事件番号:JP2022-0007 裁 定 申立人: (名称)株式会社トリート (住所)東京都千代田区丸の内2-1-1 10F 代理人:弁理士 佐藤大輔 登録者: (名称)Taka Enterprise Ltd. WHOISプライバシーサービス (住所)東京都新宿区西新宿3-9-3 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理 方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」という。) 及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並び に条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定 する。 1 裁定主文 ドメイン名「MISSTREAT.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「MISSTREAT.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と 同一または混同を引き起こすほど類似していること 登録者のドメイン名「MISSTREAT.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)の要部は 「MISSTREAT」であるところ、これと申立人の登録商標「Miss TREAT」は、大文字小文字の 差異はあるものの、外観・称呼・観念の各要素を総合的に判断すれば、両者は互いに類似 する。したがって、本件ドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する商標その 他表示と同一または混同を引き起こすほど類似している。 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと 登録者の名称は本件ドメイン名と異なっており、さらに本件ドメイン名の利用者の名称 についても本件ドメイン名と異なるものであることが強く推認される。登録者及び本件ド メイン名の利用者は本件ドメイン名と一致する登録商標を保有していない。本件ドメイン 名について、申立人が登録者及び本件ドメイン名の利用者を含め第三者に対してライセン スした事実はない。したがって、登録者は、本件ドメイン名に関係する権利または正当な 利益を有していない。 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること 本件ドメイン名の利用者は、本件ドメイン名に基づき、「Miss Treat」の標章をもってウ ェディングドレスのレンタル及び販売を行うことを目的とするウェブサイトを運営してい た。本件ドメイン名の利用者は、申立人の標章である「Miss TREAT」を検索した者に対し、 申立人のウェブサイトと誤信させて本件ドメイン名に係るウェブサイトにアクセスさせ、 取引者、需要者を誘引することにより商業上の利得を得る目的で、本件ドメイン名を使用 している。したがって、登録者の当該ドメイン名は、不正の目的で登録または使用されて いる。 よって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原 則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結 果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に 従って、裁定を下さなければならない。」 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し ている。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること そこで、紛争処理パネルは、前記(1)、(2)及び(3)について検討する。 (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性 ア.申立人が権利または正当な利益を有する商標 申立人は、申立人が権利または正当な利益を有する商標として、次の登録商標を有して いることが認められる(甲4。以下「本件登録商標」という。)。 商標:Miss TREAT 登録番号:第6339695号 登録日:令和3(2021)年1月13日 指定商品・役務: 第25類 ウェディングドレス,その他の被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バン ド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴 第35類 ドレスの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ド レス用アクセサリーの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,織 物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小 売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務 において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務にお いて行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売又は卸売の業務において行われ る顧客に対する便益の提供 第45類 婚礼衣裳の貸与,その他の衣服の貸与,装身具の貸与,ファッション情報の提 供,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の 提供,葬儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,施設の警備,身辺の警備,個人の身元又は行 動に関する調査,占い,身の上相談,家事の代行,祭壇の貸与 イ.申立人が権利または正当な利益を有する商標と同一または混同を引き起こすほどの 類似性 本件ドメイン名は「MISSTREAT.JP」であるところ、本件ドメイン名の「.JP」は日本の国 別コードを示すトップレベルドメインであり、特段の識別力を有するものではない。した がって、本件ドメイン名において識別力を有する要部は、「MISSTREAT」である。 そして、本件ドメイン名と本件登録商標を対比すると、要部である「MISSTREAT」におい て小文字と大文字の違いがあるだけであるから、本件ドメイン名は、本件登録商標と同一 または誤認混同を生ずるほどに類似していると認められる。 したがって、本件ドメイン名「MISSTREAT.JP」は、申立人が権利または正当な利益を有 する商標と同一または混同を引き起こすほど類似しているということができる。 (2)権利または正当な利益 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益については、その存在について登録者 による主張が予定されているところ(処理方針第4条c参照)、登録者は答弁書を提出せず、 その存在について何ら実質的な主張を行わない。また、登録者の名称は、本件ドメイン名 の要部である「MISSTREAT」の文字列とは異なっている。さらに、申立人が登録者に対して 本件ドメイン名について使用許諾した事実も認められない。その他、本件において、登録 者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していることを窺わせる事情は 認められない。 したがって、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していると は認められない。 (3)不正の目的での登録または使用 ア.本件の申立書および提出された証拠によれば、以下の事実が認められる。 申立人は、2019年から、「Miss TREAT」という標章を使用してウェディングドレスのレ ンタル及び販売を店舗において行っていた。申立人は、当該店舗のウェブサイトに本件ド メイン名を利用していた。その後、申立人は、店舗の統廃合に伴い、当該ウェブサイトを 閉鎖した(甲1および甲6)。 また、申立人は、2021年1月13日付けで本件登録商標について商標登録を受けた。登 録者による本件ドメイン名の登録は同年11月1日であり、本件登録商標の登録日から約9 ヶ月半後であった(甲4および甲5)。 さらに、本件ドメイン名の登録後に、本件ドメイン名を使用し、「Miss Treat」という標 章の付された、ウェディングドレスに関する事業を行う外観を有するウェブサイト(以下 「本件ウェブサイト」という。)が作成された(甲2および甲7)。これについて、申立人 は、登録者に対して、2022年5月9日付け通知書によって本件ウェブサイトの閉鎖を求め た。その後、同月30日までの間に、本件ウェブサイトは閉鎖された(甲1および甲3)。 なお、登録者は、自らはドメイン名の登録・管理をサポートする企業であって、本件ド メイン名の実質的な利用者は別に存在する旨言及しながらも、当該利用者に関する情報は 全く明らかにしなかった(甲2)。 イ.以上の事実からすると、本件ドメイン名は、ウェディングドレスのレンタル及び販 売を業とする申立人のウェブサイトを装う本件ウェブサイトを作成し、申立人のウェブサ イトと誤信させて本件ウェブサイトにアクセスさせ、需要者を誘引することにより商業上 の利得を得る目的で登録または使用されたことが推認できる。 ウ.また、登録者は答弁書を提出せず、申立人の主張に対して実質的な反論をしない。 その他、本件において、上記推認を覆すに足りる事情は認められない。 エ.したがって、本件ドメイン名は、不正の目的で登録または使用されているものと認 められる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「MISSTREAT.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名 に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登 録または使用されているものと判断する。 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「MISSTREAT.JP」の登録を申立人に移 転するものとし、主文のとおり裁定する。 2022年8月9日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 井上葵 別記 手続の経緯 (1)申立書の受領 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2022年5月30 日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。 (2)申立手数料の受領 センターは、2022年6月2日に申立人より申立手数料を受領した。 (3)ドメイン名及び登録者の確認 センターは、2022年6月2日にJPRSに登録情報を照会し、2022年6月 2日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であること を確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所 等を受領した。 (4)適式性 センターは、2022年6月3日に補正(申立書の記載事項の修正等)が必要と判 断してその旨を申立人に通知し、2022年6月9日に補正書類を受領し、2022 年6月9日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。 (5)手続開始 センターは、2022年6月14日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子 的送信により、手続開始を通知した。センターは、2022年6月14日に登録者に 対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対 し、手続開始日(2022年6月14日)、答弁書提出期限(2022年7月12日) 並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 (6)答弁書の提出 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2022年7月13 日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送 信により申立人及び登録者に送付した。 (7)パネルの指名及び裁定予定日の通知 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2 022年7月20日に弁護士 井上 葵を単独パネリストとして指名し、一件書類を 電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2022年7月20日に申立人、 登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び 裁定予定日(2022年8月9日)を通知した。パネルは、2022年7月20日に 公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。 (8)パネルによる審理・裁定 パネルは、2022年8月9日に審理を終了し、裁定を行った。