事件番号:JP2024-0009

裁定

申立人:
(名称)Bitwallet Pte Ltd
(住所)シンガポール共和国ユートンセンストリート ●(省略)●
代理人:
弁護士 原田 雅史
弁護士 井川 湧理
登録者:
(氏名)辻川 智也
(住所)福岡県福岡市 ●(省略)●
代理人
なし

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル(以下「本件パネル」という。)は、 JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「BIT-WALLET.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名は「BIT-WALLET.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 当事者の主張

A 申立人の主張

(1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること

 登録者は、本件ドメイン名を、2019年7月29日にJPRSに登録している(甲6)。

 申立人は、 申立対象のドメイン名と同一文字である「bitwallet」の文字列を含む以下の登録商標(以下「申立人商標」という。)を有している(甲7)。

登録番号 出願日等 登録商標 商品および役務の区分
第6422829号 出願日 2018年2月28日
公開日 2018年3月13日
登録日 2021年7月30日
Bitwallet登録商標 9,35,36,42

 本件ドメイン名は、外観、称呼、 観念のいずれにおいても申立人商標と同一又は混同を引き起こすほど類似している。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

 登録者は、本件ドメイン名と一致する商標を保有しておらず、 出願も行っていない。 また、登録者は申立人に在籍したことはなく、 申立人から登録者に対して商標の使用を許可したこともない。

 さらに、本件ドメイン名の登録者は、 「辻川 智也」という自然人であるが、本件ドメイン名とは、 その文字列や意味等において、何らの関連性も認められない。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

 申立人は、 2012年3月27日に「Bitwallet Pte Ltd」を商号とする法人として設立され、 以後現在に至るまで継続して、オンライン決済サービスを提供し、 オンライン決済サービスとして、ユーザーから一定の信頼と支持を得ている(甲8)。

 登録者は、現在、本件ドメイン名を用いて、 ユーザーが手数料を支払うことで仮想通貨の両替をオンライン上で行うことができる独自のウェブサイトを開設しており(甲9、10、11)、 本件ドメイン名を用いて申立人が行うサービスと類似したサービス(以下「登録者サービス」という。)を提供することで、利益を得ている。 なお、登録者サービスの提供主体は、 「Change Swap」という名称の会社(以下「「Change Swap」名称社」という。)であるが(甲11)、 「Change Swap」名称社は登記情報提供サービス上見当たらず、 その実態が確認できない。

 登録者は、実在しない法人を通じてサービスを提供しているほか、 自身の所在と同一性を偽っている可能性も高く(甲12~甲15)、 商業上の利得を得る目的で、登録者サービスと、 申立人が提供するサービスとの誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、同ウェブサイトに誘引するために、 本件ドメイン名を使用している。

(4) したがって、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

B 登録者の答弁

 登録者は答弁書を提出していない。

5 争点および事実認定

A 登録者の不答弁の効果

(1) 本件において、登録者は、答弁書を提出していない。

(2) 本手続には弁論主義は適用されないから、本件パネルは、 登録者が答弁書を提出しないという事実により申立人の主張事実等について擬制自白の拘束力が生じるものとすることはできず、 紛争処理方針及び手続規則の定める要件が充足されているか否かの判断を、 申立人の陳述、提出した証拠、条理等に基づいて行わなければならない、 というべきである(手続規則第15条(a)等)。

 ただし、手続規則は、「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」と規定する(手続規則第5条(f))。

 したがって、 下記処理方針第4条a.の(i)ないし(iii)の各号に関する申立人の主張・立証が明らかに不十分であると判断される例外的な事情がない限り、 申立人の主張に従い、本件ドメイン名登録移転の裁定を下すことが相当である。

(3) 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用すべき原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 並びに条理に従って、裁定を下さなければならない。」。

 そして、処理方針第4条a.は、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

B 処理方針第4条a.の各号についての本件パネルの判断

(1)申立人が権利又は正当な利益を有する商標

 申立人提出に係る証拠(甲7)からは、 申立人が申立人商標を有するかどうかは明らかではないが(甲7では、 出願人は「イー プロテクションズ プライベートカンパニー リミテッド」とされており、 また、登録の有無も明らかではない。)、申立人において、 現に申立人商標が使用されていることが窺われること(甲8)からすると、 申立人は、申立人商標について、少なくとも正当な利益を有するものと認められる。

(2)同一又は混同を引き起こすほどの類似性

 登録者の本件ドメイン名は、「BIT-WALLET.JP」であり、 ローマ字大文字体で横書きされている。 そして、本件ドメイン名「BIT-WALLET.JP」のうち、 「JP」の部分はトップレベルドメインであって国別コードの日本を意味し、 使用主体が属する国を表示させるものにすぎないから、 本件ドメイン名において識別力を有する要部は、 セカンドレベルドメインである「BIT-WALLET」の部分であると認められる。

 一方、申立人の有する、申立人商標の構成は、 ローマ字小文字体で「bitwallet」との文字列を含んでいる。

 そして、 ドメイン名が「商標その他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似している」か否かの判断に当たっては、 当該ドメイン名の識別力のある部分と「商標その他表示」の識別力のある部分とを比較すべきである。

 そこで、本件ドメイン名の識別力を有する要部である「BIT-WALLET」の部分と、 申立人商標のうち文字列部分である「bitwallet」の表示を比較する。 まず、両者は、いずれも「ビットウォレット」の呼称を生じるため、 称呼において同一である。 また、外観における両者の差異は、 ローマ字大文字体か小文字体かという差異に加えて、 「BIT」と「WALLET」の間のハイフン(「-」)の有無のみであるため、 外観においても類似である。 さらに、「bit」に続いて財布を意味する英単語「wallet」との文字が続いており、 オンラインで利用可能な資金管理ツールという同一の観念が生じるから、 観念においても同一である。

 したがって、本件ドメイン名と申立人商標とは、全体として、 混同を引き起こすほど類似している、というべきである。

(3)権利又は正当な利益

 登録者は、申立人に在籍したことはなく、 申立人から登録者に対して商標の使用を許可したこともないことが認められ、 これらの事実からすれば、登録者は、 本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないというべきである。

(4)不正の目的での登録又は使用

 申立人は、 多数のユーザー数を有するオンライン決済サービスを提供しており(甲8)、 同サービスは、需要者から一定の支持を得ていることが窺われる。 他方、本件ドメイン名は、「Change Swap」名称社が開設した、 ユーザーが手数料を支払うことで仮想通貨の両替をオンライン上で行うことができるウェブサイトにおいて使用されており(甲9~甲11)、 「Change Swap」名称社は、本件ドメイン名を用いて、 登録者サービスを提供することで利益を得ていることが窺われる。

「Change Swap」名称社の実態は確認できず、 同社と登録者の関係性は不明であるものの、 本件ドメイン名は登録者が登録したドメイン名であることからすれば、 登録者が「Change Swap」名称社の運営に関与しているか、 「Change Swap」名称社に対して本件ドメイン名の使用を許諾している可能性は高い。

 これらの事実からすれば、登録者は、商業上の利益を得る目的で、 そのウェブサイト又はこれに登場するサービスの出所、 スポンサーシップ、取引提携関係、 推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトに誘引するために、 本件ドメイン名を不正の目的で使用しているものと推認される。

6 結論

 以上の認定事実に照らして、本件パネルは、 登録者によって登録された本件ドメイン名「BIT-WALLET.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有しておらず、 本件ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条i.に従って、 本件ドメイン名「BIT-WALLET.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。

2024年9月11日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    清水 節

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年6月12日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2024年6月17日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、2024年6月18日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年6月18日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、 2024年6月20日に補正(申立書の記載事項の修正及び代表者の資格を証明する公的証明書類の提出)が必要と判断してその旨を申立人に通知した。

 センターは、2024年6月27日に補正書類及び上申書を申立人から受領し、 2024年7月1日に補正(申立書の形式の修正)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、 代表者の資格を証明する公的証明書類の提出についての補正期限を2024年7月8日まで延長することを通知した。

 センターは、2024年7月4日に補正書類を受領した。

 センターは、2024年7月8日に補正(代理人の電子的な署名又は記名捺印の修正)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、 2024年7月10日に補正書類を受領し、 申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2024年7月18日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、2024年7月18日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2024年7月18日)、 答弁書提出期限(2024年8月16日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者宛電子メール送信分については一部が送信不能であり、 登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりません」として返送された。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2024年8月19日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、 2024年8月23日に弁護士 清水 節を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年8月23日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年9月12日)を通知した。 パネルは、2024年9月3日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

パネルは、2024年9月11日に審理を終了し、裁定を行った。