事件番号:JP2024-0013

裁定

申立人:
(氏名/名称)Licensing IP International S.à.r.l
(住所)●(省略)● Luxembourg City, LUXEMBOURG
代理人:
弁護士 石神 恒太郎
 同  薄葉 健司
 同  佐藤 信吾
 同  三芳 大紀
弁理士 外川 奈美
 同  平田 学
登録者:
(氏名/名称)Holding XedocことXedoc Holding,SA
(住所)Whois情報公開代行 by GMOドメインレジストリ
    150-8512 東京都渋谷区 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、 JPドメイン名紛争処理方針(以下、 「処理方針」という。)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、 「手続規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、 申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、 以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

 ドメイン名「PORNHUB.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

 紛争に係るドメイン名(以下、 「本件ドメイン名」という。)は「PORNHUB.JP」である。

3 手続の経緯

 別記のとおりである。

4 背景となる事実

 申立人は、 オンライン上でアダルトエンターテイメント事業を行う会社であり、 平成25(2013)年6月28日に登録された商標第5593933号の商標権者である。

 本件ドメイン名は、2014年2月22日に登録された。

5 当事者の主張

a 申立人の主張

 申立人の主張は以下のように、整理できる。

(1)「登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること」について

 本件ドメイン名は、 「PORNHUB」と「.jp」との組合せからなるところ、 「.jp」の部分は、 ドメイン名の種類を示す部分であり何ら識別力はなく、 「PORNHUB」の部分は、本件登録商標と同一であるから、 本件ドメイン名は本件登録商標と同一である。

 よって、登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一である。

(2)「登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと」について

 申立人の運営する「PORNHUB.com」は、周知著名で、 多くのインターネットユーザーがオンラインアダルトエンターテイメントの場として利用しており、 「PORNHUB.com」はしばしばサイバースクワッターの標的となってきた(甲12-1、甲12-2)。

 本件ドメイン名「PORNHUB.jp」は、 インターネットの利用者がアクセスしようとすると、 過去においては、 「asianchat.com」というドメイン名にリダイレクトされ、 AsianChatというウェブサイトに自動で繋がる仕様になっており(甲13)、 現在においては、リダイレクトにより、 JAVchat.comの日本語ページのウェブサイトに自動で繋がるように変更されている(甲14)。

 AsianChat及びJAVchat.comは、 視聴者がコンテンツを見るために料金を支払い、 「PORNHUB.com」同様のアダルトエンターテイメントのコンテンツ、 サービスを提供している(甲15、甲16)。

 よって、登録者には、 申立人の本件登録商標を含む本件ドメイン名「PORNHUB.jp」を使用することで、 日本版の「PORNHUB.com」を検索しているユーザーをAsianChat、 JAVchat.comに誘導し、収益を上げようという目的、すなわち、 申立人の権利に付随する営業の価値に寄生して、 収益を上げようという目的があるといえる。

 したがって、 「登録者が…商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、 当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、 または明らかにその使用の準備をしていたとき」にあたらず、 「登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してい」たとはいえない。

 また、登録者の名前として一般的に知られているドメイン名はない。 実際、登録者の氏名はHolding XedocことXedoc Holding,SAで、 登録者の企業ウェブサイトでは、 ドメイン名xedoc.comが用いられており(甲17)、 本件ドメイン名「PORNHUB.jp」とはまったく一致しない。 また、登録者は、 日本において「PORNHUB」に関する登録商標を有していない(甲18)。 さらに、申立人は本件ドメイン名を、 登録者が登録または保有すること、 または申立人の商標や類似の標章を使用することを一切許可または承認していない。

 したがって、「登録者が、 商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、 当該ドメイン名の名称で一般に認識されていた」とはいえず、 「登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してい」たとはいえない。

 さらに、登録者は、 本件登録商標を含んだ本件ドメイン名「PORNHUB.jp」を取得し、 申立人の「PORNHUB.com」の利用者(消費者)をAsianChat、 JAVchat.comに誘導して、収益を得ている。 登録者が本件ドメイン名を取得し、それを商業的、 非合法的及び/または不公正な目的で悪用していることを示す十分な証拠がある。

 したがって、「登録者が、 申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図…を有することなく、 当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、 または公正に使用している」とはいえず、「登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してい」たとはいえない。

 よって、処理方針4条cに該当する事情が存在しないことから、 登録者は、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない。

(3)「登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」について

 登録者は、 ウェブトラフィックをAsianChat及びJAVchat.comのウェブサイトにリダイレクトするために本件ドメイン名を登録及び使用しており、 登録者は本件ドメイン名(及びそれが導くウェブサイト)を申立人と申立人の標章に関連するコンテンツ及びサービスを求めるインターネットユーザーとの間に不当かつ不利益に介在させ、 本件ドメイン名を使用することによって、 潜在的な消費者が登録者のウェブサイトが何らかの形で申立人と提携している、 または後援されていると誤解する可能性を生じさせているとともに、 申立人の商標に関連するコンテンツ及びサービスにアクセスしようとしている人にAsianChat及びJAVchat.comのウェブサイト上で提供されるサービスの売上を発生させる意図、 すなわち商業上の利得を得る目的があるといえる。

 本件ドメイン名の登録者Holding XedocことXedoc Holding,SAの所在地はルクセンブルクであり(甲17)、 法務局の法人登記簿情報では、 Xedocを含む日本法人は確認できなかった(甲20-1、甲20-2)。 これらの事実から、登録者は、 日本国内における所在地を有する組織に該当しない可能性が高く、 本来汎用JPドメイン名の登録を受けることができないはずである。

 これまでに登録者を相手方として、 多数のドメイン名紛争処理手続(UDRP)が採られており(甲21)、 登録者は、UDRPの手続要件だけではなく、 その実体要件をも熟知していると考えられる。 そうすると、JP-DRPの手続は、 UDRPの手続とは多少異なる点があるとはいえ、 登録者はこの種の手続に熟練しているものと推認できる。 このように手続の要件を熟知した者が、不注意によって、 手続の要件に違反するようなドメイン名を登録することは考え難い。

 以上から、登録者による本件ドメイン名の登録は、 不正の目的で行われたものと推認できる。

b 登録者

 登録者によって答弁書は提出されなかった。

6 争点および事実認定

a 適用すべき判断基準

 手続規則第15条(a)は、 パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結果に基づき、処理方針、 本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、 ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

 処理方針第4条aは、 申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、 申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、 当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、 不正の目的で登録または使用されていること

b 紛争処理パネルの判断

(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性

 登録者の本件ドメイン名は、「PORNHUB.JP」である。 本件ドメイン名において「.JP」は日本を意味するトップレベルドメインであって類否判断には影響しない部分である。 したがって、 本件ドメイン名の要部は「PORNHUB」の部分にあると認められる。

 一方、申立人は、 申立人が権利または正当な利益を有する商標として、 登録第5593933号商標「PORNHUB」(標準文字)(以下、 「本件登録商標」という。)を2013年6月28日に登録し、 現在も保有している(甲3の1)。 また、申立人は、 上記商標権を含め「PORNHUB」について多数の商標権を保有している(甲3-2~甲3-6)。

 本件ドメイン名の要部である「PORNHUB」は、 申立人の本件登録商標と同一であるとともに、 申立人が保有するその他の商標権に係る表示と類似していると考えられる。

 よって、 本件ドメイン名は申立人が権利または正当な利益を有する商標その他の表示と同一または混同を引き起こすほど類似していると認められる。

(2)権利または正当な利益

 本件ドメイン名の登録者は、答弁書を提出することなく、 登録者は権利または正当な利益の存在について何ら主張を行っていない。

 また、本件ドメイン名の要部である「PORNHUB」は、 登録者の名称に由来するものではなく(甲18)、 申立人が登録者に対して本件ドメイン名について使用許諾した事実も認められない。

 その他、本件において、 登録者が本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していることを窺わせる事情は認められない。

 よって、登録者には、 本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しているという事情は認められない。

(3)不正の目的での登録または使用

 処理方針第4条bは、「(ⅳ)登録者が、 商業上の利得を得る目的で、 そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、 スポンサーシップ、取引提携関係、 推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、 インターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、 当該ドメイン名を使用しているとき」との事情がある場合には、 当該ドメイン名の登録または使用は、 不正の目的であると認めなければならないと定めている。

 申立人ないしその子会社(甲11)が運営する「PORNHUB.com」は、 2000年に登録され(甲6)、 同ドメイン名によるウェブサイトは2007年に運営開始され(甲7)、 極めて多くのアクセスが集中する状況となっている。 例えば、Google Analyticsのデータによれば、 2013年の1日のページ視聴数は1億6000万回~2億2000万回、 1日の利用者数は2100万人から2700万人であり、 本件ドメイン名が登録された2014年の1日のページ視聴数は1億7000万回から4億回、 1日の利用者数は2200万人から4700万人である(甲8)。 また、2017年2月25日時点において、 過去3か月間のウェブサイトへの1日の平均訪問者とページ視聴数によって計算されるAlexaランク指標において、 「PORNHUB.com」は40位を記録している(甲9)。 さらに、2019年の1年間では、 (i)PORNHUB.comのウェブサイトへの訪問数は420億回、 (ii)1日の平均訪問数は1億1500万人、 (iii)世界中のユーザーが行った検索は390億件以上であり(甲10-1)、 2023年時点でのサイトの平均の滞在時間は、 10分9秒を記録している(甲10-3・9頁)。 このように、「PORNHUB.com」は、 世界中の多くのインターネットユーザーがオンラインアダルトエンターテイメントの場として利用しており、 そのコンテンツの内容、 日本語のサイトも存在すること(甲5の1、甲5の2)及び国別訪問者数において日本が上位に位置していること(甲10-3・8、9頁等)に照らし、 日本を含め、「PORNHUB.com」は、 同種のコンテンツに関心を寄せるインターネットユーザーにおいて高い認知度を獲得しているものと推認される。

 一方、本件ドメイン名「PORNHUB.jp」は、 インターネットの利用者が当該ドメイン名にアクセスしようとすると、 過去においては、 「asianchat.com」というドメイン名にリダイレクトされ、 AsianChatというウェブサイトに自動で繋がる仕様になっており(甲13)、 現在においては、リダイレクトにより、 JAVchat.comの日本語ページのウェブサイトに自動で繋がるように変更されている(甲14)。 そして、AsianChat及びJAVchat.comでは、 視聴者にコンテンツを視聴するための料金を支払わせるなどして、 「PORNHUB.com」と同様のアダルトエンターテイメントのコンテンツ、 サービスが提供されている(甲15、甲16)。 また、上述のとおり、 本件ドメイン名の要部である「PORNHUB」は、 登録者の名称に由来するものではなく、 申立人が登録者に対して本件ドメイン名について使用許諾した事実も認められない。

 以上により、登録者は、「PORNHUB.jp」を使用することで、 日本版の「PORNHUB.com」を検索しているユーザーをAsianChat、 JAVchat.comに誘導し、収益を上げようという目的、すなわち、 登録者が商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくは、 その他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所などについて誤認混同を生ぜしめることを意図してインターネット上のユーザーを、 そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘導するために、 当該ドメイン名を使用していると推認できる。 そして、登録者は、答弁書を提出せず、 特段の反論をしていないことは上述のとおりであり、また、 一件記録を検討しても、 不正の目的での登録または使用を否定する例外的な事情は認められない。

 よって、本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、 使用されているというべきである。

7 結論

 以上に照らして、紛争処理パネルは、 登録者によって登録されたドメイン名「PORNHUB.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、 ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

 よって、処理方針第4条iに従って、 ドメイン名「PORNHUB.JP」の登録を申立人に移転するものとし、 主文のとおり裁定する。

2024年10月25日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト    服部 誠

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、 2024年7月25日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2024年7月31日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

 センターは、 2024年7月31日にJPRSに登録情報を照会し、 2024年7月31日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

 センターは、 2024年8月7日に補正(申立書の記載事項の修正等)が必要と判断してその旨を申立人に通知した。

 センターは、 2024年8月14日に上申書を申立人から受領し、 2024年8月15日に申立人に対し、 補正期限を2024年8月22日まで延長することを通知した。

 センターは、2024年8月22日に補正書類を受領し、 2024年8月22日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

 センターは、2024年8月28日に申立人、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 手続開始を通知した。 センターは、 2024年8月28日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、 開始通知を送付した。 開始通知により、登録者に対し、 手続開始日(2024年8月28日)、 答弁書提出期限(2024年9月27日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。 但し登録者の住所に送付した通知は「保管期間経過」として返送された。

(6)答弁書の提出

 センターは、 提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、 2024年9月30日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、 1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、 センターは、 2024年10月4日に弁護士 服部 誠を単独パネリストとして指名し、 一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。 センターは、2024年10月4日に申立人、登録者、 JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、 指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年10月25日)を通知した。 パネルは、 2024年10月4日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2024年10月25日に審理を終了し、裁定を行った。