事件番号:JP2022-0006
                  裁 定

  申立人:
  名称 :株式会社ファーストリテイリング
  所在地:山口県山口市佐山10717-1
  代理人:弁理士 網野友康
  弁理士 網野誠彦
  登録者:
  名称:uniqlomuseum.jp
  住所:東京都新宿区西新宿3-9-3

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理
方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」という。)
及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並び
に条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定
する。

1 裁定主文
  ドメイン名「uniqlomuseum.jp」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「uniqlomuseum.jp」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人の主張は、概要以下のとおりである。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (i) 登録者のドメイン名である「uniqlomuseum.jp」(以下「本件ドメイン」という。)中、
申立人商標として極めて著名な「uniqlo」部分が強く支配的な印象を与えることから、本
件ドメインの要部は「uniqlo」部分であるといえるところ、「uniqlo」は、申立人商標であ
る「UNIQLO」等や申立人の著名な「UNIQLO」ブランドと、「ユニクロ」の称呼
を共通にする極めて類似性の高いものであることから、両者が同一又は混同を引き起こす
ほど類似していることは明らかである。
 (ii)仮に本件ドメインに接した取引者・需要者が、「uniqlo」部分のみを要部として認識
しないとして、「uniqlomuseum」全体で考えた場合であっても、「UNIQLO(ユニクロ)」
ブランドの著名性や「museum」の語の意味等を考慮すると、取引者・需要者が申立人の運
営に係るものであると誤認混同することは明らかである。

 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 以下の事情から、登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有するこ
とはあり得ない。
 (i) 申立人は、国内・国外を問わず、申立人の把握していない第三者に、申立人の登録
商標に係る商標の使用や、「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドに関連するドメインの登
録及び使用を許諾することはないこと。
 (ii) 申立人の調べる限り、日本における「UNIQLO」の文字列を含む商標について
は、データクック株式会社の登録第5921883号「ユニクラウド\UNIQLOUD」
を除けば、申立人を権利者とする登録商標しか存在せず(甲第12号証)、「uniqlomuseum」
に関する登録商標も存在しないことから、申立人以外の第三者が「UNIQLO」が要部
となるような商標について権利又は正当な利益を有している事実は存在しないこと。
 なお、処理方針第4条c(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)に、「特に以下のような事情がある場合には、
登録者は当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していると認めなければなら
ない。」とあるが、これらについても該当しない。

 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
 以下の状況を考慮すると、登録者が、「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドの著名性に
フリーライドし、商業上の利得を得る目的で、あたかも申立人の「UNIQLO(ユニク
ロ)」ブランドに登録者が関係しているかのように消費者の誤認混同を生ぜしめることを
意図して、本件ドメイン名を登録・使用していることは容易に推認できる。
 (i) 本件ドメイン名は2020年10月22日に登録され、遅くとも2021年12月
27日頃にはECサイト(以下「本件ECサイト」という。)の運営が始まっているところ、
本件ドメイン登録時及び使用開始時のいずれの時点においても、申立人の「UNIQLO
(ユニクロ)」ブランドの著名性の高さは極めて高いものであったこと。
 (ii) 本件ECサイトでは、服や靴、鞄などのアパレル商品が販売されているところ、
「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドにおける主要商品も同様にアパレル商品であり、事
業領域が重複していること。
 (iii) 本件ECサイト上の「uniqlo」部分に対応する中国語でのブランド表記が申立人
の中国におけるユニクロ事業に用いる中国語と同様であること。
 (iv) 「UNIQLO」の文字は既成語ではなく、申立人が生み出した独創性の高い造語
であり、「UNIQLO」の名称は同一の事業領域で偶然に採択されるようなものではない
こと。
 以上のとおりであるから、本件ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されているこ
とは明らかである。

 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点及び事実認定
 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結
果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、並びに条理に従
って、裁定を下さなければならない。」
 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し
ている。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一又は混同を引き起こすほど類似していること(第1要件)
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと(第
2要件)
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること(第3要
件)

 本件では、登録者が答弁書を提出しなかった。例外的な事情がない限り、パネルは申立
書に基づいて裁定を下すものとされる(手続規則第5条(f))一方で、処理方針第4条a
は、申立人に対して上記(1)~(3)のすべてを立証する義務を課している。そのため、
仮に答弁書が不提出であったとしても、パネルが申立書に基づき事実の認定等を行ったう
えで裁定を下すことになる。よって、以下各要件について検討する。

 (1)第1要件について
 甲第7号証乃至第9号証からは、①申立人が「UNIQLO」又は「ユニクロ」に関連
する登録商標を75件保有していること、②そのうち「UNIQLO」の文字列だけの文
字商標についても15件の登録商標を保有していること、③「UNIQLO」のロゴにつ
いて防護標章登録を受けていることが認められる。加えて、甲第2号証乃至第6号証から
は、申立人が日本国内及び海外において「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドで多数の店
舗を展開しており、当該ブランドの著名性が高いことが認められる。
 上記事実を総合すれば、申立人は「UNIQLO」について権利及び正当な利益を有し
ていると認めることができる。

 一方、本件ドメイン名「uniqlomuseum.jp」のうち、トップレベルドメインの「.jp」に
は国別コードという以外に識別力はないところ、セカンドレベルドメインの「uniqlomuseum」
については、一見して「uniqlo」と「museum」という二つの単語を組み合わせた文字列と
認識することが通常と考えられる上、甲13号証によれば、本件ドメイン名のウェブサイ
トのトップページ中央部に「UNIQLO MUSEUM」と表示される、すなわち「U
NIQLO」と「MUSEUM」の間に空白があり、ウェブサイトの表示上も「uniqlo」
と「museum」という二つの単語を並べていることが認められる。そして、「museum」の単語
は博物館や美術館等を意味する普通名詞であり、単独では特定の出所を表示する機能は低
いと考えられ、他方で、「uniqlo」は申立人の著名なブランドを表す単語である。そうする
と、「uniqlo」と「museum」を並べた場合には、「uniqlo」ブランドを展示した、「uniqlo」
ブランドに関する、又は「uniqlo」ブランドの保有者が運営する博物館等を指すものであ
るとの誤認混同を生ぜしめる可能性が高いと認められる。

 したがって、本件ドメイン名は、申立人が権利及び正当な利益を有している商標である
「UNIQLO」と同一又は混同を引き起こすほど類似するものと認められる。

 (2)第2要件について

 第2要件である「登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有してい
ないこと」については、JP-DRP解説(2008年3月)(以下「解説」という。)」Ⅲ
3.(3)は、申立人に主張・立証が求められる事項として、以下の各事項を例示している。
 (i) 登録者の氏名・法人名とドメイン名の不一致
 (ii) ドメイン名と一致する登録者が保有する日本の登録商標の不存在
 (iii) 当該ドメイン名に関してのライセンスの不存在

 他方、処理方針第4条cは、登録者がドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有し
ていることの証明として、以下のような事情がある場合には登録者は当該ドメイン名に関
係する権利又は正当な利益を有していると認めなければならないとする。
 (i) 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者又は紛争処理機関から通知
を受ける前に、商品又はサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該ドメイン
名又はこれに対応する名称を使用していたとき、又は明らかにその使用の準備をしていた
とき
 (ii) 登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、当該ドメイン
名の名称で一般に認識されていたとき
 (iii) 登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことに
より商業上の利得を得る意図、又は、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有
することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、又は公正に使用しているとき

 以上に鑑み本件ドメイン名について具体的に検討するに、まず解説Ⅲ3.(3)に例示され
る3点についてはいずれも認められる。すなわち、(i) 登録者の氏名・法人名とドメイン
名の不一致に関しては、登録者の氏名に関する登録情報は本件ドメイン名となっていると
ころ、これ自体が自然人又は法人の氏名又は名称でないことは明白であるし、(ii) ドメイ
ン名と一致する登録者が保有する日本の登録商標の不存在、(iii) 本件ドメイン名に関し
てのライセンスの不存在についても申立人は証拠と共に主張しており、これに反する証拠
は提出されていない。

 次に、処理方針第4条cに列挙される事情について検討する。申立人の登録商標である
「UNIQLO(ユニクロ)」に高い著名性が認められることは前述のとおりであるところ、
本件ドメイン名の登録時である2020年10月22日から本件ECサイトの運営開始時
(甲第15号証からは遅くとも2021年12月27日と認められる。)に至るまで著名
性が失われていたことを示唆するような事情は認められない。そして、甲第12号証によ
れば「UNIQLO」の文字列を含む登録商標のうち申立人を権利者とするものでないの
はデータクック株式会社の登録第5921883号「ユニクラウド\UNIQLOUD」
のみであること、すなわち登録者が「UNIQLO」の文字列を含む登録商標等を有して
いないことが認められる。また、登録者が本件ドメイン名の登録時又は本件ECサイトの
運営開始時のいずれかにおいて「UNIQLO」の文字列に対してその他の権利等を有し
ており、又は登録者がそのような著名性の高い登録商標の存在を認識することなく申立人
の登録商標と無関係に「uniqlo」と「museum」を組み合わせた本件ドメイン名を使用して
いたことを示す証拠は提出されていない。上記の事情のもとでは、(i)登録者が商品又はサ
ービスの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメイン名又はこれに対応する名称を
使用していた、(ii)登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていた、(iii)本件ド
メイン名を非商業的目的に使用し、又は公正に使用していた、のいずれとも認められない。

 以上によれば、登録者が本件ドメイン名に関する権利又は正当な利益を有しているとは
認められない。

 (3)第3要件について

 第3要件は、「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること」
であり、処理方針第4条bにおいては、以下の事情がある場合は、ドメイン名の登録又は
使用は、不正の目的であると認めなければならないとされている。
 (i) 登録者が、申立人又は申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金
額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与又
は移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録又は取得しているとき
 (ii) 申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨
害するために、登録者が当該ドメイン名を登録し、当該登録者がそのような妨害行為を複
数回行っているとき
 (iii) 登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイン名
を登録しているとき
 (iv) 登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイト若しくはその他のオンラ
インロケーション、又はそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、
取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネ
ット上のユーザーを、そのウェブサイト又はその他のオンラインロケーションに誘引する
ために、当該ドメイン名を使用しているとき

 本件ドメイン名については、①申立人の「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドの著名性
の高さ、②本件ECサイトのトップページに「UNIQLO MUSEUM」との表記が
あり、「UNIQLO」に対応する中国語表記が申立人のユニクロ事業の中国語サイトにお
ける表記と同様であること、③本件ECサイトが扱う商品と「UNIQLO(ユニクロ)」
ブランドにおける主要商品にかかる事業領域の重複の各事情を総合すれば、上記(iv)に該
当すると認められる。すなわち、
①申立人の「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドの著名性に関しては前述のとおりである。
②については、本件ECサイトのトップページに「UNIQLO MUSEUM」という
「UNIQLO」と「MUSEUM」の間に空白を含む表記がある点は前述のとおりであ
り、本件ECサイト上の「UNIQLO」に対応する中国語表記が申立人のユニクロ事業
における表記と同様である点は甲第13号証及び甲第16号証から認められる。
③については、甲第13号証から本件ECサイトにおいてアパレル商品が販売されている
ことが、申立人の令和3年11月26日提出に係る有価証券報告書及び申立人の令和4年
4月13日付現在事項全部証明書から申立人が衣料品の販売、すなわちアパレル商品の販
売を業として行っていることが、それぞれ認められる。

そして、上記の各事情を総合すれば、本件ドメイン名が申立人の「UNIQLO(ユニク
ロ)」ブランドの高い著名性に便乗し、ECサイトの運営による売上という商業上の利得を
得る目的で本件ECサイトに登場する商品及びサービスの出所等について誤認混同を生ぜ
しめることを意図して使用されていること、すなわち本件ドメイン名が不正の目的で使用
されていることが認められる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「uniqlomuseum.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン
名に関係する権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登
録又は使用されているものと判断する。
 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「uniqlomuseum.jp」の登録を申立人に
移転するものとし、主文のとおり裁定する。

  2022年7月19日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト 卜部 晃史


別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2022年5月19
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2022年5月20日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2022年5月20日にJPRSに登録情報を照会し、2022年5
  月20日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
  び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2022年5月20日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合し
  ていることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2022年5月25日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子
  的送信により、手続開始を通知した。センターは、2022年5月25日に登録者に
  対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対
  し、手続開始日(2022年5月25日)、答弁書提出期限(2022年6月22日)
  並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者宛電子メール
  送信分については一部が送信不能であった。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2022年6月23
  日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送
  信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  022年6月29日に弁護士 卜部 晃史を単独パネリストとして指名し、一件書類
  を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2022年6月29日に申立人、
  登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び
  裁定予定日(2022年7月20日)を通知した。パネルは、2022年6月29日
  に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2022年7月19日に審理を終了し、裁定を行った。