事件番号:JP2022-0004

                裁 定

申立人:
 名称 ヨーロッパ ブランズ エス アー アール エル
 住所 ルクセンブルグ国 エル 2086 ルート デッシュ 412エフ
 代理人:
  弁理士 加藤 勉
  弁理士 萼 経夫
  弁理士 今井 雅夫

登録者:
  名称 園山ドメイン保存会
  公開連絡窓口
  名前/名称: Whois情報公開代行サービス by お名前.com
  住所 〒150-8512 東京都渋谷区桜丘町26-1セルリアンタワー11階

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理
を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「PARKERPEN.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「PARKERPEN.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 ドメイン名「PARKERPEN.JP」は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録
者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、また、ドメイン名は不正の目的で
登録または使用されている。よって、申立人は、当該ドメイン名登録の申立人への移転を
請求する。

 b 登録者
 登録者による答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついて、パネルへ次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果
に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従
って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを、指図して
いる。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 そこで、パネルは、前記(1)(2)及び(3)について検討する。

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 ア.申立人が権利または正当な利益を有する商標
 申立人は、申立人が権利又は正当な利益を有する商標として、次の商標を所有している
(以下、これらの商標を包括的に「申立人登録商標」という)。また、これらの商標は、本
件裁定時において全て有効に存続するものである。

  ・標章:PARKER(文字商標)
  登録商標第150273号 登録日:大正12(1923)年3月9日
  指定商品・役務:
  第2類 印刷インキ(「謄写版用インキ」を除く。)
  第16類 鉛筆,シャープペンシル,万年筆,その他の文房具類(海綿・紙製下げ札・
  紙製シール・紙製しおり・紙製値札・紙製はり札,紙製文房具,紙製ラベル,革ふみ
  ばこ・黒板・三角定規・定規・そろばん・短冊・地球儀・トレーシングクロス・水引
  を除く。)
  (証拠は、申立人が「JPドメイン名紛争処理方針に基づく申立書」において提出し
  た甲第2号証を援用する)

  ・標章:PARKER(文字商標)
  登録商標第171867号 登録日:大正14(1925)年6月4日
  指定商品・役務:
  第16類 万年筆,鉛筆,シャープペンシル,インキ
  (証拠は、申立人が「JPドメイン名紛争処理方針に基づく申立書」において提出し
  た甲第3号証を援用する)

  ・標章:PARKER(文字商標)
  登録商標第4762663号 登録日:平成16(2004)年4月9日
  指定商品・役務:
  第18類 ハンドバッグ,ビーチバッグ,ショッピングバッグ,ショルダーバッグ,ク
  ラッチバッグ,アタッシュケース,ブリーフケース,ポーチ,札入れ,財布,キーケ
  ース,革製のカード入れ,小切手帳入れ,書類整理入れかばん,皮製肩掛けベルト,
  旅行用皮製箱,皮製包装用袋,トランク,旅行用小型手提げかばん,旅行用バッグ,
  皮製旅行用具入れ,旅行用衣服かばん,リュックサック,カバン金具,がま口口金,
  皮革製包装用容器,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つ
  え金具,つえの柄,乗馬用具,皮革(革ひもを除く。)
  (証拠は、申立人が「JPドメイン名紛争処理方針に基づく申立書」において提出し
  た甲第4号証を援用する)

  ・標章:PARKER(文字商標)
  登録商標第5616769号 登録日:平成25(2013)年9月20日
  指定商品・役務:
  第9類 眼鏡,サングラス
  第14類 貴金属製の宝飾品,貴金属製ではない宝飾品,ブレスレット,ネックレス,
  イヤリング,装身用ピン,カフスボタン,腕時計,宝飾時計,時計バンド,時計側,
  時計,置き時計
  第16類 パスポートホルダー,パスポートカバー,スケジュール帳,革製ペンケー
  ス,紙幣用クリップ,革製カバー付きスケジュール帳,革製カバー付き日記帳
  第18類 ブリーフケース,ハンドバッグ,財布,旅行用トランク,革製折りかばん,
  皮革製のパスポートケース,折りかばん
  第25類 革製ベルト
  (証拠は、申立人が「JPドメイン名紛争処理方針に基づく申立書」において提出し
  た甲第5号証を援用する)

 イ.申立人が権利または正当な利益を有する商標と同一又は混同を引き起こすほどの類
似性

1.申立人が権利または正当な利益を有する商標との同一性
 本件ドメイン名は「PARKERPEN.JP」である。ここで本件ドメイン名「PARKERPEN.JP」に
おける「JP」の部分は「日本国」を示す第1レベルドメインであるから、登録者固有のド
メイン名の部分にはならない。よって、「PARKERPEN」の部分が、登録者固有のドメイン名
として機能する部分である。
 そこで、本件ドメイン名「PARKERPEN.JP」の「PARKERPEN」の部分と、申立人が権利また
は正当な利益を有する登録商標の標章「PARKER」を比較して検討する。
 本件ドメイン名の登録者に固有の部分である「PARKERPEN」と申立人が権利または正当な
利益を有する登録商標の標章「PARKER」は、「PARKER」の部分が共通するものの、登録者の
ドメイン名が「PEN」を有するため、申立人が権利または正当な利益を有する登録商標の標
章「PARKER」と同一ではない。

2.申立人が権利または正当な利益を有する商標と混同を引き起こすほどの類似性
 登録者固有のドメイン名の部分「PARKERPEN」における「PARKER」は、我が国並びに諸外
国における平均的な英語力を鑑みれば、「PARKER」は諸外国において多数存在する姓名「パ
ーカー」であると理解し、「PEN」は筆記具を表す「ペン」の意味を認識し、「パーカー氏の
ペン等筆記具」なる一連の観念を想起すると考えることが一般的である。
 更に、申立人が権利または正当な利益を有する商標「PARKER」は、我が国並びに諸外国
において「万年筆」等筆記具の商標として周知であるから(証拠は申立人が「JPドメイ
ン名紛争処理方針に基づく申立書」において提出した甲第6号証乃至甲9号証を援用す
る)、本件ドメイン名の登録者に固有の部分「PARKERPEN」に接した需要者・取引者は、「パ
ーカー社製の万年筆等筆記具」との観念を想起することが予測される。
 よって、本件ドメイン名の固有部分である「PARKERPEN」は、「パーカー氏のペン等筆記
具」及び「パーカー社製の万年筆等の筆記具」との観念を需要者・取引者に抱かせ、その
結果、申立人が権利または正当な利益を有し、万年筆等筆記具において周知な商標である
「PARKER」と共通の観念が生じ、畢竟、登録者のドメイン名の固有部分である「PARKERPEN」
は、申立人が権利または正当な利益を有する商標「PARKER」と混同を引き起こすほど類似
であると言わざるを得ない。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

ア. 申立人が権利または正当な利益を有する登録商標「PARKER」について
 申立人が所有する登録商標「PARKER」は、その出願時においては「ゼ、パーカー、ペン
コムパニー」、「パーカー、ペン、コムパニー」又は「パーカー ペン プロダクツ」等の
法人名称で出願し登録した経緯があるが、現在は、申立人が上記登録商標を譲り受け、現
在に至っている(証拠は申立人が「JPドメイン名紛争処理方針に基づく申立書」におい
て提出した甲第2号証乃至甲5号証を援用する)。
 申立人の登録商標「PARKER」は、海外ブランドの万年筆ランキング10には、必ずラン
クインするほど周知な万年筆等筆記具の商標である。
 日本における「海外ブランドの万年筆ランキング」をWEBサイト
(www.yodobashi.com)で見ると、2位と6位にパーカー製の万年筆がランクされている
(証拠は申立人が「JPドメイン名紛争処理方針に基づく申立書」において提出した甲第
6号証を援用する)。
 PARKER万年筆の歴史を紐解けば1888年に遡る。この年に、ジョージ・サッフォード・
パーカーが万年筆の製造会社を創業し、インク漏れを防ぐインク供給システム「ラッキ
ー・カーブ」の開発に着手した。その後、「デュオフォールド」、「バキューマティック」、
「パーカー51」、「パーカー61」、「パーカー75」などの名品を次々に発表し、矢羽形クリッ
プの名声と共に、万年筆界の王様とも称されている(証拠は申立人が「JPドメイン名紛
争処理方針に基づく申立書」において提出した甲第7号証乃至甲9号証を援用する)。
 かかる事実から、申立人登録商標「PARKER」とそのカタカナ表記である「パーカー」
は、万年筆を始めとする筆記具において、我が国における周知な商標である。

イ.登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
イ-1.
 上述したように、申立人の登録商標「PARKER」は、約100年に及ぶ歴史を持つ万年筆を
主力商品とする筆記具の商標である。そして、日本においては、大正12(1923)年頃か
ら、継続して約100年間に亘って使用され販売されてきた結果、日本において周知な万年
筆等筆記具の商標として、需要者・取引者間に定着していることは明らかである。
 これに対し、本件ドメイン名「PARKERPEN.JP」は、園山ドメイン保存会の名義で2016
年5月31日にJPRSに登録された。即ち、本件ドメイン名の登録は、申立人の上記登録商
標の最古登録年月(大正12(1923)年3月)から90年以上も後のことであり、申立人の登
録商標「PARKER」が万年筆の商標として日本で周知となり、高い顧客吸引力を持つように
なった以降のことである。
 また、「PARKER」は諸外国において「姓名」としても認識されることもあるが、登録者
である園山ドメイン保存会の名称は「園山ドメイン保存会」であるから、その名称として
「PARKER」、「PARKERPEN.JP」及び「PARKERPEN」を使用する必然性がないことは明らかで
ある。

イ-2.
 上記イ-1.の前提に、JPドメイン紛争処理方針第4条cを参考に更に検討する。
  ①登録者である園山ドメイン保存会が、紛争処理機関である日本知的財産仲裁センタ
  ーから通知を受けた2022年3月1日以前から、 商品またはサービスの提供を正当な
  目的をもって行うために、当該ドメイン名「PARKERPEN.JP」またはこれに対応する名
  称を使用していた事実若しくは使用の準備をしていた事実は、登録者である園山ドメ
  イン保存会より、かかる事実が一切疎明されていないため確認できない。
  ②また、登録者である園山ドメイン保存会が、「PARKERPEN.JP」若しくは/及び
  「PARKERPEN」の名称で一般に認識されていることが推測できる事実は、登録者である
  園山ドメイン保存会よりかかる事実が一切疎明されていないため、確認できない。
  ③そして、登録者である園山ドメイン保存会が、申立人登録商標の登録日である大正
  12(1923)年以前から、若しくは、紛争処理機関である日本知的財産仲裁センターか
  ら通知を受けた2022年3月1日以前から、「PARKERPEN.JP」若しくは/及び「PARKERPEN」
  を商標出願・登録している事実は確認できない。

 かかる事実からも、登録者である園山ドメイン保存会が、当該ドメイン名に関係する権
利または正当な利益を有していないと判断する。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

ア.登録者である園山ドメイン保存会は、万年筆等筆記具に関し高い周知性と顧客吸引力
を有する申立人の登録商標「PARKER」をドメイン名の一部に採択し、更に「万年筆等筆記
具」を意味する英語「PEN」を「PARKER」に結合し「PARKERPEN.JP」をドメイン名登録し
た。
イ.即ち、ドメイン名「PARKERPEN.JP」を登録した2016年5月31日の時点において、
「PARKER」は申立人の製造販売等を行う万年筆等筆記具について、高い周知性と顧客吸引
力を有する申立人の登録商標であった。そして、申立人登録商標「PARKER」が高い周知性
と顧客吸引力を持つ商品、即ち、「万年筆等筆記具」の英語表記である「PEN」を殊更採択
し、「PARKERPEN.JP」なるドメイン名を創出し登録したものである。
 このことは、申立人登録商標の「PARKER」と万年筆等筆記具を表す「PEN」を結合し、
商標「PARKER」が有する「万年筆等筆記具」における「名声」や「顧客吸引力」を不正に
利用することを意図するものであり、「PARKERPEN.JP」は不正の目的で登録したドメイン
名であると考えざるを得ない。
イ.登録者である園山ドメイン保存会が、何の業務を行っているかは不明である。
 しかしながら、登録者が何らかの業務を立ち上げたとき、殊更「万年筆等筆記具」に関
連する商品を販売するホームページ等で本件ドメイン名「PARKERPEN.JP」を使用するなら
ば、本件ドメイン名は申立人が使用する登録商標「PARKER」の持つ周知性および高い顧客
吸引力を利用して、需要者を自己のホームページへ誘導し、または、申立人の直販商品で
あるかのごとく需要者を誤認させ利を得る意図があると言うべきである。
ウ. 登録者である園山ドメイン保存会が、何の業務を行っているかは不明であるものの、
「園山ドメイン保存会」の名称からはドメイン名「PARKERPEN.JP」を登録し、若しくは、
登録者固有の部分である「PARKERPEN」をドメイン名の一部に採択する、若しくは、採択
せざるを得ない積極的な理由を確認することはできない。
エ.よって、登録者の当該ドメイン名「PARKERPEN.JP」が、不正の目的で登録されている
ものと言わざるを得ない。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「PARKERPEN.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名
に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登
録または使用されているものと判断する。
 よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「PARKERPEN.JP」の登録を申立人に移転す
るものとし、主文のとおり裁定する。

2022年4月21日

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                   単独パネリスト  弁理士 中村知公


別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2022年2月28
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2022年3月1日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2022年3月1日にJPRSに登録情報を照会し、2022年3月
  1日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であること
  を確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住
  所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2022年3月2日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合して
  いることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2022年3月7日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的
  送信により、手続開始を通知した。センターは、2022年3月7日に登録者に対し
  郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、
  手続開始日(2022年3月7日)、答弁書提出期限(2022年4月5日)並びに
  書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者の住所に送付した通
  知は「あて所に尋ねあたりありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2022年4月6日
  に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信
  により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  022年4月12日に弁理士 中村 知公を単独パネリストとして指名し、一件書類
  を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2022年4月12日に申立人、
  登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び
  裁定予定日(2022年5月6日)を通知した。パネルは、2022年4月17日に
  公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2022年4月21日に審理を終了し、裁定を行った。