事件番号:JP2024-0008

裁定

申立人:
(名称)株式会社NTTドコモ
(住所)東京都千代田区 ●(省略)●
代理人:
弁護士 山口 裕司
弁理士 土生 真之
登録者:
(名称)(仮登録)DocomoSys株式会社 (有限会社Takaエンタプライズ)
(住所)東京都新宿区 ●(省略)●

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

ドメイン名「DOCOMO-SYS.CO.JP」の登録を、申立人に移転せよ

2 ドメイン名

紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は、 「DOCOMO-SYS.CO.JP」である。

3 手続の経緯

別記のとおりである。

4 背景となる事実

申立人は、日本最大の移動体通信事業者であり、 2023年度第4四半期(2024年3月)における携帯電話契約件数は8993万9800件である。

申立人は、次の表1が掲載する登録商標の専用使用権者である。 なお、以下、 表1が掲載するすべての登録商標を一括して「本件登録商標」という。

(表1)
登録番号 商標(検索用) 権利者 出願日 登録日
登録2623495 DOCOMO\ドコモ 日本電信電話株式会社 1991/10/8 1994/2/28
登録2639494 DOCOMO\ドコモ 日本電信電話株式会社 1991/10/8 1994/3/31
登録3154911 DOCOMO\ドコモ 日本電信電話株式会社 1992/9/2 1996/5/31
登録4494077 DoCoMo\ドコモ 日本電信電話株式会社 2000/3/23 2001/7/27
登録5213789 DOCOMO(標準文字) 日本電信電話株式会社 2008/4/14 2009/3/13
登録5213790 docomo(標準文字) 日本電信電話株式会社 2008/4/14 2009/3/13
登録5216232 DOCOMO(標準文字) 日本電信電話株式会社 2009/2/20 2009/3/19
登録5216233 docomo(標準文字) 日本電信電話株式会社 2009/2/20 2009/3/19

本件ドメイン名は、2024年5月1日に登録された。

5 当事者の主張

a 申立人

申立人の主張は以下のように、整理できる。

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること(処理方針4条a(i))

理由

  1. ①申立人は、本件登録商標の商標権者から、 本件登録商標を独占的に使用する権限を許諾された専用使用権者である。
  2. ②本件登録商標は、 日本の移動系通信の約4割のシェアを有している申立人のサービスのブランドである「DOCOMO」及び小文字表記の「docomo」等である。 よって、本件登録商標は、著名な商標であって強い識別力がある。
  3. ③本件ドメイン名は、 2024年5月1日にJPRSのWHOISに仮登録されたものであり、 「DOCOMO」と「SYS」の語が「-(ハイフン)」を介して結合されたサードレベルドメイン、 「CO」のセカンドレベルドメイン及び「JP」のトップレベルドメインから成っている。 このように、 「DOCOMO」の文字列は「-(ハイフン)」を介して他の文字列から独立して認識され、 本件ドメイン名の表示構成上、 本件登録商標がそのまま含まれていることは客観的に明らかである。 表示それ自体を客観的に比較して類否判断を行うという「客観テスト」の手法に基づけば、 本件ドメイン名は本件登録商標に類似する。
  4. ④「DOCOMO」は造語であり、 前述のとおり申立人の商標として著名であるため、 極めて強い識別力を発揮する。 これに対し、 「SYS」は「System」の略語として用いられる語であり、 システム開発業等の業種・業態を記述的に示す語である。 このような記述的な語には独自の識別力はない。
  5. ⑤トップレベルドメインの「JP」は日本国を示す国名コードであり、 セカンドレベルドメインの「CO」は組織の属性を示すコードであって、 常に登録で必要となるものであるから、 混同を引き起こすほどの類似性の要件を判断するに当たって考慮すべきではない。
  6. ⑥従って、「DOCOMO」の部分が、 本件ドメイン名において支配的印象を与える要部として認識される。 したがって、 本件ドメイン名と本件登録商標は要部が共通するため類似する。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

理由

  1. ①本件ドメイン名が現在使用されている事実及びDocomoSys株式会社が設立されている事実は存在しない。
  2. ②本件ドメイン名及びDocomoSys株式会社の商号は、 前記(1)で述べたとおり申立人の著名商標と類似するため、 これらを使用して営業活動をすれば、 商標権侵害あるいは不正競争防止法2条1項1号及び2号違反に該当する。 したがって、本件ドメイン名を正当な目的をもって商品またはサービスの提供を行うために使用できるはずはないのであるから、 本件ドメイン名は「登録者が、 当該ドメイン名に係わる紛争に関し、 第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、 商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、 当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、 または明らかにその使用の準備をしていたとき」(処理方針4条c(i))には該当し得ない。
  3. ③本件ドメイン名は未だ使用されておらず、 商標権侵害あるいは不正競争行為を構成することなく使用できるはずもないのであるから、 「登録者が商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、 当該ドメイン名の名称で一般に認識されていたとき」(処理方針4条c(ii))又は「登録者が、 申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、 または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、 当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、 または公正に使用しているとき」(処理方針4条c(iii))に該当する事情も認められない。
  4. ④本件ドメイン名を登録及び使用することについて、 申立人が登録者に承諾したことはないし、 申立人が調べる限り、 本件ドメイン名に対応する商標登録出願又は商標登録も存在しない。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

理由

  1. ①日本の移動系通信の約4割のシェアを有している申立人が、 商品・サービスのブランドとして1992年以来30年以上使用している申立人の本件登録商標が著名であることは前記(1)で前述したとおりであり、 登録者が、申立人の本件登録商標を不知であったとは到底考えられない。
  2. ②前記(2)で述べたとおり、 申立人の著名商標と類似する商号のDocomoSys株式会社を設立して本件ドメイン名を使用することは、 商標権侵害又は不正競争行為を構成するものであるから、 そのような違法行為を行う不正の目的で本件ドメイン名は登録されていることが明らかである。
  3. ③本件ドメイン名が申立人のグループ会社により最近まで運用されていた経緯も踏まえれば、 登録者が本件ドメイン名を登録したことには、 旧ドコモ・システムズ株式会社、ひいては、 申立人の事業との混同を生じさせることを意図していることが強く窺われ、 「登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、 当該ドメイン名を登録しているとき」(処理方針4条b(iii))に該当する。
  4. ④本件ドメイン名のサイトにアクセスすることによって、 「登録者が、商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、 スポンサーシップ、取引提携関係、 推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき」(処理方針4条b(iv))に容易に該当し得る。
  5. ⑤本件ドメイン名の申請者は有限会社Takaエンタプライズであり、 同社が本件ドメイン名の仮登録に主体的に関与していることが窺える。 同社は申立人の登録商標と類似するドメイン名を過去に登録した経緯もあり(株式会社NTTドコモ 対 Taka Enterprise Ltd. WHOISプライバシーサービス事件裁定JP2023₋0012 < FACELOG.JP>参照)、 「申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために、 登録者が当該ドメイン名を登録し、 当該登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき」(処理方針4条b(ii))にも該当する。
  6. ⑥申立人の本件登録商標の識別性や評判が高く、 登録者が本件登録商標を知らずに本件ドメイン名を使用しているとは考えられないこと等を考慮すれば、 登録者のウェブサイトが現時点では実質的なコンテンツを備えておらず、 消極的保持(passive holding)の事案であるとしても、 不正の目的による登録または使用という要件は満たされている。

よって、本件ドメイン名は、 申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者は本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。 従って、申立人は、本件ドメイン名の登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者

登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

a 適用すべき判断基準

手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

また、処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること(処理方針第4条a(i))
  2. 登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと(処理方針第4条a(ii))
  3. 登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていること(処理方針第4条a(iii))

b 紛争処理パネルの判断

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と、同一または混同を引き起こすほど類似していることについて(処理方針第4条a(i))

本件ドメイン名は、 「DOCOMO」と「SYS」の語が「-(ハイフン)」を介して結合されたサードレベルドメイン、 「CO」のセカンドレベルドメイン及び「JP」のトップレベルドメインから成っている。 ここで、「CO」のセカンドレベルドメイン及び「JP」のトップレベルドメインは、 ドメイン名の登録に必須のものであるから、 本件登録商標との類否判断においては考慮すべきではない。

一方、 本件ドメイン名が含む「DOCOMO」の文字列は「-(ハイフン)」を介して他の文字列から分離独立して認識されうる。 その結果、本件ドメイン名の外観的な表示構成上、 本件登録商標を「そのまま流用」していることが客観的に且つ外観上明らかである。

ドメイン名と申立人の商標が混同を引き起こすほどの類似性があるかの検討においては、 現実の取引状況を想定して出所の混同の有無により類否判断を行う手法、 即ち、「主観テスト」手法と、かかる取引状況の想定を排除し、 表示それ自体を客観的に比較して類否判断を行う「客観テスト」の手法が存在する(JP-DRP 裁定例検討最終報告書 https://www.nic.ad.jp/ja/drp/JP-DRP_team_finalreport.pdf )30頁参照)。

まず、本件につき「客観テスト」の手法に基づき検討すると、 本件ドメイン名は、 その構成上本件登録商標「DOCOMO」をそっくりそのまま流用している。 よって、かかる手法によれば、本件ドメイン名は、 本件登録商標に混同を引き起こすほどの類似性があると判断できる。

一方、本件を「主観テスト」の手法に基づき検討した場合、 本件ドメイン名が含む「DOCOMO」は造語であり、 前述のとおり申立人の商標として著名である極めて強い識別力を発揮する表示である。 これに対し、 本件ドメイン名はその表示が含む「SYS」は「System」の略語として用いられる語であり、 システム開発業等の業種・業態を記述的に示す語である。 よって、現実の取引状況を想定して、 出所の混同の有無により類否判断を行う「主観テスト」を適用しても、 需要者・取引者は申立人の商標として著名であるため極めて強い識別力を発揮する表示である「DOCOMO」の部分に着目し注意を惹くことから、 需要者・取引者が本件ドメイン名「DOCOMO-SYS.CO.JP」の「DOCOMO」表示から、 本件ドメイン名は申立人の商標と混同を引き起こすほど類似しているとの認識に至るものと評価することができる。

従って、 申立人は「同一又は混同を引き起こすほどの類似性(処理方針第4条a(i))」を、 十分に証明したものと判断する。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと(処理方針第4条a(ii))

本申立時において、申立人が主張する通り、 本件ドメイン名が現在使用されている事実及びDocomoSys株式会社が設立されている事実は存在しない。 また、本件ドメイン名及びDocomoSys株式会社の商号は、 前記(1)で述べたとおり申立人の著名商標と類似するため、 これらを使用して営業活動をすれば、 商標権侵害あるいは不正競争防止法2条1項1号及び2号違反に該当すると判断する。

したがって、 本件ドメイン名を正当な目的をもって商品またはサービスの提供を行うために使用できないのであるから、 本件ドメイン名は「登録者が、 当該ドメイン名に係わる紛争に関し、 第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、 商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、 当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、 又は、明らかにその使用の準備をしていたとき」(処理方針第4条c(i))には該当しない。

また、前述の通り、本件ドメイン名は未使用であり、且つ、 商標権侵害あるいは不正競争行為を構成することなく使用できないのであるから、 「登録者が、 商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、 当該ドメイン名の名称で一般に認識されていたとき」(処理方針4条c(ii))、 又は、「登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、 または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、 当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、 または公正に使用しているとき」(処理方針4条c(iii))に該当する事情も認められない。

なお、本件ドメイン名を登録及び使用することについて、 申立人が登録者に承諾した事実は無く、申立人が調べる限り、 本件ドメイン名に対応する商標登録出願又は商標登録も存在しなかった。 従って、登録者は、 本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないと判断する。 よって、申立人は「登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと(処理方針第4条a(ii))」を十分に証明したものと判断する。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること(処理方針第4条a(iii))

本件登録商標は、 日本の移動系通信の約4割のシェアを有している申立人が、 商品・サービスのブランドとして1992年以来、 30年以上継続して使用する著名商標であることは明らかである。 よって、登録者が、申立人の本件登録商標を知らなかったとは到底考えられない。

そして、 申立人の著名商標と類似する商号のDocomoSys株式会社を設立して本件ドメイン名を使用することは、 商標権侵害又は不正競争行為を構成するものであるから、 そのような違法行為を行う不正の目的で本件ドメイン名は登録されていることは明白である。

また、少なくとも2001年から2022年まで、 本件ドメイン名は申立人のグループ企業であったドコモ・システムズ株式会社のウェブサイトにおいて、 継続して使用されていた事実があった。 その後、会社分割および吸収合併による同社の消滅に伴い、 当該ドメイン名:「DOCOMO-SYS.CO.JP」を廃止したところ、 登録者が本件ドメイン名を登録したものである。

申立人のような大企業により過去に使用されていたドメイン名は、 検索サイトの上位に表示され易く、 本件ドメイン名のURLのリンクはドコモ・システムズ株式会社のウェブサイト廃止後もネット上やユーザーのブラウザのブックマークに残存しており、 インターネット上のユーザーによって閲覧される可能性が高いために、 SEO(検索エンジン最適化)対策等において利用価値が高いものである。

本件ドメイン名が、 申立人のグループ会社により最近まで使用されていた経緯も踏まえれば、 登録者が本件ドメイン名を登録した行為は、 旧ドコモ・システムズ株式会社ひいては申立人の事業との混同を生じさせることを意図していることが強く窺われ、 「登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、 当該ドメイン名を登録しているとき」(処理方針4条b(iii))に該当すると言わざるを得ない。

加えて、登録者が本件登録商標を含む本件ドメイン名を表示したり、 前述のとおり、ドコモ・システムズ株式会社のウェブサイトにおいて運用されていた当時のリンクが残っていることから、 インターネット上のユーザーが誤解して本件ドメイン名のサイトにアクセスしたりすることにより「登録者が、 商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、 スポンサーシップ、取引提携関係、 推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき」(処理方針4条b(iv))に該当することは、 容易に結論づけることができる。

また、本件ドメイン名の申請者は、 登録者として括弧内に記載されている「有限会社Takaエンタプライズ」であり(電話番号および電子メールアドレスも、 有限会社Takaエンタプライズのものが登録されている)、 同社が本件ドメイン名の仮登録に主体的に関与していることが窺える。 同社の英文表記は「Taka Enterprise Ltd.」であるが、 同社は申立人の登録商標と類似するドメイン名を過去にも登録しており(株式会社NTTドコモ 対 Taka Enterprise Ltd. WHOISプライバシーサービス事件裁定JP2023₋0012 < FACELOG.JP>参照)、 「申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために、 登録者が当該ドメイン名を登録し、 当該登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき」(処理方針4条b(ii))にも該当する。

なお、登録者のウェブサイトは、 現時点では実質的なコンテンツを備えておらず、 いわゆる非活動的所有・消極的保持(passive holding)の状況にあるとも言えるが、 殊更登録者による過去のドメイン名に関する紛争履歴等を斟酌すれば、 消極的保持の事案であることを理由に、 不正の目的による登録または使用という要件を否認することは妥当ではない。 申立人の本件登録商標の極めて強い識別性や、 登録者が本件登録商標を知らずに本件ドメイン名を使用しているとは到底考えられないこと等を考慮すれば、 本件が消極的保持の事案であるとしても、 不正の目的による登録または使用という要件は満たされていると評価する。

以上により、申立人は、 登録者の当該ドメイン名が不正の目的で登録または使用されている事実を十分に証明したものと判断する。

7 結論

以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「DOCOMO-SYS.CO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「DOCOMO-SYS.CO.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。

2024年7月26日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    弁理士 中村 知公

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年5月28日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

センターは、2024年5月28日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

センターは、2024年5月28日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年5月28日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

センターは、 2024年5月30日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

センターは、2024年6月4日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、 2024年6月4日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2024年6月4日)、 答弁書提出期限(2024年7月2日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。

(6)答弁書の提出

センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2024年7月3日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、 2024年7月9日に弁理士 中村 知公を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年7月9日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年7月30日)を通知した。 パネルは、 2024年7月11日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

パネルは、2024年7月26日に審理を終了し、裁定を行った。