事件番号:JP2021-0013 裁 定 申立人: (名称)朝日紙業株式会社 (住所)東京都文京区湯島一丁目10番5号 代理人:弁護士 鳥飼 重和 弁護士 山田 重則 登録者: (名称)合資会社マックス (住所)東京都新宿区新宿五丁目6番13号 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理 方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理 を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「ASAHIPAPER.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「ASAHIPAPER.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、登録者のドメイン名「ASAHIPAPER.JP 」(以下、「本件ドメイン名」という。) が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こ すほど類似していること、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有 していないこと、登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されていること を主張し、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」という。)第15条(a) は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のよ うに指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、本 規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなけれ ばならない。」と規定する。 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「方針」という。)第4条aは、申立人が次の事項の 各々を証明しなければならないことを指図している。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 申立人は、製紙並びに製紙原料販売、和洋紙販売等を営む株式会社であり、その名称 は「朝日紙業株式会社」であり、同社を英語表記する場合には、「Asahi Paper Co.,Ltd.」 ないし「ASAHI PAPER」と表記していることが認められる(甲1ないし3)。申立 人は、「asahipaper.co.jp」というドメインを使用して同社のWEBサイトを20年以上 にわたって運営し、申立人の各従業員に対しては「●(名前のローマ字) @asahipaper.co.jp」というメールアドレスを割り当てていることが認められる(甲3、 甲5および6)。申立人は、「ASAHIPAPER」という表示を用いて事業活動を行って おり、「ASAHIPAPER」は、申立人が正当な利益を有する商標その他表示にあたる。 他方、本件ドメイン名「ASAHIPAPER.JP」の「JP」の部分は国別コードの日本を意 味するにすぎず、本件ドメイン名において識別力を有する要部は「ASAHIPAPER」で あり、これは申立人が正当な利益を有する英文表示「ASAHIPAPER」と同一である。 したがって、本件ドメイン名は、申立人が正当な利益を有する商標その他の表示であ る英文表示と同一または混同を引き起こすほど類似している。 (2)登録者がドメイン名に関する権利または正当な利益を有しているか否か 登録者の法人名「合資会社マックス」と本件ドメイン名は一致するところがない。ま た、登録者は、本件ドメイン名と一致する日本の登録商標を所有していない(甲9)。 また、申立人は、登録者に対して本件ドメイン名を用いることについて許諾していない。 よって、登録者が本件ドメインを使用する権利または正当な利益を有していない。 (3)不正の目的での登録または使用 登録者は、本件ドメイン名を利用してアダルトサイト(以下、「本件アダルトサイト」 という)を運営しており(甲10)、本件アダルトサイトのアクセス数を増やし、サー ビス利用者からの利用料を得る目的で、本件ドメイン名を利用して本件アダルトサイト を運営していると認められる(なお、裁定時においては、本件アダルトサイトは閲覧で きないが、申立人提出の甲10より本件アダルトサイト運営の事実は明らかである)。 登録者が本件アダルトサイトを運営するために申立人が正当な利益を有する商標そ の他の表示と類似する本件ドメイン名を利用する合理的理由は無く、登録者が本件ドメ イン名を本件アダルトサイトに利用することは、本件アダルトサイトの閲覧者をして、 申立人と本件アダルトサイトとが何らかの関係性を有していると誤認させ、申立人の営 業上の信用を棄損するものである。 よって、本件ドメインは不正の目的で登録または使用されたものと認められる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「ASAHIPAPER.JP」が申立人の商標その他の表示と混同を引き起こすほど類似し、登録 者がドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が 不正の目的で登録または使用されているものと判断する。よって、方針第4条iに従って、 ドメイン名「ASAHIPAPER.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定 する。 2021年12月10日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 松井 宏記 別記 手続の経緯 (1)申立書の受領 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2021年10月1 1日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。 (2)申立手数料の受領 センターは、2021年10月8日に申立人より申立手数料を受領した。 (3)ドメイン名及び登録者の確認 センターは、2021年10月11日にJPRSに登録情報を照会し、2021年 10月11日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者で あることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレ ス及び住所等を受領した。 (4)適式性 センターは、2021年10月14日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合 していることを確認した。 (5)手続開始 センターは、2021年10月18日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電 子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2021年10月18日に登録 者に対し郵送及び電子メールにより、申立書及び証拠等一式、及び開始通知を送付し た。開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2021年10月18日)、答弁 書提出期限(2021年11月16日)並びに書面の受領及び提出のための手段につ いて通知した。 (6)答弁書の提出 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2021年11月1 7日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的 送信により申立人及び登録者に送付した。 (7)パネルの指名及び裁定予定日の通知 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2 021年11月24日に弁理士 松井 宏記を単独パネリストとして指名し、一件書 類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2021年11月24日に申 立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリス ト及び裁定予定日(2021年12月14日)を通知した。パネルは、2021年1 1月25日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。 (8)申立人からの上申書の受領 センターは、2021年11月24日に申立人から追加書類提出についての上申書 を電子的送信により受領した。センターは、申立人から提出された上申書の写しを2 021年11月24日に登録者及びパネルに対し電子的送信により送付した。 (9)パネルによる審理・裁定 パネルは、2021年12月10日に審理を終了し、裁定を行った。