事件番号:JP2024-0007
裁定
- 申立人:
-
(名称)株式会社NTTドコモ
(住所)東京都千代田区 ●(省略)● - 代理人:
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弁理士 網野友康
弁理士 網野誠彦 - 登録者:
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(氏名)Metodi Darzev
(住所)●(省略)● Sofia
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」という。)および日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「IMODE-PRESS.JP」の登録を申立人に移転せよ
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)は「IMODE-PRESS.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、移動体通信業者であり、日本電信電話株式会社の完全子会社である。 「iモード」(アイモード、i-mode)は、申立人が1999年から提供している携帯電話からインターネットやメールを利用できるサービスであって、2003年10月には契約数が4,000万人を突破した。同サービスは既に新規受付を停止してはいるが、現在もサービスの提供は継続されている(甲第2号証)。
申立人は上記「iモード」(アイモード、i-mode)に関連する登録商標を多数保有している(甲第3号証)。
以下の4件については防護標章登録も受けている。
「i―mode」(登録第4602350号)(甲第4号証の1)
「iモード」(登録第4602351号)(甲第4号証の2)
「i―mode」(登録第4602350号防護第01号)(甲第5号証の1)
「iモード」(登録第4602351号防護第01号)(甲第5号証の2)
本件ドメイン名「IMODE-PRESS.JP」は、2006年10月5日から2010年10月31日まで申立人が所有しており(甲第9号証)、遅くとも2007年2月5日から2010年3月1日まで、申立人が提供するサービスである「iモード」の情報を提供する申立人の公式サイトとして使用していた(甲第10号証)。
本件ドメイン名は、2022年4月1日に登録された(甲第1号証)。
5 当事者の主張
a 申立人
申立人の主張は以下のように、整理できる。
(1)「登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること」について
申立人は、日本電信電話株式会社の完全子会社であり、日本最大手の移動体通信業者であり、「iモード」(アイモード、i-mode)は、申立人が1999年から提供している携帯電話からインターネットやメールを利用できるサービスであって、2003年10月には 契約数が4,000万人を突破した画期的なサービスである。同サービスは既に新規受付を停止してはいるが、現在もサービスの提供は継続されており(甲第2号証)、現在においても申立人が提供するサービスとして高い知名度を有する。
以上のとおり、申立人は上記登録商標および「iモード」「アイモード」「i-mode」の表示について権利および正当な利益を有している。
本件ドメイン名「IMODE-PRESS.JP」中、「.JP」の部分は国別コードの日本を意味し識別力を有さず、「IMODE-PRESS」において、IMODE」部分は、申立人のサービス名称である「iモード」を英語で表した場合の「imode」と同一文字列であり、後半部分の「PRESS」の語は「雑誌」や「出版社」などを表す語であることから、特定の出所を表すような識別力の強い語ではない。そうすると、本件ドメイン名の構成中、識別力を発揮する要部となるのは「IMODE」部分であると考えることができる。
そして、本件ドメイン名の要部である「IMODE」からは「アイモード」の称呼が生じるところ、同じく「アイモード」の称呼が生じる本件登録商標等と称呼が共通する。
本件ドメイン名全体で見た場合であっても、これに触れた需要者等は「申立人が提供するサービスである『iモード』に関する記事や雑誌等」に関するウェブサイトであることを想起し、申立人と関係のあるウェブサイトと誤認するおそれが非常に高い。
以上のとおりであるから、本件ドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と混同を引き起こすほど類似していることは明らかである。
(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
本件ドメイン名の登録者は「Metodi Darzev」であるところ、これは本件ドメイン名と全く一致しない。
また、申立人の調べる限り、本件ドメイン名と一致する日本の登録商標は存在しない(甲第7号証)。本件ドメイン名の要部である「IMODE」と称呼が共通する日本の登録商標を調べたが、HOYA株式会社の「EYEMODE」、長瀬博仁の「I―MODE―D」以外は全て申立人の所有する登録商標であり(甲第8号証)、登録者の保有する登録商標は存在しなかった。
さらに、申立人は、登録者に登録商標に係る商標の使用やドメイン名の登録および使用を許諾しておらず、本件ドメイン名の使用に関してライセンスをした事実も存在しない。
なお、登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されている事実は確認できず、また、本件ドメイン名の使用状況を考慮すると、登録者は商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用しているとはいえず、本件ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用しているともいえない。
以上のとおりであることから、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない。
(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
申立人は日本最大手の移動体通信事業者であって、申立人が提供するサービスである「iモード」(アイモード、i-mode)が高い知名度を有していることは前述のとおりである。
本件ドメイン名「IMODE-PRESS.JP」は、2006年10月5日から2010年10月31日まで申立人が所有しており(甲第9号証)、遅くとも2007年2月5日から2010年3月1日まで、申立人が提供するサービスである「iモード」の情報を提供する申立人の公式サイトとして使用していた(甲第10号証)。
本申立に係る本件ドメイン名の登録日は2022年4月1日であり(甲第1号証)、その後、遅くとも2022年5月10日から本件ドメイン名は売りに出されていることから(甲第11号証)、本件ドメイン名は販売目的で取得されたものと容易に推測できる。
そして、本件ドメイン名は現在においても、本件ドメイン名の販売および広告収入を得るためのパーキングサイトとして使用されている(甲第12号証)。そのウェブサイトには本件ドメイン名である「imode-press.jp」が表示されており、その真上に「このドメインを購入する。」との表示があり、この「このドメインを購入する。」をクリックすると、名前や連絡先、オファー価格を入力して本件ドメイン名を購入するための連絡を取ることができるようになっている(甲第12号証の1および2)。
なお、登録者が本件ドメイン名を取得した当初から同様のウェブサイトで本件ドメイン名の販売を行っていることから、申立人が提供するサービスである「iモード」(アイモード、i-mode)を知った上で本件ドメイン名を登録し、その知名度の高さにフリーライドして、本件ドメイン名を転売しようとしている意図が強く推認できる。
また、本件ドメイン名が使用されているウェブサイトは広告収入を得るための仕組みとなっており、本件ドメイン名を過去に申立人が使用していた事実や、申立人が提供するサービスである「iモード」(アイモード、i-mode)の知名度の高さを考慮すると、登録者は商業上の利益を得る目的で、申立人と関連するウェブサイトと誤って訪れた者などをリンク先に誘引するために当該ドメインを使用していると考えられる。
なお、ウェブサイトに表示される「コンテンツ」「携帯法人」「ケータイ」は、いずれも申立人の事業に深く関係するワードであり、このことからも、「iモード」(アイモード、i-mode)が申立人の提供するサービスであることを知った上で、これにフリーライドして利益を得ようとする意図が強く推認できる。
本件と同様にパーキングサイトで対象ドメイン名が使用されていた事例で、パーキングサイトでの使用では当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しているとは言えず、不正の目的で登録または使用されていると認定されたケースが複数存在することから、これらのケースも参考となる(JP2007-0010「GUCCI.JP」、JP2014-0002「MYSOFTBANK.JP」、JP2020-0005「BARBOUR.JP」)。
以上のとおりであるから、本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていることは明らかである。
よって、本件ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
したがって、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
5 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
処理方針4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一または混同を引き起こすほどの類似性
登録者のドメイン名は、「IMODE-PRESS.JP」である。本件ドメイン名において「.JP」は日本を意味するトップレベルドメインであって類否判断には影響しない部分である。
また、「IMODE-PRESS」の部分において、後半部分の「PRESS」の語は、申立人主張のとおり「雑誌」や「出版社」などを表す語であることから、ドメイン名の性質上、特定の出所を表すような識別力の強い語ではない一方で「IMODE」は造語であるため、本件ドメイン名は、「IMODE」又は「IMODE-PRESS」と認識され得る。そして「IMODE」の部分は、申立人が所有する登録商標「i―mode」(登録第4602350号)(甲第4号証の1)とハイフンの有無の差異はあるが、その他の文字等構成に即して混同を引き起こすほど類似しているものと判断する。
(2)権利または正当な利益
本件ドメイン名の登録者は、答弁書を提出することなく、登録者は権利または正当な利益の存在について何ら実質的な主張を行っていない。
ここで、申立人の主張および提出された証拠によれば、本件ドメイン名の登録者は「Metodi Darzev」であるところ、これは本件ドメイン名とは一致せず、登録者が本件ドメイン名と一致する日本の登録商標を保有している事実は確認できない(甲第7号証、甲第8号証)。
そして、申立人が所有し、現在も使用している登録商標の著名性に鑑みれば登録者が「本件ドメイン名の名称で⼀般に認識されていた(処理方針4条c(ii))」とは認められず、本件ドメイン名が販売および広告収入を得るためのパーキングサイトとして使用されている(甲第12号証)の使用状況を考慮すると、登録者が「商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用しているとも認められず、または明らかにその使用の準備をしていた(処理方針4条c(i))」ことも認められない。また、申立人は、登録者に登録商標に係る商標の使用やドメインの登録および使用を許諾しておらず、本件ドメイン名の使用に関してライセンスをした事実も存在しないことは申立人の主張により明らかである。
さらに、本件ドメイン名中の「PRESS」の語の意味を考慮すると、本件ドメイン名に触れた需要者等は「申立人が提供するサービスである『iモード』に関する記事や雑誌等」に関するウェブサイトであることを想起し、申立人と関係のあるウェブサイトと誤認するおそれが非常に高いと認められる。また、申立人が主張し提出した証拠(甲第12号証の1ないし3)によって示されている本件ドメイン名が使用されているとするウェブサイトにおける使用態様を考慮しても、「登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用している(処理方針4条c(ⅲ))」ことも認められない。
したがって、登録者が何ら反論を行わないところにおいて登録者には、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しているという事情は認められない。
(3)不正の目的での登録または使用
申立人の主張および提出した証拠によれば、「iモード」(アイモード、i-mode)は、申立人が1999年から提供している携帯電話からインターネットやメールを利用できるサービスであって、2003年10月には契約数が4,000万人を突破した画期的なサービスであり、新規受付を停止してはいても、現在もサービスの提供が継続されている(甲第2号証)こと、申立人が著名性を登録要件とする防護標章登録(商標法64条)「i―mode」(登録第4602350号防護第01号)(甲第5号証の1)および「iモード」(登録第4602351号防護第01号)(甲第5号証の2)を所有していることが認められる。
したがって、申立人の主張するように、「i―mode」、「iモード」は現在においても申立人が提供するサービスとして高い知名度を有するものと認められる。
一方、甲第12号証の1及び2により、本件ドメイン名が現在においても本件ドメイン名の販売および広告収入を得るためのパーキングサイトとして使用されていることが認められる。
その他登録者が実質的な反論を行わないところにおいて申立人の主張および提出された証拠によれば、その主張に沿った事実が認められるのであり、「登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品およびサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用している」(処理方針4条bⅳ)ものと認めざるを得ない。
よって、登録者は本件ドメイン名を不正の目的で登録したものと認定する。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「IMODE-PRESS.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針4条iに従って、ドメイン名「IMODE-PRESS.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。
2024年7月3日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 本多 敬子
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2024年4月30日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2024年4月30日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2024年4月30日にJPRSに登録情報を照会し、2024年4月30日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、2024年5月5日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2024年5月9日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2024年5月9日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2024年5月9日)、答弁書提出期限(2024年6月6日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2024年6月7日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2024年6月13日に弁理士 本多 敬子を単独パネリストとして指名し、一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2024年6月13日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年7月3日)を通知した。パネルは、2024年6月14日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2024年7月3日に審理を終了し、裁定を行った。