事件番号:JP2021-0015 裁 定 申立人: 氏名(名称):ジョーンズ デイ 住所:アメリカ合衆国 オハイオ州44114 クリーブランド レイクサイド アベニ ュー 901 ノースポイント 電話番号:+1.216.586.3939 ファクシミリ番号:+1.216.579.0212 電子メールアドレス:agott@jonesday.com 代理人:弁護士 高橋 美智留 登録者: 氏名(名称):jonesday-tokyo.jp (公開連絡窓口) 名称: Whois情報公開代行サービスby お名前.com 住所:東京都渋谷区桜丘町26-1セルリアンタワー11階 電話番号:03-5456-2560 ファクシミリ番号:不明 電子メールアドレス:proxy@whoisprotectservice.com 代理人:なし 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン名 紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理 方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理 を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「JONESDAY-TOKYO.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「JONESDAY-TOKYO.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、登録者が、申立人の登録商標(登録第4708849号(甲5の1及び2)、 登録第4446772号(甲6の1及び2、甲7の1及び2))と紛らわしいドメイン名を 登録し、申立人の高い知名度を利用する意図を有していることを主張する。申立人によれ ば、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメイン名 に関係する正当な利益を有しておらず、ドメイン名は不正の目的で登録または使用されて いる。 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者は答弁書を提出しなかった。 5 争点および事実認定 A 登録者不答弁の効果 本件において、登録者は、答弁書を提出していない。規則は、「もし登録者が答弁書を 提出しないときには、例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すも のとする。」と規定する(規則第5条(f))。従って、方針第4条aの(ⅰ)ないし(ⅲ)の 各号に関する申立人の主張・立証が明らかに不十分であると判断される例外的な事情がな い限り、申立人の主張に従い、本件ドメイン名の登録移転の裁定を下すことが相当である。 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則につ いてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に 基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従っ て、裁定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 (ⅰ) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (ⅱ) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (ⅲ) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること B 方針第4条aの各号についての本件パネルの判断 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 登録者の本件ドメイン名は、「JONESDAY-TOKYO.JP」であり、ローマ字体で横書きされて いる。そして、本件ドメイン名「JONESDAY-TOKYO.JP」のうち、「JP」の部分はトップレベ ルドメインであって国別コードの日本を意味し、使用主体が属する国を表示させるものに すぎない。 他方、申立人は、「JONES DAY」(カタカナ表記:ジョーンズ デイ)の名称(以 下、「申立人表示」という。)のもと、法律業務を提供し東京にも事務所を有する国際的法 律事務所であり(甲2ないし甲4)、日本において、申立人表示について、欧文字「JON ES DAY」(標準文字)から成り第42類「法律事務」を指定役務とする商標(以下、 「申立人商標1」という。)(登録第4708849号)を保有し(甲5の1及び2)、また、 JONES DAYの文字を二段として構成されるロゴマーク(以下、「申立人商標2」と いう。)につき42類「法律事務」を指定役務とする商標を保有し(登録第4446772 号)(甲6の1及び2)、さらに、申立人商標2について、第9類、第16類、第18類、 第21類、第25類、及び第35類についても登録を得ている(甲第7の1及び2)(以下、 申立人商標1と申立人商標2を併せて「申立人商標」という。)。 ドメイン名が「商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似している」か否かの 判断に当たっては、当該ドメイン名の識別力のある部分と「商標その他表示」の識別力の ある部分とを比較すべきである。 この点、本件ドメイン名のセカンドレベル「JONESDAY-TOKYO」は結合標識であり、類否 判断でも原則として全体的に考察すべきと考えられるが、申立人商標と共通する構成部分 が、需要者に対し事業者やそのサイトの識別標識として強く支配的な印象を与えるものと 認められる場合で、それ以外の部分から識別標識としての称呼、観念が生じないと認めら れる場合には、当該構成部分だけを抽出して類似性の判断をすることができると解される。 本件ドメイン名の「-TOKYO」は日本国東京を意味する英語の一般名称であり、事業者やそ のサイトの識別標識として強い支配的な印象を与えていないし、識別標識としての称呼、 観念も生じないものと認められる。従って、事業者やそのサイトを識別する部分は、 「JONESDAY」にあるといえる。 そこで、本件ドメイン名の識別力を有する要部である「JONESDAY」と、申立人の表示で ある「JONES DAY」の表示を比較する。 称呼は、いずれも「ジョーンズデイ」で同一である。外観については、「JONES」と 「DAY」の文字の間のスペースの有無を除いて同一であり、極めて類似している。また、 観念については、本件ドメインの要部に接する需要者としては、「JONES」と「DAY」 がいずれも日本人に親しまれた英単語ないし英語名であること、さらに後述の申立人商標 の周知性に鑑みれば、本件ドメイン名の要部が「JONES」と「DAY」の英語の語句 が結合して構成されているものであると容易に認識でき、それにより「ジョーンズデイ」 なる名称及び申立人表示を想起するものといえる。従って、観念においても両者は極めて 類似している。また、申立人商標2についても、上記と同様の理由により、本件ドメイン 名と称呼及び観念において同一ないし極めて類似しているといえる。 以上より、本件ドメイン名の要部は、申立人表示と称呼が同一であり、かつ外観及び観 念のいずれにおいても極めて類似するものであり、全体として、混同を引き起こすほど類 似していると認められる。 (2)権利または正当な利益 答弁書が提出されていない本件において、当事者の主張及び証拠に基づき、方針第4条 c記載の各事実は認められない。すなわち、 (i) 登録者において、自己の営業に関わる商品又は役務等の提供を正当な目的をもって 行うために本件ドメイン名又はこれに対応する名称を使用していた事実も、その使用の準 備をしていた事実も認められない。 (ii) 登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていたという事実も認められな い。 (iii)本件ドメイン名について正当な非商業的使用、公正な使用の事実も認められない。 本件ドメイン名の登録者による本件ドメイン名に関連する登録商標は認められず、「J ONES DAY」に関連する登録商標は、前記認定のとおり、申立人商標として申立人 が保有するものである(甲5ないし甲7)。申立人は申立人商標を日本において永年にわ たって継続して使用しており、周知性が高かったといえる(甲11ないし32)。登録者は、 本件ドメイン名の登録後、遅くとも2021年5月末頃、「弁護士事務所の比較サイト」と 題するブログサイトを開設した(英語頁も存在し、英語のタイトルは、「NATIONAL LAW FIRM COMPARISON SITE」)(甲8及び同9)。その後、同年10月26日、あらたに本件ドメイン 名を用いて「全国弁護士比較/おすすめ弁護士―全国のおすすめ弁護士事務所」と題する ブログサイトを立ち上げて運営していた(甲10)。登録者は、本件ドメイン名を用いて日 本の複数の弁護士事務所を紹介し比較するサイトを開設し運営していた。登録者は申立人 とは資本的にも組織的にも何らの関係も認められず、申立人がこの者に対し、申立人商標 について使用許諾した事実も認められない。 以上より、登録者が本件ドメイン名「JONESDAY-TOKYO.JP」の登録についての権利又は正 当な利益を有しているとは認めるに足りる事情は認められない。 (3)不正の目的での登録または使用 申立人商標は遅くとも本件ドメイン名の登録日である2020年4月1日において、取 引者・需要者の間に広く認識されるに至っていたものであるところ、弁護士比較サイトの 運営に関わっていたと考えられる登録者が登録時において申立人商標を知っていたことは 容易に推認できる(甲11ないし32)。 本件ドメイン名は、申立人が登録し、それを申立人東京事務所において、東京事務所の 独自の日本語でのウェブサイトに利用する目的で、2012年より数年前から2019年 9月まで利用していたものである(甲13)。この日本語サイトの閉鎖の際、本件ドメイン へのアクセス者はhttps://www.jonesday.comへリダイレクトされることになっていた(甲 39)。その後、本件ドメイン名が放棄された(甲13及び同39)。登録者は、その後、 本件ドメイン名を登録し、その後、遅くとも2021年5月末頃、本件ドメイン名を使用 して、「弁護士事務所の比較サイト」と題するブログサイトを開設した(英語頁も存在し、 英語のタイトルは、「NATIONAL LAW FIRM COMPARISON SITE」)(甲8及び同9)。その後、登 録者は、同年10月26日、あらたに本件ドメイン名を用いて「全国弁護士比較/おすす め弁護士―全国のおすすめ弁護士事務所」と題するブログサイトを立ち上げて運営を開始 した(甲10)。同サイトでは、日本全国の複数の法律事務所を紹介するとともに、法律事 務所と弁護士の選び方などを論じている。 かかる認定事実に基づけば、JONESDAY-TOKYO.jpへアクセスした者は、類似商標を保有 する申立人ではなく、かかる商標所有者とは無関係の複数の弁護士事務所や弁護士を比較 する情報を提供する登録者のウェブサイトに誘導されることになる。このようなウェブサ イトにおいては、収益化を図るためアクセス数を増やすことが必要となる。登録者は、申 立人の保有する申立人商標の周知性と顧客誘引力を利用して、ユーザーをしてジョーンズ デイ法律事務所にアクセスするものとの誤認混同を生ぜしめ、もってユーザーを上記ブロ グサイトに誘導しアクセス数をあげることで、商業上の利得を得ることを企図していたも のと認められる。すなわち、登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトな どについて誤認混同を生じさせることを意図して、インターネット上のユーザーを、その ウェブサイトに誘引するために、本件ドメイン名を使用したと認定できる。 以上より、登録者は、本件ドメイン名を不正の目的で登録し、使用しているといえる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「JONESDAY- TOKYO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係 する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録また は使用されているものと判断する。 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「JONESDAY-TOKYO.JP」の登録を申立人に移 転するものとし、主文のとおり裁定する。 2022年4月7日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 土井悦生 別記 手続の経緯 (1)申立書の受領 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2021年12月2 3日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。 (2)申立手数料の受領 センターは、2021年12月28日に申立人より申立手数料を受領した。 (3)ドメイン名及び登録者の確認 センターは、2021年12月28日にJPRSに登録情報を照会し、2021年 12月28日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者で あることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレ ス及び住所等を受領した。 (4)適式性 センターは、2022年1月7日に補正(代表者の資格を証明する公的証明書類の 提出)が必要と判断してその旨を申立人に通知した。 センターは、2022年1月14日に補正期間延長についての上申書を申立人から 受領し、2022年1月17日に申立人に対し、補正期限を2022年2月17日ま で延長することを通知した。 センターは、2022年2月2日に補正書類を受領し、2022年2月7日に申立 書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。 (5)手続開始 センターは、2022年2月8日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的 送信により、手続開始を通知した。センターは、2022年2月8日に登録者に対し 郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2022年2月8日)、答弁書提出期限(2022年3月10日)並び に書面の受領及び提出のための手段について通知した。 (6)答弁書の提出 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2022年3月11 日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送 信により申立人及び登録者に送付した。 (7)パネルの指名及び裁定予定日の通知 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2 022年3月17日に弁護士 土井 悦生を単独パネリストとして指名し、一件書類 を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2022年3月17日に申立人、 登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び 裁定予定日(2022年4月7日)を通知した。パネルは、2022年3月18日に 公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。 (8)パネルによる審理・裁定 パネルは、2022年4月7日に審理を終了し、裁定を行った。