事件番号:JP2021-0008 裁 定 申立人: (名称)Ares Management Corporation (住所)アメリカ合衆国 カリフォルニア 90067, ロサンゼルス, 2000 アヴェニュー オブ ザ スターズ12階 代理人:弁護士 山本健策 弁護士 井髙将斗(担当) 弁護士 千田史皓 弁護士 本田輝人 登録者: (氏名)DUAN ZuoChun (住所)東京都新宿区西新宿3-9-3 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理 方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理 を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「ARESMGMT.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「ARESMGMT.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、登録者が、申立人の会社名「Ares Management Corpo ration」に関連した名称である「aresmgmt.com」を申立人使用ドメイ ン名としているのを知悉しており、登録者の本件ドメイン名「ARESMGMT.JP」 は、申立人の申立人使用ドメイン名と混同を引き起こすほどに類似し、登録者は本件ドメ イン名に関係する正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名は不正の目的で登録されて いると主張する。 従って、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求している。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に 基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従っ て、裁定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 (1)登録者の本件ドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他 表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 (ⅰ)申立人の主張 申立人は、平成14年3月19日に申立人使用ドメイン名「aresmgmt. com」を登録し、その後、申立人のホームページのドメイン名として申立人使用ドメイ ン名を使用し、そのページにおいて、資産運用サービスに関する広告等の情報を提供して いる(申立人証拠書類8(以下申立人証8というように略称する。))。申立人は、申立人商 号表示(「Ares Management Corporation」)を、平成9年設 立以来、長期に渡り継続的に商号として使用している(申立人証4)。申立人は、令和2年 9月末時点の運用資産残高が、約1792億ドル(約18兆円)に達しており、世界的に 成功しているオルタナティブ資産運用会社であることが明らかであって、欧米国を中心に 広く知られている(申立人証9)。日本でも、三井住友銀行との業務提携を行い、申立人の 運用商品の本邦投資家向け販売が行われている(申立人証5、6、7)。 なお、申立人は、本件ドメイン関連表示「aresmanagement.jp」を、 本件ドメイン名の登録日である令和2年9月4日より前の、令和2年8月20日に登録者 より買い受けた(申立人証10)。本件ドメイン関連表示における「aresmanage ment」の部分は、申立人商号表示「Ares Management Corpor ation」における要部と同一であり、申立人商号表示における「.jp」の部分は、 ドメインの登録国を意味する一般的な表示であって識別力を有しない。したがって、申立 人商号表示が申立人の周知な商号であることに鑑みれば、これと要部を同一にする本件ド メイン関連表示も、申立人が正当な利益を有する表示ということができる。 なお、申立人は、本件ドメイン名等に関する商標出願・登録を世界各国で保有しており、 商標「ARESMGMT」について中国登録第19565869号商標(登録日:平成2 9年5月28日)を保有している(申立人証11)。 (ⅱ)(認定) 登録者は特に争わないところ、本件ドメイン名の内の汎用JPドメイン名である「.j p」を除くと、「ARESMGMT」が要部となるが、申立人使用ドメイン名「aresm gmt.com」は、「.com」が分野別トップレベルドメインであり、要部は「are smgmt」であるから、登録者の本件ドメイン名との関係では、申立人使用ドメイン名 が、申立人の正当な利益を有する商標その他表示に該当する。 なお、申立人の商標その他表示である「aresmgmt」は、申立人の本件ドメイン 関連表示「aresmanagement.jp」のうち、要部である「aresman agement」の部分については、その中の「management」の部分が、「mg mt」と置き換えて略表記として使用されている文字列である(申立人証12-1、12 -2)。従って、本件ドメイン関連表示「aresmanagement.jp」は、申立 人が第三者から有償で譲り受けたものであるが、本件ドメイン関連表示と申立人使用ドメ イン名は、本件ドメイン関連表示の略称表記として申立人使用ドメイン名の要部が位置づ けられるのであり、申立人使用ドメイン名が、申立人の正当な利益を有する商標その他表 示として、認定できるのである。なお、申立人は、申立人使用ドメイン名「aresmg mt.com」が、平成14年3月19日に登録されていると主張するが、パネルの調査 では、同日にNetwork Solutions, LLCが登録しており、申立人は登録者に接触できる法人 として記載されており、その部分に問題があるが、ドメイン名自体は申立人が使用してい る証拠があり、従って申立人使用ドメイン名は申立人が登録者ではなく使用者で長年使用 したと認定でき、「aresmgmt.com」は申立人使用ドメイン名と認定が出来る。 同様に、申立人商号表示「Ares Management Corporation」 の末尾の会社を意味する「Corporation」を除いた部分は、「Ares Man agement」である。この関係で、本件ドメイン関連表示「aresmanagem ent.jp」のうち、汎用JPドメイン名である「.jp」を除くと、要部は「ares management」であり、この部分は申立人商号表示と密接に関連性のある部分で あり、前述したように本件ドメイン関連表示の略称表記として申立人使用ドメイン名の要 部が位置づけられるのであるから、このことからも申立人使用ドメイン名が、申立人の正 当な利益を有する商標その他表示として、認定できる。 以上のように、申立人使用ドメイン名が、申立人の正当な利益を有する商標その他表示 であり、登録者の本件ドメイン名と申立人使用ドメイン名の要部を比較すると大文字と小 文字の違いがある程度で他に差異は無いから、両者は同一又は混同を引き起こすほど類似 していることと認定できる。 (2)権利または正当な利益 登録者が、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないか否かにつ いて判断する。 登録者は、答弁書を提出しないので、この要件について登録者が正当な利益があるとは 認定できないが、処理方針第4条Cの内(ⅲ)登録者が、申立人の商標その他表示を利用 して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、申立人の商 標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に 使用し、または公正に使用しているときに該当しない事実が存在する。 即ち、登録者は、本件ドメイン名の取得直後から、第三者の仲介用ウェブサイト(ht tps://sedo.com/us/)やDan.com上で、本件ドメイン名の売却 を試みている(申立人証13)。そして申立人が本件ドメイン名を100ドルでオファーし たのに対して、登録者側は6500ドルを要求した(申立人証15)。 以上の事実は、処理方針第4条C(ⅲ)に反した登録者が商業的利得を得る目的で、本 件ドメイン名を取得したと推測できる。よって、この事実から、登録者が本件ドメイン名 に関係する権利または正当な利益を有していないと認定できる。 (3)不正の目的での登録または使用 登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていることが立証されな ければならないが、ここでは、紛争処理方針第4条bの内、(ⅰ)登録者が、申立人または 申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額) を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目 的として、当該ドメイン名を登録または取得しているときが問題となる。 (2)「権利または正当な利益」で前述したように、登録者側は、本件ドメイン名の取得 直後から、第三者の仲介用ウェブサイト(https://sedo.com/us/) やDan.com上で、本件ドメイン名の売却を試みている(申立人証13)。そして申立 人が本件ドメイン名を100ドルでオファーしたのに対して、登録者側は6500ドルを 要求した(申立人証15)と認定できる。なお、本件登録者と同一の名称である「DUAN ZuoChun」が、「aresmgmt.uk」、「aresmanagement.uk」等の 申立人の関連ドメインを不正目的で販売しており、又申立人と無関係のドメイン名、例え ば「immobilieredassault.com」でも不正な目的でドメイン名を 販売したとして、強制移転させられているのであり、本件登録者が色々の場面で、不正目 的でドメイン名を登録したことが推認される事例が散見される。 ところで、申立人は、本件ドメイン名の登録前に、申立人の本件ドメイン関連表示「a resmanagement.jp」を登録者から有償で取得したが、その際に申立人が 本件ドメイン関連表示の自己への移転を求めたところ、登録者は、申立人に対し、譲渡対 価として9,000USドルを提示し、交渉後登録者は、本件ドメイン関連表示を4,0 00USドルで申立人に譲り渡したと主張する(申立人証10)。 ここで申立人は、本件ドメイン関連表示「aresmanagement.jp」の譲 渡人も本件登録者だと主張しているが、申立人証1と申立人証3を検討したところ、電話 番号と住所で一致するも、名称やメールアドレス等の差異があり、本件ドメイン関連表示 の登録者と本件ドメイン名の登録者とが同一人であるとは断定出来ないので、この部分に 関する申立人の主張は、採用できない。 以上より、登録者は紛争処理方針第4条bの内、(ⅰ)登録者が、申立人に対して、当該 ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、当 該ドメイン名を販売、移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取 得していると認定できる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは答弁書不提出について申立書に基づいて裁定を下す ものとし(手続規則第5条(f))、登録者によって登録されたドメイン名「ARESM GMT.JP」が申立人の商標その他の表示と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメ イン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目 的で登録または使用されているものと判断する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「ARESMGMT.JP」の登録を申立 人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。 2021年7月28日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 渡 邊 敏 別記(手続の経過) (1)申立書受領日 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2021年5月24 日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。 (2)申立手数料受領日 センターは、2021年5月25日に申立人より申立手数料を受領した。 (3)ドメイン名及び登録者の確認 センターは、2021年5月25日にJPRSに登録情報を照会し、2021年5 月25日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であること を確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 を受領した。 (4)適式性 センターは、2021年5月31日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合し ていることを確認した。 (5)手続開始日 センターは、2021年6月1日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的 送信により、手続の開始を通知した。センターは、2021年6月1日に登録者に対し郵 送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手続開 始日(2021年6月1日)、答弁書提出期限(2021年6月29日)並びに書面の受領 及び提出のための手段について通知した。但し、申立書において特定された登録者の住所 に送付した通知は、「尋ねあたりありません」として返送された。 (6)答弁書の提出 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2021年6月30 日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信に より申立人及び登録者に送付した。 (7)パネルの指名及び裁定予定日の通知 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2 021年7月6日に弁護士 渡邊 敏を単独パネリストとして指名し、一件書類を電子的 送信によりパネルに送付した。センターは、2021年7月6日に申立人、登録者、JP NIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(20 21年7月28日)を通知した。パネルは、2021年7月13日に公正性・独立性・中 立性に関する言明書をセンターに提出した。 (8)パネルによる審理・裁定 パネルは、2021年7月28日に審理を終了し、裁定を行った。