事件番号:JP2024-0012
裁定
- 申立人:
-
(氏名/名称)敷島製パン株式会社
(住所)愛知県名古屋市 ●(省略)● - 登録者:
-
(氏名/名称)Sakatani Yasutaka
(住所)東京都渋谷区 ●(省略)●
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。
1 裁定主文
ドメイン名「PASCO-SNACKPAN.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「PASCO-SNACKPAN.JP」である。
3 手続の経緯
別記のとおりである。
4 背景となる事実
申立人は、パン等の製造、販売を行う会社であり、 「Pasco」の文字列からなる商標(以下、 「Pasco商標」という。)を「パン」等について使用している。 申立人は、本件ドメイン名と同一のドメイン名(以下、 「旧ドメイン名」という。)である「PASCO-SNACKPAN.JP」をスナックパンのブランドサイトに使用していたが、 2021年9月1日に同ブランドサイトの内容を申立人のホームページ内の「pasconet.co.jp/snackpan/」へ移管した。 2023年8月31日に、申立人は旧ドメイン名を使用する権利を放棄した。
登録者は、本件ドメイン名を2023年10月1日に登録した。
5 当事者の主張
a 申立人の主張
申立人の主張は以下のように、整理できる。
申立人は、スナックパンを50年以上の間、製造及び販売しており、 Pasco商標を「パン」等について使用している。 本件ドメイン名は女性向けマッチング用ウェブサイト(以下、 「本件サイト」という。)へ誘導するものである。 これにより、本件ドメイン名に含まれる「PASCO」及び「SNACKPAN」がユーザーの誤認を誘発し、 申立人及びそのスナックパンのブランドイメージの低下及び信頼の失墜につながる。
よって、本件ドメイン名は、 申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者は本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、 本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。
従って、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
登録者によって答弁書は提出されなかった。
6 争点および事実認定
a 適用すべき判断基準
手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。
- 登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
- 登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていること
b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
申立人は、Pasco商標を「パン」等について長年使用しており、 Pasco商標が申立人の商品及び事業の商標として日本で広く知られている(以下、 「周知」という。)ことは顕著な事実である。 したがって、申立人はPasco商標について正当な利益を有していると認めることができる。
本件ドメイン名のうち「.JP」の部分は、 多くのドメイン名に共通して用いられるトップレベルドメインであるため自他識別力はない。 「PASCO-SNACKPAN」の部分については、 「-」(ハイフン)が存在するため外観上「PASCO」と「SNACKPAN」という二つの語を組み合わせた文字列と認識できる。 また、本件ドメイン名の「PASCO」の部分は周知なPasco商標と綴りが同一である。 したがって、「PASCO」の部分は強く支配的な印象を与えるということができる。 次に、「SNACKPAN」の部分は、「スナックパン」を表す普通名詞であるため、 関係する商品等によっては自他識別力を有する場合もあるものの、 強く支配的な印象を与える「PASCO」の部分と比して自他識別力が弱いものといえる。
以上からすると、 本件ドメイン名から「PASCO」の部分を要部として抽出して、 類否判断することが許されるといえる。 よって、本件ドメイン名はその要部においてPasco商標と同一であるため、 Pasco商標と混同を引き起こすほど類似しているというべきである。
(2)権利または正当な利益
登録者が本件ドメイン名と同一又は類似の文字列を含む日本の商標登録を有する事実はうかがえない。 また、登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されているという事実もうかがえない。
本件サイトは、 本件ドメイン名をクリックする又はアドレスバーに入力する等の結果表示されるウェブサイトであること及び援助交際を目的とした情報を提供するウェブサイトであることが認められる。 そして、本件ドメイン名の登録及び本件サイト使用開始の時点でPasco商標が周知であったことは顕著な事実である。 そのような状況において、登録者は、 申立人が旧ドメイン名を使用したウェブサイトを移管した後に旧ドメイン名と同一の本件ドメイン名をJPRSに登録したことが認められる。 そうすると、登録者がPasco商標の価値を毀損する意図を有することなく公正に使用しているとはいうことができない。
さらに、 上記登録の経緯に基づくと申立人は中古ドメインたる旧ドメイン名にSEO効果があることに着目しその効果を引き継ぐために本件ドメイン名登録したことが推認できる。 また、(3)で後述するとおり、 登録者には誤認混同の意図を含む不正の目的が推認される。 そうすると、登録者が商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用しているとはいうことができない。
なお、申立人の主張に対して、 登録者は答弁書を提出しておらず本件ドメイン名を採用するに至った理由その他の権利または正当な利益を明らかにしていない。
以上を考慮すると、 登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないと認められる。
(3)不正の目的での登録または使用
処理方針第4条bによれば、「(ⅳ)登録者が、商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、 取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき」との事情がある場合には、 当該ドメイン名の登録または使用は、 不正の目的であると認めなければならないと定めている。
本件において、 登録者の本件ドメイン名登録の経緯及び本件ドメイン名が周知なPasco商標を含む点については(2)で認定したとおりである。 そして、申立人又は第三者が提供するウェブサイトの中には、 旧ドメイン名のリンクが申立人に関連する表示として現在も残存していることも考えられる。 そうすると、登録者が本件ドメイン名を使用することにより、 申立人が本件サイトを運営、管理等していると誤認させるおそれがあるというべきである。
登録者は、 費用と労力を投じて本件ドメイン名を登録し本件サイトを運営しており、かつ、 本件サイトにおいて出会い目的のアプリ又はサイト遷移できるようにリンクを張っていることが認められる。 この事実から、本件サイトへのアクセス数を増やし、広告収入を得る目的が推認できる。
したがって、登録者は、商業上の利得を得る目的で、 本件サイトについて申立人との間で出所等の誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを本件サイトまたはその他のオンラインロケーションたる上記出会い目的のアプリやサイトに誘引するために、 本件ドメイン名を使用していると推認できる。
さらに、本件サイトは援助交際を目的とした情報を提供しているため、 本件ドメイン名の使用によりPasco商標に化体した申立人の信用、名声、 顧客吸引力等を毀損させるおそれがあるというべきである。 登録者はこのような状態に置かれることを知りながらこれを容認していたと推認できる。
なお、申立人の主張に対して、 登録者は答弁書を提出しておらず不正の目的での登録又は使用を否定する事情は認められない。
したがって、本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、 使用されているというべきである。
7 結論
以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「PASCO-SNACKPAN.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。
よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「PASCO-SNACKPAN.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。
2024年10月16日
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
単独パネリスト 岡村 太一
別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年7月24日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
センターは、2024年7月31日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
センターは、2024年7月31日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年7月31日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。
(4)適式性
センターは、 2024年8月7日に補正(申立書の記載事項の修正等)が必要と判断してその旨を申立人に通知し、 2024年8月9日に補正書類を受領し、 2024年8月9日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始
センターは、2024年8月19日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。 センターは、2024年8月19日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2024年8月19日)、 答弁書提出期限(2024年9月17日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 登録者の住所に送付した通知は「あて名不完全で配達できません」として返送された。
(6)答弁書の提出
センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2024年9月18日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、2024年9月25日に弁理士 岡村 太一を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年9月25日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年10月16日)を通知した。 パネルは、 2024年9月25日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
パネルは、2024年10月16日に審理を終了し、裁定を行った。