事件番号:JP2024-0010

裁定

申立人:
(名称)株式会社ローソン
(住所)東京都品川区 ●(省略)●
代理人:
弁理士 新井 悟
弁理士 和田 阿佐子
登録者:
(氏名)Taka Enterprise Ltd. WHOISプライバシーサービス
(住所)東京都新宿区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「SGLAWSON.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「SGLAWSON.JP」である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、 「LAWSON」の名称によるコンビニエンスストアチェーンを運営する企業である。 同コンビニエンスストアチェーンは、2024年2月の時点で、 日本全国に14,643店を展開し、 全店舗の連結売上高は2兆7,509億円を計上しており、 申立人は国内のコンビニエンスストア大手の一社である事業体であることが認められる。

 申立人は、1999年3月26日に登録された、 国際分類第39類「車両による輸送,貨物のこん包,貨物の積卸し, 貨物の輸送の媒介」等を指定役務とする商標登録第4254698号を取得し、 同登録は現在も有効に存続している。

 申立人は2015年6月12日、 申立外SGホールディングス株式会社と業務提携し「SGローソン株式会社」を設立し、 同社はコンビニエンスストア店舗商品等の配送等を行う事業を行っていた。 同社は2019年に解散している。

 「SGローソン株式会社」は、 「SGLAWSON.JP」のドメイン名を登録及び使用しており、 当該ドメインの契約を2021年5月31日まで継続した。

 登録者は、「SGLAWSON.JP」のドメイン名を2021年7月1日に登録した。

5 当事者の主張

a 申立人の主張

申立人の主張は以下のように、整理できる。

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること(処理方針4条a(i))

 申立人は次の3つをこの点に関する根拠としている。

(a)登録商標「LAWSON」に基づく主張

 申立人は、商標登録第4254698号「LAWSON」の商標権者であり、 商標「LAWSON」は、 特許庁における商標登録異議申立の審理において周知・著名な商標としても認定されたことがあるほか、 特許情報プラットフォームの日本国周知・著名商標にも周知・著名商標として掲載されており、 極めて強い識別力を有するところ、 本件ドメイン名の要部である「LAWSON」は、 このように需要者の間に広く認識された申立人の登録商標と同一の文字であり、 申立人が権利を有する商標「LAWSON」と混同を引き起こすほど類似している。

(b)「SGローソン株式会社」に基づく主張

 SGローソン株式会社が商号および商標として使用していた「SGローソン株式会社」のうち「SGローソン」の部分から「エスジーローソン」の称呼及び「SGローソン株式会社」の観念を生じるところ、 本件ドメイン名の要部である「SGLAWSON」からは「エスジーローソン」の称呼及び「SGローソン株式会社」の観念を生じるから「SGローソン株式会社」と混同を引き起こすほど類似している。 申立人はSGローソン株式会社から同社の保有する利益を承継した。

(c)表示「SGLAWSON.JP」に基づく主張

 SGローソン株式会社が使用していた「SGLAWSON.JP」のドメイン名自体が、 SGローソン株式会社から承継した正当な利益を有する表示である。 申立人はSGローソン株式会社から同社の保有する利益を承継した。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

 申立人の主張は以下のように整理できる。

(a)処理方針4条c(i)に定める事情のないこと

 登録者のウェブサイトの記載は、 あたかもこれまで長期に亘り「フードデリバリーサービス」を提供してきたかのような表現であるが、 登録者が本件ドメイン名を登録したのは本件ドメイン名が廃止された2021年5月31日から誰も登録を受けることのできない1か月間を経過した直後の2021年7月1日であり、 登録直後の段階において、 かかる表現を用いて自社の事業の広告宣伝を行うことは甚だ不自然というべきであって、 商品またはサービスの提供を「正当な目的をもって」行うために、 当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたものとは到底言えない。

(b)処理方針4条c(i1)に定める事情のないこと

 登録者は本件ドメイン名に関係する日本の商標登録を有しない。 また申立人が登録者に対して本件登録商標の使用を承諾したことはなく、 申立人が本件ドメイン名を2021年5月31日まで登録していたところ、 登録者はドメインの廃止後誰も登録を受けることのできない1か月間を経過した直後の2021年7月1日に本件ドメイン名を登録した。 したがって、 登録者が本件ドメイン名の名称で⼀般に認識されていたはずはない。

(c)処理方針4条c(ii1)に定める事情のないこと

 登録者のウェブサイトにおける記載は、 あたかもこれまで長期に亘り「フードデリバリーサービス」を提供してきたかのような表現で、 甚だ不自然というべきである。 むしろ、登録者は申立人の子会社であったSGローソン株式会社の配送事業を承継したものと需要者を誤信させ、 申立人の商標及び表示を利用して消費者の誤認を引き起こすことにより商業上の利益を得る意図をもって本件ドメイン名を商業的目的により使用していることが強く推認されるところである。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

申立人は以下のように主張する。

 登録者が本件ドメイン名を登録したのは本件ドメイン名が放棄された直後である。 また本件ドメイン名を使用したウェブサイトには宅配業務を行うと説明されており、 SGローソン株式会社の業務内容と共通していること、 またウェブサイトには「SG LASWON」(SGとLAWSONの間にスペースあり)の商標が使用されていることから、 登録者は、SGローソン株式会社の事業を承継したものと需要者に誤信させ、 申立人の信用を不正に利用することを意図して本件ドメイン名を取得したものであることが明らかである。

 また、本件ドメイン名は、 SGローソン株式会社のドメイン名として使用されていたことから、 検索エンジンにおいて上位に表示される可能性が高く、 相当程度のアクセスが見込めることから、 本件ドメイン名を使用したウェブサイトに表示した広告やリンクなどから利益を得る目的も強く推認される。

 さらに、登録者のウェブサイトでは、 「カジノでフードデリバリーサービスは利用できる?」とのタイトルのポストが投稿されている。 当該ポストの本文冒頭には「大興奮で高配当も狙えるビデオスロットをベラジョンで体験!」との記載があり、 このうち「大興奮で高配当も狙えるビデオスロット」の文字列には「https://verajohn-nippon.com/carnival-queen/」へのリンクが張られ、 当該文字列をクリックするとオンラインカジノサイトへ誘導される仕組みとなっている。 すなわち、登録者のウェブサイトは、 閲覧者をオンラインカジノへ誘導することにより何らかの商業上の利得を不正に得ようとする意図が強く推認されるところである。

 よって、ドメイン名は、 申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者はドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。

 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、 処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていること

b 紛争処理パネルの判断

(1)申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示(処理方針第4条a(i))

 申立人は前述の通り、(a)申立人の登録商標「LAWSON」、 (b)「SGローソン株式会社」、 及び(c)表示「SGLAWSON.JP」に基づく主張を行っている。

まず、「LAWSON」に関しては、申立人により登録され、 現在も有効に存続している商標登録第4254698号に含まれる文字列であり、 同商標登録におけるアルファベットは多少のロゴ化はされているものの文字列「LAWSON」として認識されるから、 「LAWSON」は申立人が権利を有する商標であると認められる。

 次に、「SGローソン株式会社」に関しては、 商標登録が行われたとの主張は行われておらず、 商標登録の事実も確認されない。 しかし、処理方針第4条aは、 登録商標ばかりでなく未登録商標やその他自他識別力を有し得る標章についても、 ドメイン名不法占拠行為との関係において保護されるべき理由があるとの観点から、 登録商標ばかりに保護対象が限られないことを明示したものである。 「SGローソン株式会社」は商号として使用されていた名称であり、 同社が2021年まで保有していた「SGLAWSON.JP」をドメイン名とするウェブサイトの左上部分にも継続して表示されていたことが認められる。 したがって、 「SGローソン株式会社」は保護されるべき理由のある表示である。

 他方で、 当該ウェブサイトを運営し表示を行っていたのはSGローソン株式会社であり、 上記ウェブサイトにおける表示も、 SGローソン株式会社のサービスを示すものとして行われていたものである。 申立人もその運営するウェブサイト上においてSGローソン株式会社によるサービスの開始に関するアナウンスをしていたことは認められるが、 「SGLAWSON.JP」のウェブサイトにおける継続的な表示に照らしても、 「SGローソン株式会社」に対する権利はSGローソン株式会社により取得され保有されていたものと認められる。 申立人は、 同社の親会社であり同社の解散時に同社の利益を承継した旨述べるが、 親会社と言えども子会社とは異なる法人格であり、また、 SGローソン株式会社が第三者との提携により設立された合弁会社であることにも照らし、 申立人がSGローソン株式会社の権利・利益に関して同社の解散時にこれを承継したことについての十分な立証が行われていたとは認定できない。 したがって、申立人が、 (上記「LAWSON」商標に関する権利部分を超えて)「SGローソン株式会社」の表示について権利又は正当な利益を有しているとまでは認定できない。

 最後に、表示「SGLAWSON.JP」については、 SGローソン株式会社の運営するウェブサイトのドメイン名として表示されていることは認められる。 しかし、同ウェブサイト上またはSGローソン株式会社のサービスにおいて、 URLとしての表示以上に、 「SGLAWSON.JP」のドメイン名自体が特に強調して表示されていた事実は認められない。 また、上記と同様、 申立人がSGローソン株式会社の権利・利益に関して同社の解散時にこれを承継したことについての十分な立証が行われていたとは認定できない。 したがって、申立人が、 (上記「LAWSON」商標に関する権利部分を超えて)「SGLAWSON.JP」の表示について権利又は正当な利益を有しているとまでは認定できない。

(2)同一または混同を引き起こすほど類似していること(処理方針第4条a(i))

 申立人が正当な権利・利益を有する商標「LAWSON」と、 ドメイン名「SGLAWSON.JP」を比較した場合、 まず汎用JPドメイン名である「.JP」の部分はドメイン名の登録に必須のものであるから、 商標「LAWSON」との類否判断においては考慮すべきではない。

 そして、 本件ドメイン名は、 その構成上文字列「SG」のあとに商標「LAWSON」をそのまま含む形の構成であることから、 商標「LAWSON」をそのまま流用していることが認められ、 よって本件ドメイン名は、 本件登録商標と混同を引き起こすほどの類似性があると客観的に判断できる。

 また、本件ドメイン名に含まれる「LAWSON」は前述のとおり国内のコンビニエンスストア大手の一社である申立人の商標として著名である表示であり、 他方で本件ドメイン名の冒頭に含まれる「SG」はそれ単体では特段の意味を認識できない単語である。 よって、現実の取引状況を想定して、 出所の混同の有無により類否判断を行う場合であっても、 需要者・取引者は申立人の商標として著名である「LAWSON」の部分に着目し注意を惹くことからも、 本件ドメイン名と申立人の商標「LAWSON」と混同を引き起こすほど類似していると評価できる。

 従って、 本件ドメイン名に関して申立人の商標「LAWSON」との「同一又は混同を引き起こすほどの類似性(処理方針第4条a(i))」があるものと判断する。

(3)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと(処理方針第4条a(ii))

 登録者が本件ドメイン名に関係する日本の商標登録を有している事実は認められない。 また、登録者が、 登録者のウェブサイトに現在表示されている「SG LAWSON」について、 会社名その他登録者を示す表示として使用している事実は認められない。 その他、登録者が本件ドメイン名に関連して事業を行うなど、 ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していることをうかがわせる事情はない。

(4)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること(処理方針第4条a(iii))

 登録者のウェブサイトには「当社は、 フードデリバリーを中心にサービスを展開してまいりましたが、 お客様の幅広いニーズにお応えするために、 お届け商品を拡充いたしました。」との記載があるが、 登録者のウェブサイトには、 フードデリバリーサービスに関する具体的な記載、 例えば配送対象商品や配送対象地域、配送申込手続き、 支払い手続きといった情報や、 正式な会社名の情報が一切記載されていない。

 他方で、登録者のウェブサイトでは、1つだけ、 「カジノでフードデリバリーサービスは利用できる?」とのタイトルの記事ページが設けられ閲覧可能となっている。 当該ページの本文冒頭には「大興奮で高配当も狙えるビデオスロットをベラジョンで体験!」との記載があり、 このうち「大興奮で高配当も狙えるビデオスロット」の文字列には他のウェブサイトへのリンクが張られ、 当該文字列をクリックするとオンラインカジノサイトへ誘導される仕組みとなっている。

 すなわち、登録者のウェブサイトは、 閲覧者をオンラインカジノへ誘導することにより何らかの商業上の利得を不正に得ようとする意図が推認される。

 登録者が本件ドメイン名を登録したのは本件ドメイン名が放棄された直後であるから、 登録者によるドメイン名の使用は、 本件ドメイン名を使用して事業を行っていたSGローソン株式会社の表示を利用して消費者を誤認させ利得を得る意図があったことが推認され、 したがって「登録者が、商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、 スポンサーシップ、取引提携関係、 推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき」(処理方針4条b(iv))に該当すると認められる。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「SGLAWSON.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「SGLAWSON.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。

2024年9月18日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    達野 大輔

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年7月12日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2024年7月16日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、2024年7月16日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年7月16日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、 2024年7月17日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2024年7月23日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 手続開始を通知した。 センターは、 2024年7月23日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2024年7月23日)、 答弁書提出期限(2024年8月21日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者宛電子メール送信分については一部が送信不能であり、 申立書に記載のある登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりません」として返送された。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2024年8月22日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2024年8月28日に弁護士 達野 大輔を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年8月28日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年9月18日)を通知した。 パネルは、 2024年8月30日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

パネルは、2024年9月18日に審理を終了し、裁定を行った。