事件番号:JP2023-0005 裁 定 申立人:ホームアウェイドットコム インコーポレイテッド (住所)アメリカ合衆国 テキサス州 78703 オースティン ●(省略)● 代理人:弁理士 宮永 栄 同 飯島 千尋 登録者:Li (住所)東京都渋谷区 ●(省略)● 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処 理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」とい う。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則 並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり 裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「VRBO.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「VRBO.JP」(以下、「本件ドメイン名」という。)である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人の主張は以下のように、整理できる。 登録者のJPドメイン名は「VRBO.JP」からなるところ、その要部は「VRBO」であって、 申立人の保有する3件の登録商標と同一または混同を引き起こすほど類似している。 また、申立人の登録商標は申立人の出所を表示するものとして取引者、需要者に広く知 られているのに対し、本件ドメイン名が登録者によって使用されている事実は確認できず、 本件ドメイン名と関連する商標を使用している事実も確認できないことから、登録者は本 件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない。 さらに、本件ドメイン名が高額で販売されているウェブサイトが存在していること、本 件ドメイン名の登録者と同一人物と思われる人物が、他に周知著名な商標を含むドメイン 名を複数保有しているだけでなく、これまでに周知著名な商標等を含むドメイン名を保有 し、UDRPにおいて移転の裁定を受けていること等から、本件ドメイン名は不正の目的で登 録されたものである。 したがって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 a 適用すべき判断基準 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原 則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結 果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に 従って、裁定を下さなければならない。」 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し ている。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること b 紛争処理パネルの判断 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 ア 申立人の商標 申立人は、以下の各登録商標(以下、併せて「申立人商標」という。)を保有し ている。 1 商標:VRBO(標準文字) 登録番号:第6209470号 登録日:2019年12月20日 区分:第36, 43類 2 商標:VRBO(標準文字) 登録番号:第6265178号 登録日:2020年7月1日 区分:第9類 3 商標: 登録番号:第6260612号 登録日:2020年6月17日 区分:第9, 36, 43類 イ 本件ドメイン名の要部 本件ドメイン名は「VRBO.JP」からなる汎用JPドメイン名であるところ(甲4)、 「.JP」はすべての汎用JPドメイン名に使用される部分であることから、本件ド メイン名の要部は「VRBO」である。 ウ 対比 申立人商標と本件ドメイン名を対比すると、ドメイン名では大文字と小文字を区 別しないことから、申立人商標と本件ドメイン名の要部は、欧文字の綴りや称呼が、 同一である。 以上の対比から、本件ドメイン名は、申立人商標と同一または混同を引き起こす ほど類似していると認められる。 (2)権利または正当な利益 登録者からは答弁書が提出されておらず、特に例外的な事情も認められないこと から、申立書に基づいて判断する限り、登録者が本件ドメイン名を使用している事 実も、本件ドメイン名と関連する名称を使用している事実も認められず、紛争処理 方針4条(c)記載の各事情も認められない。 よって、登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有している とは認められない。 (3)不正の目的での登録または使用 登録者と申立人の間で交渉等が行われた事実は認められず、また、登録者から答 弁書が提出されていないことから、例外的な事情がない以上、申立書に基づいて判 断する限り、以下の事情が認められる。 ア 登録者が本件ドメイン名を採用すべき理由が存在しないこと 登録者の氏名は「Li」であり、「VRBO」とは何らの関係もない。また、上記(2) において認定したとおり、登録者が本件ドメイン名ないしこれに関連する名称を使 用している事実も認められない。 よって、登録者が本件ドメイン名を採用すべき理由は存在しない。 イ 申立人商標が周知であったこと 申立人が提出する証拠によれば、申立人は、世界最大級の旅行通販会社の一つで あるエクスペディアグループに属する企業で(甲5)、申立人商標にかかる「VRBO」 のブランドの下で、200万件以上の予約可能な宿泊施設が掲載されたウェブサイ トを通じて民泊の仲介サービスを提供している(甲6)。 申立人商標にかかる「VRBO」ブランドは、2010年12月31日に申立人が買 収した1995年設立の米国法人VRBO.com, LLC(甲7)が、「Vacation Rentals by Owner」の頭文字を組み合わせた「VRBO」という単語を造語し、同ブランドは、 同社の時代から現在まで25年以上もの間、民泊の仲介サービスに使用され続けて おり(甲8ないし21)、同ブランドの下での2019年度の全世界での売上高は、 親会社であるエクスペディアグループの総収益の10%強にあたる13億400 0万米ドル(約1500億円)にも及んでいる(甲22)。 申立人ウェブサイトは、毎月平均750万人以上の旅行者に閲覧され(甲23)、 ダウンロード可能な申立人のアプリケーションは1000万回以上ダウンロード されている(甲37) 日本国内においては、2020年3月より日本語版のウェブサイトを開始したほ か(甲24ないし35)、国内において各種ソーシャルネットワーキングサイトを 通じて宣伝広告も行っている(甲36)。 本件ドメイン名が登録された2020年11月1日(甲4)以前においても、申立 人ブランドは、民泊の仲介サービスを行う代表的な企業として新聞記事(甲43、 44)や雑誌記事(甲38)にとりあげられており、その後も新聞記事や雑誌記事 に多く紹介されている(甲36、37、39ないし42、45ないし47)。 以上の各事実からすれば、申立人ブランドに係る申立人商標は、遅くとも本件ド メイン名が登録された2020年11月1日以前に、民泊サービスの需要者や旅行 業界に関わる取引事業者の間で広く知られている商標となっていたことが認めら れる。よって、登録者が本件ドメイン名を取得した際には、申立人商標の存在を認 識していたことが推認できる。 ウ 登録者の本件ドメイン名の取得が転売目的と考えられること 登録者が申立人に対して本件ドメイン名の買い取りを要求してきた事実は認め られない。 しかし、本件ドメイン名は、あるウェブサイトにおいては8500米ドルで販売 の申し出がなされ(甲49)、他のウェブサイトにおいては9999米ドルで販売 の申し出がなされている(甲50、51)。これらの申し出を行っているのが登録 者であるか否かは確認できないが、本件ドメイン名の所有者は登録者であり、所有 者に無断で販売の申し出がなされるとは考えにくいことから、少なくとも登録者が 本件ドメイン名を第三者に販売することを了承していると認められる。 本件ドメイン名が登録されたのが2020年11月1日であり(甲4)、前記(2) 項において認定したとおり、登録者自身が使用した事実が認められないにもかかわ らず、本件ドメイン名の販売の申し出が複数のウェブサイトにおいてなされている ことからすると、登録者が本件ドメイン名を取得したのは、転売することが主たる 目的であったと推認できる。 エ 小括 以上の事実からすれば、登録者は、申立人の周知の商標を知りながら、主として 転売目的で本件ドメイン名を取得したものであると考えられることから、本件ドメ イン名は不正の目的で登録されたものと認められる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録された本件ドメイン名が申 立人商標と同一または混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する 権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録されて いるものと判断する。 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「VRBO.JP」の登録を申立人に移転す るものとし、主文のとおり裁定する。 2023年6月7日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 相良 由里子 別記 手続の経緯 (1)申立書の受領 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2023年3月31 日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。 (2)申立手数料の受領 センターは、2023年4月4日に申立人より申立手数料を受領した。 (3)ドメイン名及び登録者の確認 センターは、2023年4月4日にJPRSに登録情報を照会し、2023年4月 4日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であること を確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住 所等を受領した。 (4)適式性 センターは、2023年4月5日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合して いることを確認した。 (5)手続開始 センターは、2023年4月11日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子 的送信により、手続開始を通知した。センターは、2023年4月11日に登録者に 対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対 し、手続開始日(2023年4月11日)、答弁書提出期限(2023年5月12日) 並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し、登録者の住所に送 付した通知は「あて名不完全で配達できません」として返送された。 (6)答弁書の提出 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2023年5月15 日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送 信により申立人及び登録者に送付した。 (7)パネルの指名及び裁定予定日の通知 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2 023年5月19日に弁護士 相良 由里子を単独パネリストとして指名し、一件書 類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2023年5月19日に申立 人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト 及び裁定予定日(2023年6月8日)を通知した。パネルは、2023年5月31 日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。 (8)パネルによる審理・裁定 パネルは、2023年6月7日に審理を終了し、裁定を行った。