事件番号:JP2023-0009 裁 定 申立人: (氏名/名称)株式会社カネカ (住所)大阪市 ●(省略)● 代理人:弁理士 五味 和泰 代理人:弁理士 西野 吉徳 登録者: (氏名/名称)Stephen PECKHAM (住所)東京都新宿区 ●(省略)● 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処 理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」とい う。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則 並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり 裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「kanekacorporation.jp」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「kanekacorporation.jp」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人の主張は以下のように、整理できる。 申立人は、1949年に「鐘淵化学工業株式会社」として、設立された総合化学メーカーで あり、2004年に商号を「鐘淵化学工業株式会社」から「株式会社カネカ」に商号変更した。 現在、申立人は、東京証券取引所プライム市場に上場している日本国内のみならず、全世 界的にも周知又は著名な企業である。 そして、その事業範囲は、化成品、機能性樹脂、発泡樹脂製品、食品、医薬品、医療機 器、電子材料、太陽電池、合成繊維などの製造及び販売や、建築工法のライセンス及び建 築資材の販売などにも及ぶものである。 申立の根拠となる商標は、商標登録第4198651号「kaneka/カネカ」(指定商品第1類 「化学品,植物成長調整剤類,のり及び接着剤(事務用又は家庭用のものを除く。)」、平成 9(1997)年5月28日出願、平成10(1998)年10月16日登録)(甲第4号証)ほか、多 くの「kaneka」「KANEKA」「カネカ」を含む登録商標(甲第5号証)である。 「kaneka」「カネカ」商標は、化学品をはじめとする、多くの商品や役務に使用されてい る(甲第6号証及び甲第7号証)。甲第6号証に示されているように、申立人は、ドメイン名 として「kakeka」を使用している。 登録者のドメイン名「kanekacorporation.jp」は、「corporation」の文字は、「会社」を 意味するものであり、商標としての自他商品・役務の識別力を有する部分は、「kaneka」の 部分であるので、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混 同を引き起こすほど類似している。 商標調査の結果、我が国には、申立人以外に「kaneka」の商標権者はおらず(甲第8号 証)、「kanekacorporation」の商標権者もいないので(甲第9号証)、登録者は、本件ドメ イン名に関係する権利または正当な利益を有していない。 登録者の「kanekacorporation.jp」のドメイン名は、申立人を騙った不正なWebサイト の構築及び申立人役員を騙った不正なメールの発信に使用されており、不正の目的で登録 または使用されている(甲第10号証乃至甲第12号証)。 よって、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメ イン名に関係する正当な利益を有しておらず、ドメイン名は不正の目的で登録または使用 されている。 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 a 適用すべき判断基準 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原 則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結 果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に 従って、裁定を下さなければならない。」 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し ている。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること b 紛争処理パネルの判断 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 本件ドメイン名「kanekacorporation.jp」のうち、「.jp」の部分は汎用JPドメイン名 に共通して使用される部分であるので、本件ドメイン名の要部は「kanekacorporation」で ある。「kanekacorporation」のうち「corporation」の部分は法人を意味し社名に汎用さ れる部分であって識別力がないので、識別力ある部分は「kaneka」である。 よって、申立人が権利を有する「kaneka」等の「カネカ」の称呼を生ずる商標と同一又 は混同を引き起こすほど類似していると認められる。 また、申立人の英文名称は「KANEKA CORPORATION」であるので(甲第3号証)、申立人は 同表示についても権利又は正当な利益を有しているところ、同表示は本件ドメイン名の要 部と同一性があるので、この点からも、本件ドメイン名は申立人の業務と混同を引き起こ す可能性が高いといえる。 (2)権利または正当な利益 登録者からは答弁書が提出されておらず、申立書に基づいて判断する限り、紛争処理方 針4条(c)記載の各事情も認められない。よって、登録者が本件ドメイン名に関係する権 利または正当な利益を有しているとはいえない。 (3)不正の目的での登録または使用 本件ドメインは、申立人商標「kaneka」を表示して申立人ホームページを装った偽サイ トに使用され(甲第10号証)、申立人の監査役を装った偽メールアドレスに使用されてい る(甲第11号証及び甲第12号証)。これらの行為から、紛争処理方針第4条b(iii)の 競業者の事業を混乱させる目的又は同(iv)の商業上の利益を得る目的が窺われ、実際に 、申立人の信用を毀損する結果となった行為といえる。 よって、本件ドメインは不正の目的で登録又は使用されていると認められる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「kanekacorporation.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ド メイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の 目的で登録または使用されているものと判断する。 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「kanekacorporation.jp」の登録を申 立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。 2023年12月11日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 西村 雅子 別記 手続の経緯 (1)申立書の受領 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2023年10月4日 に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。 (2)申立手数料の受領 センターは、2023年10月5日に申立人より申立手数料を受領した。 (3)ドメイン名及び登録者の確認 センターは、2023年10月6日にJPRSに登録情報を照会し、2023年1 0月6日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及 び住所等を受領した。 (4)適式性 センターは、2023年10月13日に補正(証拠説明書の記載事項の修正)が必 要と判断してその旨を申立人に通知し、2023年10月13日に補正書類を受領し、 2023年10月13日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを 確認した。 (5)手続開始 センターは、2023年10月18日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電 子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2023年10月18日に登録者 に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対 し、手続開始日(2023年10月18日)、答弁書提出期限(2023年11月16 日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 (6)答弁書の提出 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2023年11月1 7日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送 信により申立人及び登録者に送付した。 (7)パネルの指名及び裁定予定日の通知 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2 023年11月24日に弁理士 西村 雅子を単独パネリストとして指名し、一件書 類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2023年11月24日に申立 人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及 び裁定予定日(2023年12月14日)を通知した。パネルは、2023年11月2 4日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。 (8)パネルによる審理・裁定 パネルは、2023年12月11日に審理を終了し、裁定を行った。