事件番号:JP2022-0001

                  裁 定

  申立人:
  (名称)ヴェロソフトウェア株式会社
  (住所)東京都千代田区神田錦町二丁目2番地1 KANDA SQUARE16階
  代理人:弁理士 田村 啓
      弁理士 川本 真由美
      弁理士 佐々木 美紀
      弁護士・弁理士 髙山 和也
      弁護士・弁理士 清水 正憲
  登録者:
  (名称)CoreBiz Solutions AB
  (住所)東京都新宿区西新宿3-9-3

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、単に
「処理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、単に「規則」
という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の
補則並びに条理に則り、申立書および提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下
のとおり裁定する。

1 裁定主文
 ドメイン名「vero-software.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
 紛争に係るドメイン名は「vero-software.JP」である。なお、ドメイン名のラベルに
使用する英文字に大文字・小文字の区別はないので、申立人の主張に従った表記とする。

3 手続の経緯
 別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人は、登録者のドメイン名「vero-software.JP」(以下、「本件ドメイン名」という。)
が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こ
すほど類似していること、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有
していないこと、登録者の本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されていること
を主張し、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者
 登録者は答弁書を提出していない。

5 争点および事実認定
A 登録者の不答弁の効果
 本件において、登録者は、答弁書を提出していない。本手続には弁論主義は適用されな
いが、規則は、「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない限り、パ
ネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する(規則第5条(f))。よって、
処理方針第4条a.の(ⅰ)ないし(ⅲ)の各号に関する申立人の主張・立証が明らかに不十分
であると判断される例外的な事情がない限り、申立人の主張に従い、本件ドメイン名の登
録移転の裁定を下すことが相当である。
 また、規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則
についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果
に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従
って、裁定を下さなければならない。」そして、処理方針第4条aは、申立人が次の事項の
各々を証明しなければならないことを指図している。
 (ⅰ) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (ⅱ) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (ⅲ) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

B 処理方針第4条a.の各号についての本件パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 登録者の本件ドメイン名は、「vero-software.JP」であり、欧文字で横書きされている。
そして、本件ドメイン名「vero-software.JP」のうち、「JP」の部分はトップレベルドメイ
ンであって国別コードの日本を意味し、使用主体が属する国を表示させるものにすぎない
から、本件ドメイン名において識別力を有する要部は、セカンドレベルドメインである
「vero-software」の部分であると認められる。
 一方、申立人は「ヴェロソフトウェア株式会社」との商号(以下、「申立人商号」という。)
を有する日本法人であり、申立人商号を用いて営業活動を行っている(履歴事項全部証明
書及び甲1)。申立人の商号中、「株式会社」の部分は法人形態を示す部分であり、「ヴェ
ロソフトウェア」の部分が識別力を有する部分であると認められる。
 而して、ドメイン名が「商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似している」
か否かの判断に当たっては、当該ドメイン名の識別力のある部分と「商標その他表示」の
識別力のある部分とを比較すべきである。
 そこで、本件ドメイン名の識別力を有する要部である「vero-software」の部分と、申立
人の表示である「ヴェロソフトウェア」の表示を比較する。前者は「vero」と「software」
というの2つの英単語が「ハイフン」で連結された構成であるものの、2つの英単語は一
連一体に理解されるものである。よって、そこからは、「ヴェロソフトウェア」という称呼
のみが生じ、この称呼は、申立人商号から生じる「ヴェロソフトウェア」の称呼と同一で
ある。また、甲第1号証によれば、申立人商号の英語表記は「Vero Software KK」である
から、申立人商号と本件ドメイン名のそれぞれの要部は、外観上も相類似する。
 したがって、本件ドメイン名は、申立人商号と、称呼及び外観を共通とするものであり、
全体として、混同を引き起こすほど類似しているというべきである。、

(2)権利または正当な利益
 登録者が開設し、管理・運営しているものとみられる本ドメイン名で構成されるウェブ
サイト(甲4:https://vero-software.jp/company/)の会社概要の欄には、商号「ヴェロ
ソフトウェア株式会社 - Vero Software KK」及び所在地「東京都港区虎ノ門4-1-14」と
の記載がみられるが、これらの記載は、従前の申立人が登記していた商号及び所在地と同
一であって(甲8)、申立人の過去のウェブサイト(甲7)を複製したものであると認めら
れる。
 登録者の法人名「CoreBiz Solutions AB」は、本件ドメイン名と一致するところがなく、
令3年12月24日時点で、日本国内において、申立人以外に同商号を含む法人も確認でき
ない(甲5)。登録者は、本件ドメイン名と一致する日本の登録商標を所有しておらず(甲
6)、申立人は、登録者に対して本件ドメイン名を用いることについて許諾していない。こ
れらの事実からすれば、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有し
ていないというべきである。

(3)不正の目的での登録または使用
 申立人は、もともと本件ドメイン名と同一のドメイン名(vero-software.jp)を保有し、
会社概要や商品紹介する申立人のウェブサイトに使用していた(甲7及び甲8)。令和3年、
申立人が本件ドメイン名と同一のドメイン名(vero-software.JP)の契約を終了したとこ
ろ、同年4月1日付で登録者がすぐに本件ドメイン名を取得した(甲3)。
 本件ドメイン名で構成される登録者のウェブサイト(甲4)は、申立人の過去のウェブ
サイト(甲7)と記載内容及び構成が完全に同一であり、申立人の過去のウェブサイトを
不正に複製したものというべきである。
 また、同ウェブサイト(甲4)には、申立人の製品名と同一の「WorkNC」や「EDGECAM」
(甲10の1及び同10の2)といったタブが設けられており、ここからアダルトサイトや
フィッシングサイトに遷移できるようリンクが張られている(甲11)。したがって、この
ようなアダルトサイトのアクセス数を増やし、サービス利用者からの利用料を得る目的で、
本件ドメイン名を利用して本件アダルトサイトへ誘導しているとも考えられる(なお、裁
定時においては、甲10の2は閲覧できないが、申立人提出の甲10の1及びそこから先に
進むことのできる状態に鑑みると、本件アダルトサイトへの誘導の事実は明らかであると
思料する。)。
 申立人と誤認するようなウェブサイトの公開や、かかるウェブサイトにおいてビジネス
上不適切なウェブサイトへのリンクを貼り付ける等の登録者の行為は、結果として申立人
の正常な事業遂行に混乱を生じさせる。よって、処理方針第4条b(ⅲ)に規定される「登
録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録して
いる」という事情に該当するというべきである。また、同(iv)の「登録者が、商業上の利
得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそ
れらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係な
どについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、その
ウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名
を使用しているとき」にも該当するというべきである。
 これらの事実からすれば、本件ドメイン名は、登録者が申立人に売却する目的で取得し、
不正の目的で登録を継続しているものと推認される。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「vero-
software.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関
係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録ま
たは使用されているものと判断する。
 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「vero-software.JP」の登録を申立人
に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

  2022年3月28日


   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    加藤 ちあき


別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2022年1月20
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2022年1月18日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2022年1月20日にJPRSに登録情報を照会し、2022年1
  月20日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2022年1月24日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合し
  ていることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2022年1月27日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続開始を通知した。センターは、2022年1月27日に登録者に
  対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対
  し、手続開始日(2022年1月27日)、答弁書提出期限(2022年2月28日)
  並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2022年3月1日
  に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信
  により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  022年3月7日に弁理士 加藤 ちあきを単独パネリストとして指名し、一件書類
  を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2022年3月7日に申立人、
  登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び
  裁定予定日(2022年3月28日)を通知した。パネルは、2022年3月7日に
  公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2022年3月28日に審理を終了し、裁定を行った。