事件番号:JP2024-0003
裁定
- 申立人:
-
(名称)株式会社NTTドコモ
(住所)東京都千代田区 ●(省略)● - 登録者:
-
(氏名)清水志
(住所)東京都台東区 ●(省略)●
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)および日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則ならびに条理に則り、 申立書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「DOCOMO-EXHIBITION.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)は「DOCOMO-EXHIBITION.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、日本電信電話株式会社(以下、「NTT」という。)の完全子会社であり、 日本最大手の移動体通信事業者である。
NTTは、「DOCOMO」の文字からなる登録第5213789号を保有しており(甲第2号証、 以下「本件登録商標」という。)、 申立人は当該登録商標の専用使用権者である(甲第3号証)。
なお、NTTは他に3件の「DOCOMO(docomo)」の文字からなる登録商標を保有しており(甲第4号証)、 申立人はこれら3件についても専用使用権者となっている。 さらに、甲第6号証に示すように、 申立人は「DOCOMO(docomo)」の文字列を含む登録商標を多数保有している。
申立人は、日本最大手の移動体通信業者であり、 携帯電話サービス契約数は2022年度時点で約8749万件であり、 そのシェアは43.1%となっており(甲第8号証)、また、 ドコモグループとしての2022年度の営業収益は約6兆590億円となっている(甲第9号証)。
「DOCOMO-EXHIBITION.JP」は、 2010年6月4日から2016年7月31日まで申立人が所有しており(甲第12号証)、 2010年から2012年にかけて、 「DOCOMO-EXHIBITION.JP」を通信業界の展示会用のスペシャルサイトのドメインとして毎年使用していた(甲第13号証、甲第14号証)。 また、本ドメインは最先端IT・エレクトロニクス総合展「CEATEC JAPAN」のスペシャルサイトのドメインとしても使用されていた(甲第15号証)。
本件ドメイン名は、2022年4月1日に登録された(甲第1号証)。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張は以下のように、整理できる。
本件ドメイン名「DOCOMO-EXHIBITION.JP」は、 申立人が専用使用権を有する登録商標「DOCOMO」と類似する。
申立人は、登録者の氏名等と本件ドメイン名の不一致、 ドメイン名と一致する日本の登録商標の不存在、第三者へのライセンスは不存在であり、 「DOCOMO」を要部とする「DOCOMO-EXHIBITION.JP」を申立人とは無関係の登録者が登録・使用することは、 申立人の著名性にフリーライドして商業上の利得を得るなどの、 登録者の不正の目的が強く推認できる行為である。
登録者のウェブサイト(甲第17号証、以下、 「本件ウェブサイト」という。)で買い取りを行っているスマートフォンやタブレットは申立人の事業に深くかかわる商品であることから、 ウェブサイトの運営者が著名な「DOCOMO」の登録商標の存在を知らずに本件ドメイン名を使用しているとは考えられない。 そして、本件ドメイン名を使用して本件ウェブサイトに転送することは、 「DOCOMO」ブランドの著名性にフリーライドし、本件ウェブサイトがあたかも申立人と取引提携関係、 推奨関係などを有する買取サイトであると誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを本件ウェブサイトに誘引しようとしていることを強く推認できる行為である。
したがって、本件ドメイン名は、 申立人が権利または正当な利益を有する商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されているものであり、 申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者は、答弁書を提出し、当該ドメイン名についての正当な権利を有していること、 混同のおそれがないこと、不正の目的がないことを以下のように主張する。
本件ドメイン名は、 申立人が所有権を放棄後中古ドメインオークション(お名前.com ドメインオークション)に流出した本件ドメイン名を、 登録者が正規の手続きを経て、購入、登録したものであって、 不正な手段で取得したものではなく、本件ドメイン名について正当な権利を有している。
登録者の事業は中古スマートフォンやタブレットの販売であるから、 「EXHIBITION」が意味する「展示会」や「見本市」とは役務が類似しない。 さらに、登録者のウェブサイトには「DOCOMO-EXHIBITION.JP」、 「docomo」その他の関連会社を示唆する表記は一切なく、 需要者が申立人の表示と誤認・混同を生じる原因自体が存在しない。
また、登録者は、本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されているとされる点につき、 本件ドメイン名を不当に高額な値段で転売する目的がないこと、 他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的がないこと、 本件ドメイン名は2018年から3年間アフィリエイト関連のウェブサイトとして運用されていたため、 「docomo」の関連ではなくアフィリエイト関連のウェブサイトのドメイン名として一般に認識されていること、 などを主張し、本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものではないと反論する。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類および審問の結果に基づき、処理方針、 本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
登録者のドメイン名は、「DOCOMO-EXHIBITION.JP」である。 本件ドメイン名において「.JP」は日本を意味するトップレベルドメインであって類否判断には影響しない部分である。 また、「DOCOMO-EXHIBITION」の部分は、 日本最大手の移動体通信事業者である申立人が専用使用権を所有し、 30年以上使用している「DOCOMO」の文字部分と、 「展示会」「見本市」を意味する「EXHIBITION」の語を「-」(ハイフン)で結合したものであるから、 本件ドメイン名の要部は「DOCOMO」または「DOCOMO-EXHIBITION」と認められる。 そうとすると、本件ドメイン名は、 本件登録商標や申立人のサービスを表す著名な商標「DOCOMO」と商標等表示の構成、 すなわち、文字、番号、記号等構成に即して混同を引き起こすほど類似していると判断する。
この点、登録者はその事業は中古スマートフォンやタブレットの販売であるから、 本件ドメイン名に含まれる「EXHIBITION」が意味する「展示会」や「見本市」とは役務が類似しない、と主張する。
しかし、同一または混同を引き起こすほどの類似性を議論する場面において、 本件登録商標の指定商品・役務または申立人の「DOCOMO」の表示が使用される商品・役務と本件ドメイン名が使用される商品・役務との同一性・類似性を問題とするのであればともかく、 本件ドメイン名に含まれる「EXHIBITION」の語の意味と登録者の事業内容を比較したところで、 何ら意味をなすものではない。
したがって、登録者の主張は当を得ず、 本件ドメイン名は申立人が専用使用権者である登録商標や申立人のサービスを表す著名な商標「DOCOMO」と類似するとの結論は変わらない。
さらに、登録者は、本件ドメイン名を正規なルートで入手したこと、 本件ドメイン名が被リンクとして使用されていることに止まることついて述べている。 しかし、ここでは、 新規に入手したドメイン名が他人の登録商標等と同一または混同を引き起こすほどの類似性を有するか否かが問題になるのであるから、 登録者の述べるところの事情はおよそ関係のないものであり、 上述の判断を左右するものではない。
(2)権利または正当な利益
申立人の主張および提出する証拠により、本件ドメイン名の登録者と本件ドメイン名とは一致せず、 登録者が本件ドメイン名と一致する日本の登録商標を保有している事実もない(甲第6号証)ことが認められる。 そして、申立人が専用使用権者である本件登録商標の申立人のサービスブランドとしての著名性に鑑みれば、 登録者が「本件ドメイン名の名称で⼀般に認識されていた(処理方針4条c(ii))」ことは認められない。
登録者は、「申立人がその所有権を放棄したものを正規の中古市場で取得したものですから、 登録者は当該ドメイン名に関係する正当な権利を有している」とする。 しかしながら、 本件ドメイン名の「DOCOMO」の文字部分は申立人のサービスを表すものとして登録者が本件ドメイン名を取得・登録した際にも著名であったことが認められるものであり、 NTTおよび申立人は、NTTおよび申立人の把握していない第三者に登録商標に係る商標の使用やドメインの登録および使用を許諾したことはなく、 本件ドメインの使用に関してライセンスをした事実も存在しない。
また、登録者の答弁によると、登録者の事業が中古スマートフォンやタブレットの販売であるところ、 これは日本最大手の移動体通信事業者である申立人の扱う商品等と相紛らわし商品である。 そして、甲第16号証の1、 3および甲第17号証によって示されている本件ドメイン名の使用態様を考慮しても、 「登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、 または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、 当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用している(処理方針4条c(ⅲ))」とは認められない。
したがって、登録者には、 本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しているという登録者の答弁は認められない。
(3)不正の目的での登録または使用
申立人による30年以上にわたる「DOCOMO」または「DoCoMo」「docomo」「ドコモ」の表示の使用期間、 および、申立人の携帯電話の契約数とシェア、その営業収益を考慮すると、 本件ドメイン名の登録日である2022年4月1日において本件ドメイン名の要部と認められる「DOCOMO」が申立人を表示するものとして非常に高い著名性を有していることは明白である。
そして、申立人は遅くとも2024年3月20日には、 甲第17号証に示すとおりの本件ウェブサイト「スマホ・タブレット高価買取/Amemoba」のページの一つ(https://amemoba.com/smartphone/iphone/)に転送するためのドメインとして使用が開始されたことが伺える(甲第16号証の1、3)とする。
一方、登録者は、本件ドメイン名を被リンクのみとして利用しており、 検索エンジン経由で本件ドメイン名がヒットして検索結果に表示されることはないと主張するが、 需要者がブラウザに本件ドメイン名を正確に入力するか、 申立人が提示したウェブサイトからのリンク経由でアクセスできることは認めている。
このような状況において、「DOCOMO」の文字列を含み、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と混同を引き起こすほど類似する本件ドメイン名を使用して、 本件ウェブサイトに転送することは、「DOCOMO」ブランドの著名性にフリーライドし、 本件ウェブサイトがあたかも申立人と取引提携関係、 推奨関係などを有する買取サイトであると誤認混同を惹起せしめるおそれがあることは否定できない。
登録者は、本件ドメイン名は2018年から2021年にかけて、 アフィリエイト関連のウェブサイトとして運用されていたことが確認されているため、 「docomo」の関連ではなくアフィリエイト関連の申ウェブサイトのドメイン名として一般に認識されていることなどを主張し、 本件ドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものではないと反論する。 しかし、本件ドメイン名中の「DOCOMO」の文字部分が現在も申立人の商標として著名であること、 登録者の扱う商品がスマートフォンやタブレットであり、 申立人の商品と共通することに照らしてみれば、本件ドメイン名に接した需要者は、 申立人と何等かの関係性あるドメイン名であると誤認するおそれは否定できない。
したがって、登録者の反論を考慮しても、 申立人が主張および提出された証拠によりその主張に沿った事実が概ね認められるのであり、 「登録者が、商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品およびサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、 推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用している」(処理方針4条bⅳ)ことが推認され、 登録者は当該ドメイン名を不正の目的で登録したものと判断する。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「DOCOMO-EXHIBITION.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針4条iに従って、 ドメイン名「DOCOMO-EXHIBITION.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。
2024年7月3日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 本多敬子
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年4月30日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2024年4月30日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2024年4月30日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年4月30日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、2024年5月5日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2024年5月9日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、2024年5月9日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2024年5月9日)、 答弁書提出期限(2024年6月6日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
センターは、2024年6月6日に答弁書を登録者から電子的送信により受領した。 センターは、2024年6月6日に補正(答弁書の記載事項の修正等)が必要と判断してその旨を登録者に通知し、 2024年6月6日に補正書類を受領した。 センターは、2024年6月7日に答弁書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認し、 2024年6月7日に申立人に対し電子的送信により送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2024年6月13日に弁理士 本多 敬子を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年6月13日に申立人、 登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年7月3日)を通知した。 パネルは、2024年6月14日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2024年7月3日に審理を終了し、裁定を行った。