事件番号:JP2023-0010

                  裁 定

  申立人:
   名称:株式会社NTTドコモ
   住所:東京都千代田区 ●(省略)●
  代理人:弁護士 大野 聖二、弁護士 山口 裕司、弁理士 土生 真之
  登録者:
   氏名(名称):Taka Technologies Co., Ltd. WHOISプライバシーサービス
   住所:東京都中野区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処
理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」とい
う。)および日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補
則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとお
り裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「BIZSOLUTION-DOCOMO.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「BIZSOLUTION-DOCOMO.JP」である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人の主張は以下のように、整理できる。
 (1)「登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること」について
 申立人は、日本最大の移動体通信業者であり、親会社である日本電信電話株式会社が商
標権者である商標「DOCOMO」および「docomo」(甲第1号証、以下、「本件登録商標」と
いう。)について専用使用権を有し(甲第2号証)、1992年より本件登録商標を継続して
使用している。日本の移動系通信の約4割のシェアを有している申立人のサービスのブラ
ンドであるこれらの本件登録商標は、著名な商標であって、強い識別力がある。
 登録者のドメイン名「BIZSOLUTION-DOCOMO.JP」(以下、「本件ドメイン名」という。)の
要部に当たる「DOCOMO」の部分には、申立人が権利(専用使用権)または正当な利益を有
する本件登録商標がそのまま使われており、本件ドメイン名が、申立人が権利または正当
な利益を有する商標その他の表示と同一または混同を引き起こすほど類似していることは
明らかである。
 (2)「登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと」
について
 申立人が登録者に対して本件登録商標の使用を承諾したことはなく、申立人が本件ドメ
イン名を2023年3月末まで登録していたことからして、登録者が本件ドメイン名の名称
で⼀般に認識されていた(処理方針4条c(ii))とは言えない。本件ドメイン名を登録者
が登録してから約半年が経つが、本件ドメイン名に係るウェブサイトにアクセスしようと
しても「このサイトにアクセスできません」と表示されるだけであり(甲第10号証)、登
録者が商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、本件ドメイン名また
はこれに対応する名称を使用しているとは認められないし、本件ドメイン名の使用の準備
をしていた(処理方針4条c(i))とも考えられない。また、申立人が「Biz Solution by
docomo」というビジネス情報サイトを運営していた時期に外部サイトから貼られたウェブ
リンク(バックリンク)はインターネット上に依然として複数残っており(甲第11号証
の1ないし4)、申立人の過去のウェブサイトにアクセスしようとしたインターネットユ
ーザーが本件ドメイン名に係る登録者のウェブサイトにアクセスする可能性も高いので、
消費者の誤認を惹き起こしたり、申立人の商標その他表示の価値を毀損したりする意図な
く、本件ドメイン名を非商業的に使用し、または公正に使用する目的がある(処理方針4
条c(iii))とはおよそ想定できない。したがって、登録者が、本件ドメイン名に関係する
権利または正当な利益を有していることはあり得ない。
 (3)「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」につ
いて
 日本の移動系通信の約4割のシェアを有している申立人が、商品・サービスのブランド
として1992年以来30年以上使用している申立人の本件登録商標が著名であることは前述
したとおりであり、登録者が、申立人の本件登録商標を知らなかったとは到底考えられな
い。多くの閲覧者が訪問し、複数のバックリンクが存在するウェブサイトで使用されてい
たドメイン名はSEO(検索エンジン最適化)対策において利用価値が高く、高値で売買さ
れることがあるため、登録者が、転売目的で本件ドメイン名をドロップキャッチして保有
していることも強く推認される(処理方針4条b(i)参照)。また、バックリンクやブック
マークを辿ってサイトに訪れる利用者を狙って個人情報や不正な金銭的利得を得ることを
目的としたフィッシングサイト等に、将来的に、本件ドメイン名を利用し、申立人の事業
を妨害したり、混乱させたり、誤認混同を生ぜしめたりすることを意図していたことも容
易に推認される(処理方針4条b(ii)ないし(iv)参照)。
 なお、登録者と代表取締役を同じくする有限会社Takaエンタプライズは、JP Domains
というドメイン名登録サービスの中で、失効ドメインのドロップキャッチサービスを提供
し、ウェブサイトでも宣伝している(甲第12号証の1ないし3)。有限会社Takaエンタ
プライズは、(2)で前述した株式会社トリート対Taka Enterprise Ltd. WHOISプライバ
シーサービス事件裁定JP2022-0007 <MISSTREAT.JP>や株式会社読売新聞西部本社対Taka
Enterprise Ltd. WHOISプライバシーサービス事件裁定JP2023-0002 <YOMIURI-CG.JP>に
おいて、当該事件の申立人が登録の更新を行わなかったドメイン名の取得を行っていたこ
とについて、不正の目的での登録または使用が認定されている。
 本件ドメイン名は、いわゆる消極的保持(passive holding)の状況にあるが、消極的保
持の事案であるからといって、不正の目的による登録または使用という要件が認められな
いわけではないと貴センターの裁定例は解しているし(バイトダンス株式会社対古屋隆大
事件裁定JP2020-0009 <BYTEDANCE.JP>参照)、JP-DRP研究会「JP-DRP解説」
(https://www.nic.ad.jp/ja/drp/JP-DRPguide.pdf 2008年3月)20頁も同様に解して
いる。世界知的所有権機関仲裁調停センターにおいても、申立人の商標の識別性または評
判の程度(the degree of distinctiveness or reputation of the complainant's mark)
や登録者の身元の秘匿(the respondent’s concealing its identity)等の要素を考慮し
て、不正の目的を認定することは妨げられないと解されている(WIPO Overview of WIPO
Panel Views on Selected UDRP Questions, Third Edition第3.3項参照)。
 本件において、登録者が提供するプライバシーサービスにより、正体が伏せられている
利害関係人がいるとしても、「『公開された』登録者が、実際には別のプライバシーまたは
プロキシ・サービスのように見える場合・・・、このような多層的な不明瞭化・・・の可
能性は、登録者不正の目的を推論する根拠となり得る(where a “disclosed” registrant
is in turn what appears to be yet another privacy or proxy service … , such multi-
layered obfuscation … may support an inference of a respondent’s bad faith)」と
解されるのである(WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions,
Third Edition第4.4.6項参照)。
 以上により、登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
は明らかである。
 上記に基づき、申立人は、本件ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに
類似し、登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、ドメイン名は不正の
目的で登録または使用されていると主張し、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する
ものである。

 b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 a 適用すべき判断基準
 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類および審問の
結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条
理に従って、裁定を下さなければならない。」
 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し
ている。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 b 紛争処理パネルの判断
 (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
 登録者のドメイン名は、「BIZSOLUTION-DOCOMO.JP」である。本件ドメイン名「BIZSOLUTION-
DOCOMO.JP」において「.JP」は日本を意味するトップレベルドメインであって類否判断に
は影響しない部分である。「BIZSOLUTION‐DOCOMO」の部分は全体として一体のものとして
認識するには冗長に過ぎ、また、間に「‐」を有しているため、視覚的にも分離して理解
されるものである。ここで、「BIZSOLUTION」の部分は、申立人主張のように「BIZ」は「ビ
ジネス(business)」の略語であり、「SOLUTION」は「課題解決を支援する製品やサービス」
程度の意味を有する語であるから、「BIZSOULUTION」は「ビジネスの課題解決を支援する製
品やサービス」という商品やサービスの内容・特徴を記述的に記載した語であると理解さ
れ得る。そうとすると、本件ドメイン名の要部は「DOCOMO」の部分と考えるのが相当であ
って、申立人が専用使用権を有し、申立人のサービスを表す商標として著名な商標「DOCOMO」
と混同を惹き起こすほどに類似していると判断する。

 (2)権利または正当な利益
 本件ドメイン名の登録者は、答弁書を提出することなく、登録者は権利または正当な利
益の存在について何ら実質的な主張を行っていない。
 一方、申立人が専用使用権者である本件登録商標の申立人のサービスブランドとしての
著名性および申立人が主張するように、「申立人が本件ドメイン名を2023年3月末まで登
録していたことからして、登録者が本件ドメイン名の名称で⼀般に認識されていた(処理
方針4条c(ii))とは言え」ず、「本件ドメイン名に係るウェブサイトにアクセスしようと
しても「このサイトにアクセスできません」と表示されるだけ(甲第10号証)」であるこ
とから、登録者が商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、本件ドメイ
ン名またはこれに対応する名称を使用しているとも認められず、または明らかにその使
用の準備をしていた(処理方針4条c(i))とも考えられない。さらに、申立人が登録者に
対して本件登録商標の使用を承諾したことはない。
 したがって、登録者には、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してい
るという事情は認められない。

 (3)不正の目的での登録または使用
 申立人は、日本最大の移動体通信事業者であり、2023年度第一四半期(2023年6月)に
おける携帯電話契約件数は8796万5500件である。また、申立人の主張および提出した証
拠により、申立人は、遅くとも2017年から本件ドメイン名を運用しており(甲第6号証)、
本件ドメイン名を用いて「Biz Solution by docomo」というビジネス情報サイトを開設し
ており(甲第7号証)、その後、申立人が同ドメイン名を2023年3月に廃止したところ、
廃止申請月の月末から1か月間の一時凍結期間(汎用JPドメイン名登録等に関する規則
第24条)を経て本件ドメイン名を新たに登録が可能となった2023年5月1日と同日に、
登録者が本件ドメイン名を登録したことが認められる。また、申立人が「Biz Solution by
docomo」というビジネス情報サイトを運営していた時期に外部サイトから貼られたウェブ
リンク(バックリンク)はインターネット上に依然として複数残っている(甲第11号証の
1ないし4)ことも認められる。
 上記を勘案するに、登録者は少なくとも本件ドメイン名の登録時において、当該ドメイ
ン名が申立人のサービスを表すものとして著名であり、これを使用すれば、インターネッ
トユーザーが申立人の本件登録商標と誤認混同が生じることを認識していたと考えられる。
 以上の理由から、登録者が実質的な反論を行わないところにおいて申立人の主張および
提出された証拠によれば、その主張に沿った事実が概ね認められるのであり、登録者は当
該ドメイン名を不正の目的で登録したものと推認される。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「BIZSOLUTION-DOCOMO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ド
メイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が少なく
とも不正の目的で登録されているものと判断する。
 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「BIZSOLUTION-DOCOMO.JP」の登録を申
立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

  2024年1月7日
   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    本多敬子


別記 手続の経緯

(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下、「センター」という。)は、2023年10月
27日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2023年10月30日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名および登録者の確認
   センターは、2023年10月30日にJPRSに登録情報を照会し、2023年
10月31日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレスおよび
住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2023年11月2日に補正(証拠説明書の記載事項の修正)が必要
と判断してその旨を申立人に通知し、2023年11月2日に補正書類を受領し、202
3年11月2日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2023年11月8日に申立人、JPNICおよびJPRSに対し電
子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2023年11月8日に登録者に対
し郵送および電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、
手続開始日(2023年11月8日)、答弁書提出期限(2023年12月7日)並びに
書面の受領および提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2023年12月8
日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信に
より申立人および登録者に送付した。
(7)パネルの指名および裁定予定日の通知
   申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
023年12月13日に弁理士 本多 敬子を単独パネリストとして指名し、一件書類を
電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2023年12月13日に申立人、登
録者、JPNICおよびJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリストおよび裁
定予定日(2024年1月9日)を通知した。パネルは、2023年12月28日に公正
性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2024年1月7日に審理を終了し、裁定を行った。