約終了後も、在庫処分のため正規品の販売を継続し
ていると説明しており、ウェブサイトにおいては「ベノサンストーリー」と題して申立人
の企業を紹介している等の事実からしても、登録者の使用する商標「VENOSAN」は、申立人
の製品を表す商標として認識されていると考えられる。そうすると、本件ドメイン名も、
申立人の「VENOSAN」製品を扱うサイトを示すものとして認識されており、登録者の事業上
の信用が化体しているとは認められない。
 また、本件ドメイン名「VENOSAN.CO.JP」を使用するウェブサイトにおいて、
「VENOSAN」ブランドのストッキングに代わって「FOOTNURSE」というストッ
キングを販売する(甲第15号証)一方、ストッキングを履くための補助器具を「ベノサ
ン『ローリー』」という「ベノサン」を含む名称で販売し続け(甲第14号証)、さらに、
ホームページにリンクされている「楽天」や「YAHOO!ショッピング」等のウェブサ
イトでも、「VENOSAN」製品以外の製品が多数販売されている(甲第18号証及び甲第1
9号証)。これらの事実からして、単に在庫品の処分のために本件ドメイン名を使用してい
るとは到底考えられず、本件ドメイン名が公正に使用されているとは認め難い。
 以上より、本件において、「登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益
を有していない」(処理方針第4条a(ⅱ))ものと認められる。
 なお、登録者は、在庫処分のため正規品を申立人の製品として販売されているのである
から、申立人の登録商標の出所表示機能及び品質保証機能が害されることはない。また、
申立人の業務上の信用が損なわれることもないし、需要者の利益が損なわれることもない。
従って、何ら違法、不当ではないことは、並行輸入に関する最高裁判決(平成15年2月
27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁)からも明らかであると主張している。
なるほど、正規品の在庫処分の販売において、一定の要件のもと、登録商標「VENOSAN」
の使用が認められる場合があるかもしれない。しかし、正規品の在庫処分の販売において、
その出所を表示するために登録商標「VENOSAN」の使用が必要になることがあるかもし
れないが、商標の使用ができれば十分であって、本件ドメイン名「VENOSAN.CO.JP」の
使用をする必然性はないと考えられるので、登録者の主張には理由がない。

(3)不正の目的での登録または使用
 登録者は、販売契約が2020年6月30日をもって終了しており、販売契約終了後は、単に
在庫処分のため、正規代理店当時のホームページをそのまま使用して、正規品の販売を継
続しているに過ぎないと主張する。
 しかし、処理方針第4条a(ⅱ)の要件について前述した理由によれば、登録者は、単に
在庫品の処分のために本件ドメイン名を使用しているとは到底考えられず、申立人の
「VENOSAN」ブランドとの誤認混合を生ぜしめる意図及び自社ウェブサイトに誘引する意
図をもって本件ドメイン名を使用していると推認される。
 したがって、登録者の本件ドメイン名の使用は処理方針第4条b(ⅳ)の事情に当たるも
のと判断し、本件ドメイン名は、登録者によって不正の目的で使用されているものと認め
られる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「VENOSAN.CO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名
に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登
録または使用されているものと判断する。
 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「VENOSAN.CO.JP」の登録を取り消すも
のとし、主文のとおり裁定する。

  2021年6月30日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト 中村 仁



別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2021年3月8日
  に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料受領日
   センターは、2021年3月9日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2021年3月9日にJPRSに登録情報を照会し、2021年3月
  9日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であること
  を確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住
  所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2021年3月15日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合し
  ていることを確認した。
(5)手続開始日
   センターは、2021年3月16日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続の開始を通知した。センターは、2021年3月16日に登録者
  に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に
  対し、手続開始日(2021年3月16日)、答弁書提出期限(2021年4月13
  日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者の住所に
  送付した通知は「受取拒絶戻」として返送された。
(6)答弁書の提出
   センターは、2021年4月13日に答弁書提出期限の2021年4月23日まで
  の延長を求める上申書を登録者から電子的送信により受領し、同日、登録者に対し提
  出期限を2021年4月23日まで延長する旨を電子的送信により通知した。センタ
  ーは、2021年4月13日に登録者から提出された答弁書提出期限の延長を求める
  上申書及び答弁書提出期限を延長する旨の通知の写しを申立人に対し電子的送信によ
  り送付した。
   センターは、2021年4月23日に答弁書を電子的送信により受領し、同日に答
  弁書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認し、2021年4月26
  日に申立人に対し電子的送信により送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センタ
  ーは、2021年4月30日に弁理士 中村 仁を単独パネリストとして指名し、一
  件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2021年4月30日に
  申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリ
  スト及び裁定予定日(2021年5月25日)を通知した。センターは、2021年
  4月30日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をパネルから受領した。
(8)追加陳述の要請
   パネルは、2021年5月7日に申立人及び登録者に対し、それぞれ2021年5
  月14日までに陳述・書類の追加の提出を電子的送信により求めた。
   パネルは、2021年5月12日に申立人から追加の陳述・書類提出期限の202
  1年6月11日までの延長についての上申書を電子的送信により受領した。
   パネルは、2021年5月13日に申立人及び登録者に対し、それぞれの陳述・書
  類の追加提出期限を2021年6月10日まで延長する旨を電子的送信により通知し
  た。センターは、2021年5月13日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRS
  に対し電子的送信により、裁定予定日(2021年6月30日)を通知した。
   パネルは、2021年5月14日に登録者から追加書類提出及び提出期限延長につ
  いての上申書を電子的送信により受領した。センターは、登録者から提出された上申
  書の写しを2021年5月17日に申立人に対し電子的送信により送付した。
   センターは、2021年6月10日に申立人から追加の陳述・書類を電子的送信に
  より受領し、同日に登録者に対し電子的送信により送付した。
   センターは、2021年6月10日に登録者から追加の陳述・書類を電子的送信に
  より受領し、同日に申立人に対し電子的送信により送付した。
(9)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2021年6月30日に審理を終了し、裁定を行った。